臨床婦人科産科 71巻12号 (2017年12月)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

母体保護法運用の留意点

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●人工妊娠中絶は,母体保護法に規定されており,同法に則り適正に行われる限り刑法の堕胎罪に抵触することはない.

●人工妊娠中絶の重大性に鑑み,母体保護法により指定医師制度が採られている.都道府県医師会が指定する指定医師のみが,人工妊娠中絶を実施できる.単に医師の資格だけでは母体保護法による人工妊娠中絶を行うことはできない.

●母体保護法での適法な人工妊娠中絶は,①都道府県医師会が指定する医師(指定医師)が,②胎児が母体外において生命を保続できない時期(現在は妊娠22週未満)に,③適応条項に合致するかを判断し,④本人および配偶者の同意を得て,⑤人工的に胎児およびその付属物を母体外に排出する手技で行った場合に成立する.

不妊手術・減数手術 落合 和彦
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●不妊手術は母体保護法指定医でなくても施術することができるが,同意書を取得し,実施報告を行う必要がある.

●多胎妊娠に対する減数手術は,厳密には現行の母体保護法の適用を受けない.

●母体保護のための緊急避難処置として実施される場合もあるが,施術にあたっては慎重な配慮が求められている.

●減数手術については今後,各領域での議論が広まることが求められている.

産科訴訟の周辺─産科医療補償制度とガイドライン

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●医療事故調査制度が2015年から(前身のモデル事業は2006年から),産科医療補償制度が2009年から開始され,紛争訴訟は減少した.

●紛争訴訟が減少した要因として,原因分析と再発防止への取り組みができるようになり,医療事故の収集,事故を医療提供者と受給者が共有できるようになったこと,インフォームド・コンセントが実施されるようになったこと,そしてガイドラインなどが遵守されるようになったこと,などが考えられる.

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●産科医療補償制度も産科ガイドラインも一次施設の立場を尊重した制度設計となっている.

●産科医療補償制度の開始以降に産科医療訴訟は減少している.

●産科医療補償制度原因分析報告書によれば,産科診療所における脳性麻痺児発生頻度は高次施設に比べて遜色ないことが明らかになっている.

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●わが国では,法律上の母子関係は「分娩行為」を基準として決定される.それゆえ,凍結保存された配偶子や胚を用いることができるのは,子を懐胎し出産することが可能な女性に限られる.

●日本産科婦人科学会の「会告」の内容には,次のような問題がある.

①凍結保存された配偶子や胚を用いることができる者に関し,「夫婦」に限定せず,配偶者をもたない女性を含めるべきである.

②子の出産のために用いられる卵子や胚に関し,子を懐胎し出産する女性に由来するものに限定せず,他人由来の卵子や胚を含めるべきである.

③提供精子を用いた人工授精(AID)を行うことを認める以上,法律上の父子関係を「遺伝的なつながり」から切り離す法制度が必要であるうえ,併せて実施した医師を保護するうえで十分な手当てを行うべきである.

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●配偶子提供を利用した生殖医療は同性愛者や性同一性障害者を含めたさまざまな多様化する家族の在り方に適応しているが,それを利用した親,その治療で生まれた人,配偶子提供者という複雑な関係性を生じ,既存の親子を定義する法律では家族の親子関係を保証するには法律的に不十分である.

●配偶子提供で生まれた人は配偶子提供者の匿名性や治療について親から告知されないことより出自を知る権利が損害され,それが問題提起されて20年近く経つが未解決のままである.

●将来,日本においてこうした問題を改善するためには,新しい親子の定義と,配偶子提供で生まれた人の出自を知る権利を法律で保障することが必要と考える.

代理懐胎 久具 宏司
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●現在の日本では,代理懐胎を含む第三者がかかわる生殖医療に関して法のない状況であるが,日本産科婦人科学会は会員への見解として,代理懐胎の施行を禁止している.

●1962年および2007年の最高裁の判例により,母子関係の確定は,子を懐胎し出産した女性を母とするよう運用されており,海外で行われた代理懐胎についても準用される.その後に子と依頼夫婦との間に特別養子縁組を結ぶことは容認されている.

●2007年の最高裁判決で,代理懐胎とその結果生じる親子関係について法による速やかな対応が望まれ,2008年の学術会議対外報告で代理懐胎の法による原則禁止と試行的実施の考慮が提言されているものの,議論は進んでいない.

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●医療訴訟の手続は,提訴,争点整理手続,人証調べ手続,ときに鑑定手続を経て,判決言渡しに至るが,審理の途中で和解成立により終了することもある.

●鑑定の方法には,単独書面鑑定,複数書面鑑定,カンファレンス鑑定など,各裁判所によりさまざまな方式がある.

●医療紛争においては,近年は,中立的第三者を介した話し合いによる裁判外紛争解決制度である「医療ADR」も利用されている.

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●医療事故や紛争・訴訟を防止するためには,診療経過が過不足なく記載されており,診療経過の再現力を持つ記録を作成することが重要である.また,その記録は,誤記がなく,作成者以外の人にも判読可能なものであることが重要である.

●医療事故民事訴訟の消滅時効等との関係からすれば,保存義務期間にかかわらず,診療記録をできるだけ長く保存しておくことが望ましい.

●診療記録を改ざんした場合,その者に民事責任,刑事責任,行政上の責任が生じる可能性がある.もっとも,追記と改ざんは異なり,追記は問題がない.

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●薬剤の「規定外使用」は,添付文書上の禁忌患者への投与,用法・用量違反,適応外使用等が典型的な類型として挙げられ,医師の裁量権の行使との関係が問題となる.

●平成8年最高裁判決は,医師が添付文書記載の使用上の注意事項に従わないことについて,「特段の合理的理由」が主張立証できない限り,医師の過失が推定されることを示した.

●平成8年最高裁判決は,その後の下級審裁判例において,禁忌患者への薬剤投与や用量違反が問題となった事例で援用される一方,適応外使用が問題となる事例では適用されておらず,その違いには意味があるものと考えられる.

医療における刑事訴追 後藤 貞人
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●医療刑事事件は,2008年に相ついだ無罪判決により著しく減少したが,医療事故が刑事事件の対象になることはこれからも続く.

●刑法211条の業務上過失致死傷罪の捜査は,予見義務違反,結果回避義務違反および因果関係の存在を合理的な疑いを超えて証明することに向けてなされる.

●医師法21条は,医師が死体の外表に異状を認めた場合の規定であり,医療事故を警察署へ届出る義務はない.

●捜査が始まると,取調べへの対応には弁護人の助言が必要である.

●検察官の最終処分には,起訴,不起訴の別があり,起訴には略式請求と公判請求がある.略式手続は被告人にとって負担が軽いが,この手続によらず正式裁判を請求して無罪となった事例がある.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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症例

▶患者

 65歳,2経妊2経産,身長155.0cm,体重39.0kg.

▶主訴

 不正性器出血.

▶既往歴

 特記すべきことなし.

▶現病歴

 不正性器出血を主訴に近医産婦人科を受診し,腟鏡診にて子宮頸がんの疑いで前医に紹介となった.前医では,内診にて右側子宮傍組織浸潤を認め,病理検査にて子宮腟部細胞診 : SCC,組織診 : squamous cell carcinomaを得て,子宮頸部扁平上皮癌(臨床進行期分類ⅡB)と診断された.血中腫瘍マーカー(SCC)値は2.4ng/mLであった.治療方法を決めるに当たって施行したMRI検査にて腫瘍径は43mmで膀胱壁浸潤が疑われ(図1),FDG-PET/CTにて右外腸骨リンパ節への転移を認めたため(図2),同時化学放射線療法(CCRT)目的に当院を紹介受診となった.

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 単胎妊娠で自然早産歴がない妊婦,特に未産婦における全例経腟超音波による頸管長スクリーニング(TVU CL)の有用性への疑問を報告する最近の研究がある.

連載 Estrogen Series・166

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 今回はエストロゲンのテーマからは外れるが,ハワイでの糖質と蛋白質摂取の現状について報告する.

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基本情報

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臨床婦人科産科
71巻12号 (2017年12月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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