研究
分娩時外陰部消毒の効果について
永井 生司
1
,
我妻 まさ
1
1東北大学医学部産婦人科教室
pp.53-56
発行日 1964年2月1日
Published Date 1964/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202706
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1.はじめに
近代外科手術学はリスター(1827-1912)の唱えた消毒法によって新たな曙光を見いだしたのであるが産科学の発展もまたゼムメルワイス(1818-1865)の外陰部消毒法の発見に負うところが多い.ウィーン産院の助手を務めていたゼムメルワイスは頻回に内診を行なう医学生教育用病棟での産褥熱死亡率が,内診回数の少ない助産婦教育用病棟に比べて著しく高率であることに注目した.たまたま彼の同僚が産褥熱死亡者の剖検中手指を傷つけられそれが因であたかも産褥熱患者のごとき経過をたどって死亡する事故が起こった.ゼムメルワイスは死亡した同僚の病状と病因より1847年に産褥熱の原因は傷部が動物性有機物質の分解産物に直接触れることであると唱え内診時の手洗を励行せしめた.その結果は彼の予想どおりで産褥熱の死亡者は激減したのである.しかし彼の説は不幸にして当時の世に迎えられず,1870年リスターが創傷の消毒説を唱えるに至って改めて正しい評価が下され,分娩時外陰部消毒法が広く実施されるようになったのである.消毒法実施前と実施後で産褥熱死亡率は実に10%から0.1〜0.2%に減少したといわれる.
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