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I.はじめに
既往歴や耳鏡所見,その他の臨床的検査に特別な異常がなくて起る伝音系難聴に対して,試験的に中耳腔を開けてみるとき,予想に反したいろいろな伝音系統の奇形や解剖的異常に接する場合が案外多いように思われる。しかし従来は,この異常を発見する機会もなく,従つてこのような伝音系の解剖的異常に基ずく難聴は,これまではほとんどその治療の対象とならずに見送られていた場合が多かつたものと考えられる。
ところが近年,otosclerosisに対する一つの治療法として,Rosen1)によるstapes mobilization techniqueが広くとりあげられるようになつてから,鼓室腔を試験的に開放する機会が多くなり,したがつて従来見逃がされていた中耳系統の解剖的異常が次第に数多く発見されるようになつてきた。すなわち,otosclerosisによる難聴であろうと予想して中耳腔を開けてみると,それは予想に反して,中耳腔における解剖的異常,ないしは奇形によるものであつたというような症例が,既にSchuknecht(1957)2)を初めHough,Tolan(1958)3)等によつて報告されており,著者の一人中村4)も既に昭和32年12月(1957)の日本耳鼻咽喉科学会関東地方会において,これの一症例を報告した。
Treacher-Collins' syndrome is recognized in a boy, aged 16, who complained of bilateral loss of hearing and tinnitus. General physical condition and deformation of the ossicles of the middle ear cavity are noted. And the effect of stapes mobilization in hearing losses concurring under such conditions is evaluated.
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