総合リハビリテーション 35巻7号 (2007年7月)

特集 メタボリックシンドローム

今月のハイライト
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 「死の四重奏」,「シンドロームX」,「インスリン抵抗性症候群」などと呼ばれてきた病態が,世界的にメタボリックシンドロームと呼称されるようになり,現代人の食習慣,生活習慣に基づく病態として各方面から注目されています.リハビリテーションの観点からのアプローチも重要と思われ,今回,特集として取り上げることとしました.この分野の第一線で活躍されている方々が,概念から,診断,治療,将来展望に至るまで詳細に解説されていますので,読者の方々は本シンドロームに関する最新の情報を入手できることと思います.

概念 河合 俊英 , 島田 朗 , 伊藤 裕
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はじめに

 欧米諸国ならびに日本を含む多くの先進国で,動脈硬化性疾患による死亡が増加しており,ことにわが国においては全死因の30%を占めるに至っている1).近年,疫学的な検討の蓄積,分子生物学的手法の進歩により,一個人に生活習慣病といわれる肥満,高血圧,耐糖能障害,高脂血症などのリスクファクターが集積する,いわゆるマルチプルリスクファクター症候群が,動脈硬化性疾患のハイリスクな状態であることが明らかとなり,予防医学の観点から全世界的にこれを「メタボリックシンドローム」という疾患概念として扱うことが提唱されてきた.1998年に世界保健機関(World Health Organization;WHO)からの診断基準が発表され,その後,国際レベルでの各委員会,日本内科学会を中心とする委員会から各々の診断基準が発表された.2006年5月の厚生労働省の発表2)では,日本人のメタボリックシンドローム症例は予備軍を含め1,960万人と推定され,先進国を中心にその病態を一般に啓発し,疾病予防を目指す政策が模索されている.

 本稿では,メタボリックシンドロームの歴史,概念ならびにその病態生理的意味について概説する.

診断 岸田 堅 , 中村 正
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はじめに

 メタボリックシンドロームは,インスリン抵抗性,動脈硬化惹起性リポ蛋白異常,血圧高値を個人に合併する心血管疾患易発症状態である.動脈硬化症の重要な危険因子である高コレステロール血症への対策はほぼ確立され,メタボリックシンドロームは,現在,心血管疾患の重要な予防ターゲットとなっている.また,メタボリックシンドロームはライフスタイルが関与する多くの病態を含むことから,多数の分野から注目されている.

 メタボリックシンドロームの病態としては,インスリン抵抗性とその上流にある腹部肥満の役割が注目され,2005年4月には本邦8学会より,わが国におけるメタボリックシンドローム診断基準が提唱されている.2002年に成立した健康増進法に基づいて行われた「平成16年国民健康・栄養調査」の概要が2006年5月に発表された.その概要によると,40歳以上の成人約5,700万人のうち,メタボリックシンドロームに該当するものが940万人もいることが判明した.肥満に加え,いずれかの代謝異常を1項目もつメタボリックシンドローム予備軍は,1,020万人にものぼり,あわせると2,000万人近くが心・脳血管疾患予備軍と位置づけられる.これに対し,厚生労働省は,2008年より40歳以上の成人に健康診断(健診)と保健指導を義務付ける予定である.

 本稿では,本邦におけるメタボリックシンドロームの診断基準につき,今後の課題も含めて解説する.

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生活習慣の変化と肥満の増加

 われわれを取り巻く環境,生活習慣の変化は著しいものがある.第二次世界大戦前は人力作業が主であったのに対し,現在は機械化・電化・自動化の時代を経て,電子化,コンピュータ化,IT化と進んでおり,職場においては身体を動かさない労働,家庭においても快適な生活労働が指先一つで行えるようになった.食事についても,糖質,それもイモ類などを主とした食事から,動物性脂質,蛋白質の多い高エネルギー食に変わった.食料に困窮することはほとんどなく,もちろん栄養失調などなく,食物を容易かつ豊富に入手し,食べることができるようになった.

 われわれは,低栄養,栄養失調と活動性の高い生活から,過栄養(過食)と活動性低下(運動不足)があたりまえの生活に変わってきて,体格もやせから肥満に変わってきた.このような生活習慣の変化は疾病構造に大きな変化をもたらした.低栄養の時代には感染症,消化器疾患が死因の上位を占めていたが,過栄養の時代となると癌,心血管疾患,脳血管疾患がとって代わった.すなわち,過栄養,活動性低下が肥満をもたらし,その結果,動脈硬化性疾患など循環器病を増加させた.20世紀末から今世紀にかけ,肥満が健康にとって重大な問題としてクローズアップされてきた.

 この体重の増加,肥満者の増加は,多くの疾患の発症率を上げ,死亡率まで高めることとなった.

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はじめに

 メタボリックシンドロームに対する運動療法の方法や効果についての報告はまだ多くはなく,一定の見解は得られていない.メタボリックシンドロームの疾病概念は,内臓脂肪の過剰蓄積が生活習慣病と関連の深い動脈硬化の発症につながるという考え方を元にしているが,脂肪細胞の働きが明らかになるにつれ,脂肪組織の量的増加を問題とするより,脂肪細胞の機能的異常が注目されるようになってきている.

 これらのことを踏まえて本稿では,脂質代謝や糖代謝に対する運動の影響,血圧と運動という観点から話を進めるとともに,メタボリックシンドロームと関係の深い心血管性心疾患(cardiovascular disease;CVD)と運動という面からも運動療法について概説する.ただし,メタボリックシンドロームは生活習慣病の発症に大きな役割を演じており,これらの予防および治療にはライフスタイルの改善は欠かせないものとなっている.したがって,運動療法のみの効果というよりは,食事やライフスタイルの改善も含めて考えることとする.

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はじめに

 メタボリックシンドロームの中心課題である過剰な脂肪蓄積は,エネルギー摂取と消費のバランス異常から生じる.そのため,食事療法と運動療法が基本的治療法として用いられる.患者は,それらの治療法の必要性を理解しているが,その実行と継続は困難である.このような場合,治療に関する知識量ではなく,知識を行動に移し継続させる行動療法的アプローチが必要になる.多くの患者は行動療法をベースにしたライフスタイルの改善によって減量に成功する.しかし,治療抵抗性の患者,リバウンドを繰り返す患者,合併症を有する患者などには,食欲抑制薬など薬物療法を併用することも考慮しなければならない.

予防と将来展望 上月 正博
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はじめに

 本邦では,医療保健活動,学校教育の取り組み,強力な高血圧治療薬や高脂血症治療薬の登場などにより,禁煙率の向上や減塩,高血圧・高コレステロール血症のコントロールに関しては一定の成果が得られている.しかし,過食と運動不足は改まらず,肥満と糖尿病の罹患率は年々増加してきている.

 メタボリックシンドロームは飽食と運動不足のなかで増加してきた心血管疾患のハイリスク状態であり,内臓脂肪の蓄積を背景に,高血糖,高血圧,高脂血症を合併し,各種の循環器病のリスクにつながるものとしてとらえられている.

 2005年4月,メタボリックシンドロームの診断基準が日本内科学会,日本肥満学会,日本高血圧学会など8学会合同で作成された1).本稿では,メタボリックシンドロームの予防と将来展望に関し,とくにリハビリテーションの視点から何が重要かについて言及する.

巻頭言

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 筆者は最近,日本リハビリテーション医学会などでリハビリテーション科専門医の認定や広報に関わる機会が増えている.そこで改めて自分なりにリハビリテーション科専門医とは何かを考えてみたいと思う.

 専門医であるかどうかはリハビリテーション医としての存在意義に関わることで,重要なことであると思う.普段の診療では,周りの医師やコメディカルの人達からは,われわれがどういう仕事をしているかについて十分に理解され,また自分が関わる患者に対してリハビリテーション科専門医として役に立っていると思っている.しかし,一般の人々にどれだけリハビリテーション科専門医というものが認知されているだろうか.

講座 体力・1【新連載】

体力の概念 中谷 敏昭
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はじめに

 体力とは,日常生活を支障なく送る能力から,運動やスポーツを楽しむために必要な能力,病気に罹らない,暑さや寒さに耐える能力まで幅広く,行動面あるいは防衛面,身体面あるいは精神面と多元的な能力として知られている.一般的に体力というと,人間活動を行うための行動能力を指す場合が多い.これまで,国内外の研究者によって体力を定義する試みが行われてきたが,体力をどのような側面から捉えるかによってさまざまな考え方があり,時代による価値観や社会情勢の違いによって異なっている.行動体力,防衛体力,健康関連体力,生活体力と呼ばれる体力は,そういった側面から考えられてきたと言える.

 本稿では体力の考え方を紹介するとともに,健康と体力の関係や高齢社会で自立していくために必要な体力について説明したい.

実践講座 リハビリテーションにおける精神症状への対応・4

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はじめに

 せん妄は総合病院において医療者が出会う,もっとも身近な精神症状であろう.この状態ゆえに,患者は,点滴の自己抜去,興奮,安静を保てないなど,「治療に非協力的」となる.しかし対応次第では,原疾患の治療続行が全く不可能になるのはまれであろう.一方で,筆者の狭い経験でも,せん妄で興奮状態となり,「治療不能」として治療半ばで退院となった例や,なかには「精神病なので精神病院に転院して欲しい」と主治医から説明され,困惑して精神科外来に訪れた家族の例もあった.

 確かに幻覚・妄想があり,興奮しているせん妄患者は,いかにも“精神病”の罹患を思わせるかもしれない.しかし,せん妄はあくまで一過性の状態であり,いわゆる精神病ではなく,回復するものであることを忘れてはならない.それだけに粘り強く対応していく必要がある.

実践講座 疼痛治療とリハビリテーション・1【新連載】

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CRPSの概念

1.用語の変遷

 複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome;CRPS)は今もなおその病態が明らかでなく,治療法も確立していないという「とらえどころのない」症候群である.よって,その概念を理解するには,用語の歴史的変遷から理解するのが近道であろう.

 表1に示すように,CRPS関連の記述は,アメリカ南北戦争の時,神経損傷後に耐えがたい痛みを訴える症例をMitchellが報告したのに始まる.Mitchellは,末梢神経の不全損傷を負った兵士の約10%に,耐えがたい自発痛,運動や軽い接触,感情の変化などによる痛みの増強,浮腫,皮膚および皮膚温の変化,発汗の亢進がみられ,痛みは神経損傷の部位を越えて拡がると報告した1).このような病態は,戦争中の銃弾による神経損傷では起こりやすいが,通常の市民生活のなかではまれな病態で,現在,わが国の臨床医が経験することはまれである.今では,手術や外傷後に発生する神経損傷後疼痛が多く,その大部分はMitchellの報告例ほどは重篤でない.神経損傷後には脱神経による筋の萎縮や交感神経機能異常,アロディニアなどがみられ,その症状の強いものはCRPSの診断基準を満たすことになる.

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要旨:近年,運動イメージと呼ばれる脳内での運動シミュレーションの,リハビリテーション分野での応用が期待されている.われわれはmental chronometryと呼ばれる運動イメージの時間測定を行い,実際の運動時間との誤差を算出し(mental walking time/actual walking time;M/A比),加齢変化および転倒との関連性について検討した.対象は19歳から93歳までの197名とし,20歩の歩行運動を実際に動作遂行,および心的にイメージするという課題を用いた.歩行のM/A比は年齢と有意な相関関係にあり(r=0.451,p<0.001),加齢に伴って運動イメージ時間は延長する傾向を認めた.転倒経験のある高齢者では,さらに運動イメージは延長し「M/A比=1.64」というカットオフ値を求めることが可能であった.転倒経験高齢者では自身の身体能力を誤認識している可能性が示唆され,今後は転倒予防に向けた運動イメージ訓練の効果について検討を重ねる必要があると考えられた.

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要旨 〔目的〕筆者らは,健常者を対象に股関節内外転・内外旋0度(以下,閉脚)と股関節外転・外旋45度(以下,開脚)で台からの立ち上がり動作を行わせ,重心移動,下肢荷重量,立ち上がり時間を比較した.そして,片麻痺患者や高齢者が上がり框から効率的に立ち上がるための動作法を検討した.〔対象・方法〕健常成人37名(19~41歳)を対象とした.腓骨頭の50%位の台に座り,閉脚,開脚の順で各3回立ち上がりを実施し,その際の動作画像,重心点,下肢荷重量を経時的に解析した.〔結果〕閉脚に比して開脚は,①動作開始時重心点が前方に位置し,②2相と3相の前後方向の重心移動が小さく,③下肢平均荷重差が小さく,④1相と3相の所要時間が短く,⑤全体所要時間の短縮,が有意であった(p<0.05).〔結語〕開脚は閉脚に比し,立ち上がり時の体幹前傾の減少と左右下肢荷重量の均等化を促す肢位であると示唆された.このことは,片麻痺患者や高齢者では,閉脚より開脚が効率的立ち上がり方であると推察される.

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要旨:本研究は,タイミング同期動作を用いて,連続刺激における刺激回数の増加に伴う同期誤差,筋積分値,動作角度の3つの要因を検討し,タイミング制御機構に関与する神経生理学的機序および随意運動発現様式について考察することを目的とした.右利きの健常者10名を対象とし,周期的な聴覚刺激に合わせて右示指伸展動作を同期させる課題を実施した.同期誤差は,刺激回数が4回目までは有意に減少し,4回目以降は有意差を認めなかった.筋積分値は,刺激回数変化に伴う推移に有意差は認められなかった.動作角度は,刺激回数が1回目と2回目以降の間で有意に増大し,2回目と7回目以降の間で有意に増大した.これらの結果より,タイミング同期動作においては,連続刺激における刺激回数の増加に伴い,前帯状皮質などの前頭連合野領域から運動関連領野,そして大脳基底核といった皮質下レベルでのネットワークによる制御へと移行していくものと推察された.

連載 この分野を知る糸口

機器による筋力測定 山﨑 裕司
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筋力測定機器の必要性

 リハビリテーション現場では,長年にわたって徒手筋力検査(以下,MMT)による筋力評価が行われてきた.MMTは簡便であるが,信頼性に限界があり,実施してもGrade 4以上では,「どの程度の筋力なのか」,「筋力は変化したのか」という疑問を解決できない.筋力測定機器による評価が必要とされる理由である.この内容については,参考文献1-4)に詳述されている.

連載 地域リハビリテーションのモデル【新連載】

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地域リハビリテーションにおける大学病院の果たす役割

 地域リハビリテーションとは,日本リハビリテーション病院・施設協会による定義が知られており,その活動の内容は,直接援助活動,組織化活動(ネットワーク・連携活動の強化),教育啓発活動などとされている(表1).このような視点から大学病院のリハビリテーション部門が地域においてどのような役割を果たすことができるか,われわれが実践してきた活動を紹介しながら考えてみたい.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 大正15年に発表された斎藤茂吉の『結核症』(『斎藤茂吉全集』岩波書店)では,結核と文学の関係に関する病跡学的な議論が展開されている.

 この短いエッセイの中で茂吉は,結核が創造性に及ぼす影響について,「総じて結核性の病に罹ると神経が雋鋭になって来て,健康な人の目に見えないところも見えて来る」,「末期になると,病に平気になり,呑気になり,将来に向っていろいろの計画などを立てるやうになるが,依然として鋭い神経を持っている」と,指摘する.茂吉は,結核患者には「健康の人が平気でやっていることに強い『厭味』を感じたり,細かい『あら』が見えたりする」と,その敏感・繊細性を主張するのである.

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 ベートーヴェンはピアノの音を振動で感じることができる伝音性難聴だったのではないかと推測されている.ともかく,聴覚障害の部分が強調される偉人だが,「敬愛なるベートーヴェン」(監督/アニエスカ・ホランド)を見る限り,「社会性の障害」のほうが顕著だ.タイトルをもじるなら“敬遠したくなるベートーヴェン”の世界がそこにある.

 言動,行動ともに人の迷惑省みずだ.癌に冒された音楽出版業者を思いやりのかけらもなく怒鳴りちらし,他者の作品に対するけなし方もオナラの音に喩えるなど醜悪極まりない.時折,室内で水浴びをするが,水は階下に滴り落ち,下の住人は怒り心頭.さらに,今ならセクハラ行為だが,若き女性にお尻を見せて喜ぶ.野獣性と幼児性に満ちた振る舞いだ.

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文献抄録

編集後記 鹿
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 厚生労働省の「平成17年国民健康・栄養調査結果」によると,40~74歳のメタボリックシンドローム該当者・予備軍は「男性2人に1人,女性5人に1人」で,数にして1,940万人(該当者960万人,予備軍980万人),このうち1,400万人が特定保健指導の対象になるそうだ.そこで,「歩き」の効用を二,三.毎朝バス停3つの区間を歩き,帰りは千鳥足でも電車の1区間位は歩く.知らない脇道に逸れるのも楽しく,旅行気分もちょっと味わえる.少々埃っぽくても,今時分,新緑は爽やかで,露地のアジサイは鮮やか,身近な自然を感じることもできる.見ず知らずのお年寄りに「おはようございます」と声をかけられて気分が和む.歩いているときの目線は高くもなく低くもなく(物事を見下すこともなく卑屈に見上げることもなく),まさに身の丈に合った見え方はいい.交通費の節約になるのもいい.健康診断で糖尿病だと言われて久しく,お酒も毎晩たっぷり飲んでいるが,HbA1cは6前後,空腹時血糖110台を維持しているのも「歩き」の効用か.毎月の検査結果で,お医者さんに「よく頑張ってますね.えらいですね.」と言われるのが嬉しい.(鹿)

基本情報

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総合リハビリテーション
35巻7号 (2007年7月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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