耳鼻咽喉科 32巻11号 (1960年11月)

第10回綜合医学賞入選論文

唾液腺機能検査法とその臨床 奥田 稔
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 I.まえがき

 唾液腺に関する基礎的,臨床的研究は膨大な数に上るが,不思議にも唾液腺疾患時における唾液腺機能の検討は甚だ乏しく,それにもまして不可解なのは唾液腺の系統的臨床検査の記載が北村を除いては臨床検査を対象とするどの本にも見当らないことである。従来の唾液腺機能検査といえば唾液量の測定,二,三の唾液成分の分析にとどまつているほか,ヨード(Zak,Wermer,Altman,Schimansky,Thode,浅井),ロダンカリ(Mack,Jürgens,Alexander),燐(Galioto),アミノ酸(Sander),蛋白(Monnier),リゾチーム(Rauch),アミラーゼ(Seige,Glasscheib,Sjögren)を利用したものが散見するのみで,比較的精細なのは当教室の一連の研究(北村,奥田,中野,勝田,青木,金子)を除いてはRauchのそれがあるにすぎない。唾液腺の重要性への関心が亢まりつつある現在,尿の性状のみで腎機能を推定しようとするにひとしい唾液腺機能検査法の貧困は許されない。ここに唾液腺の臨床的検査法を確立し,唾液腺疾患の唾液腺機能への影響を知ろうとするものである。

耳鼻咽喉科自律神経学概論 岩田 逸夫
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 I.緒論

 自律神経の研究は既に旧くからなされて来たが,1800年仏のBichatが動物体内の生活を対外的生活と栄養的生活とに分け,前者を支配する動物性神経に対し,後者を支配するものを臓器的神経と命名した。其後臓器的神経系に代つて栄養性又は植物性神経という名称が用いられ,一般的に自律神経系と同意味に使用されたが,自律神経系なる名称は脳脊髄神経に比し脳支配から比較的独立しているとの考からLangleyが1898年に命名したものである。然しL.R.Müllerが1931年生活神経と名付けている如く,生体の生活現実に関係が深いものである。

 Langleyは1921年彼の著書で「自律神経とは神経細胞および神経線維からなり,是等は多核横紋筋以外の組織に遠心性刺激を伝達するものである」と定義している。而してこの自律神経を解剖学的見地から交感神経系と副交感神経系とに大別した。然しながらこの定義は今日では変動を余儀なくされている。即ち氏は刺激伝達は遠心性としているが,今日では多くの学者により求心性線維の存在がみとめられている。

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 頸部に原因を有する迷路性障害が存在することは既に周知の事実である。1925年Barréは後頸部交感神経症候群(Le syndrôme sympathiquecervical postérieur)(以下S. C. P. 症候群と略記)の名のもとに,神経科的,耳科的,眼科的な色々な障害を一症候群としてまとめ,その共通の原因として頸柱の変化を挙げ,両者を結ぶものとして交感神経,殊に椎骨神経の影響を指摘した。Barré-Liéou症候群は,後頭痛,視力障害,上肢や顔面の知覚異常や血管運動神経障害,迷路性障害すなわちメマイ,耳鳴,時に耳痛からなつている。ただしこのメマイは単なる不安定感にすぎぬ仮性眩暈のこともあれば,頭を動かしたとき生ずる回転性眩暈のこともある。

 我々がこの蝸牛前庭障害を考究しようとするのは,臨床と治療という二つの目的からである。

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 I.緒言

 ストマイ(以下SM)の憂慮される副作用は耳閉感,耳鳴,眩暈,難聴等がある。特に難聴は長期療養生活に耐え社会に復帰せんとする者にとつてはその苦悩は察するに余りある。最近当院を訪れた7例のSM難聴の患者にAdenosin triphorphate(以下ATP)を使用し聊かなりともその障害を緩解し慶びを頒ち得たのでその概要を報告する。

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 I.はじめに

 先天性外耳道閉鎖症には,しばしば耳翼の奇型を伴うものであるが,この治療にあたつて耳科医として考慮すべき点が2つあると思われる。その1つは,患者,あるいはその家族が最も大きな悩みである耳翼の醜形に対する耳成形(otoplasty)をいかに工夫するかという問題と,他は聴力の回復というこれら2つの問題の解決である。しかしこの場合のotoplastyについては,患者の年齢とか,あるいは手術術式そのものについて,未だ困難な問題が沢山残されており,必ずしも満足すべき結果がいつもえられるとは限らない。

 これに反して,聴力の回復という問題については,labyrinth fenestrationや,あるいは最近のtympanoplastyの進歩によつて,かなりよい成績がえられるようになつてきた。

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 I.はじめに

 既往歴や耳鏡所見,その他の臨床的検査に特別な異常がなくて起る伝音系難聴に対して,試験的に中耳腔を開けてみるとき,予想に反したいろいろな伝音系統の奇形や解剖的異常に接する場合が案外多いように思われる。しかし従来は,この異常を発見する機会もなく,従つてこのような伝音系の解剖的異常に基ずく難聴は,これまではほとんどその治療の対象とならずに見送られていた場合が多かつたものと考えられる。

 ところが近年,otosclerosisに対する一つの治療法として,Rosen1)によるstapes mobilization techniqueが広くとりあげられるようになつてから,鼓室腔を試験的に開放する機会が多くなり,したがつて従来見逃がされていた中耳系統の解剖的異常が次第に数多く発見されるようになつてきた。すなわち,otosclerosisによる難聴であろうと予想して中耳腔を開けてみると,それは予想に反して,中耳腔における解剖的異常,ないしは奇形によるものであつたというような症例が,既にSchuknecht(1957)2)を初めHough,Tolan(1958)3)等によつて報告されており,著者の一人中村4)も既に昭和32年12月(1957)の日本耳鼻咽喉科学会関東地方会において,これの一症例を報告した。

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 I.緒言

 カナマイシン(KM)の副作用として聴力障害があることは既にいくつかの報告がある。

 結核性疾患の治療薬としてストレプトマイシン(SM)が有効であつたが,現在ではSMに抵抗性を持つた菌があり,大量投与を行わないと効果が期待出来ない例がある。梅沢博士らによつて発見されたカナマイシンは,SMと同じ様に結核性疾患に有効であり,広く使用されてきている。

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 I.緒言

 耳鳴を訴える患者51名69耳にストミンゾンネ錠を使用したところ,耳鳴の消失,軽快したものは69耳中41耳すなわち59.4%であり,疾患別にみると,耳鳴の原因が伝音系障害のものに,耳鳴の性状別からすると低音の耳鳴により大なる効果を認め,有効例では治療日数6〜10日で効果を認めた。

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 I.緒言

 副鼻腔のMucoceleやPyoceleは,その貯留液の増加に伴なつて眼球突出や視力障害を来たすことが屡々であるが,これらは主として一側である。しかしながら我々は最近両側共に極度の眼球突出を来たした稀有な症例に遭遇し,手術によつてこれを治癒さすことが出来たので茲に報告する。

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 I.緒言

 鼓室形成術の目的は(1)慢性中耳炎の病巣を除去し,(2)鼓膜植皮によつて鼓室を形成すると共に,(3)聴覚理論に合致した伝音機構を再構成する事にある。この意味に於て本手術が諸家の報告に見る如く,中耳根治手術その他の手術によつて病巣を清掃し,その基盤の上に立つて爾後の聴力改善の操作が行われるべき事は云う迄もない。勿論,上鼓室や,乳様洞及び乳様蜂巣の病変が軽度で,之を広く開放処理する必要のない症例もあるが,本論文の目的はWullsteinのⅠ,Ⅱ又はⅢ型に相当する症例で,而も耳後部の病変が,従来の中耳根治手術,或は保存的根治手術の術式によつて処理せねばならない様な症例の取扱いに対する一つの試みを報告する事にある。

 乳様蜂巣を広く開放し,外耳道後壁を低く落し,乳様洞,アヂッス更に上鼓室をも広く開放し,広汎な病変の清掃を行つて鼓室形成術を施行した症例で屡々問題になるのは,大きな耳後創腔の後療法中に起るトラブルと,更に創面の治癒後に於ても表皮化した大きな耳後腔が残ることは決して患者にとつても満足を与え得ないばかりでなく,長期にわたつて清掃監視を必要とするという点である1)

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 I.緒言

 嗅覚障害は日常の臨床に於いては比較的屡々見られるのであるが,このような愁訴を治療の対象とする事は一般に少ないように思われる。然し特殊な職業に従事する人とか神経症な人では往々問題になる症状である。最近コンドロンの薬理的作用機転が解明されるに及び一般臨床方面に於ても広く施行され,かなりの治療効果を有するものと見做されている。該薬品は耳鼻咽喉科領域にも漸次応用されるに至り,久保(1958)等は嗅覚障害に使用して有効であると報告している。私共は今回科研薬化工より提供されたコンドロンを使用する機会を得たので,茲に共の概要を報告する。

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 I.緒言

 耳鼻咽喉科領域に於いて破傷風が問題となる事は稀であるが,その中でも副鼻腔炎根治手術に合併する事は極めて稀である。破傷風の初発症状たる牙関緊急のため外来へ訪れる事は稀にあるも,その診断は割合に容易である。併し手術の合併症の場合は診断は必ずしも容易でない。まして術後の炎症の波及に依り牙関緊急様症状を呈するので破傷風の診断をおくらせる事があるがその症状の急激にして且つ悪症なる事を想へば早期診断こそ耳科医の最も大切なる事と思う。

 本症の耳鼻咽喉科領域での報告は極めて稀で鼻腔異物を感染源としての報告は2,3みるも手術に合併せる報告は昭和9年羽根氏の上顎洞手術後に偶発した破傷風の死亡例と,1951年Vilardoseの鼻内手術後に偶発した破傷風の死亡例との2例の報告をみるのみである。(1906 Boergerが鼻腔内木片異物より発生せる定型的Rose型破傷風を報告し鼻腔粘膜より感染せる最初の例とす)私は副鼻腔炎根治手術後に合併した破傷風の1治験例を経験したので,ここに追加報告し諸兄の御批判を仰ぐものである。

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 I.緒言

 松田教授は咽頭晴型として,口蓋垂の奇型,咽頭の非対称性,咽頭の狭窄,口蓋弓の穿孔,咽頭憩室,頸瘻,頸嚢腫等の記載を行つている。最近吾々は都南病院耳鼻科外来を訪れた12歳の男子で上述の咽頭畸型に属さない咽頭畸型の1例に遭遇したので報告する。

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 I.緒言

 近年私の摘出した気道及び食道異物例を報告し,いささか所見を述べ諸賢の御参考に供する次第である。

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 I.結論

 近時麻酔学の進歩や諸種の有効な止血剤の出現は,耳鼻咽喉科領域の手術においてもこれが生体に及ぼす侵襲を可及的小ならしめるのに寄与するところがすくなくないものと考えられる。たとえば強化麻酔,人工冬眠がそれで,これが効用については多数の報告があげられている。たしかにこれらの麻酔法はその効果においてまさに瞠目すべきであるが,好ましからぬ反面を有することも報告されている。血中カルシウム(以下カルシウムをCaとする)の面からみると,強化麻酔あるいはクロールプロマジンが血中Caを減少傾向にみちびくことから多少なりとも生体にある程度の侵襲を及ぼすのではないかということは名取1),橋本2),の両氏並びに私3)がすでに発表しているところである。

 そこで耳鼻咽喉科領域の手術においても,これが血中Caにいかなる影響を及ぼすかということについてあらためて検討を加えてみる必要が生じた。そもそも手術的侵襲に対する生体内の内部機構の変化,特に水分,電解質代謝についての研究として吉川4),渋沢5),笠松6),篠原7)8)9),名取10)の各氏の報告がみられるが血中Caの影響についての報告は比較的すくない。すなわちP. Clairment11)は骨疾患の手術にさいし,術後テタニーを招来したといい,またEliel,Pearson and Rawson12)は術後Ca及び燐酸の減少を報告し,W. Kreineru. Bumiller13)らは術後総Ca並びに透析性変動と血液凝固時間変動との相関関係を指摘している。最近名取氏14)は産婦人科領域の手術時の血中Caの影響について詳細に発表している。同氏によればたとえ出血量はすくなくとも,いたみの訴えかたがつよいばあい,また無麻酔時における血中Caの減量が麻酔効果良好時にくらべて著明であつたとのべている。かく考えるとき血中Caの動勢を追求することは生体に対する侵襲度の一端をうかがい知る一つの指標となるといえよう。

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 I.緒言

 最近,医学の進歩に伴い,薬剤の家庭への滲透,医薬に対する大衆化は著しいものがあり,含嗽の代りとして,口内殺菌錠を日常生活に使用する事も次第に頻繁になる状態である。それ故,現在我々家庭の常備薬に対し,医学上真に有効なものであるか否かを検討し,此等に就いて,我々はもつと積極的に働きかけ,適切な指導と管理をなすべき段階に来ているのではないかと考える。

 この様な意味の元に,最近,口腔,咽頭,喉頭の細菌性疾患及びカンディダ症に使用されている種々の口内錠の一つとして,Oradolを取り上げ,口蓋扁桃剔出術後,及びアフタ性口内炎に使用し,若干の成績を得たの報告する。

 Oradolは,β-phenoxy-ethyl-dimethyl-dodecyl ammonium bromideを0.5mg含み,円形白色,甘味なハッカ性を有し,口腔中に含んで溶解し,患部に有効成分を作用せしめる錠剤である。Oradolの細菌発育阻止濃度及び殺菌濃度(ブイヨンに於ける)は,サルファ剤及び其他の抗生物質と殆ど変る所はなく,Candida albicansに対しても,可なりの効果を期待出来る様である。

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 I.緒言

 私共は,喘息など一連のアレルギー性疾患に有効と云われる2-Isopropylamine 6-methyl heptane hydro chloride(興和化学研究所製)を,アレルギー性鼻炎,湿疹,アフタ性口内炎,習慣性鼻出血患者に使用して,次の結果をえた。

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 I.はしがき

 強力ネオミノファーゲンC(以下SNMCと略す)の各種疾患に対する治療効果は従来より種々報告され,その解毒,抗アレルギー作用についての評価は高いものがある。特に耳鼻咽喉科疾患で鼻内粘膜の浮腫消退や耳管カタルに於ける滲出液の減少等に著明な効果が認められているが,これ等の症状の好転がSNMC以外の抗アレルギー剤の使用では認められなかつた報告例のあることよりみて,SNMCに広範な薬理機序のあることがうかがわれる。

 我々は当外来で各種疾患にSNMCを使用し,かなりの治験例を得たのであるが,従来,耳管カタルにSNMCを使用した報告例が少ないので,本疾患につてのSNMCの効果について報告する。

CURRENT MEDICAL LITERATURE
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Arch. Otolaryng. Vol 71 No. 1 1960

ALFARO, V. R. Psychogenic influence in Otolaryngology. 1.

CRACOVANER, A. J. The lateral approach to the larynx and hypopharynx. 8.

基本情報

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耳鼻咽喉科
32巻11号 (1960年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9679 医学書院

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