総合リハビリテーション 36巻9号 (2008年9月)

特集 障害者スポーツ

今月のハイライト
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 今月号では障害者スポーツを取り上げ,その魅力を多角的に紹介するべく,各方面の多くの方に執筆をお願いしました.障害者スポーツを支援すること,周囲の人に紹介すること,観て楽しむこと,など,たくさんの可能性がわれわれの前に拡がっています.

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はじめに

 日本での障害者の定義は,障害者基本法により「身体障害,知的障害又は精神障害があるため,継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」とされている.しかしながら,国際的に障害者の定義は統一されてはおらず,それゆえに障害者スポーツの明確な定義はない.また近年は,障害者の特性に応じた対応,つまりスポーツルールや用具の工夫が行われている.障害の種類や程度に合わせること(adapted)により,スポーツ参加が可能になるとういう概念でアダプテッドスポーツという用語が用いられたり,障害者を特別視せず,障害の有無や年齢,性別にかかわらず,全ての人々を包括した(inclusive)スポーツということからインクルーシブスポーツという用語などが使用されている.ここでは障害者スポーツを,生理的な機能低下を含めて何らかの障害をもつ人が参加するスポーツと考え,また,スポーツを行うこととして扱う.

 本稿では一人でも多くの読者が,障害者スポーツの重要性を知り,一人でも多くの障害者にスポーツを紹介していただくことを目的として,その歴史と特殊性,利点について概説する.

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スポーツの教育

 知的障害のある人の多くは,障害のない人同様に,学校教育における体育学習を介しスポーツを身につけていく.障害のない人は,そこで培った知識や技能をもとに,クラブ活動や個人的な趣味へスポーツライフを発展させる.さらに,高レベルのスポーツや生涯スポーツとして生活に取り入れ,豊かな生活を築くための一助とする人も多い.しかし,知的障害のある人はこのようなスポーツライフを形成することが困難な状況にある.

 その理由として,まず,知的障害のある人の運動能力は,一般的に障害のない人と比較すると発達が遅れており1-3),それを克服するための方法論がはっきり確立されていない点が挙げられる.そのために,学校教育終了時までに運動発達の遅れを取り戻せない人も多く,既存の地域スポーツの場に参加することが難しい.

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はじめに

 近年,バリアフリーやノーマライゼーション理念の広がりにより,障害者スポーツに対する関心が高まっている.

 障害者スポーツに関する研究は,リハビリテーションの方法1),競技者への指導法2)などを中心に始まった.その後,日常的なスポーツ活動3),個人競技出場選手を対象にしたスポーツ活動実態調査4),また地域におけるものとして,車いすスポーツクラブ現状報告5)など,スポーツを行う者やそれを取り巻く環境などを取り上げたものがみられるようになった.障害者スポーツの多くは,バリアフリーが考慮された公共の施設で行われている.(図1)

 そこで本稿では,地域の公立障害者スポーツ施設の現状と,その役割や今後の地域における障害者スポーツネットワークの形成について考察を行う.

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はじめに

 パラリンピックの創始者,Guttmannは「失った機能を数えるな,残った機能を最大限に活かせ」という言葉を残している.川村義肢(以下,弊社)のミッションステートメントの一つ「Think Possibility!」は,その教えから由来している.個々のもつ可能性を信じて,「『できる』を『ともに』考えていこう!」という宣言である.「できない理由」という,付加価値を生まないことをいくら並べても生産性は上がらない.つまり,前進(成長)することができないのである.

 障がい者スポーツには,勝つことを目的としたアスリートレベルのものだけではなく,社会参加や普及が目的であるレクリエーションレベルのものもあり,幅が広い.本稿では,弊社におけるサポート体制について,いくつかの事例を用いながら説明したい.また,「life without limitations」を理念に掲げる弊社のビジネスパートナーである義肢パーツメーカー,オズール社(アイスランド)が取り組むチーム・オズールの活動などについても併せて紹介したい.

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「障害者スポーツを知り,知らせる,ファンのメディアを」

 そんな想いから,国際障害者スポーツ写真連絡協議会(以下,パラフォト)を立ち上げて約8年になる.2000年,シドニーパラリンピックの写真配信にはじまり,4年に2回のパラリンピック(夏,冬)および国内外の障害者スポーツの現場からの情報を,インターネットで配信している.また,パラリンピック時に各地に「増える写真展註)」を呼びかけ,多くの人に障害者の競技を伝えている.シドニーパラリンピックの写真配信では,不安定な回線事情にもかかわらず,多くの人がパラフォトのホームページにアクセスした.コンテンツの役割と可能性を大きく感じて取材・配信を終えた.

 しかし,会期が終わると,取材を継続する人はなく,人々の関心も遠ざかったかのようだった.当時,障害者スポーツは健常者のスポーツと区別され,認知度がきわめて低かった.魅力ある障害者スポーツをより高めていくには,伝え手の役割は大きく,この分野について自分たちはあまりにも不勉強すぎると感じた.「スポーツ」,「障害」の基本的なとらえ方を見直し,人々の関心を高める新たな「情報」が必要と考えた.従来のメディアを真似るのではなく,まず,自分たちが見つめ直し,そのうえで,価値観がスイッチすることを発信していかなければ伝わらないと考えた.そこで2001年,障害者スポーツを学びながら伝えるカメラマン,ジャーナリストのネットワークを目指し,NPOのメディアとして法人化した.

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 一般に「障害者ゴルフ=車いすゴルフ」と思っている方が多いのではないだろうか.しかし,車いす使用の障害者というのは障害者全体を表現するほど多いわけではない.むしろ少数派といったほうが正しい.大雑把に障害と言っても,視覚障害,聴覚障害,上肢・下肢・上下肢切断,知的障害,精神障害,片麻痺,人工心臓・膀胱などを用いる内部機能障害,とこれだけあり,私たちも知らない障害がいくらでもある.そのなかに,車いすを使用する障害者がいる.

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 「レジャー白書2007」によると,わが国の余暇活動におけるボウリングの参加人口は2,510万人で,大変人気のあるスポーツである1).障害者も用具を工夫することで容易に参加することが可能である.本稿では,視覚障害者のボウリングについて紹介する.

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 それは,三次元の新しい世界を知った喜びによって派生し,「生きがい」さえも与えてくれる.エメラルドグリーンの海,白い砂,水中に降り注ぐ太陽,色とりどりのさんご礁と魚,何よりもそこで呼吸している自分自身,そして,ダイビング後の達成感と爽快感,人と人の触れ合い‥‥.

 こんなに素晴らしい世界を与えてくれる大自然の海は,いったい誰のものだろうか? それは,地球上の「命ある全て」のものである.ちょっとした勇気と好奇心があれば,あとは行動するのみ.それによって幸せを感じることができるのである.

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 車いす陸上の種目は,主にトラックレースとロードレースに分かれる.トラックでは100mの短距離走から5,000mの長距離走,ロードでは5kmや10kmの高速レースにハーフマラソン,フルマラソンまでさまざまである.それぞれの障害レベルにより4つのクラスに分かれている.頸椎損傷の最も重いクラスから下肢切断の最も軽いクラスまで,それぞれのクラスで闘うので誰もが平等に闘える.私は400mから5,000mのトラック種目に加え,マラソンに参加している.

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 「完全参加と平等」 このスローガンは,1980年1月30日に国連総会で決議された国際障害者年行動計画の目標である.当時医学部4年生であった筆者は,同じ大学の障害者サークルの学生から頼まれ,医学部学生大会にこのスローガンを大きく掲げた記憶がある.その時は,まだリハビリテーション医になることは考えておらず,障害者を取り巻く問題について深く認識していたわけではない.謂わんやこのスローガンに込められた並々ならぬ決意や重みには思い至っていなかった.

 当時は,ようやくWHO(世界保健機関)によって国際障害分類(ICIDH)が提起された頃であり,リハビリテーション医学においても,障害を機能障害,能力障害,社会的不利など階層的に分析し,日常生活や社会生活における自立に向けた戦略が確立しつつあった頃である.2001年5月,WHOはICIDHを国際生活機能分類(ICF)に改訂し,活動や参加が生活機能を構成する重要な用語として登場した.今では,社会参加はリハビリテーションの主要な目標であると認識されるようになってきたが,1980年において「完全参加と平等」という目標が提起されていたことには,改めて先駆者の方々の聡明さに敬服する.

講座 脳科学の進歩とリハビリテーション・1【新連載】

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はじめに

 物に手を伸ばしたり,目標に目を向けるという運動はありふれていて,日常,意識に上ることはない.しかし,制御すべき関節や筋肉の数も多い上肢の制御は,工学的にも困難な課題である.眼球の制御も,頭部の動揺に伴う像の揺れを補償しながら,急速な眼球運動(サッカード)を正確に実現するのは離れ業に近い.これらの運動は正確なだけではなく,制御全体が最適化されているという1-3).手の到達運動の場合,手先の速度がベル型になることが知られているが(図1a),このような運動は力の変化を最小にしたり(トルク変化最小モデル2)),終点での誤差の分散を最小化する(終点誤差分散最小モデル3))ような最適な運動制御に近い.とくに,誤差分散最小モデルは腕運動だけでなく,サッカードの筋電活動パターンも再現することが知られている.このモデルは,「無駄な力を使わない運動が最も終点のバラツキ(分散)の小さい正確な運動になる」と要約できる.われわれは気付かないままに,無駄のない動きを身につけているらしい.

 腕や眼球の運動の正確さと滑らかさは,小脳が障害されると失われる(図1b).しかも,新たに生じた運動の誤差を補正することが困難になる4-7).小脳が学習を通じた運動の最適化に重要な役割を果たしていることは明らかであるが,どのようにして小脳が運動を最適化するのか,その仕組みは解明の途上である.本稿では,最適化の問題に取り組む前提となる小脳の情報表現や学習に関する最近の議論を紹介した後,今後を展望する.

実践講座 障害児のための社会資源・1【新連載】

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はじめに

 近年の核家族化が進む状況下での子育ては,かつて隣近所で気軽に受けられたはずの育児のアドバイスや助け合いなどが十分に機能しないなかで,さまざまな支援を必要としている.たとえば両親ともに仕事をもつ家庭,離婚や死別などによる一人親世帯,父親の育児参加が望めない家庭など,いずれにおいても健全な育児を支えるためには,保護者の精神保健に努め,児童虐待のリスクから子供を守る地域ぐるみの支援が求められている.さらに,子供に障害があるための育てにくさが加わるとしたら,子育て支援のニーズが一層,高まることは明らかである.

 障害児の支援ニーズを考えるとき,子供の障害像のみに目を奪われることは大変危険である.障害のある子供を育てている家庭がどのような環境に置かれ,どの程度の育児力があるかを総合的に評価することは,さまざまな社会資源を活用して支援計画を立てるうえで,大変重要なテーマである.

 子育てをめぐる環境が大きく変化しているなかで,障害のある子供たちを支援する社会資源は,今どのようになっているのか.本稿では,障害児の支援ニーズを概観し,必要とされる社会資源の概略を紹介する.また,現状の課題と今後の展望について述べる.

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要旨:スモン患者は,現在,合併症および加齢による二次障害に苦しめられている.二次障害の一つである転倒事故による骨折は,寝たきりの生活を余儀なくさせ,生活の質を低下させる.そこで今回,スモン患者の基本移動動作時間を測定することで,それが転倒予測に有用かどうかを検討した.2000~2002年の3年間のスモン検診に参加した44名を対象とし,基本移動動作(横移動,回転移動,垂直移動,10m歩行)時間と3か月間の転倒回数を調べ,その関係について検討した.その結果,転倒が多発する各基本移動動作の時間帯があること,垂直移動動作時間においては転倒回数と有意な正の相関関係があることがわかった.これらのことより,スモン患者の基本移動動作時間を測定することでスモン患者の転倒危険性が高まったことを予測することができ,転倒防止にこの測定が役立つことが示唆された.

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要旨:肩関節運動における肩甲上腕リズムはよく知られているが,鎖骨を含めた肩甲骨,上腕骨の協調運動に関する報告は少ない.本研究では,上腕骨挙上(肩関節屈曲と外転)における鎖骨・肩甲骨の運動について,座標移動分析を用いて検討した.対象は肩関節可動域制限のない健常男性7名であった.肩関節屈曲および外転,それぞれ0°,30°,60°,90°,120°,150°,最終可動域(180°)での単純X線正面像から,鎖骨傾斜角度,肩甲骨上方回旋角度を測定した.座標移動分析では,胸鎖関節を支点として,肩鎖関節,肩甲棘内側端および肩甲骨下角に座標軸を作成し,肩関節屈曲と外転運動における移動方向・量を測定した.肩甲骨上方回旋角度は肩関節屈曲,外転運動間に変化はなく,各角度間で有意差を認めなかった.鎖骨傾斜角度は60°~120°の範囲で屈曲および外転運動間に有意差を認めた.座標移動分析によると,肩関節屈曲では90°もしくは120°までは主として肩鎖関節を支点とした肩甲骨上方回旋が生じ,屈曲120°または150°以降で肩甲骨上方回旋の支点が変化している可能性が示された.また,肩関節外転では90°まで肩甲棘内側端を棘突起に接近させ鎖骨を後退させながら,すなわち,肩甲骨を脊柱側に傾斜させることで肩甲骨を上方回旋させていた.このことから,肩関節屈曲と外転では上肢挙上に伴う肩甲骨上方回旋角度間に有意差を認めないが,肩甲骨上方回旋の運動様式に相違があることが明らかとなった.肩甲骨の上方回旋には鎖骨の運動が深く影響していることが確認できた.座標移動分析法は,上肢挙上に重要な鎖骨と肩甲骨の運動解析に有用な方法の一つと考える.

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はじめに

 1980年代以降のRobinson1)の精力的な研究をはじめ,post stroke depression(PSD)は脳卒中後のリハビリテーションに大きな影響を及ぼす病態として知られてきた.その一方で,日常的な脳卒中診療においてPSDが見落とされたり,他の病態と誤解されることもある.今回,脳梗塞発症の約2か月後から,注意障害,記憶障害,遂行機能障害を思わせる症状が持続,遷延しており,家族がマス・メディアでみた高次脳機能障害の存在を疑って当科を受診させた症例を経験した.この症例は,PSDと診断して適切な抗うつ治療を行い十分なレベルにまで改善した.脳卒中後のリハビリテーションを考えるうえでも示唆的な症例と思われるので報告する.

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はじめに

 本邦における頭部外傷者に対する認知リハビリテーションでは,注意障害に対する注意力トレーニング1,2)や記憶障害に対する外的補償手段を用いたアプローチ2,3)等がよく行われている.

 しかし,頭部外傷による高次脳機能障害者の認知リハビリテーションの難しさは,注意力障害があるから注意力トレーニング,記憶障害があるから記憶トレーニングというような,従来のリハビリテーションアプローチでは容易に訓練に導入できない点にある4).それは高次脳機能障害が単一の認知障害にとどまらず,疲労,動機づけ,感情,障害認識等に関する問題が複雑に重層的に絡み4),認知と行為全般にわたる多彩な症状を呈するからである5)

 このような頭部外傷者に対する訓練導入の難しさから,Ben-Yishay6)は治療共同体(therapeutic community)の重要性を主張している.それは,脳損傷患者が,安全である,尊敬されている,希望があると感じることができるような治療環境的枠組みを設定し,そのような枠組みのなかでこそ患者は自己の認知能力の限界に挑戦できる,という考えに基づくものである4,7).その治療環境的枠組みは,構造化された複数のグループカウンセリングと個別トレーニング,カウンセリングから成り立っている7)

 ところでリハビリテーションにおいては,その効果を評価することが重要となる.本邦における認知リハビリテーションでは,標準化されたテストが一般的に多く用いられている.しかし標準化されたテストは,他の患者や平均値との比較ができるという長所がある反面,その患者固有の障害やわずかな障害,回復におけるわずかな変化を捉えることができないという短所をもつ8,9).そのために,個々に障害像が異なる高次脳機能障害患者の認知リハビリテーションにおいては,その評価に際して行動を直接観察し分析することも重要となってくる9)

 そこで今回の症例報告では,治療共同体の考えに基づいて構成された治療環境12)のなかで,構造化されたグループカウンセリングを行い,そこでの回復過程を,行動を具体的で明確な用語で記述し,観察し,記録して分析していく応用行動分析の手法を用いて検討することを目的とした.

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要旨:〔目的〕保存的療法継続中の変形性股関節症(変股症)患者のQOLを調査し,運動療法や医師,理学療法士(PT)の指導経験の有無がQOLに与える影響を明らかにすることを目的とした.〔対象〕保存的療法を継続している女性変股症患者83名であった.〔方法〕SF-36とアンケートによる調査を行い,統計学的に解析した.〔結果〕ロジスティック回帰分析から,身体的健康度(PCS)に影響を与える因子に「病期」,「運動療法の有無」,精神的健康度(MCS)に影響を与える因子に「運動療法の有無」,「医師やPTからの指導経験の有無」が抽出された.〔結語〕変股症に対する保存的療法の効果や限界に関する研究は,画像所見や身体機能を評価しているものが多く,身体的・精神的QOLも含めて手術の適応や時期を報告している研究は非常に少ない.今回,保存的療法を継続している変股症患者のQOLの維持・向上には,運動療法の継続や医師,PTの関わりが重要であることが示された.

連載 新しい義肢のパーツ

足継手と足部 大石 暁一 , 山﨑 伸也
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 今号では,義足足継手および足部について紹介する.足部には形状の復元だけでなく,歩きやすさ,さらに最近では走るなどの機能が求められ,膝継手同様に著しい発達を遂げた.無軸のものと,単軸や多軸の動く軸を有する機構をもつものがある.また近年では,歩行周期中にエネルギーを蓄積し,それを放出することにより前方への推進力となるようなエネルギー蓄積型足部が多く用いられるようになっている.

連載 印象に残ったリハビリテーション事例

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上肢麻痺の分布の神経基盤

 リハビリテーション医学に携わる医師にとって,患者の病態を科学的根拠に基づいて理解してリハビリテーション介入を工夫し,結果としてその妥当性が確認できることは大きな喜びの一つであろう.

 さて,脳卒中の上肢麻痺は,遠位筋優位に障害が強いのが大半だが,近位筋が優位に障害されている場合にも時にみられる.このような例の場合,徐々に近位筋の分離が増して機能予後の良い例と,指先が動いても肩甲帯や上腕のコントロールが悪く,実用的使用にこぎつけない例とが想定される.私たちは先に,皮質下の初回脳卒中に起因する遠位筋優位麻痺と近位筋優位麻痺との臨床的特徴と,神経機能検査,リハビリテーションによる予後の相違について検討した1)

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はじめに

 近年の診療報酬改定により,診療体系が疾患別となり,さらにリハビリテーションの算定期限が設けられるようになった.そのため,長期入院を継続する機会が少なくなってきている.これは,治療の不用意な長期化を制限できる反面,発症から半年以降になっても症状の変化を認める症例では,算定期限内,回復期の期限内にリハビリテーションが途中で終了されることが少なくない.とくに経験年数の若い医師やセラピストにとっては,半年以内に変化がなければ,その後は全く変化が認められないと思えてしまうことも多い.しかし,時間経過とともに徐々に機能障害が改善し,ようやく能力改善に向けた訓練が可能になる症例が少数ながら存在する.とくに脳外傷後の患者では,米国のデータベース研究によると受傷後1年後でもFIM(Fuctional Independence Measure)の点数が改善しており,回復に時間を要する1).今回,時間を経てから入院リハビリテーション加療を行った症例を紹介する.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 ショーペンハウアー(1788~1860)は人間心理に関する透徹した洞察家として精神分析の先駆者ともみなしうる人物であるが,彼が1851年に発表した『処世術箴言』(橋本文夫訳;『幸福について』,新潮社)の第5章「訓話と金言」には,障害受容的な心理に関する彼一流の認識が示されている.

 そのなかでショーペンハウアーは,「現実の災厄が生じた場合にいちばん有効な慰めとなるのは(中略)われわれの苦悩よりももっと大きな苦悩を眺めることであり,これに次いでは,われわれと同じ羽目にある人たちすなわち災厄をともにする人たちと交わることである」として,自分と似た境遇にある人々の存在を知ることで,災厄に伴う孤独感や自己特別視から脱することの重要性を説く.また,「すでに不幸な事件が起きてしまった場合(中略),こんなにならなくても済んだかもしれないとか,ましてやどうしたら未然に防げたろうかなどということは,考えてみないくらいにするがよい」と,今さらどうしようもないことの原因は問わないほうがよいとも主張する.そんなことをしても苦痛が増してやりきれなくなるからで,それよりは,「すべて何事かが起きるのは,必然に起きるのだから,防ぐことはできない」といった宿命論に逃れるほうがよいと語る.もっとも,明らかに自分に過失がある場合は,大した間違いではなかったなどと取り繕うより,「潔くその間違いを承認し,それをそのままはっきりと見極めて,今後はこういった間違いを避けようという決心を固める」ほうが,将来のために有効な戒めになるとも助言している.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 「ふみ子の海」(監督/近藤明男)は泣かせるだけではない.“教育権保障は,単に学びの保障ということではなく,児童を過酷な労働から解放していく側面もあったのだ”という書物や講義で得た知識がストンと胸に落ちるのだ.「夜あけ朝あけ」(56年),「千羽づる」(89年)に連なる児童映画の傑作であることに加えて,障害者問題史,障害児教育史の貴重なテキストでもあるのだ.

 本作は,後に新潟県の高田盲学校で教鞭をとる粟津キヨ(1919~1988)の少女時代の体験をベースにしている.

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文献抄録

編集後記
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 書店に行くと各出版社のさまざまな図書目録がおいてあります.短い紹介文のついた目録に目を通すと本の大まかなストーリーが分かり,楽しいです.私も最近,自分が読んだ本の目録を作ることにしました.きっかけは先日,ある著者の名前が雑談にのぼったとき,その方の作品を読んだことを忘れ,すぐに誰かのことか分からなかったことです(ショック…).周囲でこういった記録をつけているという話はあまり聞きませんが,中学時代に友人から読んだ本や観た映画をまとめるノートをもらったことがあります.そんなグッズがあるくらいだから,記録を残している人は意外に多いかもしれません.紙に感想や簡単な内容を書いて残せば記憶の整理になるし,日記代わりに続けてみるのもいいかと思います.読書の記録ならば,日記を読み返したときほど気恥ずかしくならずに済むので気が楽です.ある程度まとまったら,親戚の子どもに夏休みの「読書感想文の参考資料」としてあげようかな.恐らく中身は小学生が読むのに丁度よいレベルなので.

基本情報

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総合リハビリテーション
36巻9号 (2008年9月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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