関節外科 基礎と臨床 39巻13号 (2020年4月)

特集 整形外科の外傷治療-現状と課題-

序文 尾﨑 敏文

Ⅰ. 外傷教育の現状と課題

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・ 若手医師は卒後3年目に整形外科あるいは救急を選択するが,同時に大学医局を選択することが多い。なぜなら将来,大学院に入学しないと博士号を取得できないためで,博士号をもっていないと大学関連基幹病院での部長,医長になれない。

・ 研修医時代は外傷,骨折治療に意欲をもっていても,博士号取得のため,また専門を決めないとその分野で研究できないために,骨折治療/外傷学から離れてしまうことがほとんどである。

・ 大学の整形外科医局へ入局したとしても,外傷に対する豊富な知識と理解のある教授は少なく,外傷教育は関連病院の医長任せである。

・ 外傷を扱う一般病院において外傷治療に直接従事する医師は,研修医もしくは常勤でも若手医師がほとんどで,ベテラン医師が直接手術室に入ることは少ない。つまり,最新の骨折/外傷治療を教えてくれる医師がいない。

AOの取り組み 土田 芳彦
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外傷整形外科教育体制が整っていないわが国において,その教育を大きく担ってきたのはAO(Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen)コースの開催であった。AOコースは歴史のある完成度の高いものであり,外傷整形外科医療にたずさわる医師にとって,その受講は必須といえる。しかし,治療の質を高め,維持するためには,持続する生涯教育が必要であり,単にこのコースを受講するのみでは立ち行かない。わが国の事情に合わせてmodificationし,さらに付加的な教育活動が必要である。

JABO/OTC Japanの取り組み 野々宮 廣章
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現状

・世話人27名で活動(2019年1月1日時点)。

・活動目的は若手整形外科医の骨折治療に関する知識の向上および標準的手術手技の習得。

・年間5回の研修会を実施。

・年間2回のTravelling Fellowshipを実施。

課題

・次世代世話人の確保。

・研修会に参加できない受講希望者数の削減。

・ボーンモデルを用いたハンズオンセミナーの限界。

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・ 整形外科全体にとって整形外傷教育は非常に重要なテーマであり,骨折・外傷に対する知識や手術手技のアップデートは,専攻医だけではなく指導医を含めた多くの整形外科医に求められるところである。しかし,外傷センターにおいて一貫した治療が展開される欧米と比べて,内因性疾患も含めた救命救急センターの整備・充実に重きを置いたわが国では,このようなシステム構築はなされておらず,未だ模索中といえる。

・ 外傷治療のシステム構築や教育には各地の大学医局にその役割が期待されるところであるが,変性疾患の治療に重きが置かれたり,整形外傷が軽視される傾向は否定できない。外傷教育における施設間差,地域差はいまだ存在する。

・ 若手整形外科医への教育のみならず,中堅医師の技術習得や継続学習,指導医の再学習,さらにはセンター化へ向けてのシステム構築とその普及など,解決すべき問題は多い。

Ⅱ. 外傷治療システム(外傷センター,レジストリー)の現状と課題

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帝京大学医学部附属病院外傷センターは2009年5月に稼働し,現在は救急科所属医師と整形外科からの出向医師を合わせ,13名体制となった。救急科内の3部門で協力しながら,重症外傷・多発外傷・開放骨折などを中心に治療を行っている。院内体制として,麻酔科や手術室との連携を進め,働きやすい環境となりつつある。また,大学病院の責務として,後継者の教育と外傷治療のデータを発信できる体制構築を進めている。外傷センター設置の必要性を示し,それがわが国の外傷治療レベルを向上につながるよう活動を進めていきたい。

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2011年10月に,長崎大学病院救命救急センターに付属した外傷センターを,整形外科医3名および形成外科医1名で立ち上げた。立ち上げから8年が経過して徐々に重症外傷の集約化は進み,マンパワーもスタッフ6名,フェロー2名,専攻医2名,研修医数名と10名を超える所帯となり,手術数は年間700件ほどに成長した。2016年には長年の課題であった専用手術室を確保して時間外手術が劇的に減少し,2018年には専用病棟も確保して仕事効率が改善した。市中病院と比較しても潤沢なマンパワーがあるかにみえるが,24時間365日手術可能な人員配置には不十分で,現状のままでは超過勤務が問題となり,2024年までに解決策を見出さなければならないのが現在の最大の課題である。

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機能再建型外傷センターとして,初療から手術,リハビリテーションに至るまで,専門スタッフが一貫して治療にあたっている。一般骨折はもちろんのこと,重度四肢外傷の治療も担い,外傷患者の社会復帰を目的として機能再建を行っている。当施設としての最大の課題はマンパワーの確保であるが,大局的には,官を主体とした整形外科外傷センターシステムの確立と患者集約が望まれる。また,外傷医療の発展のために,多施設が参加するレジストリーシステムの構築が期待される。

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外傷センターはすべての新鮮外傷から残存する機能障害に対する機能再建まで外傷のあらゆるphaseに対応し,疾患を扱う整形外科とはっきり分業することでお互い効率的に働ける環境となった。作成した外傷データベースは治療結果を可視化するのみならず,各学会のレジストリーのフォーマットに出力が可能である。理想の外傷センターを構築していくには、多職種による連携・協力と,地方行政の協力のもと患者や人材を集約化することが必要である。

レジストリー(DOTJ) 石井 桂輔
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DOTJ(Database of Orthopaedic Trauma by Japanese for Fracture Repair,日本骨折治療学会運動器外傷データベース)に登録された四肢長管骨開放骨折症例3,300例(3,444骨折)から,整形外傷治療の現状を記した。登録症例の平均年齢は51.9歳で,男性と女性の比率は2:1であった。骨折部位は脛骨骨幹部が最多で,受傷機転は交通事故が最多であった。Gustilo-Anderson分類ⅢBおよびⅢCの症例で,初回洗浄/デブリドマンが受傷後6時間以内と迅速に完了した割合は56%にとどまった。一方,初回抗菌薬投与のタイミングは,全体の81.6%で受傷後3時間以内と早期に開始されていた。今後,アウトカムデータを収集・解析し,機能予後について論じることがDOTJに求められる課題であろう。

Ⅲ. 脆弱性骨折治療,二次骨折予防の現状と課題

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骨粗鬆症性椎体骨折治療の原則は保存治療であるが,神経障害がある場合や,十分な保存治療でも骨癒合が得られず,痛みのためにADLが低下している症例に対しては手術治療が必要となる。現在,手術治療には椎体形成やインプラントを用いた固定術があるが,隣接障害やインプラントのbackoutなどが問題となっており,これらをいかに減らしていくかが今後の課題である。

大腿骨近位部骨折 重本 顕史
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大腿骨近位部骨折は,QOLおよび生命予後の観点からも手術加療が勧められる。患者層の高齢化により,骨折だけを治療するのではなく,受傷前の生活環境,日常生活自立度,既存疾患などを踏まえた包括的な治療が求められる。しかし,そこには診療科,さらには職種の垣根を越え,各職種が専門性を発揮できる連携した取り組みが必要である。

上腕骨近位部骨折 寺田 忠司
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上腕骨近位端骨折は日常診療において頻回に遭遇する骨折であり,骨折型だけではなく,患者の社会的背景や活動性によって,保存または手術治療が選択される。手術治療は,プレートや髄内釘を中心とした骨接合術,人工骨頭挿入術,人工肩関節置換術などが選択可能である。本骨折はcommon fractureであるにもかかわらず,手術の難易度が比較的高く,必ずしも満足度の高い成績が得られているわけではないことが問題点である。さらなる高齢化を迎えるわが国において,本骨折は増加することが予想されており,さらなる手術手技の習熟が重要である。

橈骨遠位端骨折 安部 幸雄
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橈骨遠位端骨折は現在,わが国で年間約11万人の発症とされ,大腿骨近位部骨折とともに整形外科医にとって遭遇する頻度の高い骨折である。近年,本骨折の治療戦略は大きな変化をみせている。掌側ロッキングプレート固定が手術治療の gold standard となり,その功罪が明らかとなりつつある。プレートにより強固な固定が獲得され,術後の外固定が不要で早期の社会復帰が可能となった。これにより高齢者に対する手術適応も拡大した。一方,プレートの不適切な使用による屈筋腱,伸筋腱断裂などの合併症が増加している。またさまざまな骨折型に対する種々のプレートの適切な選択も術者の技量の1つであり,そのためには橈骨遠位の解剖を熟知することが重要である。各種プレートの固定性,術後成績のエビデンスも明らかにする必要がある。今後,高齢者の増加に伴い本骨折の症例数の増加も予想される。いかに予防するか,また本骨折発症後の他の脆弱性骨折発症の連鎖を防止するために,骨粗鬆症に対する治療は重要と考えられる。

二次骨折予防の薬物治療 斎藤 充
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骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折は連鎖する。初回骨折後の1年で二次骨折のリスクはピークとなる。種々の骨粗鬆症治療薬の骨折防止効果は,投与後1 〜 2年で発揮される。すなわち,初回の骨折と同時に治療開始しないと二次骨折を防ぐことができない。骨は海綿骨では年間40%が,皮質骨では年間4〜7%が新陳代謝(リモデリング)しているため,薬剤をはじめとした介入効果が出やすい臓器である。しかし,性ホルモンの減少は生涯消えないリスクであるため,一度治療を中止すれば,破骨細胞は再び息を吹き返し,骨密度,構造は破綻し,酸化ストレスの亢進により材質も劣化し,骨折リスクが再度上昇する。人生100年時代を迎え,生涯治療が必要な疾患として考えを改める必要がある。

Ⅳ. 手外傷,開放骨折,術後感染,偽関節治療における現状と課題

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手外科領域の外傷は,軽微な損傷から重度損傷までを含め,労働災害(労災)症例を主として日常診療において比較的遭遇する機会が多い。そのなかでも重症ながらも見逃されやすい外傷として,月状骨脱臼・月状骨周囲脱臼が挙げられる。また,労災外傷症例では,その損傷程度を予測するにあたり,受傷機転の聴取が重要である。「挟まれ」や「巻き込まれ」による腱の引き抜き損傷や手背部の剝脱損傷について,代表症例を提示しつつ解説する。

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重症開放骨折(Gustilo分類ⅢB,Ⅲc)の再建では,軟部組織や神経血管の再建が必要となる。これに対する治療ではmicrosurgeryの知識・技術に加えて高度な骨接合再建技術,外傷の治療戦略を熟知したorthoplastic trauma surgeon(OPTS)がシームレスな治療を行うことが理想といえる。OPTSのいない施設では,整形外科医・形成外科医・心臓血管外科医と治療に当たるのが現状であろうが,コラボレーションに中には大きな課題もあると思われる。骨接合を十分に熟知し,加えて形成外科的な知識・技術・経験が必要であり,さらに外傷特有の問題も熟知しておく必要があり,自立した術者になるには時間がかかる。症例を集約化したうえで適切な指導を受け症例を経験することが理想であるが,一般整形外科医でも最低限の知識は習得しておかなければならない。

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骨接合後の感染は感染の制御と骨折の治療を両立させる必要があり,治療に難渋することが多い。骨軟部感染症が難治化する原因として,外傷によって損傷を受けた局所の血流が悪く経静脈的には抗菌薬が移行しにくいこと,さらにインプラント周囲に形成されるバイオフィルムを制圧するには高濃度の抗菌薬が必要になることが挙げられる。このため,その治療は抗菌薬の経静脈投与に加えて,局所投与が治療の鍵となる。抗菌薬の局所投与としてキャリアから徐放させる方法は,掻爬した後の死腔の管理にも有効である。一方,iMAP,iSAPは高濃度抗菌薬を微量持続投与することで,これまで掻爬していた組織をある程度温存しながら,インプラントを留置して感染の制御が可能となる。それを前提とした骨軟部の再建計画を立てることができるため,これまでの感染の治療戦略を変革する可能性を秘めている。

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偽関節は,骨折治療のあらゆる段階における様々な因子が影響することで発生する。初期から適切な治療を行うことで,多くは防ぐことができると考えられ,骨折を正常に癒合させる為の技術と知識の系統だった教育を充実させることが現在の課題である。偽関節に関する知識が不十分なまま治療を行ってしまうことで,さらに状況を悪化させてしまい,治療は困難を極めることとなる。偽関節の要因について十分に理解したうえで,治療にあたることが必須である。

Ⅴ. その他のトピックにおける現状と課題

非定型骨折 王 耀東
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非定型「大腿骨」骨折は,骨密度増加や脆弱性骨折予防の効果がきわめて高いビスホスホネート製剤の長期使用などにより発症し,骨癒合が遷延すると長期間の荷重制限を要する場合があるため,臨床上きわめて重要な疾患である。国内外で注目され活発に研究されているが,多因子性疾患であるために複数の病態が混同して議論され,未だ全容が解明されておらず,明確な診断基準・治療指針がない。筆者らは非定型大腿骨骨折の発症高位別特徴に注目し,サブタイプ分類(Oh分類)を提唱した。今後の研究でサブタイプ別に発症要因が同定され診断基準が明確になることで,治療指針が確立し,病態に即した治療法が選択できる可能性がある。

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病的骨折患者数が増加しているにもかかわらず,担当医不在の状況を打破しようとうムードが醸成されている。すべての整形外科医が,病的骨折治療担当者である当事者意識をもち,行動に移ることが課題である。必要知識の共有,治療定型化などにより,病的骨折手術に対する壁を低くしていかなくてはならない。

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実臨床において骨折治癒促進に適用可能な手段は限定されており,新たな骨折治癒促進法の開発・臨床応用は,骨折治療にたずさわる整形外科医なら誰しもが望むものである。骨折の内固定法の進歩には目覚ましいものがあり,日々新しい内固定材料が臨床現場へと供給されている。これに比べれば,臨床使用可能な骨折治癒の生物学的な促進法の開発は遅れているというのが現状であり課題である。また,骨折を題材とした数多くの基礎研究が行われている一方,その成果が臨床へと直結しているものは少ないというのが現状である。基礎研究から始め,その成果を臨床へとつなげる出口まで見据えた研究を計画していくことが課題となる。

整形外科における人工知能 中原 龍一
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・ 医療AIの研究が急速に発展している。さまざまな医療AI企業が生まれ,米国を中心に医療AIの臨床利用が開始された。

・ 無料のAI開発環境が公開され誰でもAI研究が可能となったため,外傷領域でもAI研究は進んでいる。

・ AIはAI特有の誤認識を犯すことも分かってきたため,AIの臨床利用のためにはAIの利点だけではなく,問題点の研究も重要である。

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電子版ISSN: 印刷版ISSN:0286-5394 メジカルビュー社

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