臨床婦人科産科 72巻1号 (2018年1月)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

川名 敬
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 産婦人科における感染症領域には,①性感染症,②不妊と関連する感染症,③母子感染症,④早産の原因としての周産期感染症,⑤腫瘍の原因となりうるHPV感染,⑥周術期感染症,など大きなテーマが多く含まれている.また感染症は,腫瘍,周産期,生殖内分泌,女性ヘルスケアのいずれのサブスペシャリティとも関連した横断的な分野であり,さまざまな現場で感染症の知識を必要とする.そのため,産婦人科感染症に関する知識は,サブスペシャリティを超えて,臨床医,特に若手医師にとって必要不可欠と言える.

 産婦人科感染症領域では,トピックスが目白押しである.この数年急増している梅毒・先天梅毒,サイトメガロウイルス(CMV)やトキソプラズマの母子感染症,ウレアプラズマと早産,HPV感染から子宮頸がんへの発がんとその予防のためのHPVワクチン,A群溶連菌感染症(GAS)による周産期感染症などが挙がる.一方で,従前から産婦人科で問題となってきた性器クラミジア,性器淋菌感染症,性器ヘルペス,HBV・HCV・風疹・HTLV-1の母子感染の感染症などでは多くの臨床研究の成果が体系化されてきた.

性感染症

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●性交経験のある女性が,下腹部痛,帯下異常,右上腹部痛のいずれかを訴えた場合は,性器クラミジア感染症を疑う.

●性器クラミジアを疑う症例では,核酸増幅検査によりクラミジアと淋菌の同時検査を行う.

●急性腹症の鑑別においてFitz-Hugh-Curtis症候群が疑われる場合は,動脈優位相の撮影を指示する.

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●尖圭コンジローマは低リスク型(主に6型,11型)のヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus : HPV)の外陰部への接触感染によって発症する性感染症の1つである.

●診断は視診が主体となるが,ピットフォールとしての鑑別疾患も少なくなく,確定診断のために病理組織診断が必要になることもある.

●治療はイミキモドクリーム外用による薬物療法のほかにレーザーなどの外科的療法があるが,再発率は低くない.予防は6,11型を含むHPVワクチンで可能である.

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●梅毒トレポネーマは増殖力は弱いが少ない菌で感染が成立し,ハイリスクグループでは容易に感染伝播する.

●ヒト免疫は完全に梅毒トレポネーマを排除することは難しく,再感染を妨ぐことはできない.

●妊婦健診における梅毒のスクリーニング検査と妊娠中の感染の機会を断つことが,先天梅毒の予防に重要である.

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●淋菌の検出には分泌物のグラム染色が安価で簡便な方法だが,子宮頸管,直腸や咽頭スワブでは,他の細菌の混在により淋菌の観察は困難であり熟練を要する.

●近年の淋菌の薬剤耐性は著しく,多剤耐性化しているため,淋菌の培養,薬剤感受性試験の重要性が増している.

●淋菌感染症治療はセフトリアキソンを用いた治療法が原則であり,耐性菌の出現に常に注意しておく必要がある.

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●クラミジア感染症は卵管性不妊症に関与するSTIであり,現時点で有効なワクチンは存在しない.

●クラミジア感染や淋菌などのSTIに感染していると,HIV感染を受けやすくなる.

●クラミジア感染による卵管性不妊症の予防には,クラミジア感染などのSTIに関する知識向上のための啓蒙活動が肝要である.

母子感染症

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●母子感染が成立している症例でも超音波検査で所見を認めない症例は多くあり,超音波検査ですべての母子感染を見つけられるわけではないことを認識する必要がある.

●しかし母子感染には不顕性感染も多く,超音波検査所見を契機に母子感染が見つかることもあり,超音波検査の重要性は決して低くない.

●母子感染症例で認められる超音波所見は各病原体ごとで共通する所見が多く特異性は低いが,なかでも特徴的な所見は理解しておく必要がある.

風疹 平原 史樹 , 奥田 美加
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●風疹は大人同士で感染する感染症となっており,輸入感染症のケースが増加している.特に30〜50代の男性は風疹に対する免疫のない方が多く,風疹流行の要因となっている.

●先天性風疹症候群は職域での感染が原因となったケースが多く,職域での抗体検査,予防接種(MRワクチン)の推進を始め,健康管理の徹底が望まれる.

●海外流行地への渡航は風疹ウイルスに感染するリスクを上げる.渡航の際は万全の風疹予防対策,また帰国後は風疹発症リスクに対する適切な対応策をとることが望ましい.

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●妊娠中のサイトメガロウイルス(CMV)初感染は先天性感染児発生のハイリスク妊娠である.

●妊娠中の初感染を診断するためにCMV IgM検査が汎用されるが,特異度は低く,IgM陽性の場合にはIgG avidity検査などの補助検査を要する.

●ハイリスク妊娠における先天性感染の発生予知にIgG avidity検査,胎児超音波検査が有効である可能性がある.

●血清学的検査によるCMV妊婦スクリーニングでは,再活性化・再感染による非初感染妊娠から発生する先天性感染児を見落とす可能性があることに留意する.

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●加熱不十分な肉や非飲用水の摂取,土の付いた野菜や果物の摂取,猫の排泄物との接触,土いじり,砂場遊び,海外旅行(中南米・中欧・アフリカ・中東・東南アジア・豪州)が感染リスクとなる.

●本邦では,過半数の産科施設で妊娠初期検査の一環で抗トキソプラズマIgG抗体またはIgM抗体の測定による妊婦スクリーニングが行われている.

●抗トキソプラズマIgM陽性でも,抗トキソプラズマIgG陰性が続けば初感染ではない.IgG陰性妊婦にはトキソプラズマ感染の予防啓発を行う.

●最近の感染かどうかを推定するため抗トキソプラズマIgG avidity検査が行われるが,標準化された検査方法でないため結果の解釈には注意が必要である.

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●性器ヘルペスと似た外陰病変を呈する梅毒との鑑別を行う.

●性器ヘルペスの病原診断と血清診断の特徴を理解し,両方を組み合わせた診断を行う.

●妊娠中に性器ヘルペスを発症した場合は,妊娠初期以外は非妊娠時と同様の治療を行う.特に初発の場合は,抗ウイルス療法を積極的に行う.

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●2017年厚生労働研究班(板橋班)から新しいHTLV-1母子感染マニュアルが出版された.

●一次抗体陽性,確認検査であるウェスタンブロッティング法判定保留者に対して,PCR法を推奨する.

●キャリアに対する栄養法として,完全人工栄養を勧める.短期母乳や凍結母乳を希望する際は,出産後も乳房管理を支援することが必要となる.

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●妊娠初期のHIV検査は必須であるが,偽陽性率が高いことに留意しなければいけない.

●HIV感染妊婦は全例抗ウイルス(HIV)薬を投与されるべきである.

●分娩方法にかかわらず,出生児は抗ウイルス療法を受けなければならない.止乳は必須で,産婦は抗ウイルス療法を続けなければならない.

HBV 久保 隆彦
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●B型肝炎キャリア妊婦には新方式による予防を必ず行う.出生後できる限り早期に,少なくとも12時間以内にHBグロブリンとワクチンを,1か月健診でワクチンを接種する.

●生後6か月に3回目のワクチン接種とその後の抗体獲得検査を小児科に依頼する.その際に「B型肝炎母子感染予防接種記録」を利用し,母子手帳に添付する.

●妊婦の同居家族にHBキャリアの有無を妊娠初期に確認し,いる場合には定期接種として出生直後,生後1,6か月にHBワクチンを接種し,水平感染を予防する.

HCV 深澤 一雄 , 稲葉 憲之
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●HCVはHBVに比べ感染力は弱いが,遅発性ウイルス感染症としてC型肝炎は肝硬変,肝がんへの移行率が高く,肝がん死亡者の約70%はHCV由来とされている.

●HCV抗体は一般的な意味での感染防御抗体(中和抗体)としての働きを期待することができず,HCV抗体陽性であることはHCVに感染したことを意味する.HBVと異なり,どの時期に感染しても新生児から成人まで幅広くキャリア化する可能性がある.

●現在HCV母子感染を予防する有効な手段はない.しかし妊婦スクリーニング検査(HCV抗体,HCV-RNA定量)を行うことが,HCV母子感染対策の端緒であることを認識しなければならない.

ジカウイルス 森内 浩幸
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●不顕性感染を含むジカウイルス感染妊婦の少なくとも1割が先天異常をもつ児を出産すると考えられ,第1三半期を過ぎてからの感染であっても児の障害は起こる.

●胎児超音波検査では小頭症は必ずしも認められず,脳室拡大,皮質菲薄化,石灰化,脳梁異常に着目する.羊水や胎児血中のジカウイルスRNA検査では偽陰性もみられる.

●日本との交流が多い東南・南アジアにおいて流行しており,妊婦やそのパートナーは蚊刺に加え性行為感染のリスクを知って対処する必要がある.

早産と周産期感染症

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●腟内の常在菌ならびに病因菌は多岐にわたっており,早産発症までの病態を複雑にしている.

●早産予防を目的とした細菌性腟症のスクリーニング検査を行う場合には,妊娠20週未満に行う.

●臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準を満たさない場合でも,絨毛膜羊膜炎が存在する可能性を常に認識して対応することが求められる.

早産の機序と生体反応 永松 健
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●早産はさまざまな背景因子に起因して生じる症候群としての性質をもつ.頸管を経由した上行性の病原体侵入による子宮内感染が主要な原因となるが,それに対して抗菌薬を用いて予防・治療することは困難と考えられている.そのため,ハイリスク妊婦の同定と感染を生じる前段階での予防的アプローチが必要である.

●プロゲステロン作用の減弱や子宮局所の炎症─抗炎症バランスの異常は早産を誘発する要因となるが,それらに対してはプロゲステロン補充療法,抗炎症性物質の投与などによる早産防止効果が期待される.

●現在,頸管長測定が広く行われ,切迫早産症状を生じる以前の段階で早産の進行が察知されることが多いが,今後個々の早産ハイリスク妊婦の背景にある病態機序を判別できる新規バイオマーカーの開発が重要な課題である.

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●ウレアプラズマ単独では,早産を予測する危険因子として不十分である.他の微生物との共感染,母体の免疫反応や遺伝的背景などを含めて検討する必要がある.

●病原性因子を特定し,病原性の高いウレアプラズマの検出法の開発を進める必要がある.

●LAMP法によるウレアプラズマの検出法は,臨床応用を進めていく予定である.特に,通常ウレアプラズマは存在しない新生児領域での応用が期待される.

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Mycoplasma hominisMycoplasma genitaliumUreaplasma urealyticumUreaplasma parvumの産科・婦人科領域における疾患・病態への関与が示唆されており,半数以上の女性から検出される.

●マイコプラズマ属およびウレアプラズマ属に感染した場合,クラミジア感染症・性器淋菌感染症に近い症状を認めることがある.実際には,無症候も含めクラミジア感染症に症状が類似していることも多いため,検査でしか判別ができないことが多い.

●マイコプラズマ属およびウレアプラズマ属の検出がただちに感染症に結びつくわけではないが,産科・婦人科において早期にマイコプラズマ属・ウレアプラズマ属による感染症を特定し,治療を開始することにより患者の身体への負担を最小限に抑えることが可能になる.

HPV感染症

HPVのウイルス学と発がん 田口 歩
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●HPVには現在170種類以上の型が報告されており,感染部位や発がん性などにより分類される.

●HPVの2本鎖環状DNAには9個の遺伝子ORFがコードされており,さまざまな機能をもつ遺伝子産物が産生される.

●HPV感染が原因となる疾患には,尖圭コンジローマや喉頭乳頭腫,CINや子宮頸がんなどがある.

●high risk HPV(HR-HPV)感染により,CINを経た子宮頸がんの発がんが起こると考えられている.

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●HPV検査は,ハイリスクHPV一括検査とHPVタイピング検査に大別される.おのおのの特性および適応についての理解が必要である.

●HPV検査を取り入れた検診のメリットは,病変の発見感度の向上と検診間隔を延長できる可能性である.ただし特異度の問題,検診のマネジメント面での問題など,解決すべき問題点が存在する.

●子宮頸がん検診は一般市民に対してより一層の啓発活動や受診推進が必要である.さらに,検診手法の合理化や検診間隔の適正化についての検討も急務である.

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●HPVワクチンは厚労省の積極的勧奨一時中止継続にて接種停止状態である.

●2000年度以降生まれの女子のHPV感染リスクや子宮頸がん罹患リスクがワクチン導入前と同程度に戻ることが予測される.

●本邦における安全性と有効性の大規模調査が行われている.

周術期感染症を含む重症感染症

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●劇症型GAS感染症はきわめて稀ではあるが,いったん発症すると高頻度に母体死亡に至る.初発症状は非特異的であり,重症感染を疑った場合にはGAS感染を念頭に置く.

●起炎菌の確定診断を待つことなく速やかに抗菌薬治療を開始し,敗血症性DICの有無を早期に判断し,集中管理およびDIC治療を行うことが最も重要である.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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 一般の市中病院であれば日常の婦人科救急診療のなかで,重度の貧血を伴う性器出血にしばしば遭遇する.本稿では,出血を伴って腟内に分娩した5cm大の筋腫にマスクされ,その体部側に子宮頸がんを有していた症例を経験したため,教訓とともに紹介する.

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緒言

 2009年LancetにてJGOG3016試験(NOVEL trial)の結果が報告された1).卵巣がんⅡ〜Ⅳ期症例におけるdose denseパクリタキセル(PTX)/カルボプラチン(CBDCA)(ddTC)療法のtri-weekly TC療法に対する優越性が検証された第Ⅲ相試験である.さらに,2011年New Engl J medicineにてGOG0218試験およびICON7試験結果が報告され2, 3),進行卵巣がんにおけるtri-weekly TC療法へのベバシズマブ(BEV)の上乗せ効果が実証された.本邦では進行再発卵巣がんに対するBEVの使用が2013年11月より認可されている.

 今後の治療選択としてddTC療法にBEVを併用したddTC+BEV療法というレジメンも必然的に候補として挙がってくる.しかしddTC療法に対するBEVの上乗せ効果についての検証はいまだなされていない.本稿では,まずddTC+BEV療法に関する臨床試験結果を紹介し,さらにddTC療法に対するBEVの上乗せ効果について考察する.

連載 Estrogen Series・167

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Chettyらによる研究

 収入と寿命との関連は今までにも証明されてきた.しかしそれをどのように理解するか,に関しては,あまり深化はなされてはいない.

 Chettyらはその関連の程度,時間的傾向,地理的変化,などを調査した1)

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早発陣痛管理

 早産は新生児死亡の主因で分娩前入院の最多理由である.米国では,全生児分娩の約12%が早産である.そして,早発陣痛がこれらの全早産の約50%で先行した.早発陣痛の原因は十分に判明していないが,早産の負担は明らかで,子供の長期間神経学的障害の25〜50%,同様に新生児死亡の約70%,乳児死亡の約36%は早産が原因である.しかし,早産となる過程は不正確である.

 米国産婦人科学会は早発陣痛を管理するために提案されている各方法を示し,臨床医療におけるこれらの方法の役割に対する科学的根拠を検討した.今回は,その中から,主に薬物療法を取り上げた.

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▶要約

 子宮筋腫合併妊娠では妊娠中に早産,胎盤位置異常などの合併症の頻度が増えるだけではなく,産褥期に子宮筋腫の変性や感染などを引き起こすことがある.今回,産褥78日目に変性した筋層内筋腫が粘膜下に突出し,筋腫分娩となった症例を経験したので報告する.

 症例は28歳,未経妊.子宮筋腫合併妊娠のため妊娠11週に当科に紹介された.超音波検査で子宮前壁に85×79×73mmの筋層内筋腫を認めた.妊娠経過は問題なく,妊娠41週に3,112gの女児を吸引分娩した.産褥55日目より性器出血と下腹部痛が出現した.発熱の持続とWBCの上昇を認め産褥70日目に抗菌薬を開始したが,症状は改善しなかった.産褥78日目に突然腹痛が軽減し,腟鏡診で腟内に脱出した筋腫を認め,翌日手拳大の筋腫が腟外に自然脱落した.

 本症例は分娩後の子宮血流の変化により筋層内筋腫が変性を起こし,子宮サイズの縮小により粘膜下に押し出され,子宮内感染を契機として筋腫分娩に至ったと推察された.

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基本情報

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臨床婦人科産科
72巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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