呼吸と循環 34巻1号 (1986年1月)

特集 肺機能検査の新しいガイドライン—手技と装置(1)

  • 文献概要を表示

はじめに

 "肺機能検査の新しいガイドライン"特集にあたり,まずその意図,背景,基礎となる事項について筆者なりの解釈を述べたい。

 Standardization (標準化,規格化)あるいはスタンダード・テクニックという言葉がしばしば使われる。これは杞憂であろうと思うが,標準化を図ることは,現状での共通の言葉を持ち,科学的な比較の根拠を持つことであり,将来の自由な進歩発展を妨げるものではなく,むしろ正しい方向を探る出発点である。ガイドラインとされた理由は,現在の最大公約数としての認識を,要約して偏らずに伝えるという意図であろう。

  • 文献概要を表示

はじめに

 呼吸機能検査が普及するにつれて,当然のことながら検査の標準化と同時に検査手技の簡便化も要求される。そのため測定値の自動算出を目的として,種々の装置を1つのシステムに組み入んだマイクロコンピューターによる演算処理を行う器械が用いられるようになった。その1つとして,スパイロメトリーやフローボリウム曲線の同時測定が可能な器械も普及し,実地診療や体力測定などの分野にまで広まりつつある。

 しかしながら,このような自動化された器械の内部がブラックボックス化され,測定装置自体の原理を理解することが困難になり,得られた測定値の数値のみでそれを評価する風潮がしばしば見受けられるようになった。

  • 文献概要を表示

はじめに

 CO肺拡散能力DLcoの測定は1915年M.Kroghが一回呼吸法を用いることにより始まった1)。当時,Bohr,HaldaneらがO2は肺胞より肺毛細管内に分泌される(能動輸送)と主張していたが2),この説に疑問を持ったM.Kroghが肺胞より肺毛細管へのガスの移動は拡散によることを証明したものである3)。その後,およそ40年にわたりDLcoは研究および臨床の場において活発には検討がなされなかった。1950年代にFilleyら,Fors—terら,Kruhofferらがそれぞれ生理学的死腔法を用いた恒常状態法4),Heを吸入気に混合した一回呼吸法5),再呼吸法6)によるCO肺拡散能力の測定法を開発し,CO肺拡散能力の新たな知見が得られるようになった。また,Roughton,ForsterによるヘモグロビンとO2,COの競合的結合に関する研究7)以来,CO肺拡散能力はCOの肺胞より肺毛細管への移動のみでなく肺毛細管内におけるヘモグロビンとの結合をも含めて検討されるようになった。

  • 文献概要を表示

はじめに

 肺気量は種々の肺機能を解釈するうえで基本となるパラメーターである。ガス希釈による肺気量の測定は1940年代に確立され,ボディープレチスモグラフィーは1950年代に始まった。近年,これらの測定はルーチンの肺機能検査の1つとなってきた。更に,コンピューターの発達により測定の自動化が肺気量測定にも及び,現在,市販されている機器は殆ど自動化され,手計算の必要がなくなっている。しかし,自動化されても測定精度は必ずしも向上したとはいえず,測定手技の簡略化が精度を犠牲にした面もある。本稿では,原点に立ち帰り,肺気量測定法の原理や手技などの問題点を述べる。

呼吸調節 川上 義和 , 山本 宏司
  • 文献概要を表示

はじめに

 呼吸は意識的あるいは無意識的に神経性および体液性の因子によって調節されている(Fig.1)1,2)。これらの中で,最も基本的な調節系はO2あるいはCO2の変化に対して応答する化学調節系chemical controlである。他方,精神身体活動あるいは呼吸運動の変化に伴って生ずる肺内あるいは胸郭内の機械的受容器mechanorecep—torの変化を高位中枢が自覚することによって脳幹の自動調節中枢の活動を修飾する調節系は行動調節系beha—vioral controlと呼ばれている。さらに,受容器から呼吸中枢までを神経経路のみを介した調節系は神経調節neural controlと言われている。これらの調節系によって換気のレベルを変化して動脈血O2,CO2分圧およびpHの恒常性を保っている。しかも,これらの調節系は全て呼吸中枢へ連絡しているので,1つの調節系の活動の変化は呼吸中枢のレベルの変化を介して他の調節系の活動に影響を与える。したがって,1つの調節系の刺激とそれに対する応答のみを純粋に定量化することは必ずしも容易ではない。本論文では.現在臨床的に行なわれている化学および行動調節系の検査法の手技および装置について述べる。

  • 文献概要を表示

 房室ブロックの障害部位がヒス束以下にある場合,従来よりペースメーカー(PM)植込み適応とされ,その障害部位診断は臨床的に重要なこととされている。とくにヒス束内ブロック(BHブロック)は補充収縮がnarrow QRSを示す場合が多いため,ヒス束上ブロック(AHブロック)との鑑別にはヒス束心電図(HBE)が必須である。最近HBEの普及によりBHブロックが少なくないことが注目されている。しかし多数例のBHブロックについて臨床的・電気生理学的に検討した報告は少なく,とくにその長期予後について検討した報告は本邦ではみられない。そこで我々は,BHブロックの自験例42例について検討してその特徴を明らかにし,さらにヒス束下ブロック(HVブロック)と比較し,興味ある所見を得たので報告する。

  • 文献概要を表示

 重症患者の排便は心循環系に及ぼす影響が大きく,特に心筋梗塞急性期にはそれを契機に悪化したり1,2),突然死した例1,2)も報告されている。従来より心筋硬塞急性期の患者の排便方法についてはベッド上で便器を用いるという意見3)と,発症第1〜2病日よりベッドサイドでの腰かけ便器を使用するという意見3)があるが,未だ一定のものはない。これはいずれの排便方法が心負荷が少ないかを実際に検討した報告がないからと思われる。

 そこで著者らはどのような排便方法が最も心負荷が少ないかを見るために,1)仰臥位さしこみ便器,2)30°半坐位さしこみ便器,3)ポータブル便器の3つの排便方法で実際に排便を行い,排便所要時間,心拍数,酸素消費量等について比較検討を行った。

  • 文献概要を表示

 膠原病にみられる肺病変としては,線維症がよく知られているが1,2),それに伴って肺高血圧症(以下PH)を合併することも指摘されている。しかし,症例のなかには線維症を示さない場合でもPHのみられることがあり3〜5),剖検肺でそのような症例を観察すると,多彩な血管病変が認められる。そして,この血管病変を伴ったPHは膠原病の治療が進歩し,かなりの延命効果が得られるようになったなかで,なお残る重篤な合併症として最近注目されつつある。ところが,そのpathogenesis,histogenesisとなると今もって不明である。その理由は膠原病そのものが慢性的に経過し,徐々にPHを呈していく傾向があること,臓器が肺という特殊な臓器で,生検の対象になりにくいため時間的経過を追うことが難しいこと,さらにSLEなどにみられる様にもっぱら関心が腎などにあったため肺への対応が遅かったことなどがあげられる。そこで,今回は過去に経験した膠原病の剖検肺48例を組織学的に検索し,これに組織計測および免疫組織学的方法を用いながら肺の血管病変とPHとの関係を検討した。特に本文では膠原病の代表的疾患であり,且つ肺血管病変を比較的高度に伴うSystemic Lu—pus Erythematosus (SLE)とProgressive Systemic Scle—rosis (PSS)を中心にして,特に初期像の解析も試みた。

  • 文献概要を表示

 CO2が水和してH2CO3となる反応を触媒する酵素—炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)(以下CAと略)は身体に広く存在している。組織で生成されたCO2は赤血球中でCAの作用を介してHCO3となって運搬され,血漿中のHCO3は赤血球のCAによりCO2となって肺胞から放出される。また腎尿細管上皮細胞のCAは尿の酸性化機構に不可欠であり,中枢神経系においてはchoroid plexusによる脳脊髄液(CSF)の産生に関与している。acetazolamide,dichlorphenamideなどのN−スルファミル基(−SO2NH2)をもつサルファ剤はCAの非競合的な阻害剤である(図1)1)

 高炭酸ガス血症を伴う慢性肺気腫患者にCA阻害剤(以下CAIと略)を投与してPaCO2が低下し好結果を得たというNadellの報告2)以後,呼吸性アシドーシスに対しCAIの臨床応用が試みられ,本邦においても笹本らの報告3)がある。しかしCAIの主作用の一つである腎尿細管からのHCO3排泄促進による代謝性アシドーシスのため,高炭酸ガス血症を伴う呼吸不全の一般的な治療薬とはならなかった。その後高山病の予防薬としてCAIが有効であるという報告がCainら4),Forwandら5)などによってなされ,Suttonら6)は高地での睡眠中のdesaturationの程度が改善したと報告している。Whiteら7)は中枢性無呼吸に対してacetazolamideが有効であった例を報告しており,最近では慢性閉塞性肺疾患(COPD)においてもその効果が再評価されている8)

  • 文献概要を表示

 労作性狭心症や,心筋梗塞等の虚血性心疾患は近年増加の一途をたどり,本疾患の治療は臨床上重要な課題となっている。従来より直達療法としては大動脈冠動脈バイパス術が広く行なわれてきたが1〜4),開胸術を要し,患者の負担も少なくない。一方,1979年Grüntzigらによって提唱された経皮的冠動脈形成術(percutaneous trans—luminal coronary angioplasty, PTCA)は,心臓カテーテル法の手技を用い,冠動脈狭窄部位でバルーンカテーテルを拡張させることにより,冠動脈の狭窄を直接的に軽減し,特に心筋酸素需要の増大にみあうだけの冠血流の補給を期待する方法として注目されている5〜7)

 今回我々は,このような冠予備能の増大効果を直接的に評価することを目的として,心房ペーシング負荷による心筋酸素需要増大時における冠循環・心筋代謝諸指標を計測し13〜15),PTCA前後において対比検討した。

  • 文献概要を表示

 インドシアニングリーン(ICG:Indocyanine Green,ジアグノグリーンR注;第一製薬)は,1957年米国Fox1)らにより紹介された暗緑色のトリカルボシアニン系色素の一種で,その水溶液を静注すると急速に血清蛋白と結合して全身の血管内に分布し,肝から遊離の形で胆汁中に排泄される。ICGは腸肝循環,腎での排泄,尿中への出現もほとんどみられないため,循環機能等を窺知するのに適した色素である。特にICGは,血液中で,805nm波長の赤外部に最高吸収帯をもち,この部は還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの吸光度が同一となる点(isosbestic point)であるため,色素濃度を全血中で測定するとき血液O2飽和度の影響が除外できる利点を有し,心拍出量,循環時間の測定に好んで用いられている2)

 ICGの化学構造式は当初ICG色素本体に等量のヨウ化ナトリウム(NaI)が結合した対塩構造の化合物であり,分子量925NaI(分子量150)は理論値で16%含有しているとされていた。現在では米国薬局方(UnitedStates Pharmacopeia:USP) ICG製剤基準に記載されているように分子内塩構造で分子量775であり,NaIの含有量については米国薬局方第19版(1975年)で9.5%以下,同第20版(1980年)で5%以下と規定されている。このNaI含有は注射用製剤とするために水への溶解の補助的な意義があるのみで,その含有量は全身血管内に分布する度合い及び分光学的特性,理化学的性質にはほとんど影響を示さない。

  • 文献概要を表示

 非貫壁性心筋梗塞1)発作時に肺水腫に陥り,十分な内科的治療にもかかわらず心電図.血行動態等の悪化をみた症例に対し,IABPを施行し,状態の改善を得た。引き続きバイパス手術を行い良好な結果を得た。本症例では核医学検査を経時的に行うことが出来,虚血部位に関して,心電図からは推定し難い所見がえられたのでこれらの検討を行った。

  • 文献概要を表示

 比較的稀な,左冠動脈肺動脈異常起始症(ALCAPA)の外科治療は,特異的な冠循環など,病態生理の解明とともに,手術手技も変遷してきた。1960年Sabistonら1)によってはじめて本症に対する単純結紮術の成功例が得られて以来,多くの手術治験例が報告されている。しかし,これら術式の術後15年以上を経過した,長期遠隔例についての検討は,いまだ少ない2)。最近我々は,本症coronary steal期3)の診断で,37歳時に異常起始の左冠動脈単純結紮術を受け,自覚症状ないまま16年間経過し,ジョギング中に突然死を来たした53歳男性例を経験した。本例はたまたまこの3カ月前に心臓核医学検査を中心に,非観血的検索を行なった例である。本例ば著者らの知り得た範囲では,単純結紮術後の最長遠隔例と思われ,自然歴と手術予後,剖検所見と合わせ,若干の考察を加え報告する。

  • 文献概要を表示

 Percutaneous Transluminal Coronary Pecanalization(PTCR)はRentropら1)によって報告されて以来,急性心筋梗塞に対する有効な治療法として広く普及している2,3)。一方Grüntzigら4)によって開発されたPercuta—neous Transluminal Coronary Angioplasty (PTCA)は,その有効性,安全性が確立されつつあり5,6),最近では狭心症だけでなく急性心筋梗塞にも応用されている7〜9)

 我々は,心筋梗塞の超急性期に,まず末梢静脈からのUrokinase (UK)注入により再疎通を得,そのあとPTCRとPTCAを併用することにより,心筋梗塞の進展を阻止することができ,非常に良好な結果が得られた症例を経験したのでここに報告する。

基本情報

04523458.34.1.jpg
呼吸と循環
34巻1号 (1986年1月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

文献閲覧数ランキング(
5月25日~5月31日
)