CO2が水和してH2CO3となる反応を触媒する酵素—炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)(以下CAと略)は身体に広く存在している。組織で生成されたCO2は赤血球中でCAの作用を介してHCO3−となって運搬され,血漿中のHCO3−は赤血球のCAによりCO2となって肺胞から放出される。また腎尿細管上皮細胞のCAは尿の酸性化機構に不可欠であり,中枢神経系においてはchoroid plexusによる脳脊髄液(CSF)の産生に関与している。acetazolamide,dichlorphenamideなどのN−スルファミル基(−SO2NH2)をもつサルファ剤はCAの非競合的な阻害剤である(図1)1)。
高炭酸ガス血症を伴う慢性肺気腫患者にCA阻害剤(以下CAIと略)を投与してPaCO2が低下し好結果を得たというNadellの報告2)以後,呼吸性アシドーシスに対しCAIの臨床応用が試みられ,本邦においても笹本らの報告3)がある。しかしCAIの主作用の一つである腎尿細管からのHCO3−排泄促進による代謝性アシドーシスのため,高炭酸ガス血症を伴う呼吸不全の一般的な治療薬とはならなかった。その後高山病の予防薬としてCAIが有効であるという報告がCainら4),Forwandら5)などによってなされ,Suttonら6)は高地での睡眠中のdesaturationの程度が改善したと報告している。Whiteら7)は中枢性無呼吸に対してacetazolamideが有効であった例を報告しており,最近では慢性閉塞性肺疾患(COPD)においてもその効果が再評価されている8)。