看護学雑誌 70巻1号 (2006年1月)

特集 からだのメカニズムから看護技術を見直そう

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はじめに

 このところクーリングの必要性に疑問を持ち,あちらこちらで“小出し”にして書いているものですから,筆者の私としては違和感がないのですが,読者の方々は「えっ?!」と思われるかも知れません.それもそのはず,です.日々の業務の中で「クーリング」ほど頻繁に実施され,よかれと思って適用している看護技術はないと思うからです.

 私自身も臨床にいたときは,疑問を持ちながらも指示に従い「クーリング」を行なってきました.そして,腋窩で体温を測っては体温表に記入し,「熱が下がった」とみな(看護師だけではなく医師も)が思い,やれやれとクーリングをはずすと,また腋窩での体温測定の結果「熱が上がる」ので,クーリングを続行するのです.発熱が見られると「とりあえずクーリングで様子を見ておいて」という当たり前の図式が頭の中にこびりついているわけです.

 けれど,クーリングはやはり適応を考えて実施しなければならない看護技術なのです.なぜ,一律にクーリングをしてはならないのか,なぜ「クーリングで様子を見て」解熱薬の投与になかなか踏み切れないのか,その発端はどこにあるのか.ここでは,このクーリングにまつわる誤解を体のメカニズムから解き明かし,そのうえで「クーリング」を実施してもよい対象,そしてタイミングを見定めることにしましょう.

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はじめに

 病院や介護施設では,寝たきり老人や脳障害者に3度の食事や昼間の離床時に,ギャッチベッドの背もたれを上げて座位にすることがよくあります(図1).臨床では,この座位をギャッヂアップもしくはギャッヂアップ座位と呼び(→note1),看護師が意図して行なう看護技術でもあります.

 このギャッチベッドで起こした座位が看護師によって行なわれる理由の1つとして,「1日の大半を寝て過ごさぬよう,体を起こし,刺激を与えること」が挙げられます.しかし,刺激を与えるために行なった座位なのに,患者は,何分かすると目を閉じ,すやすやと眠ってはいないでしょうか? また,いつの間にか頭がベッド柵につくほどからだが横にくずれ,その姿勢で何分間も過ごしてはいませんか?

 そこで本稿では,臨床でよく行なわれているギャッチベッドで起こした座位が,はたして対象者のからだに刺激をもたらしているのか,もし刺激がないならば,どのような姿勢が刺激をもたらすのかを説明し,さらに姿勢による刺激を効果的に得るための適切な方法も紹介します.

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はじめに

 採血のために静脈に針を刺入する際に,「親指を中にして手を握ってください」と言うように先輩から教えられて,そのようにしてきた.確かに,前腕部の筋肉が収縮するのを感じるが,母指を中に入れないで手を握るのと違いがあるのだろうか.ある時患者さんに,母指を中に入れなくてはいけないのかと問われ,答えられなかった.そもそもなぜ手を握ってもらうのだろうか.意識がない場合や,麻痺がある場合など手を握ってもらわないで採血した経験だってあるというわけで,手を握ると何が起こるのか,親指を中に入れるのと入れない場合との違いは何かを探ってみることにした.

 ちなみに『根拠から学ぶ基礎看護技術』は,「これは,前腕部の筋肉を収縮させ,さらに末梢部からの静脈血還流量を促進させることにより,静脈の怒張がより強くなるためです」1)と説明してある.『安全・確実に行なうための最新注射・輸液マニュアル』では,「母指を中にして手を握っていただく(クレンチング)と静脈が怒張しやすい」2)と説明している.

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はじめに

 「お食事はとれましたか.おいしかったですか」「よく眠れましたか」「お通じはありましたか」と,病院であれ,在宅であれ,看護職は日々このアセスメントを繰り返している.そして「食欲がない」あるいは「砂を噛むようだ」「眠れない」「お通じがない」という答を聞いたことがない看護職はいないだろう.

 椎名誠の対談集のタイトル『喰寝呑泄(くうねるのむだす)』(TBSブリタニカ,1993)は,まさに日常生活の基本を示している.野々村馨は『食う寝る坐る永平寺修行記』(新潮社,1996)の中で,生きる基本として食べることと寝ることを語っている.病者に限らず,食事,睡眠,便通・排尿が日常生活の基本であることは,今さら説明する必要はないだろう.赤ん坊は眠って出しておっぱいを飲んでおなかが満足ならば機嫌がよく,お年寄りが最も気にしてさまざまに訴えるのはこの3つである.一方でこの3つは,社会生活の占める割合が大きくなるにつれ,しわ寄せを受け軽んじられる.

 生活の基本,言い換えれば生命維持の基本である食事,睡眠,排泄という大切な営みが,病者の生活では食欲不振・不眠・便秘という,病者の“三種の神器”とも言うべき訴えになってしまうのは,なぜなのだろうか.これはストレス理論から説明が可能である.

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――臨床医である井上さんが,写真家としても活動することになったきっかけを教えてください.

井上 子どもの頃の夢が,動物学者としてアフリカの大地に立つことだったのです.結局,医学の道を志したのですが,いつかはアフリカ・サバンナへ行ってみたいと思っていました.それが実現したのが32歳.目にしたものすべてに感動し,それを誰かに伝えたいと思って写真活動に入りました.しかし,当然ですが,最初はうまく撮れません.それが悔しくてアフリカに通い続けるようになりました.だから,「感動を伝えたい」という思いが僕の原点なのです.

写真と医療の目的が重なった瞬間

――クリニックへ写真を展示するなど,写真を癒しの手段として活用されていますが,なぜでしょうか.

井上 アフリカに通い始めて8年目に,はじめて写真展を行ないました.これが僕の運命を変えたのです.会場に来た多くの人たちが「癒されました」「元気になれました」という感想を述べ,いきいきとした表情で帰っていったのですから…….医の原点である「癒す」という行為が,写真によって実現したという喜びを感じました.その瞬間,それまで趣味でやっていた写真活動が医療と同じ方向性を持ち始めたのです.こうして,大自然が持つ“人を癒す力”を写真で表現したいと思い始めました.

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はじめに

 看護マネジメントを体系的に論じる際には,さまざまな切り口が考えられる.それはマネジメントに多様な側面がある証左であり,だからこそ,その実践には高い能力が求められるのである.

 しかし,マネジメントは看護管理者だけの問題ではない.スタッフが時に主任やチームリーダーを任されるなど“ミドル”として管理的立場に立たされることもあるからである.これは看護がチームによる知的労働だから生じる現象であるともいえるが,個々の看護の知の実践・看護的行為がマネジメントの及ばない経験的な要素を含んでいるという根源的な理由もある.つまり,効果的な看護マネジメントが行なわれるためには,チームを構成するスタッフ1人ひとりの主体的な関与が欠かせないのである.

 本稿では看護マネジメントを知識という視点から体系的に捉え直し,これを論じていくものであり,特に看護における知識の共有の難しさに焦点を合わせて考えていく.すなわち「看護の知の共有・活用を促進しよう」という議論から一歩踏み込んで,その知識の背景にある根源的なコンテクストという概念に立ち返って論じるものである.それによって,業務を滞りなく行なうという側面が強調されがちな看護マネジメントを,本質的に知の視点から論じることが可能となるばかりか,看護をとりまくさまざまな問題についても,新たな視点が得られると考える.

70巻記念企画

看護学雑誌 表紙が語る60年
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「看護学雑誌」の創刊は,日本看護協会の前身「日本産婆看護婦保健婦協会」が設立された1946年の10月.第二次世界大戦の終結から1年と2か月後のことです.なんと,日本国憲法の公布(11月3日)より1か月も早く生まれたのです.

 創刊のことばには,次のように述べられています.

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こんな現場,本当にあるの?!

 主人公の美空あおいは,巨大医療グループ系列病院の3年目のナースで医師顔負けの実力の持ち主である.『N’sあおい』は,医療の現状がナースの目を通してえぐりとられている.たとえば経営の問題や医療事故の問題(MRIとペースメーカーのくだりはありえないと思うが)などなど,医療の現場の大切なテーマがたくさん描かれている.

 正直なところ最初は,これが本当に医療の実態なのかと目を疑った.たとえば,ナースが医師にお茶を出したり,問題を起こしたからといって関連病院に回されたり,セクハラを受けたり,という場面は私が現場でナースをしていた10年以上前にも目にしなかった.けれども2巻のカバーの裏側をみると,著者の言葉として「取材を重ねるごとに次から次へと驚くような話が聞けます」と記載されているから,これは事実でもあるのだろう.「自分はもしかしたら一部の恵まれた環境しか知らなかったのか」とうろたえながらも,結果的には一気に読んでしまった.夢中で読んだのも事実だった.その魅力の源を振り返ってみることにする.

新連載 悩めることも才能だ!―宮子あずさのお悩み外来①

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仕事に関係ないのですが,友人に看護職は“遊び人”のように思われるのがちょっとした悩みです.大学病院で看護師をしているというと,「お金持ち」と思われてしまうのです.たしかに,お給料は同じ年齢の女性よりは高いと思います.その分,海外旅行や国内旅行,車やブランド製品を買ったりと,それなりに贅沢をしています.それが派手に見えるのでしょう.お酒をよく飲むことも,遊び人という印象につながるようです.でもそれは,看護師という,責任の伴うストレスの強い職業だからこそ.自分の稼いだお金は好きに使ってかまわないはずなのに,このごろは気分よくお金を使えなくなってしまいました.(29歳・女性・外来)

 今月号から,皆様のお悩みについてコメントさせていただく宮子です.看護の現場で浮かぶ疑問は,たいていの場合,完全無欠の正解はありません.それを求めるがゆえにつらくなり,求めすぎないことが肝心なんだ,と気づく場合もしばしばです.しかし,たとえ同じパターンが繰り返されるとしても,1つひとつの悩みをしっかり考えたという経過が,財産になると思います.

 私のコメントはあくまでも私個人の考えに過ぎません.それを足がかりに,また話が膨らんでいくことが,私の願いです.私は私で,皆さんと一緒にこの場で考えた体験を,職場で生かしていくつもりです.どうぞよろしくお付き合いくださいませ.

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はじめに

 糖尿病が増加し,成人10人に1人から6人に1人の有病率になった.欧米人に比較し,肥満がさほどひどくなくても糖尿病になりやすいアジア人の体質と,豊かな食生活や活動量の低下がもたらした結果であることは,専門家の間でよく知られている.その糖尿病患者数の増加と混合病棟化が相まって,どの病棟でも糖尿病を基礎疾患に持つ患者の入院が増えている.

 入院期間の短縮化は,単一の疾患だけでも指導を困難にしているが,他疾患で入院した患者に糖尿病療養の必要性,自己管理の必要性を理解してもらうのは至難の業である.特に,心筋梗塞や白内障の治療を目的に入院した患者は,糖尿病の自覚症状もなく自分が糖尿病であるという自覚がないため,糖尿病の自己管理をしなくてはいけないということが理解できないでいる.糖尿病の教育入院などのように,糖尿病の自己管理方法を学ぶという目的で入院しているのであれば,単に糖尿病教室に出席してもらうといった方法であっても教育効果を期待できるが,他の疾患の治療が目的である場合,教育効果は疑問である.

 このように,どの病棟でも糖尿病患者に遭遇するようになった現在では,糖尿病の自覚のない患者に指導するという一歩進んだアドバンスケアが,特別なケアとしてではなく,日常的に必要になっている.そこで本連載では,アドバンスな糖尿病教育とは何かから始めよう.

連載 Let's Talk about Woman's Health⑨

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検診さえ受けていたら……

 年齢を問わず女性たちに産婦人科のイメージを尋ねると,「お産以外では行きたくないところ」という答が多く返ってきます.特に,“がん年齢”と言われる中高年女性にとって,産婦人科は「もう用がないところ」と思っている人が少なくないようです.現実に,不正出血など自覚症状があるにもかかわらず,婦人科受診が恥ずかしいために我慢に我慢を重ね,どうしようもなくなって受診した時には,がんの末期だった――という悲劇を多く目にしてきました.

 最近でこそ,女性外来ができたり,女性誌で婦人科受診を勧める特集が組まれたりで,早めに婦人科を受診する傾向が出てきて,初診でいきなり末期,という症例を目にすることはほぼなくなりましたが,それでも進行がんで大きな手術が必要だったり,未産婦なのに子宮を摘出せざるをえない患者さんは後を絶たず,ちゃんと検診さえ受けていてくれたら……と,やるせない思いをすると同時に,もっと婦人科がん検診の大切さを広めていかなければ,と日々感じています.

連載 患者さんの安心のために―ナースが知っておきたい介護保険制度改革③

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 30~40%,ところによっては50%以上が低栄養――.これは食糧難の他国の話ではありません.飽食といわれて久しい日本の,高齢者施設入所者の現状です.

 今回の介護保険改正で,介護保険施設入所者の食事の自己負担が大幅にアップしました.この流れは,介護施設だけに止まらず,医療機関へも波及する勢いです.

 1日1000円で一家の食事をまかなう家庭も少なくない昨今,1日1人で1380円は利用者にとって大負担であり,悩みの種です.そのうえ,食欲も湧かないようなお粗末な献立で低栄養が放置されていたのでは踏んだり蹴ったりです.

 今回は,2005年10月からすでに始まっている「食費」の見直しについて,利用者の立場に立った制度利用とアドバイスをご紹介します.

連載 看護の未来を決めるのは誰?⑬

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 いつからか,米国のマス・メディアは看護師に関する問題を一日も欠かすことなく伝えるようになった.政府内の看護師を支援する補助金の削減についての議論から,日本とフィリピンの自由貿易協定(FTA)によってフィリピン人看護師が日本で働くようになるというような他国のニュースに至るまで,看護師に直接かかわるあらゆる種類のニュースが絶え間なく流れている.あまりに頻繁に耳にするため,日常的なニュースとして埋没してしまいそうだが,実は,将来の看護師の状況に深くかかわる問題なのである.そして,これらのニュースは,10年後,いや早ければ5年後に日本の看護師が直面するかもしれない,現状を大きく変えてしまうような問題を伝えている.

連載 現場の教育力がプリセプターシップを変える―事例で学ぶ方法と理論④

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“お手本”を求められるプレッシャー

 プリセプターや後輩を指導する役割を初めて担う時,多くの看護師は強い責任感のもと,「後輩の質問に的確に答えられる先輩でありたい」と思う.ところがいつの間にか,「先輩なのだからどんなことも知っていなければならない」という気持ちを強く抱くようになりがちである.後輩に何か尋ねられた時,自信を持って答える自分自身に,誇らしさとやりがいを感じる.しかし逆に,質問にうまく答えられなかったり,失敗してしまったりした時,「立派な先輩でありたい」と目指す姿と自分自身との落差に,恥ずかしさ・情けなさ・怒りを感じる.これは時に,激しい自信喪失につながり,指導役割そのものに対する意欲を失わせてしまう.

 プリセプティに対する期待の高まりは,プリセプティの成長にとっても決してマイナスではない.しかし,経験できる範囲の拡大によってプリセプティの失敗も増えてくる.指導を受け入れないような態度,他のプリセプティとの到達度の差といった,プリセプターにとって受け入れ難い結果も次々と出てくるものだ.そんな時,真摯に取り組んでいるプリセプターほど,自分の指導が悪いからだと自身を責めてしまうのはなぜだろうか.

連載 対応に迷うケースに出会ったら―それでもケアをしなければならない看護師のために⑩

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ねらい

 高齢者は加齢によって身体機能が低下し,仕事や仲間さらには配偶者を失い,孤独感や抑うつ状態に陥りがちです.そんな高齢者には生きがいや楽しみが必要で,心の安らぎやときめきを感じる相手に巡り会い親しくなることで生活に張りが出てQOLの向上につながります.一方,高齢者の親密な交際は微笑ましく歓迎されることもあれば嫌悪や羨望の的ともなり,特に集団生活の場での恋愛はタブー視されてきました.個人の自由な恋愛は高齢者施設の中では保証されないのでしょうか.もし受け入れられないとすれば,どのような場合でしょうか.高齢者にとってよい影響をもたらすと言われながらも,タブーとされてきた高齢者の恋愛について考えてみましょう.

連載 ベッドサイドで活かせる―みんなの呼吸アセスメント④

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臨床のどうして? その4

PaO2の正常値はいくつ? の謎

朝に酸素吸入が中止となった術後1日目の患者さん(70歳).ルームエアー(室内気)での血液ガスの結果は,動脈血酸素分圧(PaO2)が79mmHgであり,主治医からは「酸素は中止のままでOK」との指示が出ました.でも,学校ではPaO2 の正常値は90~95mmHgと習いました.79mmHgは低酸素なのではないですか?

 今回は動脈血酸素分圧(PaO2)のアセスメントに挑戦です.

 PaO2のアセスメントは,PaCO2のように正常値より低ければ低換気,高ければ過換気という単純なものではありません.たとえば,PaO2が95 mmHgでも,患者さんの吸入酸素濃度によって正常値にも異常値にもなるのです.

 「そんなの難しそう!」

 大丈夫.PaO2のアセスメントには,誰もがつい落ちてしまいがちな落とし穴があります.「PaO2の正常値は90~95mmHg」もその1つです.でも,これらの落とし穴を上手に避ければ,正しいアセスメントにたどり着くことができますよ.

基本情報

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看護学雑誌
70巻1号 (2006年1月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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