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講座 脳科学の進歩とリハビリテーション・1【新連載】
運動学習と制御―小脳における運動最適化の観点から
Motor learning and motor control: from the viewpoint of optimization in the cerebellum.
山本 憲司
1
,
北澤 茂
2
Kenji Yamamoto
1
,
Shigeru Kitazawa
2
1独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
2順天堂大学医学部生理学第一講座
1Department of Molecular Neuroimaging, Molecular Imaging Center, National Institute of Radiological Sciences
2Department of Neurophysiology, Juntendo University School of Medicine
キーワード:
運動学習
,
制御
,
小脳
,
プルキンエ細胞
Keyword:
運動学習
,
制御
,
小脳
,
プルキンエ細胞
pp.861-867
発行日 2008年9月10日
Published Date 2008/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101332
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はじめに
物に手を伸ばしたり,目標に目を向けるという運動はありふれていて,日常,意識に上ることはない.しかし,制御すべき関節や筋肉の数も多い上肢の制御は,工学的にも困難な課題である.眼球の制御も,頭部の動揺に伴う像の揺れを補償しながら,急速な眼球運動(サッカード)を正確に実現するのは離れ業に近い.これらの運動は正確なだけではなく,制御全体が最適化されているという1-3).手の到達運動の場合,手先の速度がベル型になることが知られているが(図1a),このような運動は力の変化を最小にしたり(トルク変化最小モデル2)),終点での誤差の分散を最小化する(終点誤差分散最小モデル3))ような最適な運動制御に近い.とくに,誤差分散最小モデルは腕運動だけでなく,サッカードの筋電活動パターンも再現することが知られている.このモデルは,「無駄な力を使わない運動が最も終点のバラツキ(分散)の小さい正確な運動になる」と要約できる.われわれは気付かないままに,無駄のない動きを身につけているらしい.
腕や眼球の運動の正確さと滑らかさは,小脳が障害されると失われる(図1b).しかも,新たに生じた運動の誤差を補正することが困難になる4-7).小脳が学習を通じた運動の最適化に重要な役割を果たしていることは明らかであるが,どのようにして小脳が運動を最適化するのか,その仕組みは解明の途上である.本稿では,最適化の問題に取り組む前提となる小脳の情報表現や学習に関する最近の議論を紹介した後,今後を展望する.
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