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はじめに
PCM手法とは,Project Cycle Management(プロジェクト・サイクル・マネージメント)のための手法の通称である。プロジェクト・サイクルとは,よく知られているようにプロジェクト事業の計画立案・実施・評価の一連の過程を運営管理することである。開発援助分野では,1960年代後半からロジカルフレームワークという概要表を用いたプロジェクト運営管理が行われるようになり,1980年代には計画立案に参加型ワークショップによる分析を導入した「ZOPP(目的指向型プロジェクト立案)手法」がドイツ開発援助公社(GTZ)により開発された。(財)国際開発高等教育機構(FASID)によって開発されたわが国のPCM手法はこれらをもとにしているが,その内容や詳細についてはすでに本誌を含めていくつか紹介されているので1-4),本稿では省略したい。
さて,住民ニーズとはいったい何者であろうか。最近の行政文書には,「多様化・高度化する住民ニーズに対応して…」という表現が随所に見られるが,住民ニーズが何であるかには触れられていない。また,「ウォンツ」「デマンズ」「ニーズ」の違いについても,必ずしも明確に意識されていないように思われる5,6)。そこで本稿では,PCM手法を利用する中で「ニーズというもの」がどのように気がつかれるかということについて述べたい。したがって,本稿はPCM手法を用いてニーズを把握する方法について述べるものではなく,これまで地域の保健活動を進めながら行っていた分析に現れていた「ニーズと思われるもの」について改めて考察した結果である。
筆者らはPCM手法の分析の中であえてニーズを求めようとしたことはないが,ニーズを何らかの形で捉えているという感覚はある。ニーズ把握といえばアンケート調査などの意識調査や実態調査がまず思い浮かぶが,ニーズは数字などで表される実態ばかりではなく,普段の業務を通じて実感として感じられるものもあるのではないだろうか,ということなのである2)。その実感が共有され強化されていくのが,メンバーにより進められる参加型の分析ではないかと思われる。
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