臨床外科 74巻7号 (2019年7月)

特集 徹底解説! 噴門側胃切除術

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 食道胃接合部癌の増加に伴い,噴門側胃切除(proximal gastrectomy:以下PG)が考慮される機会が多くなった.胃癌治療ガイドラインでも,径4 cmまでの食道胃接合部腺癌に対しては,胃下部リンパ節郭清(全摘)は必要ないとされている.一方,PG後の逆流性食道炎などに悩まされる症例もあり,PG施行を躊躇する外科医もまだ多いと考える.2010年手術症例の胃癌学会全国登録では,PGの割合は4%であった.最近では,さまざまな逆流を防止する工夫も報告されており,また全摘と比較した栄養評価の報告も数多い.しかしながら,いまだ標準化された手法はなく,施設間,外科医間の違いも大きいと考える.

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【ポイント】

◆噴門側胃切除は胃癌手術史のなかでも困難な歴史を辿ってきており,いまだ普及しているとは言い難い.

◆栄養学的指標やQOLは胃全摘術後より良好であるが,逆流性食道炎の発生が問題である.

◆逆流防止が容易に施行できれば頻度はより高まるものと考えられ,胃癌手術として熟知すべき術式である.

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年7月末まで)。

私の手技:リンパ節郭清

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【ポイント】

◆下縦隔に入る前に左横隔膜脚に沿った腹膜切開からのNo. 2郭清を先行し左右横隔膜脚を露出しておく.

◆心臓下包が良い解剖学的指標となるため右側から下縦隔に入るようにする.

◆下縦隔郭清後に,外側を構成する両側胸膜,心囊,大動脈が露出される形となることをイメージする.

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【ポイント】

◆下縦隔郭清のランドマークは横隔膜,胸腹部大動脈,心囊,胸膜であり食道周囲からくり抜くように郭清する.

◆横隔膜腱中心を切開して縦隔を開放し,食道および周囲の迷走神経にかけたテープを牽引して視野を展開する.

◆郭清手順は食道を中心にして背側,左側,右側,腹側の順に行いリンパ節を含んだ脂肪織を一塊として摘出する.

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【ポイント】

◆腹腔鏡下の下縦隔郭清では,周囲の重要臓器との間の層をしっかり認識して郭清することが重要である.

◆比較的層の認識が容易な腹側,背側を先行し,続いて胸膜周囲の剝離を要する左側,右側を行っている.

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【ポイント】

◆良好な術野確保のために,肝外側区域の脱転や横隔膜腱中心の切開を行う.

◆心囊,大動脈,左右壁側胸膜を郭清のメルクマールとする.

◆心囊背側,大動脈前面の剝離を行ってからNo. 110を郭清する.

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【ポイント】

◆脱着式組み立て波型鉗子を用いることで開腹手術と同様の手順で食道空腸吻合を行うことができる.

◆アンビルヘッドを挿入した際に補強で用いたENDLOOPを,ECS本体と接続する際に接続の補助として使用する.

◆吻合部がsimple staplingになるため,吻合部の血流障害をきたしにくく縫合不全のリスクを減らせる.

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【ポイント】

◆胃穹窿部大彎を残すことにより,グレリンの分泌領域を多く残すことができる.

◆切離した残胃の大彎側を食道裂孔に嵌入・固定することにより,腹部食道および擬似的な穹窿部およびHis角ができることで,食道への逆流を予防する.

◆手縫い吻合ではあるが,手技は比較的容易である.

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【ポイント】

◆噴門側胃切除後の消化管再建で最も注意すべき点は術後の逆流性食道炎の予防である.

◆観音開き法再建(上川法,英語表記double-flap technique)は食道を胃壁に埋め込むことで逆流防止に効果的な一方弁を形成する.

◆逆流防止には埋め込む食道の長さを十分にとること,狭窄予防には吻合操作やフラップ縫着時にきつく締めすぎないことが重要である.

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【ポイント】

◆食道胃接合部がんに対する経裂孔的下縦隔内再建は難易度が高いため,

  ・下縦隔術野確保法

  ・安全かつ簡便な吻合法

  ・縦隔内は陰圧であるため,強力な逆流防止機能をもつ吻合法

 の確立が重要である.

◆上川原法は,すべて手縫いであり,経裂孔的腹腔鏡下では手技が煩雑で困難である.

◆Tri double-flap hybrid method(新三角吻合による食道残胃吻合+手縫いフラップ作成)が有用である.

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【ポイント】

◆胸腔内吻合となるので,左横隔膜と左胸膜を切離して吻合のための広いスペースを作る.

◆食道を残胃の中央で約5cmオーバーラップさせる.

◆食道右側壁と残胃前壁をリニアステイプラーで吻合する.

◆食道右側壁で吻合した後,食道左側壁を残胃に貼り付けるように胃壁と縫合固定する.

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【ポイント】

◆食道を高位で切離する症例においても適応可能であり汎用性が高い.

◆逆流防止の緩衝帯となる間置空腸の長さは全体的バランスをみながら約10〜12cmとする.

◆残胃経路の食物流出を促すため後結腸経路で空腸脚を挙上し残胃は結腸間膜に固定する.

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【ポイント】

◆吊り上げた空腸の背側に残胃が配置され,食道から約10 cmの空腸に空腸残胃吻合が作成される.残胃小彎よりの前壁と空腸を自動縫合器で側側吻合する.

◆残胃内に食物が流入するには大彎側の拡張能が保持されることが重要である.

◆逆流防止では,残胃大彎側口側端がPseudo-Fornixとなるように作成する.

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【ポイント】

◆機能温存手術としての噴門側胃切除術では,残胃の温存・幽門輪の温存・迷走神経の温存を心がける.

◆腹腔鏡下食道空腸吻合では,circular staplerによる吻合であっても,吻合する空腸の緊張を取ることによって吻合部狭窄の発生を回避しうる.

◆噴門側胃切除術後空腸間置法では,術後体重の減少が少ない傾向にある.

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はじめに

 近年,がん治療においてマイクロサテライト不安定性症例(microsatellite instability high:MSI-H)またはDNAミスマッチ修復機能欠損(mismatch repair deficiency:dMMR)症例に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性が多数報告されている.米国食品医薬品局(FDA)は,ペムブロリズマブの5つの臨床試験〔KEYNOTE-016試験,KEYNOTE-164試験(コホートA),KEYNOTE-012試験,KEYNOTE-028試験,KEYNOTE-158試験〕のうち,がん化学療法後に増悪した進行・再発のdMMR固形がん患者149名の統合解析結果をもって,2017年5月23日に大腸がんを含む標準治療抵抗性もしくは標準治療のないdMMR固形がんに対してペムブロリズマブを承認した.本邦では,アップデートされたKEYNOTE-164試験(コホートA),KEYNOTE-158試験の結果が用いられ,2018年12月21日に承認された.臓器横断的に承認された国内初の薬剤である.本稿では,消化器がんを中心に,MSI statusとそれに基づく治療戦略開発の現状および,今後の方向性について概説する.

Reduced Port Surgery—制限克服のための達人からの提言・19

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はじめに

 経皮的内視鏡下胃内手術(以下,胃内手術)とは経皮的に胃内に内視鏡と手術器具を挿入し,胃内腔にて腫瘍を切除する,臓器温存性の高い術式である1〜3).われわれは従来,3本の5〜10 mmのポートを胃内に挿入する胃内手術を施行してきたが,2011年よりさらなる低侵襲化をめざし,reduced port surgeryを導入した.まずマルチチャンネルポートを用いた単孔式胃内手術を開始し,さらに2 mm細径器具を用いた針孔式胃内手術を開始し,積極的に施行してきたのでそれぞれの術式を紹介する4〜6)(図1).

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要旨

症例は86歳,男性.他院入院中に右大腿静脈より中心静脈カテーテルが挿入された.挿入後17日目に発熱と右側腹部の発赤,腫脹を認め,壊死性筋膜炎の診断で当院へ紹介された.精査の結果,中心静脈カテーテルの下腹壁静脈迷入に起因した腹直筋膿瘍と診断し,緊急手術を施行した.壊死した腹直筋を除去し,カテーテルを抜去した.創部より排膿が遷延したため,手術より1週間後に残存壊死組織およびカテーテルの瘻孔切除を行った.大腿静脈穿刺による中心静脈カテーテルの下腹壁静脈への迷入により腹直筋壊死をきたした稀な1例を経験した.中心静脈カテーテル留置の際は,カテーテル逸脱の可能性を常に念頭に置いておくことが重要である.

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要旨

患者は75歳,女性.黒色便の精査で施行された上部消化管内視鏡で上十二指腸角に粘膜下腫瘍を認め,切開生検でgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)と診断された.CTで腫瘍は3 cm大で転移所見を認めなかった.以上より腹腔鏡下十二指腸部分切除術を施行した.腫瘍は管外発育型で前壁に位置し,lesion lifting法で切除した.病理結果はlow risk GISTであった.術後合併症なく第6病日に退院となった.十二指腸GISTに対する腹腔鏡下手術は腫瘍の局在と大きさ,そして治療チームの腹腔鏡下手術習熟度によっては,安全で考慮しうる術式と考えられた.

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要旨

副脾の頻度は少なくないが臨床上問題となることは稀である.われわれは術前に副脾梗塞と診断し腹腔鏡下に切除し得た症例を経験したため報告する.症例は25歳男性で軽快と増悪を繰り返す左上腹部痛を主訴に受診した.造影CTで脾臓近傍に造影されない3個の結節を認めた.副脾梗塞と診断し緊急手術を行った.術中所見では大網内に血行不良となった腫瘤を認め腹腔鏡下摘出を行った.病理検査で脾臓と同様の構造をもち副脾と診断した.術後経過は良好であった.従来副脾の術前診断は困難であったが近年は造影CTで診断できるようにもなってきており,症状のある副脾は手術治療の適応である.若年者の急性腹症の鑑別診断に副脾梗塞も挙げられる.腹腔鏡手術は有用な治療手段である.

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要旨

症例は66歳,男性.バイクの運転中に転倒して受傷したが,左大腿骨遠位開放骨折および膝窩動静脈損傷が疑われ,当院へ搬送となった.創外固定の後,膝窩静脈を使用して膝窩動脈の再建,および減張切開を行った.術後CKは19,850 IU/Lまで上昇するも腎機能の増悪なく経過した.膝窩動静脈損傷に対して血行再建を行う際に,適切なグラフトがなければ,膝窩静脈は候補の1つとなるだろう.

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 私たちの病院は,厳島神社で有名な「安芸の宮島」の対岸,廿日市市地御前にあります.西病棟の屋上からは穏やかな瀬戸内海が一望できます.春は護岸沿いの桜並木を楽しみ,夏には宮島の花火大会も観覧できます.ちなみに病院の正式名称は「広島県厚生農業協同組合連合会 廣島総合病院」ですが,住民の皆さんや職員にも親しみやすい通称の「JA広島総合病院」を使っています.

ひとやすみ・178

手術中における尿意 中川 国利
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 尿意を感じればトイレに行くのが自然であり,我慢にも限界がある.では長時間に及ぶ手術中にトイレに行きたくなったら,外科医はどうしているのだろうか.

 かつての名物外科教授の中には,手術中に尿意を催し,「婦長,尿瓶」と宣った強者がいたそうだ.そして手慣れた婦長は「失礼します」と語って教授の排尿を手伝い,教授は手を休めることなく手術を続け,「ご苦労様」と語ったと伝えられている.

1200字通信・132

平成から令和へ 板野 聡
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 ご存じのように,今年の4月30日に天皇がご退位され,5月1日には新しい天皇がご即位されました.これに合わせて元号も平成から令和に替わりましたが,随分前から予定されていたこととはいえ,国民の一人として,大きな「時代の転換期」に立ち会うことができた僥倖に心から喜んでいます.

 何より前天皇のお言葉に触れた時,やはり日本人としてのDNAが共鳴するのを感じざるを得ませんでした.そして,「象徴」としての役割を懸命に果たされたお姿を思い出しながら,敬意を表するとともに感謝の気持ちが湧いてくるのを禁じ得ませんでした.5月1日には,新天皇も前天皇のありようを踏襲しつつ,新しい天皇の在り方を模索していかれようとするお言葉があり,併せて雅子妃殿下の明るい表情にも安堵したのは,私だけではなかったのではないでしょうか.さらに,5月4日の一般参賀では14万人という記録的な参賀者があったそうですが,新しい天皇陛下への国民の期待の表れと感じています.

昨日の患者

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 人生においては,あの時こうしていれば良かったと,後に悔やむことがあるものである.妻との最期の別れのとき,願いを無視したことを悔やむご主人を紹介する.

 Hさんは60歳代後半の乳癌患者で,7年ほど前から再発を繰り返し,全身の骨転移や多発性肺転移で入院した.ご主人は毎日のように訪れ,付き添っては夫婦の会話を楽しんだ.ところがある日,ご主人が帰った1時間後,Hさんの状態は急変して永久の世界に旅立った.

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 「真を写す」と書いて「写真」というが,こと手術書においては写真による手術書はむしろわかりにくいことが多い.一方イラストによる手術書は,余分な情報を削ぎ落とし本当に読者に伝えたいことが線画として表現され,実にわかりやすいが,過剰にデフォルメされたイラストでは正確性に欠ける.『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,「右ページの美しく忠実な線画と左ページの詳しい解説」を特徴とする,まさに理想の手術書であり,世界中の外科医のバイブルともいえる書籍である.このたび,その原書第10版が安達洋祐氏の手により訳され,日本語版としてわれわれの手元に届くこととなった.

 本書は前版の原書第9版(日本語版初版)からカラー化され,さらに今回の第10版(日本語版第2版)はコンピューター・グラフィックスによる高解像度カラーで描かれており,もはや芸術的作品ともいえる出来映えである.さらにこの日本語版の素晴らしいところは,日本の医学を知り尽くした安達氏により,日本の実情に合わせた「訳注」が300カ所以上も追記されている点である.これはもはや訳書という範疇を超え,日本の外科医のために新たに書き下ろされた最新版と言っても過言ではない.

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目次

学会告知板 第46回日本膵切研究会

原稿募集 「臨床外科」交見室

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 瀬戸 泰之
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 2019年5月1日元号が令和に代わりました.平成の時代に感謝するとともに,気持ちもあらたに新時代を迎えたいと思います.

 ただ,われわれを取り巻く環境においては,平成からの課題がまだ山積み状態となっており,今後が懸念されます.例えば,新専門医制度です.基本領域が始まり,サブスペシャルティ領域も本来であれば4月から開始するはずでしたが,直前になってストップがかかり保留状態となっています.外科系サブスペシャルティを担う学会は,すでに新専門医制度に向けての準備を整えており粛々と進めることになりますが,やはりその扱いがどうなるか心配です.

基本情報

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臨床外科
74巻7号 (2019年7月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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