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はじめに
脊髄損傷は四肢麻痺,膀胱直腸障害,呼吸障害,自律神経障害など重篤で永続的な症状を有する脊椎外傷疾患である.本邦では,脊髄損傷患者の年間新規発生数は5,000人,総数は20万人前後と推測されている.今まで受傷時の年齢は20歳前後と60歳前後に二峰性ピーク分布であったが,近年では高齢者転倒による受傷が増加しているのが特徴である1,2).健常人が予期せぬ事故により受傷後から生涯を通して重度の障害を抱え,重いハンディキャップを背負い,その社会的損失は非常に大きい.
脊髄損傷の病態は,直達外力による脊髄組織の圧挫である一次損傷と,出血,浮腫などに起因する組織の壊死や損傷神経線維の脱髄,軸索損傷,炎症などの二次損傷からなり,二次損傷を予防することがその後の治療成績に大きく関与する.脊髄損傷の症状としては,損傷髄節以下に運動麻痺や感覚障害,自律神経障害などを来す3).急性期脊髄損傷の標準治療は,脊椎の骨折・脱臼に対する整復固定術や脊髄の除圧術といった手術療法のみであり,これら急性期の治療を終えると,理学療法・作業療法といったリハビリテーションで自然回復を期待するのが脊損治療の現状である.急性期の追加治療として,受傷早期に用いられていたプレドニゾロンの大量投与療法は,その有効性が限定的であり副作用のため推奨されていない4).損傷脊髄そのものを修復する治療法はいまだに存在せず,再生医療が期待されている.
われわれは1990年台より脊髄損傷に対するさまざまな細胞を用いた再生医療の基礎研究を行ってきた.そのなかで骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)は,脊髄損傷以外の疾患である,脳梗塞やパーキンソン病,認知症など,他の多くの分野の再生医療においても有効的な細胞であることがわかった.われわれはこれまでに,脊髄損傷動物モデルに対するMSCの移植を施行し,良好な機能回復が得られたことを報告してきた5).また,脳梗塞に対して骨髄由来のMSCを経静脈的に移植し,著明な治療効果が認められるという研究結果を多数報告している6〜9).これらの研究結果に基づき,2007年札幌医科大学にて自家MSCを用いた細胞移植療法として,脳梗塞患者を対象にした臨床試験を行った.この試験で良好な成績が得られたため,2013年4月より,脳梗塞に対する自家MSCの生物製剤としての薬事承認を目指した医師主導治験(Phase 3)の実施を開始した.そして2013〜2017年で,脊髄損傷に対するMSCの静脈内投与の医師主導治験(以下,本治験)を行った.
本稿では,われわれがこれまでに行ってきた脊髄損傷に対するMSCを用いた再生医療研究の結果と,自己培養MSC移植療法の医師主導治験の概略と今後の展望について述べる.
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