看護学雑誌 70巻2号 (2006年2月)

特集 不安な患者さんはあなたのすぐそばに じつは身近な遺伝相談

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はじめに

 「遺伝子」や「DNA」という言葉がテレビコマーシャルにまで登場するようになっている昨今,医療の現場でのこの言葉に対するイメージはどうだろうか.多くのナースにとって,何やら難しいものという印象とともに敬遠されてはいないだろうか.あるいは,オーダーメイド医療に象徴されるように,夢の医療を実現するキーワードとして過大な期待が寄せられているかもしれない.

 そこで本稿では,遺伝子やDNAの概念をはじめとして,遺伝子と病気との関係をおさらいしつつ,すべてのナースに知ってほしい遺伝相談の基本について概説する.

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はじめに

 「遺伝子を調べれば,病気になるかどうかわかるんですか?」「遺伝子治療をすれば治るんですか?」など,最近患者さんから質問されたことはありませんか?

 そしてあなたは,「遺伝子とか,染色体とか……なんだか難しい」と思っていませんか?

 今や,研究・臨床とも,医療のすべての分野における最新のトピックスは「遺伝子・染色体・遺伝」 に関することであると言っても過言ではありません.ある日突然,皆さんは,疾患の原因が遺伝性であったり,遺伝子治療の対象であったりする患者さんと出会い,「遺伝」と向き合うことになるのです.ですから,そのような患者さんや家族をケアしていく看護職として,改めて「遺伝」について考えておきませんか? きっと,これまで苦手に思い,敬遠していた「遺伝」ではなく,看護職として普段から行なっているケアとの共通点が見つかるはずです.

 本稿では,「妊娠前に遺伝性疾患の保因者であることがわかったとき,そして妊娠後に胎児に異常が見つかったとき,ナースとしてどのように両親の意思決定を支えればよいのか」ということについて,1つの事例を通して考えてみます.

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はじめに

 先天的な障害や疾病をもって生まれてくる新生児は決して少なくない.先天異常の原因は後述するように多彩であり,また先天性であるからといってすべての異常が父母から遺伝しているわけではない.

 先天的に異常と診断されるものには,出生後すぐに集中治療を要するいわゆる重度障害新生児から,たとえば手や足の指が1本多い・少ないなどの命には関わらない小さな形態異常がある新生児まで,幅がある.

 喜びが満ち溢れているはずの新しい命の誕生の現場で,父母は子どもに何らかの異常があるという重い現実を前にして混乱する.そして周産期に関わる医療者にとっても,先天異常をもつ子どもの出生は,「遺伝子」が今日のように注目される以前から,深刻な問題として受け止められてきた.

 本稿では,わが子に先天異常があると知らされた,あるいはそのような先天異常に遺伝子が関わっている可能性を知らされた父母や家族を,どのようにケアしていくかについて概説する.

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はじめに

 成人期に発症する遺伝性疾患には,肥満症,2型糖尿病,本態性高血圧などの生活習慣病や,悪性腫瘍などがある.その他,一般的には聞きなれないかもしれないが,神経内科領域には遺伝性疾患が多く見られる.

 本稿では,成人期に発症する遺伝性疾患の患者をケアするうえで課題となる発症前遺伝子診断について概観し,実際に成人領域の遺伝相談にはどのような特徴と問題点があるかについて,筆者が関わってきた遺伝性神経筋疾患の1つである家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyroidotic polynuropaty;以下,FAPと略す)の事例をもとに考えてみたい.

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はじめに

 信州大学医学部附属病院の遺伝子診療部は,1996年に院内措置として設置された.スタート時は医師のみで対応していたが,その後臨床心理士が加わり,2000年には文部科学省より正式な診療科として認められ,専属の看護師が配置された.現在は,遺伝に関して専門的な知識を持つ臨床遺伝専門医,臨床心理士,看護師がチームを組み,相談に当たっている.

 遺伝相談に訪れる相談者は,特別な人や家族ではない.しかし,通常の診療の中で対応するのは少々困難である.なぜなら,彼らがかかえる複雑でデリケートな悩みは,個人の歴史や社会背景に大きく左右されるものであり,必ずしも疾患ごとに区別されるものではないからである.また,専門的な情報を提供するにはそれなりの時間が必要であり,通常の診療枠には収まりきらない.そこで,当院の遺伝子診療部での実際の対応について,遺伝外来受診の流れ(図)と看護師の役割を紹介する.

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はじめに

 地域保健活動従事者には,さまざまな相談を受ける中で,人々が誰にも相談できずに悩み,不安に思っていることを,適切な援助に結びつけて支援することが求められている.しかし,遺伝に関する悩みは,自主的な相談行動へと結びつくのは難しく,いくつかの働きかけが必要である.つまり,自主的な相談につなげる経過そのものが遺伝相談の一部とも言える.また,遺伝に関する心配をもつ人々が毎日の生活の質を高められるよう,暮らしの中で継続的に支援することも地域保健従事者の役割である.

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マイナス思考からプラス思考への転換

――「成人病」が「生活習慣病」と呼ばれるようになって,一般的に「生活習慣」という言葉の後には「病」が付きますね.けれども,中村先生はそこに「力」をつけて「生活習慣力」というものを提唱されていますが,それはどのようなところから生まれたのかお聞かせ願えますか?

中村 「生活習慣力」という考え方は,「生活習慣」をマイナスの面からだけ見るのではなく,その「生活習慣」が持つ「力」を向上させて,それによって元気で明るい生活が送れるようにしよう,という発想から生まれました.

特別記事 現代の保健医療実践におけるモチベーショナル・インタビューの可能性

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モチベーショナル・インタビュー(Motivational Interviewing:MI)という言葉を聞いたとき,初めて聞く言葉であるにもかかわらず,遠い記憶の痕跡を感じた.1972年出版された『きき方の理論』1)だ.この本は,「HearでなくListenこそが,円満な人間関係や創造性の源になる」と訴え,単なるハウツーものではなく,深く洞察させる名著であった.しかし,いつの間にかこの本は書棚の隅に埋もれ,いかに論理的に相手を説得することができるか,「聴く」ことより「言う」ことにエネルギーを注ぐようになっていた.

 今回,モチベーショナル・インタビューとは何かを探求する機会を与えられ,改めて『きき方の理論』のスピリットを学ぶことになった.日本には,「阿吽の呼吸」という言葉があり,「あえて言うまでもあるまい」というやり方で,ぎすぎすしない人間関係を保ってきた.しかし,人々の価値観や好みが多様化する現在にあって,「あうんは,もうあかん」のではないだろうか?

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はじめに

 現代に生きる私たちにとって病気とともに生活することは,他の誰かの事柄なのではなく,自分自身の事柄であると言えるであろう.1900年代後半における医療技術のめざましい進歩によって,生命維持装置などの医療機器が発達し,多種類の医薬品が続々と開発され,これらの医療機器と多様な医薬品を用いることで高度医療の発展という時代を迎えた.急性疾患に伴う生命の危機的状況の多くは克服されるようになり,医療技術の進歩から私たちは多くの恩恵に与った.しかしながら,生命の危機的状況を克服した人々がすべて元のその人の状態に回復あるいは治癒するかといえば,必ずしもそうではなく,慢性的状況に移行することが多いのも現実である.そのため,慢性の病いとともに私たちが毎日の生活をどのように送るかを考えることは,現代に生きる1人ひとりにとって,避けることのできない事柄である.

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はじめに

 2005年8月,ワシントンDCで開催されたAADE(米国糖尿病教育者協会)年次集会に参加した.AADEでは,2004年に糖尿病自己管理教育(DSME)指標として“AADE 7 Self Care Behaviors”が発表され,7つの具体的な自己管理行動目標が設定された.2005年の学会では,これをいかに実際の糖尿病ケアにおいて展開するかが大きなテーマとなっており,そのための手法として行動科学的アプローチやパフォーマンス理論に基づいた指導アプローチの発表が目立った.

 その中で,モチベーショナル・インタビュー(MI)は,心理療法理論と哲学に基づいた,行動変化を促すための明確な技術の枠組みをもっており,心理療法を専門としない医療者にとっても理解しやすく,臨床の場で応用できるのではないかとの印象をもった.AADE年次集会参加後に糖尿病領域でのMI専門家であるWelch先生を訪問したのを機会に,MIの日常診療への応用について考えてみた.

 なお,ここでは,広く支援を求める人という意味で「患者」の代わりに「クライアント」という言葉を用いる.

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はじめに

 1921年のBanting & Bestによるインスリンの発見は,抗生物質の発見と並び,20世紀の医学の中でも特筆すべき成功の一つである.インスリンは,医学史上,最初に臨床に用いられたペプチド製剤であり,不治の病とされていた1型糖尿病の予後を劇的に改善させた.以来80年以上にわたり,インスリン製剤の工夫と投与方法の改良が行なわれ続けてきた.

 特に,1980年のヒトインスリン遺伝子の単離は,遺伝子組み換え技術を用いたヒトインスリン生成を可能とした.これにより,製剤の安定供給が可能となった.インスリンは,遺伝子組み換え技術による医療製剤の最初の例でもあり,ここでも,医療の進歩をもたらす礎となっている.さらに,インスリン作用の分子生理学的研究および,遺伝子工学の進歩は,インスリン分子を目的に沿ってデザインし,種々の生物活性を有するインスリンアナログの開発を可能とした.

 DCCT(Diabetes Control and Complication Trial),UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study),Kumamoto studyは,血管障害の予防,進展阻止における血糖コントロールの重要性のエビデンスを示した.しかし,この50年以上前から,米国マサチューセッツ州ジョスリン糖尿病センターの創設者であるJoslin博士は,糖尿病性血管障害の進行を防ぐためには,血糖値を正常近くに維持すべきであると主張していた.Joslinの仮説が正しいと証明された今,“低血糖を惹起することなく,血糖応答をいかに正常域に近づけるか”,が糖尿病管理の要となるであろう.

 本稿では,2型糖尿病のインスリン療法がどうあるべきなのか,について述べたい.

新連載

Harmony of Life① 井上 冬彦
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生後二か月のチーターの子どもが、母親の呼びかけに「チー」と鳴いて答えた瞬間を捉えたこの写真が私の運命を変えたと言っても過言ではない。

 アフリカに通い始めて八年目、一九九五年に開催した最初の写真展のときの代表作がこの写真。これは新聞にも掲載されたため、まだ無名の新人写真家の初個展にもかかわらず、一日に一〇〇〇人以上の人々が来場してくれた。

連載 悩めることも才能だ!―宮子あずさのお悩み外来②

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がんの末期状態で回復の見込みのない患者さんがおられます.そのご家族が,病気治癒に効くという「ルルドの水」(南フランスのピレネー山脈の山麓にある町ルルドにある,マッサビエルの洞窟の泉から湧き出ている水.数多くの奇跡を起こし,多くの人の病気を治したという)を患者さんに飲ませており,ご家族がどうしても来られない場合には「飲ませてください」と私たち看護師に頼まれました.その意を汲んでやむを得ず行なっていたところ,医師に「看護師はそこまでしなくてもよい」と注意されました.また,水も長い時間が経つと悪くなるので,ご家族に内緒で定期的に新鮮な水に入れ替えておくべきかとも思うのですが,それでは意味がないのかもしれないと悩みます.その水のご利益を信じるわけではないのですが…….(35歳・女性・外科病棟)

連載 糖尿病advanced care―合併症を持つ人へのアプローチ②

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ねらい

 糖尿病がもたらす合併症のなかでも,足病変は神経障害や循環障害を伴い,初期には気づくことが遅れがちです(→Lecture).また足という部位は,他人に丁寧に見てもらったり手当てをしてもらうのがはばかられる場所でもあり,予防のためのケア不足,発見・手当ての遅れから,病状が進み,切断という痛ましい状況に及ぶ患者が今も少なくありません.

 最近は,糖尿病療養指導士や認定看護師が現場で活躍するようになり,これまで見逃されがちであったフットケアの重要性の周知と,ケアが着実に実践されるようになり,臨床現場の関心が高くなっています.糖尿病療養者が,自分の身体感覚を大切にしながら,療養方法を学習されることが看護者の願いでもあります.

 ここでは,看護師が患者の発した一言に,瞬間的にひっかかり,解釈をし,新たな看護実践を提供したフットケアの実践事例を紹介します.

連載 Let's Talk about Woman's Health⑩

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自分で見つけられる乳がんと医師も見つけにくい卵巣がん

今月は,先月号で検診の有用性についてお話しした子宮がんと並ぶ女性特有のがんである乳がんと卵巣がんのお話です.この2つのがんはとても対照的です.体表近くの乳腺に発生する乳がんは,いわば「自分で見つけられるがん」.そして腹腔内,すなわち体の奥深くでどこにも顔を出していない卵巣がんは「医師でも早期では見つけにくいがん」なのです.いずれにしても,がんの予後は,発見された時の進行期に大きく左右されますから,どちらも本人がその存在を意識して過ごすかそうでないかで,運命が変わってくると言えるでしょう.

連載 患者さんの安心のために―ナースが知っておきたい介護保険制度改革④

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 利用者は蚊帳の外に置き去りにされたまま,介護保険制度の大改定は着々と近づいています.

 毎月のように開かれる新制度準備の最前線,全国介護保険担当課長会議を取材していても,その内容の複雑さ,難解さ,泥縄状態といったらありません.

 これを当の高齢者が理解し,使いこなすのは至難の業です.退院間近の患者や家族の,先の見えない不安は増すばかり.

 「退院後,介護サービスはどうなるの?」「新しいサービスってなに?」「入れる施設は?」等々,わき上がる心配や疑問の軽減のためにも,まずは「介護サービス新体系」の全体像をナースがつかんでおくことが必要です.

連載 看護の未来を決めるのは誰?⑭

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 1999年,米国有数の医療系シンクタンクであるThe Institute of Medicine(IOM)は,3360万人の入院患者を対象にした医療実態の調査を行ない,その分析結果を発表した.レポートのタイトルは“To Error is Human”.『人は誰でも間違える――より安全な医療システムを目指して』(日本評論社)という邦題で2000年に出版され,わが国の医療安全に関する考え方にも大きな影響を与えた報告書である.IOMが報告した医療事故の実態と分析は,病院で患者ともっとも長い時間接することになる看護師にとっては身につまされる内容である.医療事故は,あらかじめ回避することが可能な人災であることが多い.しかし,100%の確率で事故を防ぐことは不可能である.被害を受けた患者とその家族の苦痛に間近に接し,さらに当事者となれば加害者になってしまう医師や看護師にとって,「To Error is Human=人は誰でも間違える」という表題は胸に突き刺さる.

 日本でも医療事故とその訴訟は,年々,増加する傾向がある.日本での医療事故に関連する医療訴訟件数は,1992(平成元)年には1580件,2002(平成10)年には2706件に増加し,1.7倍になった.このうち,看護師を対象にした訴訟は27件から56件に増加し,2倍以上になっている.なぜ,医療事故は減らないのか? 医療水準や看護水準が落ちているのか,あるいは病院の環境が悪化しているのか,それとも今まで泣き寝入りしていた患者とその家族が訴訟を起こすようになったからなのか.

連載 現場の教育力がプリセプターシップを変える―事例で学ぶ方法と理論⑤

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どうしたら病棟全員で支えられる?

 プリセプターだけが新人看護師教育の重荷を背負うことのないように,同僚や先輩看護師は何ができるのだろうか?

 最近多くの看護系書籍や雑誌で,病棟全員で支えるプリセプターシップ,全員が参加する人材育成,というタイトルの記事や実践報告を目にする.多くの施設で,新人教育にどのように周囲が関わるかに関心が寄せられていると同時に,プリセプティとプリセプターを取り巻く病棟メンバーが効果的に関われるかどうかが,プリセプターシップの成果に大きく影響することをうかがわせるものである.

連載 対応に迷うケースに出会ったら―それでもケアをしなければならない看護師のために⑪

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 前回まで,「看護倫理症例集作成の試み」研究班のメンバー1)が看護職の倫理に関する事例を提示し,その分析や対応について説明を加えてきました.さまざまな領域の事例を紹介しましたが,看護職の活動範囲は広く,取り扱えなかった問題もあります.

 そこで今回はそのような事例をまとめて,倫理原則(自律性,無危害,善行,正義・公正,真実,忠誠),看護専門職としての倫理,患者の権利との関連を鑑みながら,倫理的問題の捉え方と対処の視点について述べます.倫理問題は,関係者の状況や背景により多様な因子を含んでいるため,ここに挙げた原則を基に,具体的にあなたが遭遇した事例にあわせて,考えやすい原則や権利などを検討しながら読んでいただければ幸いです.

連載 ベッドサイドで活かせる―みんなの呼吸アセスメント⑤

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臨床のどうして? その5

 酸素飽和度が正常値でも酸素不足になっていることがある?

 トイレまで歩くのにも息切れしてしまう患者さんがいます.パルスオキシメータで酸素飽和度(SaO2注)をチェックしたら98%.でも,安静時の呼吸回数は25回/分を超えており,補助呼吸筋の緊張も出ていました.それなのに,その後もSaO2は正常値であり,呼吸状態も悪化していません.なぜ呼吸の頑張りサインが出ているのですか?

基本情報

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看護学雑誌
70巻2号 (2006年2月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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