助産婦雑誌 51巻9号 (1997年9月)

特集 産痛の解明とケア

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はじめに

 初産・経産ともに,妊娠後期の不安内容として最も頻度の高いものに産痛がある1)。妊婦が出産準備クラスに参加する最大の理由も,産痛の防止または軽減にある2)

 痛みの科学的研究は今から約100年以上前に,Goldscheider(1884)が痛点を発見し,v. Frey(1895)が痛みの受容器を同定したときに始まる。その後,痛みの感覚の特殊性のために,多くの困難や制約があり,その解明は進まなかった。しかし,最近30年余りの間に発痛物質や内在性モルヒネ様物質(エンドルフィン,1976)の発見など飛躍的な発展を遂げ,それと共に産痛の研究も,近年世界中で行なわれている。

β-エンドルフィン 田中 裕之
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はじめに

 「産みの苦しみ」という言葉が示すように,産痛は人類が感じる痛みの中でも最も強い部類に属すると思われる。古くからこの痛みを緩和しようと様々な試みがなされてきた。しかし,痛みは主観的な要素が強くその評価は難しく,動物モデルを用いた研究にも限界がある。

 近年,神経生理学的に痛みのメカニズムが解明されつつある。その中で本来人間に備わっていると考えられている内因性鎮痛機序の主役をなすものとしてβ-エンドルフィンが注目されるようになった。

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はじめに

 助産婦である私が,「産婦の眠気」を意識し始めたのは,大学病院勤務から,出産数の多い民間病院の分娩室勤務となってからである。経験も少し積んで,毎日じっくりとお産と向き合うようになって気付いたことである。「何となく眠くなる産婦が多い。なぜだろう?」という観察段階を経て,「眠りの時期は産まれる前の一定期間のようだ」となり,さらに「この眠気は産婦にとっては,有効なリラクセーションをもたらしている」「これまでのつらそうな表情が全く消えている」「気持ちよさそうだ」「この時期は,陣痛はあるのに産痛を訴えていない」「眠気が終わる時期には児頭は十分に下降し,子宮口は,ほぼ全開になっている」といったことが多くの産婦に観察・確認されるようになってきていた。そして,この「眠気」は大きな意義があるのではないかと考えるようになった。

 そこで助産婦仲間の協力を得て,この「眠気」という現象を確認していく作業を行なってみた。

私の産痛体験 尾﨑 江梨珂
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 私は平成元年に29歳で東京の病院で初産,そして昨年平成8年に36歳で自宅出産をしました。

 初産のときは当時聖母病院に勤務していた助産婦の菅沼ひろ子さんが,病院の母親学級とは別に開いていたラマーズ・クラスで,自分のからだの中で今何が起こり,これからどうなっていくのかを自分で考え,出席者同士で話し合いながら学ぶことができました。

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はじめに

 助産婦は分娩の間,産婦さんの産痛をできるだけ緩和しようとケアを提供する。そのケアは産婦さんにとってぴったりとした適切なケアになっているのだろうか。私たち助産婦はケアに対する評価を聞く必要があるのではないか。そこで最近数か月以内に分娩を体験したお母さんたちが,どのように産痛を感じ,また助産婦から受けたケアについて,どう思ったのか振り返ってもらうことにした。3人のお母さんの率直な声を聞くことで,産痛と助産婦について考えてみたい。

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はじめに

 痛みのメカニズムは未だ未知の部分が多く,したがって産痛緩和のケアは産婦の反応を観ながら安楽な方法を経験的に積み上げて伝承されてきた。

 産痛は,子宮体部・頸部および腟・会陰部・外陰部などの末梢神経により伝達される疼痛インパルスが,脊髄,脳幹を経て,視床で認知され,大脳皮質で評価される。したがって,視床までは疼痛に対する生理的閾値にほとんど個人差はないが,大脳皮質でその痛みを感じる感覚閾値は,過去の経験,学習,疼痛に対する注意や感情の程度に影響され,主観的で個人差がある。疼痛は疲労などの体調にも影響される。

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はじめに

 内科病棟での勤務が長かった私は,助産婦学校に進学する直前まで,自分の生涯の仕事はターミナルケアと決めていた。特に,実母を癌で失うという経験から,それまでとは違った意味で,人が死ぬということ,家族のあり方と内親を失う家族の社会復帰への援助を深く考えるようになった。

 早いもので私が助産婦として働き始めて7年目になる。看護婦時代は,助産婦を単に分娩を介助する人として捉えていた。縁があって助産婦になった今は,以前の仕事とは全く正反対の,人が生まれるということ,新しい家族を迎える援助を日々行なっている。

痛みを逃す分娩体位 鈴木 美哉子
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はじめに

 昨今,わが国でもアクティブ・バースが徐々に浸透するようになってきた。医療者におまかせのお産から産婦が主体的に分娩ができるように支持したのがラマーズ法であるとすると,分娩台から解放し,より自由に,より生理的に産婦自身が楽な体位で分娩を試みるよう勇気を与えてくれたのが,アクティブ・バースである。産婦のみならず,分娩にかかわる医療者側にも大きな意識の変革を起こした。分娩台に横たわり,ただ単に痛みを我慢するだけでなく,陣痛に対して前向きに対処するのがアクティブ・バースそのものである。実践した産婦たちは,一様に「分娩台に横になっているよりもとても楽だった」と言う。

 本稿では産痛緩和の視点から,分娩体位について考えてみたい。

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 陣痛が痛いのは一見仕方がないことだが,実は,痛みの「程度」は変えられる。

 日本では薬物に対する警戒心が強く,欧米に較べて麻酔出産が非常に少ない。その反面,母子にほとんど副作用がない自然な和痛も,熱心に行なわれてきたとは言い難い。つまり,日本のお産は,楽に産むことをあまり考えてこなかったのかもしれない。

ソフロロジー法の効果 岡村 博行
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ソフロロジー法の誕生

 1960年スペインのアルフォンソ・カイセドー(Alfonso Caycedo)博士によって創案されたソフロロジー法は,意識の変化を研究し,心と身体の安定調和を得るための方法を学ぶものです。西洋風のリラックス法であるジェイコブソン(Jacobson)のProgressive relaxsation(段階性弛緩法)やシュルツ(Schultz)のautogenic training(自律訓練法)と東洋古来のリラックス法の禅やヨガを巧みに組みあわせて考案された積極的リラックス法を柱とするこのソフロロジー法を最初にお産に応用したのは,1976年フランスのJeanne Creff博士を嚆矢とします。

 一方わが国にソフロロジー法を紹介し,最初に臨床応用したのは熊本の松永博士で,1987年のことでした。しかし,その訳書「ソフロロジー式分娩教育」(E. Raoul著1))がいささか難解なこともあって,わが国におけるその普及は遅々たるものでした。しかし,ソフロロジー法が「母性の確立」という現代的な基本理念を有すること,イメージトレーニングの初めてのお産への応用,母乳育児との相性のよさ,優れた和痛効果などのユニークな特徴が知られるにつれて,近年急激に多くの産科医療関係者の関心を呼ぶようになりました。

麻酔分娩産婦の看護 関島 英子
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はじめに

 わが国には戦後間もなく精神予防性和痛分娩が導入され,有効な方法としてかなり取り入れられた。20年前から定着を始めたラマーズ法は,この精神予防性和痛分娩の流れを汲むものである。生理的なプロセスを大事にするためのそれぞれの和痛法の意義は大きい。それぞれの和痛法の意義を認めたうえで,産婦の中には麻酔による痛みの軽減の必要な人がいることも事実であることを知っておいてほしいと思う。助産婦はいかなる産婦のケアもできることが望ましく,麻酔分娩時の産婦のケアにも精通しておきたいものである。

麻酔分娩の方法 谷 昭博
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和痛法の必要性

 核家族化,少産傾向の時代となり,女性が分娩にかかわることが本人の分娩だけに限られるようになり,産婦が陣痛,分娩へ抱く不安は増大している感がある。

 この不安や子宮収縮による痛みが過度な場合,以下の3点により胎児仮死の誘因となる。①カテコラミン産生を増加させ子宮胎盤血流量を減少させる。②過換気になり低炭酸ガス血症となるが,収縮間欲期に呼吸刺激が消失すると一時的な低換気となり母体は低酸素状態になる。③呼吸性アルカローシスの結果,母体の酸素解離曲線を左方移動させて胎児への酸素供給が減少する。

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 日本助産婦会山形県支部は一度支部活動を停止していたが,3年前の1994年に復活した。会員は現在35人で全員勤務助産婦である。

 地域に密着した開業助産婦のいない珍しい支部だが,それだけに地域にしっかり入りこんだ助産婦活動を展開したいという意気込みと責任感は持ちたいと思う。

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「日本性科学連合」発足の経緯

 1995年8月,性科学に関係のある日本性機能学会,日本思春期学会,日本家族計画協会,日本性教育協会,日本性科学会の5団体が共同主催して,第12回世界性科学学会が横浜で盛大に開催され,5団体の密接な連帯と協力により,世界各地から多数著名な性科学者の参加も得て,予想以上の大成功を収めることができた。このことはまた,日本に初めて,性科学に関する学際領域からなる組織が発足したことを意味するものでもあった。

 そのため組織委員会の委員の中から,組織委員会の解散後もこの連絡組織を存続させるべきではないかという声が上がったのを受けて,「日本性科学連合」の結成に向けて5団体の代表によって種々検討が行なわれ,各団体理事会での批准了承を得て,1996年9月10日発足会が開催され,連合の設立をみた。なおこの段階で,日本性感染症学会の加盟も了承された。

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はじめに

 立ち会い出産に関して,その方法やありかた,是非に至るまで,これまでさまざまな論議がなされてきています。最近では主体的なお産に関する情報も,氾濫する育児雑誌やマスコミを通してようやく夫たちの耳にも届きはじめているように思いますが,夫自身からのそれに対する問題提起や関心は依然として乏しいように思われます。

 自分の大切な人が,出産という人生の中でも大きな出来事を経験するわけですから,その場所がどこであれ,立ち会い出産は,私にとっては当然のことでした。しかし,現実には仕事のためにその当然と思っていたことを実践することが,いかに難しく葛藤を伴うか,ということも体験しました。今回,立ち会い出産の体験談ということで報告する機会をいただきましたが,正直なところ夫の立場から,これらのことを公にするのは,この原稿を書いている今でも,やはりためらいを感じます。なぜならば,出産というのは「つき詰めれば夫婦のこと,極めてプライベートなこと」だからです。

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 日本でもボランティア活動が徐々に根づきつつあるが,日本助産婦会山形県支部では助産婦が専門性を生かして,地域の人々に直接相談サービス「親と子のヘルシートーク」を提供している。昨年4月から毎週土曜日午後に市の女性センターで始めた活動だが,人々からは喜ばれ,助産婦にとってはサービスの受け手から直接声を聞けるとあって,お互いにもちつもたれつのいい関係で進行している。

 3年前に再結成された日本助産婦会山形県支部は35人の小世帯。全員が教育か施設で働く勤務助産婦。地域の助産婦の再生をかけて支部再結成を果たした現支部長の荒井眞智子氏(山形県立高等保健看護学院助産学部教務主任)は,育児がスムーズに行かない母子のために個人的に家庭訪問も行なっている。一人でカバーできる地域は限られるが,県内に母子訪問できる開業助産婦は今0人。とりあえず会員数を増やして,一人でも多くの母子と女性に相談サービスを提供したいと考えている。

連載 おニューな地球人・64

お産巡礼 きくち さかえ
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 生まれて,生きて,死んでいく。人間の初めと終りの誕生と死を,昔の人はコミュニティーの中であたりまえに受け入れていた。誕生と死が生活の中に日常的に存在した。そんなリアルな生き様が,今は文化や医療の中でベールに包み隠されてしまっている。

 そのリアリティーの欠如は,ときとして人々の心を真綿でくるみ,絞め殺してしまうことにもなるのではないか。

連載 とらうべ

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 私は大学の保健学科で作業療法学を教えているが,ダウン症児をもつ親の会「まゆの会」の一会員でもある.

 「まゆの会」は結成5年め,30家族が入会している.今までのところ,私はここに専門職としてではなく親の立場のみで参加している.作業療法士として10年間臨床で過ごし,現在は教育に携わっているが,親の会にはどのように専門職としてかかわったらよいのか,答えが見つからず,時間的余裕もないことを理由に,專門職の部分は後ろにおくようにしていた.そこにはとまどいめいたものもあったのかもしれない.

連載 りれー随筆・156

人生のターニングポイント 唐沢 泉
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流転

 2回目の成人式を迎えた今,自分の人生を振り返ると,新幹線のようにひたすら走り続けた中で,人生における数々のターニングポイントがあったように思う。

 私は助産婦学校を卒業後,国立病院の産科病棟に就職した。5年間働き,大学へ行こうと決心をして退職した。分娩当直のアルバイトをしながら,受験勉強をしようと考えていた。ところが,恩師の勧めで国立療養所の整形外科に就職することになった。恩師曰く「助産婦を続けるなら,1〜2年は成人を勉強したら?大学は幾つになっても行けるから。もっとすべきことがあるでしょう?」。単純な私は,すぐ納得したのである。しかし,“すべきこと”は良くわからなかった。

今月のニュース診断

多胎妊娠と減数手術 斎藤 有紀子
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 「多胎減数手術87例確認:大学病院など15施設」(朝日新聞7月4日)。多胎児を単胎や双胎にする減数手術が,産婦人科界の正式な承認のないまま,複数の施設で行なわれていることが,厚生省「不妊治療に関する研究班」の調査で明らかになった。

 班長の矢内原巧教授(昭和大医学部)は,「認められていない手術が市民権を得ることを危惧する。命の選択など倫理的に大きな問題があり,論議が必要だ」とコメントしている。

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 分娩中の子宮破裂について最近になって見たり聞いたりしたことを少しまとめてみました。

 一番話題になったのは分娩を誘発している最中に起こった子宮破裂で,これらの分娩誘発中の子宮破裂の症例では,陣痛促進剤などの使い方や分娩を誘発する症例の選択の適応に何らかの問題があるようです。しかしながら,子宮破裂は誘発をしない自然分娩の最中でも起こり得る合併症なのです。

基本情報

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助産婦雑誌
51巻9号 (1997年9月)
電子版ISSN:2188-6180 印刷版ISSN:0047-1836 医学書院

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