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はじめに
肺の機能は主としてガス交換であり,このため気道を介して直接に外界とつながりをもっている臓器である。したがって外界由来の異物や有害物質の侵入を防ぐための各種の防禦機構が一方で備わっている。例えば粒子状の物質や粘液の排除には,mucociliary transportや食作用をもつmacrophageが関係している。表1に示すように,ある種の化学物質は肺内の実質細胞に作用し,オキシダントとしての活性酸素を生じることにより細胞障害をひきおこしてくる。しかし細胞内にはこれらの活性酸素を排除する生物化学的防禦機構が存在している。発生する活性酸素をとり除く物質scavengcrとしてvitaminEやthiolなどがあるが,antioxidant enzymes (AOE)は効率よく活性酸素を処理している。この活性酸素とantioxidantとの平衡がくずれてくる時に肺の組織障害がみられる。活性酸素の炎症の場における役割は,近来非常に重要な問題として提起されるようになってきた。肺においても酸素中毒症にみられるように,オキシダントとアンチオキシダントとの関係が明らかになってきている。実験的肺線維症のモデルとして使われるパラコートやブレオマイシン肺線維症なども,活性酸素を生じることにより,肺の炎症を生じると考えられる。原因不明の肺線維症は様々な要因が関連していると思われるが,活性酸素も考慮しなければならない一因と思われる。また白血球が活性化される時に非特異的に周辺に活性酸素を放出することにより組織に障害を与える。Adult Res—piratory Distress Syndrome (ARDS)の時に,この活性化された白血球が毛細血管内皮細胞に障害を与えていることも考えられている。また肺気腫と関連して,α1-Proteinase inhibitor (α1-Pi)の減少はエラスターゼを抑制し難くなる結果,気腫化をおこすといわれているが,活性酸素はタバコの煙の中に含まれていて,且つこのα1-Piの活性を抑制する。活性酸素の組織障害作用は肺に限らず,各種の臓器でみられるが,その場合は組織のアノキシア,ハイポキシアとの関連で研究されている。この項の目的は肺との関連においてオキシダントとアンチオキシダントについて述べる。しかし話を一旦細胞レベルまで遡ることではじめたい。
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