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I.結論
近時麻酔学の進歩や諸種の有効な止血剤の出現は,耳鼻咽喉科領域の手術においてもこれが生体に及ぼす侵襲を可及的小ならしめるのに寄与するところがすくなくないものと考えられる。たとえば強化麻酔,人工冬眠がそれで,これが効用については多数の報告があげられている。たしかにこれらの麻酔法はその効果においてまさに瞠目すべきであるが,好ましからぬ反面を有することも報告されている。血中カルシウム(以下カルシウムをCaとする)の面からみると,強化麻酔あるいはクロールプロマジンが血中Caを減少傾向にみちびくことから多少なりとも生体にある程度の侵襲を及ぼすのではないかということは名取1),橋本2),の両氏並びに私3)がすでに発表しているところである。
そこで耳鼻咽喉科領域の手術においても,これが血中Caにいかなる影響を及ぼすかということについてあらためて検討を加えてみる必要が生じた。そもそも手術的侵襲に対する生体内の内部機構の変化,特に水分,電解質代謝についての研究として吉川4),渋沢5),笠松6),篠原7)8)9),名取10)の各氏の報告がみられるが血中Caの影響についての報告は比較的すくない。すなわちP. Clairment11)は骨疾患の手術にさいし,術後テタニーを招来したといい,またEliel,Pearson and Rawson12)は術後Ca及び燐酸の減少を報告し,W. Kreineru. Bumiller13)らは術後総Ca並びに透析性変動と血液凝固時間変動との相関関係を指摘している。最近名取氏14)は産婦人科領域の手術時の血中Caの影響について詳細に発表している。同氏によればたとえ出血量はすくなくとも,いたみの訴えかたがつよいばあい,また無麻酔時における血中Caの減量が麻酔効果良好時にくらべて著明であつたとのべている。かく考えるとき血中Caの動勢を追求することは生体に対する侵襲度の一端をうかがい知る一つの指標となるといえよう。
The amount of blood calcium during the time of an operation seems to be an important element because of its possible relation to the functional mechanism of the autonomic nerves.
With this point in view the author attempted to take measurement of the amount of blood calcium in his operations covering the field of ear, nose and throat. The author states that the amount of blood calcium at a given time will discover the influence that it has over the parasympathetic nervous system.
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