- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
Marlex mesh(polypropylene mesh:PP mesh)は組織欠損部に対する補充材料として1959年にUsherによって開発された.当初は感染に対する懸念から鼠径ヘルニアに対しては再発症例や巨大ヘルニアなどの特殊な症例に対してのみに限定して使用されていた.1989年にLichtensteinがMarlex meshのonlay patchによるtension-free hernioplastyによって再発率0%という良成績を報告して以来,Lichtenstein法,Mesh plug法,PROLENE Hernia System(PHS)法,Kugel patch法,Direct Kugel patch法,腹腔鏡下手術など様々なPP meshデバイスによる修復術が標準手術として世界中で行われるようになった.
筆者は,前立腺癌術後症例や若い女性を除くと,初発鼠径ヘルニアに対しては1998年からEthicon社から発売されている従来のPP meshからなる,PHS(主にEサイズを用いた修復術)を標準術式としてきた(図1).
PHSはGilbertらによって開発され,Onlay patch,Connector,Underlay patchの3つの部分が一体型となったデバイスである.Onlay patchは横長の楕円形扁平メッシュであり,medial triangle(鼠径管後壁)とlateral triangle(内鼠径輪部とその外側の内腹斜筋のみによって覆われ,腹横筋の被覆が欠如する脆弱部位)をその周囲組織を含めて前方から補強する.ConnectorはOnlay patchとUnderlay patchを連結し,内鼠径輪あるいは内鼠径ヘルニア門(後壁開放部)に配置され,ヘルニア門自体を閉塞するとともにデバイスの位置の安定化をもたらす.Underlay patchは円形の扁平メッシュであり,parietalization of the cord components(内鼠径輪より背側の腹膜と精管・精巣動静脈を覆う腹膜前筋膜深葉との間の剝離:step1)と,鼠径管後壁および内鼠径輪頭側部で行われる腹膜前腔の剝離(step2)でつくられる2つの層の異なったスペースを連結した後方スペース(step3)に配置され,鼠径部ヘルニアが起こるすべての部位を含むmyopectineal orifice(MPO/medial triangle,lateral triangle,inferior triangle)を後方から被覆する(図2).
筆者は2009年11月から,体内のPP遺残重量をPHSの50%に減少させた,PPとpolyglecaprone(Monocryl)をより合わせた(ハイブリッド)半吸収性lightweight large pore mesh(ULTRAPRO mesh:UP mesh)で作られた,ULTRAPRO Hernia System(UHS)を,また,適応によってはULTRAPRO Plug(UPP)と,付属するULTRAPRO Onlay meshを使用するようになった.本稿では,lightweight meshの開発の経緯とUHS,UPPに変更した根拠,手技の要点について解説する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.