保健婦雑誌 55巻10号 (1999年10月)

特集 保健婦の地区活動を再考する—ニーズ把握事例集

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 はじめに

 公衆衛生分野における地域診断の重要性については,何十年も前から度々指摘されてきています。また現在の地域保健法の時代に保健婦がなすべき業務の1つとしても,地域診断があげられています。しかし,多くの文献や書籍の中で,地域診断は必要であり重要であると記述されてはいるものの,どのようにして行うのかという具体的な方法を示しているものは稀なのではないかと思います。比較的詳しく書かれている文献でも,診断を行うべき項目を列挙しているのにとどまっており,それらの項目をどのように取り扱うかについては記述されていないように思います。その結果,多くの方々は地域診断を実際に行おうとしても,どのように考え,実施すればよいのかが,よくわからないというのが現状ではないかと思います。筆者は過去において,地域の健康づくり運動への支援や国立公衆衛生院での学生指導の場面で,地域診断に相当する作業を何度か経験しました。筆者自身が地域における責任者として地域診断を実施したわけではないので十分な内容とは言えませんが,読者の参考になればと思い,地域診断に対する筆者の考え方と,実際に地域診断的な作業を行った一例を紹介します。

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 はじめに

 介護保険法施行により,寝たきりなど要介護状態になった後の高齢者に対しては社会的支援体制が整備される。これまでも寝たきり予防の取り組みは実施されてきたが,寝たきり予備群である閉じこもり高齢者に焦点をしぼった方策は少ない。

 家の中での日常生活動作は自立しても外出や社会活動性に乏しい,いわゆる「閉じこもり高齢者」は重要な寝たきり予備群である。しかし閉じこもり高齢者は介護保険制度のもとでは「要支援」にもランクされないと思われ,介護保険制度上の寝たきり予防サービスである「予防給付」の該当にならない。寝たきり予防対策とこれを促進する環境を住民とともに整備していくことが今後,地域保健における公的機関の重要な役割になると思われる。そこで我々は,閉じこもりに近似する厚生省『障害老人の日常生活自立度判定基準』似下,自立度)ランクA高齢者に注目し,その実態を把握し,寝たきり予防のための隠れたニーズや課題を抽出するための研究を行った。その中で平成9年度および10年度は,在宅高齢者の身体的・心理的・社会的状態と保健福祉医療サービス(以下,サービス)利用についての実態調査を山形保健所(現在の村山保健所),村山保健所(同左),山形大学,山形市および村山市が共同で実施した。本稿では,この調査の概要とその結果に基づいた今後の取り組みについて報告する。

[ニーズ把握の新たな動き]

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 はじめに

 PCM手法とは,Project Cycle Management(プロジェクト・サイクル・マネージメント)のための手法の通称である。プロジェクト・サイクルとは,よく知られているようにプロジェクト事業の計画立案・実施・評価の一連の過程を運営管理することである。開発援助分野では,1960年代後半からロジカルフレームワークという概要表を用いたプロジェクト運営管理が行われるようになり,1980年代には計画立案に参加型ワークショップによる分析を導入した「ZOPP(目的指向型プロジェクト立案)手法」がドイツ開発援助公社(GTZ)により開発された。(財)国際開発高等教育機構(FASID)によって開発されたわが国のPCM手法はこれらをもとにしているが,その内容や詳細についてはすでに本誌を含めていくつか紹介されているので1-4),本稿では省略したい。

 さて,住民ニーズとはいったい何者であろうか。最近の行政文書には,「多様化・高度化する住民ニーズに対応して…」という表現が随所に見られるが,住民ニーズが何であるかには触れられていない。また,「ウォンツ」「デマンズ」「ニーズ」の違いについても,必ずしも明確に意識されていないように思われる5,6)。そこで本稿では,PCM手法を利用する中で「ニーズというもの」がどのように気がつかれるかということについて述べたい。したがって,本稿はPCM手法を用いてニーズを把握する方法について述べるものではなく,これまで地域の保健活動を進めながら行っていた分析に現れていた「ニーズと思われるもの」について改めて考察した結果である。

 筆者らはPCM手法の分析の中であえてニーズを求めようとしたことはないが,ニーズを何らかの形で捉えているという感覚はある。ニーズ把握といえばアンケート調査などの意識調査や実態調査がまず思い浮かぶが,ニーズは数字などで表される実態ばかりではなく,普段の業務を通じて実感として感じられるものもあるのではないだろうか,ということなのである2)。その実感が共有され強化されていくのが,メンバーにより進められる参加型の分析ではないかと思われる。

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 私たちは住民の意識を知ろうとしてさまざまな調査を行いますが,選択肢方式のアンケート調査では,当たり障りのない結果しか出ないことも多く,本当のところどのように感じているのかはなかなか見えてきません。住民のみなさんは,もし何か気に入らないことがあったとしても面と向かって意見を言ってくれる人はごく少数で,多くの人はただ二度と来なくなるだけです。私たちが自己満足的な仕事ぶりに陥らないためには,住民の本音を聴く方法が必要です。

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 はじめに

 東京都村山大和保健所では,地域のニーズに合わせた総合的支援体制の確立に向けて,全所をあげてさまざまな取り組みをしている。平成9年度から3年計画で行っている住民や関係機関のニーズ把握について,これまで得られた成果を中間報告する。

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 はじめに

 急速な少子高齢化社会が進む中で,老人性痴呆患者のケアについては,家族のみでは解決しえない問題となっており,また保健,福祉,医療,地域などが相互に連携をとらなくては,在宅での支援が困難なケースも増加している。ひたちなか保健所では,従来より「老人精神保健相談」窓口を設け,個々の相談事例に対して関係機関との連携をとりながら対応していた。

 「老人性痴呆疾患センター」を活用した相談手法を基本に,平成7年度より一貫した手法でケース対応を実施した結果,関係機関からの相談件数が年々増加していった。しかし,相談件数が増加していく中で,次の点が問題となってきた。

・保健所の組織再編により,相談を受ける保健婦らのスタッフ不足。・単身世帯や高齢夫婦世帯,疾病の重複などによる身体状態の悪化など,対応方法が複雑多様化している。・相談窓口の多様化と周知不足による問題 上記の点や後に紹介するケースを通し,援助方法などについて,関係者や地域住民と情報・意識の共有化の必要性を感じ,「保健福祉サービス調整会議」において支援方法の検討を実施していった過程について紹介する。

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 はじめに

 中野区は,23区の西部に位置し,人口約30万人の住宅地である。新宿区,渋谷区などの繁華街に近く,交通の便もよいことから単身の若者が多い町でもある。南部保健相談所は区の南部を担当している。管内は人口約6万4千人で,一戸建て,木造アパートが狭い路地を挟んで密集し,商店街が盛況で,現在も下町の風情が残っている地域である。

 当保健相談所では,母子保健事業の1つとして平成7年度から在日外国人親子の育児交流会(以下,育児交流会)を行っている。本稿では育児交流会の活動について紹介する。

 中野区の外国人登録者は約1万人である。乳幼児健診において常に外国人親子が来所するようになった。健診後のスタッフミーティングでは,外国人の母親が日本の予防接種や健診のシステムがなかなか理解できず戸惑っているとか,周囲に友人が少なかったり,児童館や公園などの子育て支援の場を知らない人が多く,日本人親子以上に孤立している様子が話題になった。そこで,外国人親子の孤立をなくし,異国で子育てする不安や困難さを軽減することなどを目的に,外国人専用の子育て支援の場として育児交流会を実施することになった。

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 グループ設立の経緯から

 私たちが生活する地域には大きな精神病院が建っている。同じ町会ということもあり見学させていただいた時、病院の方が「受け皿さえあれば退院できる人がたくさんいるんですよ」と説明してくれた。その時に,「それならば私たちに何かできないだろうか?住民として何ができるだろう?」と思った。その思いがグループホームの設立のきっかけとなった。

 その後は,「どうやってグループホームをつくるのだろう」という疑問から出発し,地域の保健所に繰り返し足を運んではご指導とご協力をあおぎ,たくさんの方々に助けられ教えられながらグループホーム設立の思いを温めてきた。こうして夢を現実に変えるための6年間が過ぎ,平成7年5月にクララハイツが誕生した。

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 中野区保健所南部保健相談所(以下,南部保健相談所)では,平成7年9月から在日外国人親子を対象にした育児交流会“バナナクラブ”を実施している。本号特集では,行動先行型ニーズ把握の事例としてこの事業についてご報告いただいたが(839ページ),本欄では写真とともにその模様をご紹介する。

 南部保健相談所の管内は,下町的雰囲気を残した中野区南部の地域(連載『大都会のなかの小さなまちしんやまの家ストーリー』もこの管内が舞台)。バナナクラブは,在日外国人親子がさまざまな育児上の困難にぶつかっていることを保健婦らが乳幼児健診などでとらえ,所内で話題にしたことがきっかけになり,外国人親子の孤立化防止や子育ての不安や困難の軽減を目的に始まった。スタッフは,南部保健相談所の保健婦,栄養士,歯科衛生士,心理相談員,保母,事務職らの多職種のほか,通訳のボランティアである。

連載 国試を読む・20

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 本連載は,状況設定型の国家試験問題(1999年2月25日実施,第85回)を題材に,単なる受験指南ではなく保健婦活動の基本を確認することを目指しています。今回は,精神障害者の自立支援について解説いただくとともに,お2人の保健婦に“設定された状況で活動を考える思考プロセス”をご執筆いただきました。

連載 いま知っておきたい環境問題・9

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 はじめに

 電気は現代生活には最も不可欠なインフラストラクチャーの1つであり,世界中で使われている。電気の利用が我々の生活向上にいかに貢献しているかは,事故や災害による停電時に実感するところである。電気の利用はこれからもますます増大の一途を辿るに違いない。

 しかし,電気が発電,送電,利用されるところでは,電磁界(electromagnetic fields:EMF)が必ず生じる。電磁界を生じることなく,電気エネルギーを発電・利用することは不可能であるから,電磁界曝露は現代人にとって避けられない。

 日頃使用している電気は,発電所から送電線,配電線を経由して家庭に届いている。日本では東日本が50Hz,西日本が60Hzで送電されている。50Hzや60Hzは,一般に交流の商用周波と呼ばれている。交流に周波数があるように,連動する電磁界(EMF)にも周波数がある。よって,50Hzの交流は,50Hzの電界と50Hzの磁界を生じる。周波数が300Hz以下の電磁界は,超低周波(extremely low frequency:ELF)電磁界に分類されており,商用周波電磁界もこれに入る。

 100年前に送電を開始して以来,世界中で非常に効果的に広範囲に利用されているが,感電死など直接的な原因を除けば,電磁界の健康影響への認識は極めて低かった。しかし,ここ数十年間,超低周波電磁界による健康影響への可能性について調査研究が進められている。1979年,送電線付近に住む子どもは発がんのリスクが高いというの報告がきっかけとなり,以降この事実を解明するために,人間,動物,細胞を対象としておびただしい数の研究が実施されているが,超低周波電磁界曝露による健康影響についての疑問は現在も依然として存在している。

 これを受けて,世界保健機関(WHO)では,1996年より「国際電磁界プロジェクト(Interna—tional EMF Project)」を10か年(当初は5か年)計画で発足させた。電磁界の健康リスク評価作業が現在も進められているが,筆者は当初からこのプロジェクトに関わっているので,WHOの最近の動向を紹介したい。また,本稿の後半では,米国で実施された,商用周波電磁界の健康影響評価を目的とする「電磁界ラピッド計画」の最終報告書が,今年6月中旬に提出されたのでこれを紹介する。

連載 AIDS医療の最前線から地域へのフィードバックレポート・3

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 はじめに

 前号では,バンクーバーの研修で訪れた各部門について報告しました。研修で訪れたバンクーバーの各病院内で提供されている医療やケア内容は,筆者が所属しているエイズ治療・研究開発センター(ACC)とほぼ同様で,自分の取り組んでいる活動に自信を持つことができました。その一方で,在宅療養支援や病院と地域の連携,そして積極的な予防活動などは斬新なことが多く,わが国でのエイズ対策もその地域ごとに計画された戦略的なものをめざし見直しを行う必要性を感じました。

 最近,バンクーバーでは抗HIV療法の効果が期待できることとは対照的に,「HIVに感染しているかどうかわからない」「HIV感染を知っていても治療を受けない」という人たちが地域に増えており,彼らの健康管理が重要な課題になっていました。こうした傾向について,もはや医療機関で「患者を待っている医療」では対応できないため,地域のスタッフと連携して行われるコミュニティケアが,HIV/AIDS患者を支えているようでした。

 本稿では今回の研修で最も印象に残り,今後わが国でも重要視されるであろうコミュニティケアについて報告します。

連載 大都会の中の小さなまち しんやまの家ストーリー・10

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 高齢者が高齢者を支える

 11年前の1988年,お昼ご飯をみんなで一緒に食べる高齢者会食ランチクラブを前任の職場で実施ししました。この会食はとても好評で,次々と区内の高齢者会館に広がりました。

 みんなでテーブルを囲み,おしゃべりしながらの食事はおいしいものです。家の外に出る機会をなるべく多くつくり,閉じこもりや引きこもりをなくしていこうという大きな目的がこの高齢者会食にはありました。また,粗食になりやすい1人暮らしの人に少し手の込んだ料理を出すことで,食べる楽しみを持ってもらおうという思いもありました。この経験から,異動先の新しい地域でも,準備に何年かかってもいいから高齢者会食を実施したいと考えていました。

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 タイの障害者

 タイの障害者の多くは地方農村部に居住しており,リハビリテーションの機会から隔てられてきた。障害者は社会のさまざまな参加機会から排除されたり,逆に同情と憐憫により慈善の対象となることも多かった。またタイをはじめ都市と農村の社会格差が大きい開発途上国では,障害者のリハビリテーション施設は都市部に集中する施設に限られがちで,リハビリテーションを受けようとする障害者は家族や地域社会から切り離された生活を余儀なくされることも多かった。

 さらにタイ社会では「障害の原因は諸悪業によるもの」という誤った仏教観が浸透している。こうした社会的な差別と偏見により,障害者はリハビリテーションによって障害の改善や社会参加の機会と可能性を有しているにもかかわらず,障害者の生活の質はなかなか向上してこなかった。

連載 ニュースウォーク・19

「在宅」かなえる条件 白井 正夫
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 在宅介護,在宅看取り……。いよいよ始まる介護保険時代でもキーワードになる「在宅」という言葉を考える時,なぜか「タケさんハイヤー」の話を思い出す。その情景を頭の中で思い描くと,見たこともないのに思わず笑みがこぼれる。

 津軽で暮らしたタケさんは3年前,97歳で亡くなった。若い時から気丈な人で,津軽弁でいう「キカネシテ」「根性イグネ」の人だった。90歳代になっても食事,洗面,手洗いは自分でしていたが,風邪をこじらせたことから体力がガクンと落ちて,晩年の2年間は半分寝たきりになった。同居する70歳代の長男夫婦に介護されながら自宅で暮らし,看取られた。

連載 感染症 Up to Date・47

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 はじめに

 米国に遅れること40年。遂にわが国でも低用量経口避妊薬(Oral Contra—ceptives:OC,以下「ピル」)が承認された。しかし,わが国の女性からはピルが副作用の代名詞のように扱われ続け,エイズ・性感染症の専門家には「ピルの使用でエイズを含む性感染症が蔓延する」と批判されていることから,難産の末承認に至ったピルも,多くの女性たちに受け入れられる避妊法になるのだろうかとの一抹の不安を隠すことができない。

 本稿では,特に,ピルの使用がエイズを含む性感染症(STD)を蔓延させるのか,ピル処方にあたって,どのような性感染症対策が講じられていくのかの2点に絞って論じることとしたい。

基本情報

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保健婦雑誌
55巻10号 (1999年10月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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