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はじめに
日本脳卒中データバンクの膨大なデータ1)によると,急性期の脳血管障害患者が退院する時点において,日本版modified Rankin Scale(日本版mRS)が4(中等度〜重度障害:歩行や身体的要求に要介助)あるいは5(重度障害:寝たきり,常に要介助)である例は,ラクナ梗塞(n=22,675例)では23%,アテローム血栓性梗塞(n=24,135例)では29.1%,心源性脳塞栓症(n=20,134例)では37.6%,高血圧性脳出血(n=14,602例)では42.4%,くも膜下出血(n=5,242例)では17.8%であった.このように,急性期治療を経た後,mRSが4あるいは5である例は,長期的予後においても何らかの身体的介助を要するとともに,高次脳機能障害をも残存すると考えられる.すなわち,脳血管障害患者の少なくとも30%以上は,高次脳機能障害が後遺すると推定される.
東京都が2008年に高次脳機能障害者実態調査2)を施行したところ,通院している脳血管障害患者(n=734例)の高次脳機能障害の内訳は,失語症が44.0%,社会的行動障害が40.1%,記憶障害が39.2%,注意障害が38.1%,遂行機能障害が24.7%であり,社会的行動障害としては,意欲の障害18.5%,抑うつ状態17.0%,興奮状態8.0%,情動の障害6.8%と続いた.高次脳機能障害者を介護する家族の負担感は,以上の高次脳機能障害とそれから派生する失職や引きこもりなどの社会的帰結に対する「精神的負担感」である.ともすると精神的負担感は,肉体的負担感よりも重く介護者にのしかかり,介護者の精神的健康,ひいては肉体的健康にも影響を及ぼす.その結果は,翻って高次脳機能障害者そのものに悪影響を及ぼし,回復を阻害する要因にもなる.
本稿ではまず,筆者が2018年に高次脳機能障害者(原因疾患は脳血管障害以外に頭部外傷などを含めた)を介護する家族に対し実施した介護負担感に関する実態調査結果を示し,どのような心理的サポートが求められているのかを示す.次いで,筆者らが今日まで行ってきた家族支援について述べたいと思う.海外の文献的考察は,拙著「外傷性脳損傷者・家族のメンタル支援3)」を参照していただきたい.
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