Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ショーペンハウアーの障害受容論―『幸福について』第5章「訓話と金言」より
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.912
発行日 2008年9月10日
Published Date 2008/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101342
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ショーペンハウアー(1788~1860)は人間心理に関する透徹した洞察家として精神分析の先駆者ともみなしうる人物であるが,彼が1851年に発表した『処世術箴言』(橋本文夫訳;『幸福について』,新潮社)の第5章「訓話と金言」には,障害受容的な心理に関する彼一流の認識が示されている.
そのなかでショーペンハウアーは,「現実の災厄が生じた場合にいちばん有効な慰めとなるのは(中略)われわれの苦悩よりももっと大きな苦悩を眺めることであり,これに次いでは,われわれと同じ羽目にある人たちすなわち災厄をともにする人たちと交わることである」として,自分と似た境遇にある人々の存在を知ることで,災厄に伴う孤独感や自己特別視から脱することの重要性を説く.また,「すでに不幸な事件が起きてしまった場合(中略),こんなにならなくても済んだかもしれないとか,ましてやどうしたら未然に防げたろうかなどということは,考えてみないくらいにするがよい」と,今さらどうしようもないことの原因は問わないほうがよいとも主張する.そんなことをしても苦痛が増してやりきれなくなるからで,それよりは,「すべて何事かが起きるのは,必然に起きるのだから,防ぐことはできない」といった宿命論に逃れるほうがよいと語る.もっとも,明らかに自分に過失がある場合は,大した間違いではなかったなどと取り繕うより,「潔くその間違いを承認し,それをそのままはっきりと見極めて,今後はこういった間違いを避けようという決心を固める」ほうが,将来のために有効な戒めになるとも助言している.
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