整形・災害外科 61巻6号 (2018年5月)

特集 ロコモとフレイル

原田 敦
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今後は,75歳以上の人口が相対的に増加します。すなわち,65~74歳の高齢者の増加率は比較的低いのに比して,最も大きな増加率を示し,また実数も増えるのは75歳以上の高齢者です。このような超高齢社会の深化に伴って,フレイルとロコモティブシンドロームは75歳以上の健康長寿を脅かす大きな要因となることは確実です。

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要旨:ロコモティブシンドローム(ロコモ)とフレイルは,高齢者での機能低下を必ずしも不可逆的ととらえないところに共通点がある。一方,基本的な考え方や,疼痛に対する対応が異なっている。ロコモは「立ち上がる,歩く」という移動機能に視点があるが,フレイルは身体的,精神・心理的,社会的な側面から高齢者を多角的にとらえる点が異なる。地域での頻度はロコモがフレイルに比べ高く,その理由として定義の違いでもあるが,ロコモは障害のより初期段階を,フレイルはより進行した状態を診ている可能性もある。歩行障害はその他のADL障害の出発点であることが大きい理由と考えられる。その意味では,両者は補完する関係にあるのかもしれない。また,運動器の疼痛はロコモの重要な要因であるが,フレイルではそもそも記載がない点は大きな違いである。

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要旨:ロコモとは運動器の障害のため,移動機能の低下をきたした状態で,進行すると介護が必要となるリスクが高まるものと定義されている。ロコモはロコモ度テストで判定し,ロコモでない,ロコモ度1,ロコモ度2と判定される。ロコモ度1は立ち上がりテストで片脚で40cmができない,2ステップテストが1.3未満,ロコモ25が7点以上,のどれか1つでもあてはまるもの,ロコモ度2は立ち上がりテストで両脚20cmができない,2ステップテストが1.1未満,ロコモ25が16点以上,のどれか1つでもあてはまるものである。現在日本人1,000人を対象としたロコモ度テストの性・年代別基準値の調査を進めており,その結果で同年代との比較ができるようになる。ロコモに関心のない中年期の人々がロコモを自分事化するのに役立つと考えている。人類進化学はヒトの身体の健康には,活発な身体活動が必須であることを示している。ロコモ対策が健康寿命を延伸し,社会の利益になる。

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要旨:フレイルとは加齢に伴って様々な臓器の予備機能が低下する中で,ストレスに対する恒常性の回復が低下した脆弱な状態とされる。フレイルの定義について世界的なコンセンサスはないが,わが国においてはFriedらが提唱しているように健常と要介護状態の中間的な状態として定義づけている。したがって,診断方法もFriedらによる表現型モデルを用いたフレイルの診断が推奨される。フレイルは様々なアウトカムと関連しており,死亡,要介護状態,転倒・骨折をはじめとして,心血管疾患や糖尿病などの発症にも関連することが示されている。したがって,フレイルは高齢者の健康長寿達成の障害となるため,フレイルの概念,診断,アウトカムに関する啓発が必要である。

ロコモの疫学 update 吉村 典子
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要旨:地域住民コホートROADのデータ解析より,ロコモティブシンドローム(ロコモ)の原因疾患としての変形性膝関節症,変形性腰椎症,骨粗鬆症,サルコペニアそれぞれの有病率,累積発生率を推定した。さらにロコモそのものの疫学指標として,ロコモ度1の有病率は全体の69.8%(男性68.4%,女性70.5%),ロコモ度2の有病率は全体の25.1%(男性22.7%,女性26.3%)と推定した。これから,ロコモ度1,ロコモ度2の該当者数(40歳以上)はそれぞれ4,590万人(男性2,020万人,女性2,570万人),1,380万人(男性460万人,女性920万人)と推定された。

フレイルの疫学 update 山田 実
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要旨:フレイルとは生理的予防能が減弱し,種々のストレスに対する脆弱性が亢進した状態である。このフレイルには大きく分けて身体的,心理精神的,社会的といった要素があり,一般的には身体的フレイルが狭義のフレイルと考えられている。これまでの調査によって,地域在住高齢者において身体的フレイルを有するのは約10%,認知フレイルは約1%,社会的フレイルは約10%とされる。フレイルに対する介入としてわが国では介護予防事業が相当し,この事業によって要介護状態への進展を抑制しうることが示されている。また近年では,住民主体の自主グループ活動によっても継続参加することで,要介護状態への進展を抑制できることが示されている。

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要旨:日本が超高齢社会となった2007年に提唱されたロコモティブシンドロームの概念は,高齢期において運動器の健康を維持することにより,生活機能の維持と健康寿命の延伸を目標としている。対策のためには,まずロコモを早期に判定することが重要で,ロコチェック,ロコモ25,ロコモ度テストが評価ツールとして有用であることが種々の研究で明らかとなっている。また,具体的な改善策は運動習慣,適切な栄養摂取,活動的な生活習慣,運動器疾患の予防と治療であり,特にロコモーショントレーニングが運動機能の向上に有効である。ロコモの概念と対策を広く普及することは特に重要で,健康日本21を機に,ロコモ予防の健康教育を行う自治体が増えており,学会の取り組み,産官学共同の取り組みも進んでおり,最近は海外でも広まり始めている。

フレイル予防・治療 update 金 憲経
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要旨:フレイル予防のためには,筋力,歩行速度といった身体機能の改善を目指す指導と活動量の増加,疲労解消あるいは栄養改善に有効な支援が必要である。フレイル治療のためには,運動指導単独あるいは栄養補充単独よりも運動指導に栄養補充を加える包括的支援がより効果的であるとの指摘が多い。運動と栄養補充を軸とする包括的支援によるプレフレイルやフレイルの改善率は介入方法や介入・追跡後によって異なるものの35~48%範囲であり,フレイル解消率は38~58%である。

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要旨:ロコモとフレイルはともに,健康寿命の延伸,要介護化予防を目指した考え方である。ロコモは整形外科の,フレイルは老年内科の視点であり,これまでは接点が少なかったため,専門外来が開かれても両科が共同・協力して運営されることなく独自の視点のみに着目したものがほとんどであった。そのため同時に評価されることが少なく,相互の関連は不明なままであった。当センターでは,双方の重要性を鑑み,整形外科,老年科医はもちろん,多職種が連携・協力する,世界初のロコモフレイル外来を立ち上げた。両者に共通した要因であるサルコペニアを含めた包括的な評価を行う総合的な診療システムであり,個々の患者に則した介入法を行っている。両者の同時評価からみた,フレイルとロコモの包含関係は,ロコモはフレイルの一部というより,むしろ逆にロコモの一部がフレイルになっていた。整形外科医と老年科医が協力して両方の観点を重視し,総合的な評価をする必要がある。

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要旨:ロコモの進行に伴い,フレイルの状態を合併しやすくなる。高齢期には慢性疾患や,それに伴う活動性低下,栄養不良,意欲低下や抑うつなど様々な問題が併存し,フレイルサイクルと呼ばれる負の連鎖に拍車がかかり要介護状態や死に至る。フレイルを招く因子は多数あるため,介入可能な問題を見いだすには多面的な機能を評価することが望ましく,簡易スクリーニングとして基本チェックリストを活用することも一助となる。特に栄養問題は移動機能の低下とともにフレイルサイクルの中核となるため留意が必要で,体重測定は少なくとも月に一度実施することが推奨される。意図しない体重減少をきたしている場合には,原因の精査とともに経口的な栄養補助を行うことが薦められる。また,多剤併用への対処もフレイルの発生や増悪を食い止める可能性がある。フレイルを合併するロコモ患者に対しては多職種での介入が望ましく,そのような環境を構築する必要がある。

Personal View

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TOKYO 2020を間近に迎え,スポーツ界は活気に満ちてきています。オリンピックはアスリートにとっては勿論のこと,選手を支える競技団体にとっても4年に一度の正念場で,メディカルサポートにもベストを尽くすことが求められます。2000年シドニー五輪に水泳競技のチームドクターとして帯同した時は,日々厳しい脊椎疾患との戦いに明け暮れる大学病院の脊椎外科医で,脊椎疾患は治せると思っていました。しかし,シドニーのレース直前に椎間板性腰痛を発症した選手にはNSAIDを処方する以外に何もできず,痛みのためスタートの姿勢をとれない選手はレースを棄権しました。

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舟状骨骨折は,当初は患者本人のみならず初診医に気づかれずに放置されて偽関節に陥ったり,また手術を行ってもほとんどに軟骨面を有し,小さくて複雑な三次元形状,そして血流の問題からも骨癒合が得られない症例もある。Herbert1)らがheadless screwを考案してから,その手術方法は一変し,現在では新鮮骨折および偽関節に対してもgold standardな治療となりつつある。しかし最近,舟状骨にもlocking plate(APTUS® hand system,MES社)が使用可能となり,注目が集まっている。本プレートは,0.8mmとプレートが薄く,関節軟骨に干渉しない上に,TriLock systemという全方向へ15°の自由度を持つpolyaxial locking plate(PLP)であり,その有用性は高い(図1)。

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要旨:近年,新しい二次元ナノ材料として,厚みをナノスケールに制御した「ナノシート」が注目されている。筆者らは,代表的な生分解性プラスチックであるポリ乳酸からなるナノシートを創製した。このナノシートは,接着剤を用いずに生体界面などにピタッと貼れるユニークな特性が発現する。この特性を活かし,臓器切開部位をナノシートで閉鎖する外科縫合術の代替法や熱傷用感染防止膜への応用例を提示でき,新しい医療材料としての可能性を見いだした。

医療史回り舞台

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『日本史小百科26スポーツ』(近藤出版社)によると,スケートの起源は北ヨーロッパの石器時代の洞窟から発見された馬やトナカイの骨で造られた氷上運搬用具にあるという。

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要旨:ばね指に対して手術を行い,成績を確認した213指を対象とした。術前に腱鞘内トリアムシノロン注射(TA注射)を行っても再発して手術になったものが171指であった。成績評価は術後平均2.0カ月で行い,可動域制限や疼痛などの愁訴残存例にはTA注射を追加した。追加治療を行った最終成績は術後平均4.2カ月で評価した。結果は,母指以外の罹患指は母指に比べて愁訴残存例が多かった。多数回の注射を行っても再発して手術に至った症例は愁訴残存例が多かった。愁訴残存例にはTA注射を追加して最終成績は有意に改善した。ばね指に対するTA注射は有効な保存療法であるが,TA注射後の再発ばね指では術後愁訴が長引く傾向にある。術後愁訴はTA注射の追加で改善するので,原因は腱鞘炎の難治化であると考えられた。しかし,PIP関節の拘縮が難治化している場合もある。以上より,ばね指手術といえども術後愁訴が残存する場合があり,適切な追加治療も必要である。

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要旨:手指近位指節間(PIP)関節の側副靱帯損傷に対して,筆者らは関節不安定性があるものや,軽度でも疼痛が残存する症例に積極的に靱帯修復術を行ってきた。修復術により症状は改善するものの,術後に発生する伸展制限がしばしば問題になる。そこで,2012年から2016年までの間に当院で修復術を行った26例を対象に術後伸展制限を検討し,特にPIP関節の可動域,術前のストレス開大度,年齢を調査した。術前ストレス開大度と最終診察時のPIP関節伸展角度に相関関係はなかった。また,年齢とPIP関節の伸展角度にも相関関係はなかったが,40歳以上の症例はそれ未満に比べ有意に伸展制限が遺残していた。さらに,年齢が高く,術後1カ月時点のPIP関節の伸展角度が不良な症例は経時的に伸展角度の悪化をきたす可能性が推測された。

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要旨:本検討6例の内訳は,四肢切断により救命した2例,抗生剤治療により全身状態の改善を得てからdebridement後に陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;NPWT)を開始し患肢を温存した1例,抗生剤治療のみで治癒を得た2例,および四肢切断の機会が得られずに救命しえなかった1例である。壊死性筋膜炎の診断にはLRINEC(laboratory risk indication for necrotizing fasciitis)スコアが一助となるものの,受診や検査のタイミングによってスコアは劇的に変化するため他の臨床所見も含めた総合的な評価が必要である。また今まで植皮を要していたような軟部組織欠損を伴う創に対してNPWTを使用することにより,期間を要するものの低侵襲に治癒が得られる可能性が示唆された。迅速な診断と治療を要するSTSSでは,A群β溶血連鎖球菌抗原キットによる迅速検査や浸出液のグラム染色による検鏡が重要であると考えられた。

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要旨:Ischiofemoral impingement(IFI)は,小転子と坐骨結節の間に大腿方形筋が挟まり起こる病態で,人工股関節後の発症は本邦では報告されていない。THA術後5カ月目に,骨盤後傾により生じたと考えられるIFIの1例を経験した。原因が不明なTHA術後疼痛を診療する際には,IFIを考慮して診療することが有用と考えられた。

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要旨:カシン・ベック病による変形性足関節症に対して関節鏡視下足関節固定術を施行した1例を経験した。症例は中国出身の46歳女性で,幼少期からの両足関節痛が増悪したため受診した。単純X線像で両足関節の関節症性変化,CT,MRIで距骨の圧壊がみられた。カシン・ベック病と診断し,関節鏡視下足関節固定術を施行した。画像上,広範囲に骨壊死様の所見が存在したが,早期に骨癒合した。疼痛も消失し,経過良好であった。

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菊地臣一先生のご著書『腰痛をめぐる常識の嘘』が出版されたのは,今から24年前の1994年である。その魅惑的なタイトルもさることながら,既成概念にとらわれないサイエンスに基づいた明快な内容に,当時の多くの若手医師・研究者が感化された。筆者もまさしくその一人で,同書から腰痛研究へ向かうモチベーションと多くのヒントを頂いた。主としてご自身の解剖学的・臨床的研究の所見をベースとした同書に続き,4年後に出版された『続・腰痛をめぐる常識のウソ』では,腰痛の病態,運動療法,手術療法などさらに幅広いテーマに焦点をあて,国内外の多くの研究論文に基づいた的確な検証と解説がなされていた。

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編集後記

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整形・災害外科
61巻6号 (2018年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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