昨日の患者
心の奥底にしまいこんだ秘め事
中川 国利
1
1仙台赤十字病院外科
pp.1575
発行日 2010年11月20日
Published Date 2010/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407103329
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- 文献概要
永らく臨床医を務めていると,肉親にさえ話したことがない患者さんの秘め事を聴く機会がある.死を自覚した患者さんが主治医である私に,心の奥底にしまいこんだ秘め事を語ってくれた.
3年前に大腸癌で手術をした60歳代前半のOさんが多発性肝転移や癌性腹膜炎をきたして再入院した.食欲不振のため補液を行い,癌性疼痛に対してはモルヒネを使用した.Oさんには子供が2人あり,そして孫も3人いた.家族は交代で付き添い,病室はにぎやかで笑い声さえ生じていた.ある日,床に伏して一人で読書に耽るOさんがいた.読んでいる本は,未熟児で生まれ,不幸にも生後数か月で亡くなった子供への思いを綴った母親の手記であった.いつも子供や孫らに囲まれ,明るく振舞っているOさんがなぜこのような本を読んでいるか,理解できなった.そこで,「どうしてこのような本を読んでいるのですか」と質問をした.
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