整形・災害外科 61巻7号 (2018年6月)

特集 Hip-Spine-Knee syndrome

松山 幸弘
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Hip-Spine syndromeは1983年にOffierski,Macnabが提唱したことから始まる股関節と腰椎疾患が並存する概念である。しかし股関節専門医,脊椎専門医は過去においてはそれぞれ局所のみのアライメントに焦点を当てて検討を加えてきた事実がある。それぞれの専門家は股関節,脊椎双方の病態が並存することはある程度認識していても,下肢全長を含めた立位全脊柱X線像を撮影し,足関節,膝関節,股関節そして脊柱アライメントの評価を同時に行うようになったのは記憶に新しい。脊椎外科領域に関しては,2012年にFrank Schwabが成人脊柱変形分類を単純X線脊柱骨盤側面像を用いて策定してから多くの施設で立位全脊柱側面像を撮像し,骨盤アライメントを評価するようになった。

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要旨:Computed radiography(CR)による撮影では,カセッテのサイズによって撮影範囲が限定され,さらに,頚胸椎移行部や腰仙椎移行部では画像の歪みや拡大のために脊椎アライメント計測が影響を受ける。一方,slot scanning 3D X-ray imager(EOS)では,立位全身撮影が可能で,CRのような画像の歪みや拡大が小さく,再現性の高い計測が可能である。脊柱変形患者では,立位姿勢を維持するために頭蓋,骨盤,および下肢アライメントを変化させて目的の姿勢を維持している(代償作用)。代償作用を理解するためには,脊柱や骨盤など局所アライメントをみるだけではなく,頭蓋骨や下肢をも含めた全身アライメントの評価が必要である。このような病態を理解するためには,頭蓋骨・骨盤・下肢を含めた立位全身アライメント評価が可能なEOSが極めて有用である。

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要旨:腰椎変性後側弯症のトレッドミル上の歩行を撮影し,三次元動作解析装置を用いて,下肢を含めた矢状面バランスの動的代償機能についての検討を行った。骨盤後傾の大きさにより2群に分け,それぞれにおいて各動的パラメータを測定し検討を行った。Large pelvic retroversion group(LR),small pelvic retroversion group(SR)ともに体幹は前傾したが,LR群では有意に体幹前傾となった。また両群ともに立位静止時に骨盤後傾であったが,歩行開始とともに骨盤は前傾となることが確認された。最大股関節屈曲角(HF max)は歩行開始時,終了時ともにLR群はSR群より有意に大きく,また最大股関節伸展角(HE max)に関して,歩行開始時LR群は最大伸展時にも屈曲傾向が強く,歩行開始時で有意差があった。つまり,LR群では股関節屈曲位での歩様がみられた。一方,最大膝関節屈曲角(KF max)に関しては2群間に有意差はなかったが,最大膝関節伸展角(KE max)に関しては歩行開始時にLR群で伸展角が小さく膝屈曲傾向であった。

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要旨:股関節が脊椎骨盤アライメントに与える影響は,冠状面において,変形性股関節症により下肢短縮がある場合,脊椎側弯にてアライメントが代償されるが脊椎への負担が発生する。脊椎に可撓性が乏しい場合は体幹の重心線は患側に偏位し,脊椎,股関節のいずれにも影響を与える可能性がある。矢状面では,寛骨臼形成不全による変形性股関節症においては寛骨臼の前方被覆は小さく,応力集中の回避や疼痛の防御的反応のために骨盤は前傾する。変形に伴う股関節屈曲拘縮も骨盤前傾に作用し,腰椎は前弯を増強することにより代償する。腰椎前弯の増強により椎間関節の亜脱臼や椎間孔の狭小などが生じ腰痛や根障害の原因となる。しかし,変形性股関節症の発症は多因子素因であるため,その脊椎骨盤アライメントは多様である。

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要旨:変形性膝関節症(膝OA)が脊椎アライメントに与える影響について,運動器検診データを用いて調査した。217名の被検診者(男性88名,女性129名,平均74歳)を対象とした。51%に腰痛,43%に膝痛があり,47%にX線像でKellgren-Lawrence(KL)grade 2以上の膝OAがあった。KL grade 2以上では,骨盤が後傾し,sagittal vertical axisが大きく(C7垂線が前方移動),膝が屈曲していた。KL grade 2以上において膝痛がある人は,腰痛の合併があり,胸椎の後弯が減少していた。加齢により脊椎の弯曲が減少し骨盤が後傾するが,手術を考慮するほどでない程度の膝痛がある膝OA患者では,胸椎の後弯を減じて立位姿勢を保持していると考えた。一方,膝の上下の疼痛の有無で比較すると,矢状面アライメントに関連はなく,膝の上下に疼痛がある人は下肢の内反が大きかったため,膝OAによる関節炎が影響したと考えた。

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要旨:成人脊椎変形に対して仙骨を含む脊椎矯正固定術を施行した11症例(THA既施行2例含む)における術前後の骨盤矢状面傾斜(PSI)の変化を調査した。全例女性で,平均年齢は70歳(59~77歳)であった。仰臥位におけるPSIは,術前平均−1°(−20°~20°)から術後平均6°(−2°~20°)へ変化し有意に前傾していた(p<0.05)。立位におけるPSIは,術前平均−18°(−33°~5°)から術後平均3°(−12°~16°)へ変化し有意に前傾していた(p<0.05)。仰臥位から立位での変化量は,術前平均−17°±11°から術後平均−3°±3°へ減少していた。このように脊椎矯正固定術により立位でのPSI後傾は改善し,仰臥位での骨盤傾斜の変化量は少なかった。THA既施行2例について,仰臥位PSIは術前後で3°未満の変化で立位では後傾が改善し,カップ前捻は平均3.2°の減少で術後脱臼は生じていなかった。

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要旨:脊柱変形矯正固定とTHAの合併例は合併症が多いことが知られている1)~2)。THA後に脊柱変形矯正固定術を行う際,骨盤の前傾,脊椎-骨盤の可動性低下のため,THA後方脱臼のリスクが高くなる。当院でTHA後に脊柱変形矯正固定を行った10例13股のうち5股(38%)に後方脱臼がみられた。脱臼の有無で比較すると,脊椎手術による仙骨傾斜角の矯正量や脊椎術後のTHAインプラントアライメントに差はなく,脱臼の危険因子を同定することは困難であった。THA後の脊柱変形矯正固定では,インプラントだけでなく骨も含めたインピンジメントシミュレーションを行い,矯正量や術式の調整を検討することが重要である。

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要旨:変形性股関節症(HOA)と腰椎疾患は,中高年に好発し,腰下肢痛を主訴とし,しばしば併存するため両疾患の誤診例はまれではない。さらに,両疾患は相互に影響し合い,病態を複雑にし,疼痛源の同定をしばしば困難にさせる(Hip-Spine syndrome)。HOAの腰痛頻度は21~100%と少なくはなく,人工股関節置換術後の腰痛改善頻度は45~100%と報告され,HOAの腰痛に対する影響の大きさを示唆する。下肢痛の疼痛領域として,鼠径部が最多で87%であるが,殿部や大腿外側部も約60%に認める。また,下腿以下の放散痛頻度は7~47%と報告されている。すなわち,変形性股関節症患者では臨床所見から腰椎疾患を想起させることがある。腰下肢痛の診療において,変形性股関節症も鑑別疾患に挙げ,ルーチンの診察手順に下肢関節可動域の評価や疼痛部位の確認を組み込むことが誤診予防に重要である。

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要旨:重度脊柱変形と変形性股関節症を合併している症例に対する現時点でのわれわれの治療ストラテジーでは,患者の問題となっている症状を直接的に取り除くために,症状が優位な方を先に手術を行う。股関節を先に手術を行う際には非常に高い術後脱臼のリスクを避けるために,dual mobility socketを用いる。先に脊椎矯正固定術を行うと骨盤の傾斜位置が決まっているために,後のTHA施行時に適正な臼蓋カップ設置角度を決めやすくなる。THA施行例に脊椎矯正固定術を施行する際は,術後のTHA脱臼を避けるためにシミュレーションを用いて,手術時には骨盤が前傾しすぎないように脊椎の矯正を調整している。脊椎と股関節は骨盤を挟み隣接しており,変形に対して互いに代償している。そのため,治療においては脊柱変形と変形性股関節症の自然経過や手術加療後のアライメント変化を理解することが重要である。

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医学・医療における新しい知見の集積は種々の治療法の開発と深化をもたらし,整形外科もまた例外ではない。手術法に限ってざっくりいえばその変遷は医用工学の影響を強く受けたように思われる。国全体が貧しかった時代に主な手術対象であった結核性関節炎・脊椎炎など重篤な感染症が抗生物質により消滅すると,対象は主に変性疾患,外傷となり,それらの手術法は医用工学の著しい発展によって格段に進歩した。人工関節が優れた成果を上げ,手術ロボットの応用も目覚ましく,内視鏡による低侵襲手術もあらゆる部位に適用され,再生医療も軟骨移植は既に実現し脊髄再生までが視野に入る時代となった。このような変遷の中で,ブレイクスルーとなった手術法はいくつかあると思われる。

整形外科手術 名人のknow-how

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脛骨顆外反骨切り術(Tibial Condylar Valgus Osteotomy;TCVO)は1989年,千葉剛次により開発された変形性膝関節症に対する新しい術式である1)。またTCVOという名称は千葉剛次の依頼で,故 岩崎勝郎 長崎大学整形外科 主任教授により名づけられたものである。TCVOの手術コンセプトは変形性膝関節症に対し両顆同時接触させることにより,膝関節の接触面積を増大させ,関節面の単位面積あたりの荷重圧を減少し,症状は軽減させることである。手術術式はmedial tibial condyleをL形に骨切り,内側関節裂隙を接触させたまま,脛骨外側関節面が外顆に接触するまで開大矯正を行う。下肢のアライメントのことは考えない。したがって荷重線を外側に移動させるだけのHTO(high tibial osteotomy)とは全く異なった術式であり,HTOの一種とはいえない。最近,長崎大学膝グループでTCVOといって行われている骨切りこそ似ているが%MAで下肢のアライメントを矯正指標にしたり,Paleyの変形矯正の指標を用い下肢のアライメントを矯正する秋田大学整形外科膝グループの手術コンセプトとは千葉剛次が初めて発案したTCVOである両顆同時接触のコンセプトと全く異なると言わざるをえない。これらの方法は術式は同じでもTCVOではなくHTOと同じ下肢のアライメント矯正手術だと考えている。2017年5月に仙台の日本整形外科学会総会のとき,TCVOの発案者であり,私の師匠である千葉剛次先生とTCVOについて話す機会があり,下肢アライメントの指標である%MAなどを用いた方法はTCVOではないという意見で一致した。このことはTCVOを考え,さらに発展させてきたわれわれへの千葉剛次からのメッセージだと考えている(図1)。

医療史回り舞台

将棋を好んだ徳川将軍 篠田 達明
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愛知県瀬戸市在住の藤井聡太君(15歳)は将棋の棋士としてデビューして以来公式戦29連勝という歴代最多新記録を挙げ,初の中学生五段として話題を呼んだ。今年1月の朝日杯将棋オープン戦では佐藤天彦名人を破って優勝し六段に昇段。3月には東京,大阪,名古屋で同時に開催された第15回詰将棋解答選手権のチャンピオン戦で谷川浩司九段らトップ棋士を凌いで全国唯一人の全問正解者として史上初の4連覇を果たした。2017年度の将棋界記録4部門(対局数,勝数,勝率,連勝)で最年少1位を独占して内藤國雄九段,羽生善治竜王に続く3人目となったことも特筆される。

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要旨:認知行動療法(CBT)は行動医学的アプローチの一つであり,医療者にとって必須の診療スキルといえる。認知行動モデルにおける「認知」「感情」「行動」「身体感覚」の4側面の悪循環を整理し,特に認知と行動に対しアプローチすることで慢性疼痛患者の活動を促進し,機能障害とQOLを改善しようとするものである。CBT理論に基づく活動促進により治療の停滞を改善し,医学的治療の効果を高めることが期待される。

机上の想いのままに

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ある日,他院で人工膝関節置換(以下TKR)を受けた患者さんが暗い顔で不安そうに来院した。レントゲンで見る限り,手術はとても上手にしてある。不安定性もimpingementもなさそうだ。可動域も他動的には0―120°。術後の経過の説明もちゃんと論文資料まで挙げて説明してあるし,実際,順調だと思われる。

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要旨:生体において長母趾屈筋(FHL)分枝パターンを判別するテスト方法を考案し,その妥当性を検討した。本テストは足関節中間位にて母趾趾節間関節の自動屈曲運動を行わせ,同時に屈曲した足趾を記録する方法である。1)機能解剖学的検証:Thiel法固定足標本6肢を用いた。FHL,長趾屈筋(FDL)をそれぞれ牽引し,各趾末節骨に挿入した鋼線の屈曲角度変化量を算出し,その後,FHLの分枝を肉眼的に観察した。2)生体による検証:健常男性4名に対しワイヤー電極を介してFHLを電気刺激し,電気刺激による屈曲趾とFHL分枝テストの一致度を評価した。1)FHL分枝の付着する足趾では,FHL牽引時の足趾屈曲角度変化量がFDL牽引時と同等であった。2)電気刺激による屈曲趾とFHL分枝テスト中に屈曲した足趾は全被験者で一致していた。FHLの収縮時にはFHL分枝が付着する足趾も十分に屈曲することが示された。今回考案したテストはFHLの分枝判別に利用できると考えられた。

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要旨:近年,椎間板変性の原因に喫煙の影響が示唆され様々な研究が行われている。そこで喫煙の椎間板への影響を最終機能分子であるタンパク質で解明するために,受動喫煙ラットモデルを作製し,プロテオーム解析(ABI QSTARによるLC-MS/MS)を行った。細胞内タンパク質変化を観察するためは大量に存在する分子量の大きい細胞外基質(コラーゲン,プロテオグリカン)の除去が不可欠であり,100kDa以上の高分子を除いたタンパク質分画についてプロテオーム解析を行った。結果,喫煙にて上昇したタンパク質にはLOXやHPLN1などがあり,細胞外基質タンパク質保持に関わるタンパク質が発現しており,また喫煙で有意に低下したものにはLEG3,Protein DJ-1などがあり,アポトーシスの感受性亢進している可能性が示唆された。LC-MS/MSを用いてラット椎間板組織のプロテオーム解析が可能であった。その結果,喫煙の椎間板への及ぼす影響で特徴的なタンパク質発現が明らかとなった。

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要旨:上腕二頭筋腱は肘関節前方を通り,橈骨粗面に停止する。回内外で橈骨と上腕二頭筋腱の間に摩擦が生じるので,そこには上腕二頭筋腱橈骨滑液包(bicipitoradial bursa)が存在する。この部位にガングリオンが発生したり,滑液包炎が生じたりすることがある。回内外で動く腫瘤を自覚した症例,回内が痛みのために不能となった症例,そして回内外で弾発を自覚した症例の3例を経験した。症状から肘関節部のMRI検査を行い,上腕二頭筋腱に沿った囊胞性病変を確認して摘出術を行った。病理診断は,1例がガングリオンで2例は滑液包炎であった。同じ部位に同じような囊胞性病変が存在しても症状は様々であった。摘出術により症状を速やかに消失させることができた。

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要旨:4例4指に対しradial artery superficial palmar branch flapを用い治療した。1例では神経再建も行った。全例生着した。Radial artery superficial palmar branch flapは比較的大きい皮弁が採取可能で,指に質感が類似し,血管径が近似している。患側と同一術野で挙上可能であり,受傷当日に伝達麻酔で施行できる。

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要旨:症例は50歳女性。8年前から誘因なく右股関節の違和感を自覚し,徐々に疼痛が増悪したため,近医を受診した。大腿骨頭壊死症の診断を受け,当院を紹介受診した。単純X線像では右大腿骨近位骨端部に周囲に骨硬化像を伴った骨透亮像を認めた。MRIのT1強調像で同部位に低信号域を認め,内部に造影効果を認めた。鏡視下に生検術と滑膜切除術を施行した。病理診断はびまん型腱滑膜巨細胞腫の診断であった。造影MRIは大腿骨頭壊死症との鑑別に非常に有用である。

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整形・災害外科
61巻7号 (2018年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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