- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
電気は現代生活には最も不可欠なインフラストラクチャーの1つであり,世界中で使われている。電気の利用が我々の生活向上にいかに貢献しているかは,事故や災害による停電時に実感するところである。電気の利用はこれからもますます増大の一途を辿るに違いない。
しかし,電気が発電,送電,利用されるところでは,電磁界(electromagnetic fields:EMF)が必ず生じる。電磁界を生じることなく,電気エネルギーを発電・利用することは不可能であるから,電磁界曝露は現代人にとって避けられない。
日頃使用している電気は,発電所から送電線,配電線を経由して家庭に届いている。日本では東日本が50Hz,西日本が60Hzで送電されている。50Hzや60Hzは,一般に交流の商用周波と呼ばれている。交流に周波数があるように,連動する電磁界(EMF)にも周波数がある。よって,50Hzの交流は,50Hzの電界と50Hzの磁界を生じる。周波数が300Hz以下の電磁界は,超低周波(extremely low frequency:ELF)電磁界に分類されており,商用周波電磁界もこれに入る。
100年前に送電を開始して以来,世界中で非常に効果的に広範囲に利用されているが,感電死など直接的な原因を除けば,電磁界の健康影響への認識は極めて低かった。しかし,ここ数十年間,超低周波電磁界による健康影響への可能性について調査研究が進められている。1979年,送電線付近に住む子どもは発がんのリスクが高いというの報告がきっかけとなり,以降この事実を解明するために,人間,動物,細胞を対象としておびただしい数の研究が実施されているが,超低周波電磁界曝露による健康影響についての疑問は現在も依然として存在している。
これを受けて,世界保健機関(WHO)では,1996年より「国際電磁界プロジェクト(International EMF Project)」を10か年(当初は5か年)計画で発足させた。電磁界の健康リスク評価作業が現在も進められているが,筆者は当初からこのプロジェクトに関わっているので,WHOの最近の動向を紹介したい。また,本稿の後半では,米国で実施された,商用周波電磁界の健康影響評価を目的とする「電磁界ラピッド計画」の最終報告書が,今年6月中旬に提出されたのでこれを紹介する。
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.