臨床外科 65巻12号 (2010年11月)

特集 新しいエネルギーデバイスの構造と使い方のコツ

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従来から凝固・止血・切開に使用されている超音波凝固切開装置やvessel sealing systemに加えて,最近ではさらに新しいエネルギーデバイスを用いた凝固・止血・切開装置が市販されるようになっている.これらの手術器械は適切に使用すればきわめて有用であるが,その構造や特性を理解していないと,その有効性が発揮できず,思わぬトラブルを生じることもある.

本特集では各種の器械について,構造,特性,使い方のコツなどを述べていただくとともに,それらの器械を使った内視鏡下手術の実際について執筆いただいた.

〔器具の構造と使い方のコツ〕

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要旨:内視鏡下手術の出現が契機となり,従来の手術とは異なる特異な状況,すなわち腹腔内での結紮・切離が開腹手術とは比較にならないほど時間がかかってしまう状況で,超音波凝固切開装置やvessel sealing systemなど凝固切開の機器の開発,改良が進んだ.しかし,開腹手術であれ,内視鏡下手術であれ,剝離,切開,止血の基本手技ではいまだに電気メスが重要な役割を果たしている.本稿では,最近開発された新しいタイプの電気メスについて,その構造,特性,使い方のコツなどを概説する.

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要旨:電気メスは,高周波交流電流を発生させて高密度電流が組織を流れるときに発生する熱を利用し,凝固や切開を行う手術機器である.電気メスはモノポーラとバイポーラに分けられるが,バイポーラ器具は両先端部が電極となっており,挟んだ組織にのみ電流が流れて乾燥凝固する.このために凝固層が広がらず安全性が高い.バイポーラシザーズは,バイポーラの止血機能に剪刀の切開機能が付加された手術器具である.細血管を含む膜の切開や癒合筋膜の剝離,主要血管周囲のリンパ節郭清,特に神経温存郭清などの局面で有用である.両刃を大きく開いて組織を切離するのではなく,刃先で少しずつ剝離し,残った神経線維や細血管などを凝固したのちに切離するという繊細な操作が要求される.バイポーラシザーズの特徴と性能を正しく理解して使用することで,安全で精度の高い腹腔鏡下手術が可能となる.

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要旨:超音波凝固切開装置の基本構造,新製品を含めた各社デバイスの特徴,使用上のテクニックと注意点について述べた.超音波凝固切開装置は低温での蛋白凝固止血が特徴であり,周囲組織の損傷が軽微である.特に神経温存を伴うリンパ節郭清などに適しているが,外科手術の多くの場面で使用することが可能である.一方,キャビテーションによる周囲臓器の損傷には注意が必要であり,使用中のミスト発生などが欠点となっている.現在使用されている3社の製品はそれぞれ特徴があるため,その点を理解したうえで使用すべきである.

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要旨:EnSeal(ジョンソン・エンド・ジョンソン)はこれまでのバイポーラ鉗子では不可能であった外径3mmの細径を実現し,さらに,組織をしっかりと圧挫する能力を有する機構(I-blade)を原理的に確立した.その結果,バイポーラ鉗子が「単なる凝固止血の器具である時代」から,「高い凝固止血能を有しながら切開能を有する新時代」を開いたと言える.超音波凝固切開装置(Harmonic Scalpel,SonoSurgなど)と比較すると,ともに高い凝固止血と切開能力を有しているものの,EnSealは先端での組織の凝固止血が可能である点が最大の長所である.バイポーラ鉗子(EnSeal)を選択するか,超音波凝固切開装置(Harmonic Scalpelなど)をとるかはそれぞれの術者の好みであろう.筆者らはEnSealが商品化して以来,すべての手術に好んで使用している.

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要旨:バイクランプ(BiClamp:エルベ社)はVIO高周波装置によるサーモフュージョンによって組織を凝固止血するバイポーラ電気凝固止血装置である.その止血効果と安全性はそのほかのベッセルシーリングシステムと同等である.バイクランプの最大の特徴はリユーザブルであることであり,コストおよび医療廃棄物削減において有用である.また,ラチェット式ではないため,術者が触覚で組織の厚みを感じ,調整しながら止血をすることが可能であり,VIOシステムのアップグレードのみで新たなジェネレーターは必要としない.

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要旨:食道癌に対する胸腔鏡下食道切除術は,ひとたび気道系や大血管の損傷が生じたときには致命的となりかねないことなどが要因となり,いまだ広く普及した術式とは言えない.胸腔鏡下手術において精度の高い縦隔リンパ節郭清を偶発症なく施行するには,各エネルギーデバイスの特徴を理解して使用方法に習熟する必要がある.特に気道系,血管系,神経系(反回神経)に対する十分な配慮が必要であり,適切なエネルギーデバイスの選択や,基本に忠実な手術操作が重要である.

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要旨:内視鏡外科の進歩は新しいエネルギーデバイスの進化に支えられている.少ない出血でスピーディーに組織を処理できる道具の登場によって手術時間は劇的に短縮した.本稿では,超音波凝固切開装置,vessel sealing system,ソフト凝固など,われわれの施設で使用している新しいエネルギーデバイスの使用法や特徴を紹介する.これらの新しいエネルギーデバイスの特徴を知ることは,安全でスピーディーな腹腔鏡下胃切除を行ううえできわめて重要なことである.

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要旨:腹腔鏡下大腸癌手術は,術者と助手の協調による適切な術野展開と正しい剝離面の認識によって多くの場合,電気メスのみで出血なく剝離操作が可能である.しかし,腹腔鏡下手術では少量の出血でも剝離層が不明瞭となり手術進行の妨げになることから,出血のコントロールが重要である.必要に応じて超音波凝固切開装置,vessel sealing system,低電圧凝固(ソフト凝固モード)などの止血に有効なデバイスをうまく使い分けていく必要がある.本稿では,腹腔鏡下大腸癌手術における上記デバイスの使い方,および最近,有用性が認識されつつあるソフト凝固モードの原理や使用法などについて述べる.

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要旨:腹腔鏡下肝切除術は2010年度の保険収載に伴って広く普及しつつある.開腹手術での左手ナビゲーションの手術は高い止血効果を兼ね備えたエネルギーデバイスの登場によって安全に肝切除術を施行することが可能になり,限定的な視野である腹腔鏡下手術へと移行してきた背景がある.脈管に対する止血・凝固の基本的な考え方は,100℃程度の温度でコラーゲンを変性させることにある.生理食塩水を介した温度コントロール,出力機器による電圧と電流コントロール,超音波によるコントロール,ポリマー構造によるコントロールなどの工夫がなされてきた.本稿では代表的な各種のエネルギーデバイスの構造や特徴を紹介し,またkey phraseを付記して,われわれなりの使用法のコツを紹介する.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・21

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はじめに

 Marlex mesh(polypropylene mesh:PP mesh)は組織欠損部に対する補充材料として1959年にUsherによって開発された.当初は感染に対する懸念から鼠径ヘルニアに対しては再発症例や巨大ヘルニアなどの特殊な症例に対してのみに限定して使用されていた.1989年にLichtensteinがMarlex meshのonlay patchによるtension-free hernioplastyによって再発率0%という良成績を報告して以来,Lichtenstein法,Mesh plug法,PROLENE Hernia System(PHS)法,Kugel patch法,Direct Kugel patch法,腹腔鏡下手術など様々なPP meshデバイスによる修復術が標準手術として世界中で行われるようになった.

 筆者は,前立腺癌術後症例や若い女性を除くと,初発鼠径ヘルニアに対しては1998年からEthicon社から発売されている従来のPP meshからなる,PHS(主にEサイズを用いた修復術)を標準術式としてきた(図1).

 PHSはGilbertらによって開発され,Onlay patch,Connector,Underlay patchの3つの部分が一体型となったデバイスである.Onlay patchは横長の楕円形扁平メッシュであり,medial triangle(鼠径管後壁)とlateral triangle(内鼠径輪部とその外側の内腹斜筋のみによって覆われ,腹横筋の被覆が欠如する脆弱部位)をその周囲組織を含めて前方から補強する.ConnectorはOnlay patchとUnderlay patchを連結し,内鼠径輪あるいは内鼠径ヘルニア門(後壁開放部)に配置され,ヘルニア門自体を閉塞するとともにデバイスの位置の安定化をもたらす.Underlay patchは円形の扁平メッシュであり,parietalization of the cord components(内鼠径輪より背側の腹膜と精管・精巣動静脈を覆う腹膜前筋膜深葉との間の剝離:step1)と,鼠径管後壁および内鼠径輪頭側部で行われる腹膜前腔の剝離(step2)でつくられる2つの層の異なったスペースを連結した後方スペース(step3)に配置され,鼠径部ヘルニアが起こるすべての部位を含むmyopectineal orifice(MPO/medial triangle,lateral triangle,inferior triangle)を後方から被覆する(図2).

 筆者は2009年11月から,体内のPP遺残重量をPHSの50%に減少させた,PPとpolyglecaprone(Monocryl)をより合わせた(ハイブリッド)半吸収性lightweight large pore mesh(ULTRAPRO mesh:UP mesh)で作られた,ULTRAPRO Hernia System(UHS)を,また,適応によってはULTRAPRO Plug(UPP)と,付属するULTRAPRO Onlay meshを使用するようになった.本稿では,lightweight meshの開発の経緯とUHS,UPPに変更した根拠,手技の要点について解説する.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・5

腹腔鏡下胃バイパス術② 笠間 和典
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 元気ですか~っ!!

 これを書いているのはちょうどワールドカップで世界中が盛り上がっている時期ですので,皆さん,サムライ・ブルーの日本代表から元気をもらっているとは思いますが,読まれるときには「そういえば,そんなこともあったな~」という状態になっているでしょうね.それでも,日本-デンマーク戦(私はアメリカ肥満外科学会でラスベガスに行っていたので,会場であったAria Hotel and CasinoのSports Bookingの大画面で,当院の減量外科フェローの医師,韓国人外科医とともに興奮して観ていました)での本田,遠藤の芸術的なフリーキックには心が震えました.きっとずっと忘れることはないでしょう.やはり,完成された美しいものには心が震えます.

病院めぐり

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 当院は,日本で最も乗降者の多いJR新宿駅(西口)から徒歩5分の位置にある無床のクリニックです.私は乳癌学会認定専門医の資格を有しており,2006年に乳腺専門として開業しました.4年半が経過した現在,新規患者は約2万人を数えます.診療時間は平日は19時まで(水は休診),土・日曜も10~16時までと,働く女性に考慮した時間帯にしています.これは,病院勤務のとき,診療のために勤務時間を割かれ職を失う女性を多く見てきたためです.12~15時がシエスタタイムですが,貧乏性のため,セカンドオピニオン(3~4例/週)や小手術(1~2例/週)がここに入るので,なかなか休めません.検診の必要性がアピールされる割には,平日時間内しか受診できない施設が多い現状は,働く女性にとって問題だと思っています.

加藤乳腺クリニック 加藤 誠
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 当院は2003年12月に“total breast management”をコンセプトとして,琵琶湖の南に位置し湖南地域と呼ばれる人口約10万人の草津市に開業した.当時は乳腺の臓器名を診療所の名称に含むことが認められていなかったが,開業後半年してから地域住民から声が上がり,登記上の正式名称となっている.

 開業時は乳腺診療所の第1世代(勝手な命名)である浅石和昭先生(札幌ことに乳腺クリニック),児玉宏先生(乳腺クリニック児玉外科),伊藤末喜先生(伊藤外科乳腺クリニック),谷屋隆雄先生(ふたば乳腺クリニック)らの親身で感激的な薫陶を受けた.先生方の輝いているstatueが開業の決め手になった.今では認可されにくくなった有床診療所の形態で始まり,開業1年目は月に1例の手術件数といった状況であったが,上のグラフのように年々乳癌の手術件数は増加し,2009年の昨年は331例に及んでいる.

臨床外科交見室

研究会の楽しみ方 出口 浩之
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 今日もどこかで何らかの研究会が開かれているだろう.全国規模の学会の教育セミナーや地方会にはじまり地区の医師会関係のものまで,あるいはメーカー主導の研究会や,はては学内の研究発表会・同好の会合に近いようなものまで含むと,いったいいくつあるのだろう.専門医更新の単位に必要な学会出席とは違って当然,参加に何ら強制はなく,忙しい毎日のなかでは自分の興味のある分野・専門領域に関する研究会でも参加するのも年々億劫になってくる.学問的関心以外の何か動機付けがないと遠ざかってしまう.何か楽しみを見つけなければ,なかなか腰が動かないのが正直なところだ.そこで本稿では,ここ数年の私の研究会の楽しみ方を披露したい.

 研究会は土曜日の午後に,学会主催のセミナーなどは日曜日にあることが多い.同じような内容であれば近場は避けて,あえて少し遠くで開催される研究会に出席する予定を立てる.そして,1泊の予定で行くのである(もちろん出張費など出ない.ささやかな道楽でよいのだ).

臨床研究

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要旨:はじめに:当院(独立型日帰り手術センター)での成人鼠径ヘルニアに対するKugel法の治療成績を報告する.対象と方法:2003年4月から2009年12月までに811例(両側10例,初発801病変,再発20病変)にKugel法を施行した.男性730例,女性81例で,平均年齢は55.2歳であった.結果:ヘルニア分類は,間接鼠径ヘルニア669病変,直接鼠径ヘルニア120病変,大腿ヘルニア1病変,複合ヘルニア31病変であった.手術時間43分,術後在院時間4.5時間,日帰り帰宅率100%であった.術後合併症は,漿液腫55例,血腫3例,手術部位感染1例であった.術後平均観察期間は47か月で,神経痛や再発はなかった.おわりに:当院でのKugel法による日帰り手術の成績は良好である.

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要旨:2007年4月から2009年11月までに当院でヘルニア手術を受けた104例を対象として予防的抗菌薬投与の有無とsurgical site infection(SSI)の関連について検討した.抗菌薬投与群(A群)におけるSSI発生率は0%(0/43例),非投与群(B群)では1.6%(1/61例)で有意差は認められず,鼠径ヘルニア手術において予防的抗菌薬は必ずしも必要でないと考えられた.入院費用に関しては104例のうち入院期間が6日以内の87例(A群:36例,B群:51例)に対して検討を行い,両群間で有意差を認めなかった.これは入院費用に対する抗菌薬費用の割合が小さいため有意差を認めなかったと考えられた.

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要旨:開腹下の肝動注リザーバー挿入のカテーテル誘導経路については報告がない.本稿では,当科で使用しているカテーテルの体表への誘導経路を紹介する.カテーテルを胃十二指腸動脈から挿入し,膵頭部前面から小網背側に誘導する.腹部食道脇から小網を貫通し,食道前面を乗り越え,左横隔膜の腹膜下に挿入する.そこから左外尾側に誘導し,肋骨弓下約3cm尾側で腹壁を貫通し,皮下に達し,ポートと接続する.全身化学療法の進歩で肝動注療法が施行される頻度は減少したが,全身化学療法との併用によって良好な治療成績も報告されている.治療継続のためには,より安全で長期間使用することが可能な挿入方法と誘導経路が重要と考えられる.

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要旨:腹腔鏡下直腸癌手術では手技を定形化することでスムーズな術野展開が得られ,手術を円滑に施行することができる.しかし,直腸前壁の剝離に関しては術野展開の困難な場面に遭遇することがよくある.本稿では,前壁剝離の基本的な手技および術野展開の難しい症例に対して工夫している点を呈示する.子宮の垂れ込みによって術野展開が困難な女性では子宮マニュピュレーターを使用し,体外から子宮を展開する.また,術中に子宮に直針をかけて腹側に牽引することで視野が確保される.男性の場合は膀胱直腸窩近傍の腹膜に直針をかけて頭側・上方向に牽引することで鉗子による術野展開をサポートすることができる.

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要旨:患者は74歳,女性.臍周囲の激痛を主訴として当院に搬送された.来院時には腹痛はすでに消失しており,圧痛や腹壁緊張も認めず,血液検査上も特記すべき所見はなかった.しかし,CTで胃の拡張と,門脈本幹から肝内門脈内にガス貯留像を認めた.症状は軽快していたが入院とし,絶飲食・補液投与による保存的治療を行ったところ,翌日のCTでは異常ガス像は消失した.経口摂取の再開後も症状の増悪はなく,第6病日に退院となった.門脈ガス血症(portal venous gas:PVG)は腸管壊死に伴う予後不良徴候とされていたが,近年はいわゆる「PVG軽症例」の報告がなされている.非常に短期間の保存的治療で軽快し,CTで経時変化を観察することが可能であった貴重な症例と考えたので報告する.

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要旨:食道癌の脳転移は比較的稀であり,その治療成績は一般に不良である.今回われわれは,切除不能であるため全身化学療法を投与し,いったん完全寛解を得たものの,その後,多発脳転移をきたした進行食道癌の1例を経験した.多発脳転移に対して全脳放射線照射を行い奏効したので,文献的な考察を加えて報告する.患者は65歳,男性で,嚥下困難で受診した.精査で胸部中部食道に3型腫瘍を認め,生検の病理組織学的検査で扁平上皮癌と診断された.CTで多発リンパ節転移と多発肝転移を認めたため化学療法を施行し,いったんはこれらの転移病変の消失を認めた.その後,全身痙攣発作が出現し,緊急再入院した.脳MRIで多発性の脳転移が疑われたため全脳放射線照射を行い,脳転移巣の長径の総和の減少を認め,著効が得られた.その後,脳転移以外のほかの全身病変の急速な増悪をきたして再入院となった.現在,入院下に化学療法を行って経過観察中である.

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要旨:上部消化管造影後に生じた,器質的疾患を持たない結腸穿孔例を経験した.患者は80歳,女性.上部消化管も造影後2日目に急激な腹痛が出現し,腹膜刺激症状と腹部CT検査でバリウムの腸管外漏出を認めたため,緊急手術を施行した.バリウムを混じた多量の糞塊が存在し,下行結腸に約3cmの穿孔部を認めた.多量の生理食塩水で洗浄したのち,穿孔部を人工肛門として挙上した.残存するバリウムによると思われる炎症反応の遷延を認めたが,対症療法で軽快した.大腸内視鏡検査では明らかな異常は認めず,8か月後に人工肛門を閉鎖した.検査後の処置方法や腸管外に漏出したバリウムの対応などにつき,若干の文献的考察を加えて報告する.

ひとやすみ・66

学生時代との決別 中川 国利
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 私が勤める病院は仙台市内とはいえ,伊達政宗の居城であった青葉城の後背地に存在する.高台に立地するため,病室からは東に朝日が昇る太平洋を,そして西には夕日に映える蔵王連峰を望むことができる.この蔵王連峰を眺めると,懐かしい青春時代が思い出される.

 学生時代は弓道部に籍を置いていたが,ワンデリングクラブにも準会員として所属し,暇を見つけては近くの山々に登った.そして医学部6年生の10月に学生時代最後の思い出として蔵王連峰の縦走を思い立った.土曜日の授業を終え,教科書をロッカーに押し込み,代わりに用意していたリュックサックを背負った.そして仙山線に乗り込み,県境を越えた山形県側の面白山高原駅に降りた.唯一人,スキー場のリフトの下を歩き,そして全山が紅葉した面白山に登った.また,蔵王連峰の北側に位置する面白山から二口峠へと縦走した.日が暮れかけた頃にリュックサックを置き,簡易コンロで沸かした湯をカップラーメンに注いだ.缶詰の魚をおかずとし,キュウリを齧り,リンゴをデザートとした.そしてハイマツの陰でシュラフに潜り,満天の夜空を眺めた.空には無数の星が輝き,下界には町の光が見えた.

1200字通信・20

ビッグマウス 板野 聡
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 “big mouth”:大口を叩くこと.大言壮語.

 この原稿が掲載される頃には,今年開催されたワールドカップの余韻も醒めているのではないでしょうか.この原稿を書いている時点ではベスト4が出揃ったところですが,今なお日本が見事に予選を勝ち抜きトーナメント進出を決めたことが,ことあるごとに取り上げられています.特に,トーナメント進出の立役者となった本田圭佑選手が注目されていますが,私も彼に刺激されてこの原稿を書いています.

昨日の患者

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 永らく臨床医を務めていると,肉親にさえ話したことがない患者さんの秘め事を聴く機会がある.死を自覚した患者さんが主治医である私に,心の奥底にしまいこんだ秘め事を語ってくれた.

 3年前に大腸癌で手術をした60歳代前半のOさんが多発性肝転移や癌性腹膜炎をきたして再入院した.食欲不振のため補液を行い,癌性疼痛に対してはモルヒネを使用した.Oさんには子供が2人あり,そして孫も3人いた.家族は交代で付き添い,病室はにぎやかで笑い声さえ生じていた.ある日,床に伏して一人で読書に耽るOさんがいた.読んでいる本は,未熟児で生まれ,不幸にも生後数か月で亡くなった子供への思いを綴った母親の手記であった.いつも子供や孫らに囲まれ,明るく振舞っているOさんがなぜこのような本を読んでいるか,理解できなった.そこで,「どうしてこのような本を読んでいるのですか」と質問をした.

勤務医コラム・18

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 世は龍馬ブーム.もともと日本史オタクであった私は幕末が特に好きで,山川出版社の教科書を片手にNHK大河ドラマにクギ付け.高校生の娘から,「mani(マニ)くてキモイ」などと言われるが,好きなものは好きだから仕方ない.

 本は色々と読んだが,司馬遼太郎の「世に棲む日日」の高杉晋作に魅せられた.そう,長州の,奇兵隊の,高杉さんです.今年7月の下関での消化器外科学会では,お勉強もそこそこに功山寺と東(とう)行(ぎょう)庵(あん)に詣でた.功山寺は維新回天へ向けた高杉挙兵の地で,東行庵は高杉の墓であり,ファンにとってはこたえられぬ聖地です.辞世の句がまたよいのです.

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 私はがん専門病院に相談職として勤務していたが,日々の業務の中で,膵臓癌の患者さんやその家族から鬱積した思いをうかがうことは少なくなかった.その多くは怒りであり,私自身に対して向けられたものではなく,「膵癌はなかなか早期に発見できないとは理解できたが,あんなに調子が悪いと訴えていたのに」(診断の困難性),「膵癌=難治性であるという以外に情報が少な過ぎる.ほかの癌はいっぱいあるのに」(情報の欠如),「治療の難しい局面で生活のこと(お金,仕事,家族)もたくさん決めていかなければならない」(心理社会的課題)という膵癌患者さんの置かれている状況が根底にあってのことと思われる.

 本書は,そのような膵癌患者さんや家族をサポートするための大きな指針となるであろう.研修医およびこれから膵癌を専門としようとする若手医師向けに書かれたものだが,医師にとってはもちろんのこと,癌を専門とする看護師,薬剤師,また膵癌の患者さんやご家族の相談にのる立場の者にとっても非常に役に立つ.それは単なるテキストではなく具体的な記述が多数盛り込まれ,最新のトピックスを取り上げるなど,膵癌治療を正しく理解するためにさまざまな工夫がなされているからである.例えば腫瘍マーカーの特徴や術前のICのポイント,化学療法に伴う副作用とその対策などは,大変わかりやすく解説されている.

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 腹腔鏡下胃切除術が平成14年に保険収載されて以来,症例数は年々増加傾向にある.先日実施された日本胃癌学会のガイドラインに関するコンセンサスミーティングのアンケートでは,胃癌手術を実施している施設の実に90%以上が腹腔鏡下胃切除術を既に実施しているか,近い将来に導入予定であるという結果であった.現在わが国で年間10,000例以上が腹腔鏡下胃切除術を受けていると推定されている.また,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では腹腔鏡下胃切除術の安全性を検証する臨床第Ⅱ相試験を実施し,安全性に問題がないことが確認されたため臨床第Ⅲ相試験に移行している.このように腹腔鏡下胃切除術は実地臨床としても臨床試験としても急速な発展を遂げている.しかし,実際に腹腔鏡下手術で多数の症例をこなしている施設はまだ少なく,多くの施設ではいまだ本格的な導入には至っていない.

 その大きな理由としては,上腹部の解剖の複雑性に起因する手技の繁雑さや,切除後の再建術式の多様性などにより,腹腔鏡下胃切除術では比較的高度な手術手技が必要とされることが挙げられる.腹腔鏡下胃切除を円滑に導入するためには,上腹部の解剖を熟知することと同時に,腹腔鏡下手術ならではのポイント,すなわちスコープを通して得られる術野の見え方,助手の効果的な術野の見せ方などについて習熟する必要がある.これまで,いくつかの腹腔鏡下胃切除術に関する手術書が存在したが,実際の術野の見え方や見せ方について記述したものはほとんど存在しない.これは学会のビデオなどを見ていても同様であり,実際に腹腔鏡下胃切除を導入しようとする際に大きな壁に突き当たることが多い.

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 本書が第8版と伺って驚くとともに著者堀尾重治氏の不断の努力と研鑽に敬服するばかりである.医用画像機器の進歩発展は著しく,その撮影法や読影法は刻々変化している.その中で,このような書を長く世に送り出すためには並々ならぬ力量が必要であることは言うまでもない.

 本書を見てまず目に付くのは図が大変明瞭でわかりやすいことである.部位ごとに解剖図,撮影法,画像があり,それらの部位で考えられる疾患の画像として単純X線像が,必要であればCT像,MR像が繊細なタッチで描画されている.解剖図も画像も,すべての図が著者の手によって描かれているのが本書の大きな特徴であり,病態のとらえかたが初心者にも理解しやすい.また随所に参考・noteというコラムや表があり,症状の解説や読影のポイントなどが記述されている.

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あとがき 渡邉 聡明
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 “leave for work”と“leave work”の意味の違いは? “go to work” の“work”は動詞か名詞か? また,“get to work”の“work”は動詞か名詞か?……「わかっているようで,わかっていないこと」でインターネットを検索すると,このような英語表現の話が出てきます.実際,最初の“leave for work”は「仕事に出かける」,つまり「出勤する」という意味ですが,“leave work”は「退社する」,すなわち,まったく逆の意味になります.つぎに,“go to work”の“work”は名詞で,「職場」の意味です.したがって,“go to work”は「仕事(職場)に行く」という意味で,get to workは「職場に着く」という意味になります.つまり,“go to work”も“get to work”もworkは名詞として使われていることになります.意外と“work”はto不定詞の動詞として用いられていると思われていることが多いようです.

基本情報

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臨床外科
65巻12号 (2010年11月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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