呼吸と循環 34巻2号 (1986年2月)

巻頭言

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 私の恩師,中村隆教授(東北大学)は呼吸器のほかに循環器,とくに副行循環の研究に熱意を燃やしておられた。私自身もその一環として気管支血管系(気管支—肺循環)の研究にたずさわっていたが,当時,肝臓グループが担当していた肝循環に関する研究の一つに,肝硬変症にみる動脈血O2飽和度の低下と関連した門脈—肺吻合に関する研究があった。その折の肝グループの検索結果は,肝硬変症における門脈—肺吻合血流は肝外短絡血流の一部をなすけれども,その量は少なく,これによって肝硬変症にみられる動脈血O2飽和度の低下を説明すすることはできないとするものであった。

 最近,たまたま,高度の低酸素血症をともなう肝硬変症の患者を経験し,東北大学時代における副行循環の研究を懐しく想起するとともに,昨今におけるこの方面の研究動向に目を走らせてみた。

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はじめに

 肺の機能は主としてガス交換であり,このため気道を介して直接に外界とつながりをもっている臓器である。したがって外界由来の異物や有害物質の侵入を防ぐための各種の防禦機構が一方で備わっている。例えば粒子状の物質や粘液の排除には,mucociliary transportや食作用をもつmacrophageが関係している。表1に示すように,ある種の化学物質は肺内の実質細胞に作用し,オキシダントとしての活性酸素を生じることにより細胞障害をひきおこしてくる。しかし細胞内にはこれらの活性酸素を排除する生物化学的防禦機構が存在している。発生する活性酸素をとり除く物質scavengcrとしてvitaminEやthiolなどがあるが,antioxidant enzymes (AOE)は効率よく活性酸素を処理している。この活性酸素とantioxidantとの平衡がくずれてくる時に肺の組織障害がみられる。活性酸素の炎症の場における役割は,近来非常に重要な問題として提起されるようになってきた。肺においても酸素中毒症にみられるように,オキシダントとアンチオキシダントとの関係が明らかになってきている。実験的肺線維症のモデルとして使われるパラコートやブレオマイシン肺線維症なども,活性酸素を生じることにより,肺の炎症を生じると考えられる。原因不明の肺線維症は様々な要因が関連していると思われるが,活性酸素も考慮しなければならない一因と思われる。また白血球が活性化される時に非特異的に周辺に活性酸素を放出することにより組織に障害を与える。Adult Res—piratory Distress Syndrome (ARDS)の時に,この活性化された白血球が毛細血管内皮細胞に障害を与えていることも考えられている。また肺気腫と関連して,α1-Proteinase inhibitor (α1-Pi)の減少はエラスターゼを抑制し難くなる結果,気腫化をおこすといわれているが,活性酸素はタバコの煙の中に含まれていて,且つこのα1-Piの活性を抑制する。活性酸素の組織障害作用は肺に限らず,各種の臓器でみられるが,その場合は組織のアノキシア,ハイポキシアとの関連で研究されている。この項の目的は肺との関連においてオキシダントとアンチオキシダントについて述べる。しかし話を一旦細胞レベルまで遡ることではじめたい。

解説

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 最近,動脈血酸素飽和濃度を非観血的に測定する装置が話題になり始めている。これは一方で睡眠,運動,麻酔などの状況で血液酸素化の障害の度合が臨宋研究の対象となっていることに依っており,もう一方ではそうした目的に適った機器が開発・販売され始めていることにも依っている。筆者は1985年春,ロンドン郊外で開催されたこの機器を特に討論する会議に出席する機会があったので,この点も踏まえて,脈波分析型の動脈血酸素飽和度測定の現況と見通しを解説する。

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 心臓の電気現象は,個々の心筋細胞の興奮とその隣接細胞への伝播を基本としており,その集合としての心起電力は心表面や体表面より様々な方法で記録することが出来る。記録された心電情報は心疾患の診断・治療に欠かせぬものとなっている。近年,学問的進歩とともに機器の改良・発展により基礎及び臨床電気生理学の分野では数多くの点で目ざましい進展がみられている。それらは細胞内電位の測定に始った細胞生理学は単一イオン・チャンネル電流の測定も可能となってきており.電気刺激法と併用した心腔内心電図記録法は臨床不整脈の理解を飛躍的にすすめ,コンピューター機器・その他の導入・進歩による体表面電位図や心表面マッピング法,長時間心電図記録法の心疾患診断学への寄与はきわめて大きいものといえる。本項ではそれらのうち主なものについての最近の知見をまとめてみた。

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 1950年代前半,欧米におけるポリオの流行が契機となって,呼吸不全の治療として,気管内挿管による陽圧呼吸が普及してきたが,それとともに,肺の圧外傷や,循環障害といった陽圧呼吸の合併症も,数多く報告されるようになった。人工呼吸の合併症として発生する圧外傷は,決して稀なものではなく,全人工呼吸例の10〜20%,小児の場合は30%にもおよぶとされている1)。しかし,その大部分は気胸だといわれており,縦隔気腫が,陽圧呼吸の合併症として発生するのは稀なことだと思われる。また.縦隔気腫の原因のなかには,気管切開部より空気が縦隔へ進入したり,縦隔内臓器の損傷が人工呼吸中に起こった場合もあり,この場合.外科治療の適応となることもあり,治療を考える上で,その原因を鑑別することは大切だと思われる。

 次に,我々の経験した縦隔気腫の症例を呈示する。

Round atelectasis 林 芳弘 , 太田 保世
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 近年,肺癌の増加とも相まって.胸部X線写真読影,なかでも肺野の孤立性腫瘤影に対して,専門医ならずとも多大の関心を寄せるようになった。胸水貯留や胸膜肥厚に起因して形成されるround atelectasisは,良性の病態であるにもかかわらず,X線写真上,末梢肺野に腫瘤様陰影を形成するために肺癌を疑われ,しばしば不必要な開胸術等の外科的手技を加えられることがある。しかしながら,round atelectasisはX線写真上の特徴的所見から,その診断は決して困難なものではなく,一部の症例を除いては外科的手技を必要としない。また,外国の成書の中ではround atelectasisは一般に"非常に稀な病態"として理解されているようであるが1),本邦では最近諸家の症例報告に接する機会も少なくなく,その報告例も氷山の一角のようであり"非常に稀"と形容すべき病態ではないように思われる。今回は,round atelecta—sisの一症例を呈示するとともに,その成因,病態,診断,治療,予後などに関する知見を整理してみたい。

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I.PTCAの歴史

 1964年,DotterとJudkinsは徐々に太くなったカテーテルを順次使用することにより,血管—特に下肢の閉塞性動脈硬化症を中心とする末梢血管の狭窄性病変を拡張させることに成功した1)。その後,Grüntzigはバルーンの付いたカテーテルを膨らませることによって末梢血管の拡張に成功し,1977年には冠状動脈にまでこの方法の応用を拡げ2),経皮的冠状動脈拡張術(Percutaneo—us transluminal coronary angioplasty-PTCA)を完成した。PTCAの成功例における虚血改善効果は明らかであり3,4),成功率の上昇と合併症の減少により,適応の幅はますます拡大する傾向にある5,6)。しかし,本法の歴史はそれほど長いものではなく,長期にわたる観察がまだ不充分なため,長期予後に関しては不明の点が多い。

 ここでは,PTCA施行後に再造影検査にて病変の変化を追及できた症例を提示し,文献的考察も含めてPT—CAの長期予後について考えてみたい。

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 非侵襲的に左室容積の計測を行うことは,心疾患患者の心機能を評価する上で有用である。従来,RIを用いた左室容量の計測法としては,(1) area-length法による算出1〜3)と,(2)平衡時multigate法(カウント法)による計測法4〜12)とが諸家により報告されて来た。

 area-length法は,contrast LVGによる計測法に準じたものであり,種々の問題点があり11)最近は余り用いられなくなっている。代ってカウント法による計測法が多くの研究者により報告されて来ているが4〜12),絶対値という点でまだ確立した方法とは言い難い。今回我々は,減衰補正値attenuation factorを用い,カウント法による左室容量の計測を行い,若干の新しい工夫により,より絶対値に近づける方法を考案したので報告する。

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 従来より大動脈弁閉鎖不全症においては,左室拡張終期圧上昇に伴ない拡張終期僧帽弁逆流(late-diastolicmitral regurgitation,以下LDMRと略す)をきたすことが報告されており1〜5),同血流の存在による左室造影上の収縮期僧帽弁逆流に対する過大評価の危険性が指摘されている6)。また一方では.Lochayaら3)が同血流に起因した前収縮期雑音を示す3例の大動脈弁閉鎖不全症例を報告し,Austin-Flint雑音との関連を指摘している。しかしながら,特に方法面の制約から,同血流に関する病態生理学的意義についての詳細な検討は,その後ほとんど為されていない7)。一方近年,超音波パルス・ドプラー法の登場により心内局所の血流動態が比較的容易に把握可能となってきており,特に逆流性心疾患評価に対する同法の有用性については,現在広く認められているところである8)。今回の検討では,同法を用いることにより,大動脈弁閉鎖不全症におけるLDMR評価を試みるとともに,血行動態所見及び心音図所見との対比により,同血流の病態生理学的意義について考察した。

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 原発性肺高血圧症(PPH)は,心臓および肺実質に原因となる疾患がなく.前毛細血管性の著しい肺高血圧をきたす疾患と定義されるが,病勢の進行の程度とそれに伴う病理組織学的変化は一様ではない。予後や薬物に対する反応は.この疾病の病勢のvariabilityによって大きく影響をうけると考えられる1)。このことが,α-受容体遮断剤2〜4),β-受容体激剤5,6),hydralazine7〜10),cap—topril11〜13),arachidone酸代謝物質14〜16),Ca++拮抗剤17〜21)といった血管拡張療法の効果の是非に論議をよぶ大きな原因になっていると思われる。

 PPHに対する,Ca++拮抗剤であるnifedipineによる治療の検討は不十分であり,殊に慢性投与の報告は数少なく,本邦では.本論文が初めての報告と思われる。今回著者らは,PPH 4例に対してnifedipineの急性効果を検討し,その際TPRの著減を示した2例については,経口投与し,2ヵ月後に再度その効果を検討した。また3例については,亜硝酸剤(isosorbide dinitrate:ISDN)の急性効果も併せて検討し,若干の知見を得たので報告する。

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 心臓移植を受けた患者での晩期疾病率や死亡率に関する重要な要因の一つに移植心の動脈硬化の問題がある。心臓移植が治療手術として確立し,長期生存が可能となった現在,この問題は予後を決定する大きな要因となってきた1,2)。サイクロスポリンA (CsAと略す)の開発により心移植における拒否反応の制御はかなりの程度可能となってきたが,その反面CsAは晩期副作用として冠状動脈硬化症発生の頻度が高く,移植心不全の原因となる虚血性心疾患を起こすことが指摘されている3)。この冠状動脈硬化症の成立において,血管内皮細胞を含めた血管床でのCa異常動態が大きな役割を果たすと考えられている。本研究では,Ca拮抗剤が血管内皮細胞を介しCa動態を調節することにより移植心における動脈硬化の発生を予防できるか否かにつき検討したので報告する。

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 虚血左室において虚血に陥った心筋(以下虚血部)が虚血早期から収縮低下をきたすことは良く知られた事実である1,2)。しかし心筋収縮性の評価そのものが未だ確立されておらず,さらには局所心筋機能異常の原因に関しても明確な結論が得られていないのが現状である。

 我々は超音波クリスタル3)を用いて部分長(segmentlength)及び壁厚(wall thickness)の動態から心筋収縮性の評価を試み,さらにその収縮異常の原因をdrill bio—psyの手法4)を用いて心筋代謝変化の面から検討を加え,虚血部局所心筋機能の変化機序について考察した。

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 骨格筋微小循環における血流調節は,交感神経を介する中枢性調節と組織酸素分圧や代謝産物による局所性調節の二つの機構が存在することはよく知られている1,2)。従来からこれらの調節機構について,その個々の働きについては詳細な解明が行われている。Rosell3)は生体顕微鏡法を用いて交感神経刺激時の末梢血管を観察した結果,刺激時においては対象とした全ての組織において血管収縮を引き起こすことを報告している。また同様な血管反応は圧受容器反射においても起こることが確認されている4,5)

 一方,局所調節因子に関する報告は,骨格筋においては特に組織酸素分圧と毛細血管血流の関係を調べたものが多い6〜8)。骨格筋毛細血管は組織酸素分圧に対して最も敏感に反応する部位の一つであり,毛細血管開存密度,同赤血球速度等においてその変化が顕微に見られる。

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 虚血性心疾患をはじめ各種心疾患におけるprostaglandin代謝の重要性が指摘され,prostacyclin(PGI2)やthromboxane A2(TXA2)らの血管作動性prostanoidsを調節することにより,臨床面に役立てようとの試みがなされつつある。

 特にPGI2は冠血管拡張作用,血小板凝集抑制作用に加え全身血管の拡張作用を有することから1〜3)虚血性心疾患における抗狭心作用4,5),さらにうっ血性心不全治療における血管拡張薬としての有用性が報告されている6,7)。しかし,PGI2には投与法や生物学的安定性に問題があるため,それ自体の臨床応用は困難であった。

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 外傷合併症または医原性疾患として知られている肺空気塞栓症は,静脈損傷や中心静脈栄養または圧側走用カテーテルの使用1,2),血液透析3),脳外科領域での坐位の手術4)などに際しての合併症として出現することが多い。しかしそればかりでなく,気腹5),腟内空気注入6)等の間接的経路にても大量の空気が静脈内に流入しこの状態を引きおこすと報告されており,このような場合には原因不明のショックとして診断が困難なことも少なくないものと思われる。

 一方,Marriottはその著書の中で急性肺性心の心電図にふれ,おそらくは彼自身の個人的経験から次のような警句を記載している。"もし君が(同一の心電図で)肢誘導では下壁梗塞と診断し胸部誘導で前壁中隔梗塞を診断している自分に気がつくならば,肺塞栓症を考えなさい"というものであるが7),この警句を引用し広範囲型肺塞栓症で"pseudo myocardial infarction"パターンを呈した10症例を報告し,これが右室の虚血を示唆すると解する文献もみられる8)。しかし,これがいかなる理論的根拠によるものかを明確に考察した文献をわれわれは寡聞にして知らない。

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 Carotid sinus syndromeは,1930年Roskam1),1933年 Weiss and Baker2)によって初めて報告された頸動脈洞反射の亢進によるめまい.失神発作などを生じる稀な臨床症候群である。本症候群はWeiss and Baker2)により,著明な徐脈を生じるcardioinhibitory type (I型),有意な心拍数の低下を来たさず著しい血圧降下を認めるvasodepressor type(II型),心拍数や血圧に変化がなく意識障害を生じるcerebral type(III型)に分類されている。その後Greeleyら3)は,さらに cardioinhibitory ty—peとvasodepressor typeの両方を有するmixed typeを経験し,これを先の3つの型に加えIV型としている。臨床上I型のcardioinhibitory typeでは,洞徐脈の他にもしばしば洞房ブロック,洞停止を伴うことから,洞結節を中心にした病変によって生じる洞不全症候群との鑑別が問題となり,その点について検討された報告も散見される4〜9)。今回著者らは,めまいを訴え心電図にて著明な洞徐脈,房室接合部性補充収縮を伴う洞停止を認めた52歳男性に電気生理学的検討を加え,cardioinhibitory typeのcarotid sinus syndromeと診断した1例を経験したので報告する。

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 Discrcte型大動脈弁下狭窄症は,本邦では比較的稀で,狭窄の急速な進行が特徴であり.左室負荷の解除.大動脈弁閉鎖不全症及び感染性心内膜炎1)の予防の上からも,早期手術が望ましい。

 教室では約4,600例の先天性心疾患中1例(0.02%)のみの経験であり,本症術後10年目のカテーテル検査所見を得たので,その長期予後を報告する。

基本情報

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呼吸と循環
34巻2号 (1986年2月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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