保健婦雑誌 55巻11号 (1999年11月)

特集 公衆衛生活動の過去・現在・未来

20世紀から21世紀へ 大谷 藤郎
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 公衆衛生を私はどう理解しているか—私の基本姿勢

 公衆衛生とは地域におけるすべての人々に関して格差のない健康を確保するために社会的諸手段を用いて実践する科学であり技術である。

 したがって公衆衛生は医学や関連諸科学の領域はもとより政治,行政,教育,産業など社会のあらゆる領域に関係するが,なかでも政治,行政の果たす役割がきわめて大きい。同じような意味で公衆衛生に従事する人は医師,保健婦,その他保健・医療・福祉従事者,工学者,環境学者,教育者などさまざまな職種が学際的に関与する。またそのサービスも対人サービスのみならず対物サービスも不可欠であり,人間とその周辺すべてを対象としている。

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 21世紀の公衆衛生活動のキーワード

 21世紀は情報化社会となり,情報は電子機器とネットワークを介したものが主流となるのであろう。また,経済成長が望めないという理由から(あるいは経済発展を阻害しないために)競争原理や効率性に価値が置かれ,その前提として自助努力を前提とすることが社会通念となるであろう。そして一般に描かれている社会保障とは,この時代の流れから落ちこぼれた者のためにセーフティネットを張り,互助や公助で対応するのだろうか。

 しかし,自助努力といっても,なにはさておき各自の自助努力が先で,これができない者や困難な状況に陥った者をセーフティネットにかけて救済措置を行うとするのか,あるいは,できるだけ多くの人々がセーフティネットにかからずに安心して生活できるように環境や条件を整備して,その上で自助努力することを前提とするのかによって,社会の仕組みは大きく変わるだろう。

市民参加と地域ケア 石川 左門
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 市民が描く21世紀の地域ケア像愛勝舎の歩み

 1985年に関設された愛隣舎は,末期を迎えた筋ジストロフィー症児の在宅ケアを,日野市地元ぐるみで支えた援助活動に端を発している。心不全・呼吸不全の状態は,寝返りと吸引器による排痰など,一日二十数回にも及ぶ介助は過重負担となり,たちまち当該家族を一家共倒れ寸前の状況に追いやっていた。思い余った家族の訴えに応え,症児の主治医と有志の看護職,それに家族を支える隣人たちなどが参加し,チームケアで,一家は家庭崩壊を免れた。症児の死後,関係者らにより,介護者が過労で倒れた場合を想定し,その対応策についての論議がなされ,こうした際の家庭介護の肩代わりの場の必要性が指摘された。愛隣舎は,その後故人となった症児の遺志を尊重した遺族が,自宅を解放し,在宅支援型中間施設の実験施設として発足,今日に至ったものである。

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 はじめに

 21世紀という時代の節目を間近にし,何となく落ち着かない雰囲気が漂っている。第1の波は人類を食料危機から解放した農業革命,第2の波は産業革命,そして第3の波は情報革命である。世界はこの情報革命でどんどん狭く感じられるようになり,国と国との国境や専門職と素人の垣根も低くなる一方である。また,これまで人間は,自然・災害・病気・貧困・差別などに対して近代科学という武器を使ってさまざまな闘いを挑んできた。しかし,何でも征服できるという考えが今や行き詰まりをみせ,世の中は闘いよりも共生の時代を迎えつつあるようだ。

 21世紀が情報革命と共生を軸に展開されてゆくだろう中で,公衆衛生もパラダイムシフトしつつある。キーワードをあげながら特に保健婦活動の将来像を中心に考えてみたい。

共生と受容の科学 岩室 紳也
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 21世紀の公衆衛生活動のキーワード

キーワードは「共生と受容の科学」20世紀と何が違う?

 結核,それも薬剤耐性菌が増加の一途をたどる,O 157やコレラは日本の常在菌になる,新興感染症はますます増加する,精神障害が増える,がんが克服できないことが明らかになる,老齢人口の比率が増加し,独居老人対策が重点課題になる,「核家族化」どころか「核個人化」により入と話せない人が多くなる,といった新しい不健康像が増加する。一方で自己責任,自己負担が主流となり,社会保障が崩壊するなど,弱者と強者が区分けされる社会が生まれる。都道府県がなくなり,定年を待たずにリストラされる公務員が続出する。2020年夏,冷夏,異常気象の中,退職金ももらえないまま神奈川県が消滅。ハローワークに行かなければと思いつつ,良き時代を振り返り「もっと早く,早期依願退職で退職金が倍もらえた2000年に公務員を辞めておけばよかった」「40年近くやってきた公衆衛生って何だったんだろう」と自問自答している自分がいた。

 少なくとも今のままの公衆衛生活動を続けていれば,あながちあり得ない状況ではないと思うのですがいかがでしょうか。

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 21世紀のキーワードはDNAと代替医療

 21世紀の公衆衛生活動のキーワードにDNAと代替医療を挙げるとしたら奇異に感じられるかもしれない。

 20世紀に大いに進んだ技術は,航空機,自動車,家電製品,コンピュータなど純然たる人工物であるが,人間,生物,自然の分野については重要な課題が数多く残されている1)

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 はじめに

 21世紀を目前に,2000年施行をめざして最終調整段階にはいった「介護保険制度」をめぐって医療・福祉分野の動きがあわただしい。保健分野にとっても無視できない21世紀へのハードルとなっている。また,結核緊急事態宣言が出されるなど,新興・再興感染症の予防や組織的な対策が新たな課題となっている。

 自然界においても,記憶に新しい阪神淡路大震災規模のトルコ大地震,そして台湾の大地震,地球温暖化の影響からか各地において台風・大雨の被害が相次ぎ,「天変地異」の世紀末の感を濃くしている。こうした状況下は21世紀に向けての「公衆衛生再興」の幕開けを予感させる。

 そうはいっても,公衆衛生活動の過去・現在・未来というテーマは,私の器をはるかに越えるものでありしばらく考え込んでいた。しかし,臨床看護や保健婦の実務を経て,国立公衆衛生院公衆衛生看護学部で主に保健婦の現任教育にあたり,そして何よりも現在看護基礎教育の現場に身を置き,まさに21世紀を担う人材の育成をしているという立場への,世紀末に課せられた課題と受けとめ稿に臨むことにした。この立場から,主に「保健婦(士)」(以下文中は「保健婦」の表記で統一した)に期待することを中心に述べてみたい。

たかが保健婦されど保健婦 鈴垣 育子
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 21世紀の公衆衛生活動のキーワード

 保健婦の立場から21世紀の公衆衛生活動のキーワードとして,人と自然・環境との共生,多様な価値観,プロモーター & サポーター,ネットワークをあげたい。

 私は82歳になる実母と同居している。私の子どもたちはお祖母ちゃん子である。母と私の夫とは仲が良くない。互いに自分の考えが正しいと思い込み,それに従って物事を処理するため,良かれと思い実施したことが,実施された側にとってはかえって迷惑であることも多い。長く同居していてもことことに意見の対立がある。私は傍観的立場を取りながらも,自分の都合の良いほうの味方をする。子供たち(男2人女1人)はそんな私を批判するが,いろいろな考え方や物事への対処方法を的確に見極めて,自分の思いをいかにうまく相手に伝え,自分のニーズを満足させるかを自然に学んでいるようだ。

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 健康な住民と対等に話ができる保健婦にならなければならない

佐々木 21世紀に向かって一番準備をすることは「人」ですね。私の勤務する足立区は過去,行政内部で保健活動の手段を分散すれば,衛生行政は縮小か不用だろうと言われた区です。しかし,23区や全国でどんどん保健所が統合されてきている中,保健所の役割や使命を職員で話し合い,また住民と共に楽しく地域の健康づくりを普及啓発していままできました。いよいよ来年の4月から組織を変えて,今よりもさらに住民の立場に立った公衆衛生行政を実現するために保健所の機能の強化と変化をきびしく推進する組織になります。

 これまで,住民自体の保健活動を展開しながら保健婦の人づくりということを狙って,保健婦だけでなく公衆衛生従事者の資質の向上を一番大事にする方針できました。「保健所は1つでいい。保健相談所とよばれてきたところは保健センターでいい」と早く結論を出してしまうと,職員のやる気,とくに第一線で区民に接してきた職員全体が元気を失い,先が見えない中で変わっていくことに不安が大きくなります。現状を維持しながら区民への直接サービスや,足立区民が健康になるにはどうしたらいいかみんなで考えてきました。

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 夏休みの真っ最中の7月28日,住民参加のホームヘルプサービスを担っている,さんあい公社主催による「子供のための介護教室」が行われた。

 この教室は公社利用者によるお話,車いすの実習などを通して,子どもたちに介護とはどういうものかを知ってもらい,介護への関心を高めてもらう目的で企画されたもので,この日が第1回。

連載 国試を読む・21

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 本連載は,状況設定型の国家試験問題(1999年2月25日実施,第85回)を題材に,単なる受験指南ではなく保健婦活動の基本を確認することを目指しています。今回は,骨粗鬆症についての健康教育について解説いただくとともに,お2人の保健婦に“設定された状況で活動を考える思考プロセス”をご執筆いただきました。

連載 いま知っておきたい環境問題・10

環境の放射能(線) 出雲 義朗
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 はじめに

 本稿の放射線とは,この連載で既述(1999年2月号,10月号)の“電磁界”,すなわち放射線のなかでもイオン化(電離)する作用がない放射線ではなく,X線やコバルト60(60Co)のガンマ(γ)線,放射性元素のように,電離や励起作用がある,いわゆる“放射線”を対象にします。一方,放射能とは,放射性核種(原子核内の陽子と中性子の和,すなわち質料のみによって分類される原子のこと)が他の核種に変わる(崩壊する)性質(単位はベクレル,Bq)を指すのですが,その際アルファ(α)線,べータ(β)線,γ線などの放射線を出します。

 さて,本題が大きな話題になった最近の例としては,1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故が挙げられます。事故直後には,全国各地で異常な放射能が検出されました。その後,1995年に高速増殖炉“もんじゅ”のナトリウム洩れ事故や,1997年には旧動燃・核燃料再処理施設の火災,爆発事故などが発生しました。しかし,環境への放射能(線)の漏洩や周辺住民への影響はほとんどなかったか,あっても無視しうる程度に小さかったことは不幸中の幸いでした。最近では,環境放射能(線)に関する話題よりは,むしろダイオキシンなどの有害化学物質による環境汚染の方が大きな話題になっていると思っていました。

 このような矢先(しかも本稿の校正締め切り48時間を前にして),「はじめに」の一部をどうしても書き改めなければならなくなりました。いうまでもなく,9月30日に発生した東海村のJCO社の事故のためです。もともと自然界に存在する放射能核種(後記)であるとはいえ,全く信じ難いことに,むき出しに近い状態の核燃料を一般的な小規模化学工場のような施設(しかも手作業の処理操作過程)において扱い,原子炉で起こっているような核分裂の連鎖反応(臨界)を突然起こしてしまったのです(しかも,その反応を制御する施設や設備も全くない状態で。筆者は“臨界”と聞いただけで恐怖を感じました)。幸いにも,このような状況をいち早く察知した専門家の判断により連鎖反応は停止され,同時に環境中への中性子線の漏洩も停止し,緊急事態はとりあえず終息したのです。

 各報道で承知のとおり,対応の遅れや多くの課題の指摘もありますが,関係機関は原子力の防災対策や指針などに従い,それぞれ行動したと思っています。周辺の農水畜産物や飲料水に関する10月2日までの緊急の放射能(線)検査では,幸いにも心配な値は検出されていないようです。このような事件,事故を含め本題に関する理解を目的として,「放射能(線)とは」「環境中の放射能(線)」「被曝線量」「被曝の影響」などの概要を述べてみたいと思います。

連載 大都会の中の小さなまち しんやまの家ストーリー・11

健康づくりのこだま 佐谷 けい子
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1人歩きを始めた舌体操・足の裏体操

 「今朝テレビにあなたの顔が映っていたわ。元気になってよかったわね。ところで,あの体操おもしろかったわね〜」「口を開いてテレビに映っていたけど,アカンべーみたいな体操,愉快ね」「年中“忙しいしい,忙しい”と言っていたけど,毎日ああいう体操しているから忙しいわけ?」

 ナイスミドルの健康講座受講者の家に,遠方の友人からこんな電話がありました。

連載 世界のフィールドから 健康づくりはボーダレス・8

韓国の医療協同組合 稲本 悦三
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 都市貧民と呼ばれる人々

 ソウルに都が建設されたのは,1394年李氏が韓半島を統一した時,「風水説」に適合した場所を捜し求めた結果,現在のソウル市の位置に決まったそうです。当時の人口は約11万人で,その後大きな変化もなく維持され,現在のソウル市の人口の1/120,面積で1/38でした。20世紀に入るころには都の人口は20万人になっていました。

 1910年日本の朝鮮併合後ソウル市への人口流入が増加し1920年には25万人,ソウル市の面積は約2.3倍に拡大しました。その後,1945年の解放,1950年の朝鮮戦争を通して海外からの帰還民,北からの越南民で,1960年代のソウル市の人口は245万人に激増しました。

連載 AIDS医療の最前線から地域へのフィードバックレポート・4

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 私たちはエイズ治療・研究開発センターでコーディネーターとして活動する看護職です。施設と地域の連携をいかに促進するのかについて,地域からも施設からも検討していく必要性を強く感じています。その1つの試みとして,私たちから地域で働く看護職への情報発信を考えました。前号までは,世界全体そしてカナダ・バンクーバーのエイズ患者の在宅療養支援や予防に日夜活動する看護職についてご紹介しました。今回は我が国の状況に目を向け,エイズ在宅療養支援の変遷と実際についてまとめてみました。

 本年9月1日,厚生省は今後5年間のエイズ対策を示す『後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針』を発表しました。エイズの予防活動から医療体制,人権への配慮まで幅広い内容を含んでいますが,在宅療養支援の体制整備について一項目を割いて明記しています。また予防活動については,個別施策層として青少年,男性同性愛者,外国人,性産業従事者が示されたことと,保健所とエイズ治療・研究開発センター,ブロック拠点病院,拠点病院が予防についても連携を促進することが含まれています。

連載 ニュースウォーク・20

介護保険のアフターケア 白井 正夫
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 緑にすっぽりつつまれた山形県最上町に,町がつくるケア付き住宅とグループホームを合築した「家」の建設が進んでいる。話を闘いて,きっと今度も「人に優しい」平屋建ての家に違いない,と思った。介護保険の対象外のケア住宅とサービスメニューに入るグループホームだが,町にとっては共に介護保険対策事業である。

 宮城県,秋田県に接する最上町はJR陸羽策線の沿線に広がる住民1万2千入の農林業の町である。町の中心部である羽前向町駅に降りても,建物のすぐ向こうは濃い緑の山が背屏風になっている山間過疎地で冬は豪雪地だ。高齢化率も25%を超える。

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 二次保健医療圏である北多摩南部保健医療圏は,東京都のほぼ中央に位置し,東側は区部に接する近郊住宅地である。武蔵野市,三鷹市,府中市,調布市,小金井市,狛江市の6市からなり,人口は合計で91万人。府中小金井保健所(事務局保健所),三鷹武蔵野保健所,狛江調布保健所の3保健所で管轄している。各保健所エイズ抗体検査を行っているが,まだ陽性の事例はない。

 しかし,各市に問い合わせると免疫機能障害による障害者手帳取得者が6市で計20人以上おり,多くはないが決して稀とは言えない数の感染者が生活している。この医療圏において平成9年度から行っているエイズに関する地域連携推進事業について報告する。

基本情報

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保健婦雑誌
55巻11号 (1999年11月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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