理学療法と作業療法 18巻4号 (1984年4月)

特集 理学療法・作業療法カリキュラムの検討

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 Ⅰ.はじめに―カリキュラムとは何か

 教育事典(小学館)を引いてみると,カリキュラムという言葉はラテン語のCurro―つまり,“競馬場の競走コース”に由来するとある.この言葉を,学校で児童・生徒に期待される教育内容の系列という意味ではじめて用い出したのは,あの社会進化論や教育思想上の功利主義を唱えたイギリスのH. スペンサー(1820-1903)だということである.

 スペンサーといえば,近代学校制度が体制化されはじめる産業革命後の時期に,“近代科学の知識・技術を身につけ,満足感をもって生活できる人間”を学校教育の目標としてかかげ,カリキュラム改造を主張した人物である.いわばこの目標が競走コースの目標(ゴール)であって,このゴールを,最も効率的に達成するために,当時おびただしく蓄積されはじめた近代科学・技術の知識・技能を取捨選択し,系統づけて,そのコースを学校教育の内に設定しようとした.欧米にしろ,日本にしろ近代学校が,社会の進歩とか国家の近代化という目的との絡みで,“教育の私事性”を捨象しはじめて以来このスペンサー流の功利主義,実学主義が,公教育のカリキュラム編成の大きな底流となっているといってよい.わが国の学校教育の出発を宣言した「学制」被仰出書(明治5年)もスペンサー流の学校教育観が濃厚にその影を落している.

 話は飛ぶが,現在の時点で高校生が,僕たちは競走馬じゃないといって,卒業を目前に教科書を焼却炉に投げ入んだ事実があったという1).さきのカリキュラムの語源を考え合せてみると,高校生のこの言動はカリキュラムの本質を直観的に見抜いた上でのカリキュラム拒否といえないだろうか.何がカリキュラムの問題なのか.

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はじめに

 1963年,最初の理学療法士養成校設立当時より,理学療法教育カリキュラムの問題点が指摘されてきた.1983年度現在,養成校は38校になった.理学療法教育カリキュラムは改善されているであろうか.1983年度に行った全国養成校カリキュラム時間数の調査結果にみられる問題点1)を通して,また医学教育で既に試みられていることを参考に,いくつかの提言を述べたい.

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 Ⅰ.はじめに

 アメリカ作業療法協会(AOTA)の会長であったJohnson1)は「ある組織における機の熟した場台の変化は好ましいものであり,成熟それ自体が変化をもたらすことになる」と述べているが,同時に,「変化はある組織に対する外的圧力がある場合も生じるものである」とも述べている.わが国の場合,現時点で作業療法士の教育課程に変化を求める内的成熟も,また,外的圧力もそれほど明瞭なものとはいえないが,ここ数年来,内的・外的状況に変化が現われつつあることが認識できる.内的な動きとは日本作業療法士協会(以下OT協会)教育部による専門科目の授業内容の検討2)やそれを受けた各作業療法士養成校の教育課程の比較を論じた論文3)などである.また,外的な動きとは,短大での養成教育の開始に伴う二重基準がもたらす問題である.

 本論ではこれらの内的,外的な動きの概略を述べ,更に,世界の養成教育と対比しながら,時機尚早の感もあるが,作業療法教育課程改訂の私案を述べる.

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 国公立医療技術短期大学部にPT・OT学科が開設され始めて,早,4年.この医療技術短大の存在は従来の専修学校,専門学校で行われて来たPT・OT教育のあり方を改めて見直す機会を与えているようである.

 特にカリキュラムの問題は,医学の進歩,疾病の多様化,職域の拡大などにより,時間数をふくらます要因を抱えていながら,PT・OTのカリキュラムは指定規準をはるかに上まわり,それらを包括するにはあまりにも過密すぎる.加えて専修学校・専門学校と比較して,大学・短大の自由なゆとりのある教育をめざす環境の中で,医療技術者としての養成にどこまで学校が責任を負うべきなのか,どこまでそれが可能であるのか,教育に携わる先生方は一様に試行錯誤を繰り返えされておられることと思う.

 今回はこの“変貌しつつあるPT・OT教育”について,専修学校・医療技術短大の先生方にお集りいただき,御意見を伺った.(編集室)

とびら

潜在能力 米本 恭三
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 太陽を拝めることの少ないシアトルの冬は曇天か,小雨の降るうすら寒い日が続く.しかしアメリカ北東部のような厳しさはなく,カリフォルニア沖から北上する海流の影響で緯度が高いのに比較的過し易い.古くは漁師町であったこの市は複雑に入りくむ海岸線を持つピュジェットサウンドと呼ぶ大きな湾の奥に位置している.ダウンタウンの一隅で歯科を開業している一世のドクター中村のセカンドハウスで週末を過したのは,いつものような曇り空の寒々とした冬のことであった.そこは,数多い入江の一つにある別荘地で,目の前が海岸の砂浜に続くその瀟洒な1軒屋を,釣り好きの彼はすぐ気に入って買い求めたという.雲間のところどころからもれる午後の細い日ざしの中に水平線がかすむ美しい入江に見とれた.

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 Ⅰ.はじめに

 進行性筋ジストロフィー症Duchenne型は,下肢筋力の低下,関節の変形拘縮などの進行により9~10歳前後で歩行不能に陥るが,本邦では野島1)らが開発したバネつき長下肢装具の使用により,歩行期間の延長が図られてきた.

 最近我々は,より一層装具を軽くすることを目的として,プラスチックを主材料に用いた軽量装具を試作し,良好な結果を得ているので,装具の構造と臨床経験を報告する.

プログレス

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 平均寿命の延長,それに伴う人口の高齢化,交通戦争の激化などによって,頸椎・頸髄疾患患者もたしかに増加しつつある.悪性腫瘍の転移,変形性脊椎症,後縦靱帯骨化症,頸椎・頸髄損傷などの増加ぶりを思いうかべて頂ければよい.

 それらの頸椎・頸髄疾患に対して,その治療目的は現代医学においても,除圧と固定にあることに変わりはない.ただair drill,手術用顕微鏡,Luque instrumentation,halo装具などの手術,治療器具の進歩,CT,選択的脊髄血管造影法,脊髄波検査法などの診断技術の進歩によって,除圧と固定がより的確に,より徹底して行われるようになった結果,従来より良好な麻痺の回復と脊柱支持性の再建が可能となり,患者のADL上に大きな福音をもたらしつつあることも確かである.

インタビュー PT・OTの挑戦

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 昭和48年秋,東京の西武百貨店池袋店に“出向く行政”の窓口として東京都福祉局直営の池袋老人相談コーナーが開設された.同コーナーは老人福祉行政相談と専門相談に区分され,専門相談としての健康・介護・機能回復の相談を,それぞれ医師・保健婦(看護婦),PT・OTが担当している.

 年々老人問題解決の助言機関として,都民から寄せられる期待が増し,これらの要望に応えるため53年同百貨店渋谷店に渋谷老人相談コーナーも開設された.

 今回は,池袋老人相談コーナーで長年,相談員を務めておられる宮腰・忰田両氏をお訪ねした.

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 施設への入所か在宅生活という形で社会から隔離されざるを得なかった重度の障害者も,素朴な願いとして街の中で普通に暮したいと望んでいる.とりわけ,原因も治療法も究明されていないPMDデュシェンヌ型患者にとっては,20数年の生命を考える時,施設や病院の中で「一生を終えたくない.」という気持は強い.しかしながら,デュシェンヌ型患者は,高校卒業に象徴される「自立年齢」に達する頃には,障害もかなり進み適切な医療を必要とするばかりでなく,トイレ,入浴,夜間の寝返りなど24時間の介護体制が必要となる.したがって,体制の整わない地域での「自立」は極めて困難といえる.

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 Ⅰ.ソフトウエアとは

 1.テレビゲームとマイコンのちがい

 デパートのおもちゃ売り場やゲーム・センターなどで最近よく見掛けるテレビ・ゲームと,この講座のテーマであるマイコンとのちがいはなにか.

 テレビ・ゲームでは,電源スイッチを入れたり料金を入れたりすると,ゲームが自動的にスタートし,一連のゲームが終了すると得点が表示されファンファーレのような電子音が流れたりする.

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はじめに

 前号に引き続き,機能・形態障害(impairment)の領域における障害学,特に中枢神経系の病変の際にみられる機能障害について述べる.

 中枢神経系は大脳だけでなく,間脳・小脳・脳幹・脊髄などを含む広い領域である.その病変による機能障害は,病変の部位により,運動機能の障害だけでなく,感覚,自律神経機能,さらには失語・失行・失認などの高次脳機能障害などに及ぶものであり,また運動機能に限っても,中枢性麻痺をはじめとして,失調症,不随意運動,また脳性麻痺におけるアテトイド運動などを含むものである.しかし限られた紙面でこれらすべてについて十分に論ずることは不可能であり,浅く広く論じても興味の乏しいものになるので,ここではリハビリテーションの臨床場面でもっとも多く遭遇し,もっとも重要な問題である中枢性麻痺を中心に述べることとしたい.

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はじめに

 等運動性機器であるCYBEX-Ⅱによる定量的筋力測定法は,客観的な筋力の測定法として普及しつつある.

 しかし,測定における代償運動を予防するためのベルトの位置や回転運動のスピードなどは標準化してきたが,その評価解析法については各施設ごとに異なり,いわゆる公式的なものが確立されていないのが現状である.たとえばアームの長さ(支点から力点までの距離)をどう考慮すればいいのか,評価項目にはどのようなものがあるかなどである.

 データ解析における計算の単位は,cgs. 単位だけではなく,諸外国でサイベックス解析に使用されているft. lbs. を併用し,パーソナルコンピューターを所有している施設が多いことを考え,パーソナルコンピューターからでも,あるいはレコーダーの記録紙からでも解析できる計算式であることを条件として,パーソナルコンピューターで解析する方法を中心に,健常人の下肢筋力のデータを用いて,サイベックスのデータ解析法を紹介する.

学生から

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 10日後には卒業試験,1ヵ月後には国家試験を控えている.しかし,机に向かっても,手は専門書の上に通り過ぎてしまう.今やらねばならないことは,最低限必要な知識を得ること,そしてそれらをまとめることに外ならない.けれども,今のには,一本の針で貫かれたように頭から離れず,考えなければならないことがある.

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 リハビリテーション医学(ここでのリハビリテーションのことばの使い方から言って運動障害医学と言った方がよいが)は臨床医学の一分野として市民権を得るべく,関係者一同懸命に努力中である.いわばリハビリテーション医学は発展途上にあると言ってよい.本著者が「リハビリテーション基礎医学」と考えるのは,運動学,機能回復の基礎医学,運動治療学の3つである.その他「高次神経機能治療学」もまたこれから確立すべき基礎分野としてあげている.

 本書の全体は次の6部で構成されている.

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文献抄録

編集後記 奈良 勲
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 今年の冬は例年になく厳しく,小さな日本列島は度々寒波におおわれた.この編集後記を書いている3月中旬になっても,雪国の家の屋根上には雪が残り,春の訪れる気配を感じさせない.

 今月号の特集は,教育に関連した「理学療法・作業療法カリキュラムの検討」である.両分野の教育機関の数が急増したことで,量的ニーズに応えられるようになったのはよいとしても,質的変革は沈滞したままのように思える.しかし,質を高めるという仕事はなにごとにおいても極めて困難なことであり,長期に及ぶ努力を必要とするのが常である.教育の質的改善の一環として,カリキュラムの在り方は重要な問題となる.PT,OTに関した情報源が増え,より高度な技能が求められている時代に,3年間という短い年月でセラピストとしての基盤をつくり上げることは果して可能なことであろうか.

基本情報

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理学療法と作業療法
18巻4号 (1984年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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