理学療法と作業療法 18巻9号 (1984年9月)

特集 整形外科

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 Ⅰ.五十肩の概念

 人の両肩にはSaha-devaという神が宿っているといわれている.仏教では左肩の男神,右肩の女神は天部に属する「倶生神」といって,人の善悪の行為を記録しておいて死後,閻魔王に報告する役目をする神だと考えられている.しかし彼らは告げ口をする―ということであまり好かれず,俗には地獄の獄卒と混同視されるに到っている.形而上の世界のこの傾向はわが国の医学にまで及んだのであろうが,頸部・内臓諸器官の臨床のはなやかさに比して肩はあまり顧みられることがない.

 「五十肩」―という語はいつ頃から使われているのだろうか,いろいろ文献を収集してたずねてみてもたどりつくところは「俚言集覧」であり,ただわかったことは俗語の一つだということである.本書は江戸時代の口語研究の資料として貴重なものだが,2万4千の見出しの一つに五十腕というのがあり,そこには「凡,人五十歳ばかりの時,手腕骨節の痛む事あり,程過ぎれば薬せずして癒るものなり,俗これを五十腕とも五十肩ともいう,又長命病という」と記述されている.この文章を解釈してみると,年をとると身体の節ぶしが痛くなることがある,しかし放っておいても自然によくなるのだから案ずることはない,長生きをするとよく起きるものだから長寿を喜ぶべきだろうということになりそうである.その内容は加齢による変化で当然おきる現象と明解にわりきっているが,問題は「五十」と「長命」であろう.

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 Ⅰ.はじめに

 1977年,ピッバーグ大学医学部図書館で,Codmanの原著“The Shoulder”を読破した時“肩”を理解したような錯覚に陥ったが実際に臨床の経験を重ねるほど,その奥深さを痛感させられている.

 数年前より手と肩のリハビリテーションプログラムの計画・実施の具体化を進めて来ている.内容として主な評価3,6~10,12)は,痛み,習慣性動作分析,関節可動域(以下可動域とする)Cybexによる筋力の検査測定である3,6~10,12,14~18,22,24~27).治療はリハビリテーションチームによる総合的アプローチを基本としている.含まれるものは痛みのコントロール,動作の再教育,関節受動術を併用した可動域訓練,等尺性収縮・Cybexを利用した筋力強化,可動域訓練と筋力強化を同時に行う運動能力増強訓練などであり,異常動作を助長する滑車訓練法は最小限に押えている.治療の担当者間で徐々に問題点が浮き彫りにされた.これら問題点の解決策として新しい試みが行われ,一方では,従来の評価方法の再検討も行われた.今回は,それら問題点の中から,“肩関節可動域測定における留意点”に焦点を合せ,筆者の臨床的経験をまとめ,かつ現在,学生を教育する立場での問題点を合せまとめてみる.

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はじめに

 中国医学におけるハリ治療が,痛みに対して優れた効果を発揮することは,周知の事実である.しかしながら,われわれ理学療法士(PT)には,資格問題の点から,ハリ治療を行うことはできない.このため,8年前より,経絡・経穴といった中国医学の理論を応用し,ハリ治療の治療点となる経絡上の穴位,またはそれ以外の圧痛点(阿是穴)に低周波刺激を加えて,治療効果を挙げており,ここにその具体的な方法を紹介する.

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はじめに

 下腿骨骨幹部骨折は頻度も高く統計では国内,国外色色の統計である程度の差はあるが全骨折の15~20%を占めている.

 特に脛骨下部1/3は広い部分に海綿骨を欠いていて骨幹の上後方より入っている主動脈の他には栄養血管が少ないので骨折の治癒過程,骨片の癒合に必要である血液の供給も不足気味であるため従来から治り難い骨折の1つと考えられていたし各種の試験問題の正解としても治り難い骨折の1つとしてあげる事が要求されている.また定本とされている神中整形外科学ではいまだに固定期間は12週にもわたるとされている.更に骨癒合とともに関節運動,マッサージ,温浴,歩行練習を開始すると述べられている.従来の方法では膝関節や足関節の拘縮も起こりやすく全体的なリハビリテーションに要する期間も長期にわたる.したがって我々はサルミエントが開始した保存的機能的装具療法でこれらの骨折の治療を行い良好な結果を得た.当院は学生が多くスポーツ損傷が多い地域であり,我々の昭和58年1年間の統計では下腿骨幹部骨折は治療した全骨折例の6%にしかすぎないがかなりの骨片転位であっても,保存的療法の方が機能障害を残す事も少なく癒合状態も満足出来る状態なのでその背景および内容を説明する.

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はじめに

 人工骨頭置換術(Femoral Head Prosthesis:FHP)および股関節全置換術(Total Hip Replacement:THR,または人工股関節)は,現在では一般化した手術の一つである.ちなみに全世界では年間約35万例の種々の部位の人工関節手術が行われており,そのうち約60%の21万例は股関節に行われていると言われている9).また米国N.I.H.(The National Institutes of Health)の1982年の発表18)によると,全米では年間7万5,000例の股関節全置換術が施行され良好な成績を修めているとされている.しかし一方では本手術の短期から中期にかけての成績が極めて良好であり,かつ術後のリハビリテーションも短期で済み問題も少ないことから,ややもすると安易な適応のもとに行われる傾向にある.一方本手術の長期年限の経過観察において種々の問題が生じており,特に“ゆるみ”(loosening)の病因と対策については今後の研究に待たねばならない.したがって本手術の目先の成績に捉われることなく,その問題点を認識し,厳しい適応のもとに,正確な手術手技と,計画的リハビリテーションが良好な成績を得るために不可欠である.

とびら

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 病院からデイケアセンターに移った時,これでやっと本当の仕事が出来ると思った.ホームプログラムを与えてさようならをするのは赤子を路上に放り出すような痛みがあった.

 退院する本人はもとより,家族の戸惑いと不安と心労の方も心配であった.デイケアなら,日常不断に両方に接して然るべき援助も出来るのではないかとそんな気がしたのである.

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 Ⅰ.研究の方法

 われわれ成人は周囲の事物の大きさや形やその距離などを的確に,ほとんど即座に知ることができる.だが「嬰児の世界はすべてこれらの点において茫漠混沌としている」と説いたのはアメリカの心理学者W.ジェイムズ(James)であった.彼はその著書『心理学の原理』(1890)の中で,嬰児の知覚世界とは「花の咲き乱れる中を虫が飛びかっているような,一つの大きな混乱状態」であるとも書き記している.これに対して,1960年頃を境に,かなり多くの研究者がこのジェイムズの説に疑問を抱くようになってきた.その根拠は新生児について行われたいくつかの実験研究を通して次第に集債されつつある1)

 しかしながら,それらのデータはまだ充分なものとはいえず,仮に,その知覚世界がある程度構造化されたものであったとしても,新生児が眼を開いたときからすぐに周囲の事物を何の苦もなく見分けているとは到底考えられない.事物を識別し,その形態を的確に把握する視覚の機能が最初から備わっているものではないとすると,それらは一体,いつ,どのような過程を辿って発生し,形成されたのかという疑問がここで起こる.

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 Ⅰ.所得保障の意義

 国連の定義にしたがい障害者とは何らかの社会生活上のハンディキャップを持つものと理解すれば,ハンディのひとつに経済的ハンディキャップがある.経済的ハンディキャップの主要な原因としては次の2点が挙げられるであろう.

 1.働けない,あるいは働けたとしても収入が低いため,自らの収入だけでは生活費を賄うことができない.(働けないという意味の中には働く場が得られないということを含む)

学会印象記

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 「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるように,いかにも北陸らしくどんよりと曇ったり,小雨が降ったり,そして晴天にも恵まれた第19回日本理学療法士学会は,5月17,18の両日,1,000人余が集い,金沢市文化ホールで開催された.幸いに戦禍に遇っていない城下町は道路が迷路のように入り組み,方向音痴でないはずの筆者でさえも,金沢を訪れるたびに我を疑いたくなるような街である.若い女性が憧れるというそんな古い街に,近代芸術による文化ホールが非常に印象的であった.香林坊などの繁華街や兼六園にも近く,設備も素晴しい会場であった.ただ,第2会場の天井が低く,スライドが見難かったことが惜しまれる.残念ながら覗く機会はなかったが,茶の湯のコーナーもあり,和菓子で有名な古都に相応しい枠な計らいであった.

 今学会で初の試みをされたことがいくつかある.1つは,抄録を2,000字に増やし,事前に機関誌特刊号に掲載したこと.2つ目は,学会長講演を行ったこと.3つ目は,従来医師が主であった特別講演の講師に哲学者を招いたこと等々である.

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 今年の第19回日本理学療法士学会は,去る5月17日,18日の両日,奈良勲学会長のもとに,新緑が萌える古都金沢の文化ホールで開催された.本来の理学療法を再度見直し,より科学的な分野へとレベルアップするという本学会の意気込みを感じさせる「理学療法“学”の確立」という統一テーマである.この意志を象徴するように,今学会から斬新的な試みが随所にみられた.

 その新しい特別企画として学会長講演が学会の冒頭に「理学療法におけるプロフェッションの条件」と題して行われた.本学会の草創期,模索期を過ぎた現在の専門性確立期に極めて相応しいテーマであり,我々作業療法の分野にも全く当てはまる内容である.プロフェッションの条件としては高い教育水準,またその水準の維持,倫理的自己規制,責任のある決断力,社会国家の信任などが指摘され,これからの専門職としての方向性について有益な示唆を与えられた.

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 障害者が障害受容をできて初めて自立に向って歩み始めると同じように,OTも現状を把握して初めて社会の中での位置づけ,あるいは価値づけがなされていくものであると考えられる.そうした中で“いま,求められる作業療法とは…”というテーマでOTの置かれている立場を分析し,今後の方向性について全体のコンセンサスが得られたことは大きな意味のある学会であった.

 今から述べる内容は,小児部門のシンポジウムに参加して,今後の小児OTについて考えさせられたことと,一般演題(基礎と研究開発)の発表を聞いての感想である.

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 第18回日本作業療法学会が5月31日より2日間に渡り,北九州市戸畑市民会館にて盛大に開催された.

 本学会は「いま求められている作業療法とは……」をテーマに現在のOTの在り方,将来について問いかけようということで,最もふさわしいテーマであったと筆者自身感ずる.というのも我々理学療法においても私自身,同様に問いかけられるべきでないかと常々感じていたことでもあり,本学会を拝聴することによりOTをより理解すると共にあまりにも専門性の追求と身体行動の片隅をこちょこちょとこねまわすが如く感じるPTに光を与えてくれるのではとの期待感でいっぱいであった.

プログレス

癌研究の最前線 太田 邦夫
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 既に最前線から退いた者が,最前線の話をするのも,少々おかしいことかも知れないが,ひょっとすると最前線は少し後に下った場合に,よく見えるものかも知れないと思い,筆をとった.

 ポリオ(急性脊髄前角灰白炎)という病と人類との闘いの歴史を考えていただきたいのであるが,この問題に対する医学の目標は,まず被害者を生き残らせること,生残った患者に対しては失われた機能を恢復させること,恢復させられない場合は補助器具で,たとえ最少限度でもあれADLな補足することであった,この病はしかし免疫学的予防法によって被害を出さないこと,病原ウイルスを消滅に追いこむことに成功した.原因を根こそぎにすることが,研究目標の第一にあることは,医学のすべての分野で研究者が目指しているところである.

インタビュー PT・OTの挑戦

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 <先生がPTになられたのはいつ頃ですか>

 門田 昭和45年です.私は福岡盲学校でハリ・灸の勉強をしまして,卒業後長尾病院(福岡)に就職しました.そこでリハビリの仕事を知り,リハビリの勉強を始めました.その後,東京の伊藤病院に移り,昭和45年の国家試験に合格しました.

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 医療関係者審議会理学療法士・作業療法士部会では中期的にみてPT・OTの需給バランスはどのように推定されるかについて昭和57年より作業し,昭和58年8月に厚生大臣宛意見書を提出した.その内容については既に報道されているので省略し,ここでは多少の解説を加えたい.

FORUM フォーラム ふぉーらむ

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 カリフォルニア州のバレイフオにあるKaiser Foundation Rehabilitation CenterでPNFの3カ月と6カ月コースの卒後研修が毎年実施されているのを御存知の方もいると思う.私はこの研修コースについて,2年前金沢大医療技術短大の奈良教授をコーディネーターとしたアメリカ,カナダ西海岸のリハビリテーション施設見学旅行に参加した時に知り,同時にこの研修への参加を希望した.

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 近年,理学療法の進歩はめざましく,理学療法の対象者も,従来の中枢神経疾患,整形外科疾患中心から,循環,呼吸,代謝疾患,さらには形成外科疾患などが加わり,多様化してきている.またそれぞれの分野においても,評価,治療テクニックなどが複雑化,専門化してきており,一昔前のように,理学療法士(PT)は,「なんでも屋」といった調子で広く浅くやってのけるといったことは難しくなってきたようである.

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文献抄録

編集後記 荻島 秀男
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 最近の理学療法士・作業療法士の教育はどちらかといえば,中枢神経系の疾患に比重がおかれすぎているようである.生理的にも科学的にも解明されていないことの方が多い中枢神経系の方にそれだけ興味が向くのは,今まであまりにも見捨てられていたためか,あまりにもわからないから神秘的なのだろうか.機能低下,機能障害を対象とする場合,数の上では整形外科系の疾患が圧倒的に多いし,その数に焦点をあわせると,整形外科的疾患に今一度目を向ける必要があると考えるのは編者だけではないであろう.

基本情報

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理学療法と作業療法
18巻9号 (1984年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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