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はじめに
本邦における頭部外傷者に対する認知リハビリテーションでは,注意障害に対する注意力トレーニング1,2)や記憶障害に対する外的補償手段を用いたアプローチ2,3)等がよく行われている.
しかし,頭部外傷による高次脳機能障害者の認知リハビリテーションの難しさは,注意力障害があるから注意力トレーニング,記憶障害があるから記憶トレーニングというような,従来のリハビリテーションアプローチでは容易に訓練に導入できない点にある4).それは高次脳機能障害が単一の認知障害にとどまらず,疲労,動機づけ,感情,障害認識等に関する問題が複雑に重層的に絡み4),認知と行為全般にわたる多彩な症状を呈するからである5).
このような頭部外傷者に対する訓練導入の難しさから,Ben-Yishay6)は治療共同体(therapeutic community)の重要性を主張している.それは,脳損傷患者が,安全である,尊敬されている,希望があると感じることができるような治療環境的枠組みを設定し,そのような枠組みのなかでこそ患者は自己の認知能力の限界に挑戦できる,という考えに基づくものである4,7).その治療環境的枠組みは,構造化された複数のグループカウンセリングと個別トレーニング,カウンセリングから成り立っている7).
ところでリハビリテーションにおいては,その効果を評価することが重要となる.本邦における認知リハビリテーションでは,標準化されたテストが一般的に多く用いられている.しかし標準化されたテストは,他の患者や平均値との比較ができるという長所がある反面,その患者固有の障害やわずかな障害,回復におけるわずかな変化を捉えることができないという短所をもつ8,9).そのために,個々に障害像が異なる高次脳機能障害患者の認知リハビリテーションにおいては,その評価に際して行動を直接観察し分析することも重要となってくる9).
そこで今回の症例報告では,治療共同体の考えに基づいて構成された治療環境12)のなかで,構造化されたグループカウンセリングを行い,そこでの回復過程を,行動を具体的で明確な用語で記述し,観察し,記録して分析していく応用行動分析の手法を用いて検討することを目的とした.
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