medicina 50巻4号 (2013年4月)

『medicina』50周年を迎えるにあたり

特集 エマージェンシーの予兆を察知する―リスクを評価し危機に備える

野口 善令
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 エマージェンシーというと,心肺停止,ショック,急性冠症候群など,いかにも緊急を要する救急・重症疾患の病名が頭に浮かぶ.これまでの本誌のエマージェンシー特集はこれらの緊急事態が起こってしまってからの対応に重点が置かれてきた.

 確かにエマージェンシーへの対処を心得ておくことは重要であるが,緊急事態が起こってしまってから慌てて対応するのには限界がある.いままで安定していた入院患者が急変した場合など,頭が真っ白になってしまってうまく対応できず,後で悔やんだ経験は誰にでもあるだろう.さらに,救急・重症疾患でも,必ずしも重症そうな外見で救急搬送されてくるとは限らず,軽症そうなウォークイン患者や,非典型的な病像患者が診療中に急変することがある.実はこれらの予期しない急変や,最初は軽症そうに見えて進行の速い経過で悪くなるケースが現場ではトラブルの種になりやすい.

特集の理解を深めるための25題

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野口 本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます.「危機の予兆とリスク評価」というテーマで,座談会を始めさせていただきます.

総論:リスクという概念を理解する

リスクとは何か 野口 善令
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ポイント

◎一般的には,リスクは危険と同じ意味で用いられる.

◎学問領域でのリスクの定義は,大別して①事象の発生する確率,②事象の発生確率と事象の結果の積(期待値)の組み合わせの2つがある.

◎安全管理の領域では,リスクを期待値で捉える.

◎確率だけで捉えると,損失は非常に大きいが起こる確率はごく低い事象を無視してしまいがちになる.

バイタルサインから緊急性を読みとる

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ポイント

◎呼吸の異常を認めたら回数を確認し,一過性でも徐呼吸と判断したなら「一過性徐呼吸の5病態」を呼吸パターンから鑑別しよう.

◎一過性徐呼吸の5病態は,“ABC2S”で記憶しよう.

◎喘ぎ呼吸(agonal gasp)なら積極的な蘇生治療を開始するが,AEDではなく,手動操作の除細動器を準備しよう.

◎注意:くも膜下出血でも喘ぎ呼吸を認める症例が数多く報告されている.この場合,脈拍を触知できたり,体動がある場合が多い.あくまで喘ぎ呼吸は脳幹損傷の所見であり,全身循環動態が保たれていないと判断したときは心肺蘇生を積極的に行う.

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ポイント

◎多くの急性呼吸器疾患や心不全では低酸素血症がなくても頻呼吸を呈する.

◎頻呼吸を伴わない呼吸不全は慢性を考える.

◎脱水のみでは呼吸数は増加しない.

◎Kussmaul呼吸の原因鑑別に呼気の香りが役立つ.

◎パルスオキシメーターでは呼吸数測定の代用にはならない.

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ポイント

◎迅速で適切な対応が必要な「キケンな低血圧」とそうでない「低血圧」の病態を区別する.

◎血圧だけをみるのではなく,個々のバイタルサイン(脈拍,呼吸数,尿量,体温など)を統合して考える.

◎危険な低血圧の代表はショックであるが,ショックは病態生理学的概念であり,患者本人が訴える症状ではない.

◎ショックを疑うべき臨床症状,徴候を理解し,患者の全身状態を評価する.

◎一過性の低血圧をきたす失神発作のなかに隠れている,危険な心原性失神を見逃さない.

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ポイント

◎脈拍異常では心疾患以外の原因が多く,常に鑑別に挙げて対応したい.

◎血圧をはじめとしたそのほかのバイタルサインにも注目し,致死的・準致死的疾患の早期発見に努める.

◎正常脈拍でも油断は禁物.内服薬など背景も確認しておくこと.

症候に潜むリスクを評価する

胸痛 小田 浩之
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ポイント

◎バイタルサインと交感神経亢進症状から重症度を見極める.

◎致死的胸痛をきたす疾患の可能性を高める所見,下げる所見を知る.

◎疑った疾患の変化を推定して,検査・処置を行う.

腹痛 田中 和豊
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ポイント

◎腹痛を呈する患者の症状,徴候に潜むリスクを理解する.

◎陰性所見でも疾患は完全には否定できない(偽陰性に注意する).

◎腹痛を呈する患者の全体像からゲシュタルトに診断する.

◎腹痛を呈する致死的な疾患を見逃さないようにする.

めまい 舩越 拓 , 志賀 隆
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ポイント

◎緊急性のあるめまいの鑑別疾患を挙げることができる.

◎適切な問診からめまいの病態生理を類推する.

◎めまいにおける,軽症高頻度疾患を正しく診断することでリスク回避につなげる.

失神 谷口 洋貴
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ポイント

◎まず失神なのか,けいれんなのか? はたまた,めまい(浮動性や前失神)なのか,見極めよう.

◎失神と考えられたなら,緊急度や致死的な失神を思い出し,鑑別していこう.

◎診察中に失神を起こさないように患者さんを臥床させよう(失神を起こすと,外傷という余計なおまけがついてくる).

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ポイント

◎「しびれ」は多彩な症状を包括するため,患者の言葉を医学用語に変換する際に細心の注意を払う.

◎「しびれ」診療で「生命・機能予後のうえで重篤な病態」とは何か認識しておく.

◎「基礎疾患」と「発症と経過」に注目する.

◎「しびれ」診療で「生命・機能予後のうえで重篤な病態」と「頻度が高い病態」におけるしびれの分布パターンを理解しておく.

◎「しびれ」の責任病巣が中枢神経病変である可能性について注意深くアセスメントする.

皮疹 中村 猛彦
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ポイント

◎皮疹は視診だけでなく,愛護的触診を行う.

◎診断・説明は後日,皮膚科医に相談することを前提に行う.

◎アナフィラキシーでは,重症度の評価とそれに応じた対応を迅速に行う.

◎重症型中毒疹は,発熱などの全身症状や粘膜・眼の合併症に注意する.

リスクの組み合わせから隠れた危険を察知する

脾摘後+発熱 清田 雅智
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ポイント

◎脾摘出および脾機能低下は特殊な免疫不全である.

◎時間単位で悪化する重篤な敗血症をきたすOPSIという病態がある.

◎肺炎球菌が最大のリスクであり,ワクチンを使用することで,リスクを軽減できる可能性がある.

咽頭痛+流涎+発熱 山本 舜悟
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ポイント

◎発熱,咽頭痛を訴える患者では,「人生最悪の痛み」「開口障害」「唾を飲み込めない(流涎)」「tripod position」といったレッドフラッグサインに注意する.

◎急性喉頭蓋炎を疑うきっかけは咽頭所見の割に咽頭痛がひどいことである.

◎急性喉頭蓋炎,扁桃周囲膿瘍を疑ったらできるだけ早く耳鼻咽喉科医にコンサルトする.

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ポイント

◎壊死性筋膜炎を鑑別疾患のなかに入れよう!

◎壊死性筋膜炎の初期症状を見逃さない!

◎壊死性筋膜炎を疑ったときの初期対応を身につけよう!

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ポイント

◎担癌患者にはoncologic emergencyという緊急事態が起こりうることを知っておく.早急に対応しないと不可逆的な障害を残したり,生命の危機に陥いることもある.

◎担癌患者が腰背部痛を訴えて来院した場合,脊髄圧迫症の可能性を疑って病歴を聴取し,神経学的異常所見がないか必ずチェックしなければならない.

◎脊髄圧迫症は早期診断,早期治療が大事である.何はともあれ疑ったら迅速に対応する.

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ポイント

◎肥大型心筋症など重症心筋症に心房細動(AF)が合併した場合は通常のAFのケースと異なり,心臓の予備能が低いため血行動態の破綻を招きやすく,心室細動や突然死の誘因にもなり得る.

◎僧帽弁疾患や大動脈弁疾患においてAFの発症は病状の進行を反映しており,手術適応の目安となる.特に心室を介してワンポイント心房と離れた大動脈弁狭窄症のケースではAFの背景が心不全にあるのか,それとも自発的なものか,注意を払う必要がある.

◎一方で,より致死的な心室細動などの心室性不整脈のリスクを予想することは,より一般的な冠動脈疾患や重症心不全において重要である.

◎現在,最も信頼されるリスク因子は左室駆出能の低下か心不全症状の存在であり,状況に応じて植え込み型除細動器などを考慮する必要がある.

予期しない検査異常(パニック値)に対応する

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ポイント

◎好中球減少<500/μLがあれば,容易に重症感染症に陥る.発熱があればすぐに血液培養をして広域抗菌薬を開始しよう.

◎貧血は,重症度よりも進行速度が緊急性を決める.緊急性の判断には貧血の原因疾患の診断も欠かせない.

◎血小板減少は,減少の進行速度,重症度,原因疾患と合併症によって,緊急性を判断する.

酸塩基平衡異常 金城 紀与史
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ポイント

◎血液ガスを系統的に解釈する癖をつける.

◎血液ガスのデータと病歴,診察所見を組み合わせる.

◎呼吸条件を考慮しながら血液ガスデータを解釈する.

高Ca血症・低Ca血症 東 光久
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ポイント

◎アルブミン補正Ca値を計算する習慣を身につけよう.

◎高Ca血症の鑑別に,ビタミンD中毒と悪性腫瘍を忘れない.

◎極度の低Ca血症は致死的不整脈を発症する.

血液培養陽性 大野 博司
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ポイント

◎培養検体が適切に採取されたかどうか,採取量,採取場所,消毒方法を確認する.

◎培養結果を鵜呑みにすることなく,解釈には臨床像,採取時検体のグラム染色と照らし合わせる.

◎血液培養結果によりコンタミネーションか否か,また感染臓器がどこかを推定できることもある.

疾患名に潜むリスクを評価する

TIA 許 智栄 , 許 勝栄
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ポイント

◎TIAの定義から時間概念は外された.症状や所見がある場合は脳梗塞として迅速に対応する.

◎TIA mimicsに騙されるな! 症状からTIAと決めてかかってしまい,TIAと同じような症状を呈するそのほかの疾患を見逃してはならない.

◎重症化のリスクをしっかりと評価せよ!!「今は症状や理学所見がないから大丈夫」という安易な考え方はダメ.リスクに合わせたアプローチを心がけよ!

◎帰宅させる場合も必ず今後の評価プランを立てること.フォローする医師らとの連携が鍵である.

市中肺炎 岡 晶子 , 柳 秀高
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ポイント

◎PSI,A-DROPシステムなどの市中肺炎の重症度判定について知っておこう.

◎肺炎球菌性肺炎では,通常ペニシリンかアンピシリンが第一選択になる.

◎肺炎の合併症として敗血症,ARDS,膿胸などは抗菌薬のほかに治療的介入が必要なので適切に対処する.

◎肺炎様のプレゼンテーションでありながら肺炎でない疾患としてCOPD,肺結核,悪性腫瘍(特に肺胞上皮癌),好酸球性肺炎,急性間質性肺炎,薬剤性肺障害などが挙げられるので,特徴を把握しておく.

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ポイント

◎急性胆管炎は敗血症やDICに移行しやすく,重症化のリスクがある.

◎胆石や総胆管結石の存在が確認されない場合には確定診断がつけにくいときがある.

◎Charcot 3徴が揃わなくても急性胆管炎を否定してはいけない.

◎国際ガイドラインであるTokyo Guidelinesでは診断基準と重症度判定基準が設定されている(2013年3月に改訂刊行).

◎Cholangitis Bundleでは,重症度判定基準を繰り返し判定することを推奨している.

消化管出血 小林 健二
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ポイント

◎消化管出血の症例では,まず循環動態の安定化を図り,同時に合併症・死亡のリスクの高い患者の同定を行う.

◎高リスクの患者に対しては,緊急内視鏡を考慮する.

◎血行動態の変動をきたすような血便の症例では,まず内視鏡により上部消化管出血の除外を行う.経鼻胃管から血液が吸引できなくても上部消化管出血は否定できない.

◎静脈瘤,膵炎に合併した仮性動脈瘤,大動脈の人工血管置換術後の大動脈腸管瘻からの出血は診断が遅れると致命的になるため,常に頭の片隅に置いて診断にあたる.

外傷 河野 慶一 , 今 明秀
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ポイント

◎外傷初期診療では生理学的徴候の評価に重点を置く.

◎ショックの認知は血圧低下に頼らない.

◎外傷のショックではまず出血性ショックを考える.胸腹骨盤を探せ!

◎高齢者の外傷は容易に重症化する.過小評価は禁物!

リスクとコミュニケーション

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ポイント

◎リスクは常に双方向的である.

◎ゆえにどの選択をとってもリスクはゼロにならない.「ゼロにならない」という自覚が第一歩である.

◎リスクは「各論的に」語らなければならない.

◎安心ではなく,安全を.

◎雄弁ではなく,対話を.静かな対話を.

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ポイント

◎患者(家族)の要求に負の先入観を抱いたときは要注意!!

◎患者(家族)の希望に対して共感を言葉で表現し,自分の平静を保つためにも「患者(家族)の希望のために自分のできる最善を尽くした」という自信がもてるようになること.

◎気軽に話しかけただけの非公式な相談は,コンサルテーション(コンサルト)にならないことに注意.

◎救急外来から専門医へのコンサルトは,救急患者のケアに参加してもらうプロセスであり,コンサルトした時点で自分の仕事が終了するわけではない.

◎コンサルトでは目的をはっきりと伝えること.

連載 顔を見て気づく内科疾患・4

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症 例:47歳女性

病 歴:X年7月より鼻痛,両側耳介痛,乾性咳嗽などの症状が出現.改善なく,翌月近医より当院紹介受診.

連載 実は日本生まれの発見・4

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 一昨年上市された痛風・高尿酸血症治療薬のフェブキソスタット(フェブリク®)は,尿酸産生阻害薬としては40年ぶりの新薬である.思い起こせば1988年の暮れ,社内で本薬の探索研究を初めて提案した時の聴衆の反応はきわめて冷ややかであった.世のなかで痛風という疾患があまり着目されておらず,実際に国内市場も150億円程度と決して大きくなかった.しかし,潜在患者となる高尿酸血症は当時でも200万人と言われ,いずれ注目度や市場が広がると信じ探索研究を開始した.

 1960年代に画期的な尿酸低下薬としてアロプリノールが登場して以来,世界中で多くの研究者が新薬の開発を試みていた.多数の化合物が作られ,基礎研究ではアロプリノールを何十倍も超えるものもあったが,臨床ではことごとく失敗していた.実際にアロプリノールは分子量が136と小柄ながら,きわめて効果的に尿酸の産生を阻害する.吸収や体内動態もよく,安全性も高い.われわれも多数の化合物を作ってみたがどれも足元にも及ばず,周囲の目はますます厳しくなった.打つ手がなくなり,そろそろ幕引きを考えていたころ,最後の仮説となる化合物を試すと意外にも強い尿酸低下作用を示し,その周辺も軒並みアロプリノールを超えた.しかし,開発が順調に進み始めた時,すべての候補化合物が変異原性試験で強い陽性反応を示し,振り出しに戻ってしまった.大きなハードルをようやく超えられたと歓喜していたところで,その落胆は大きかった.プロジェクトをたたむつもりでいたが,わずかな可能性を信じて最後に2化合物を合成したところ,見事に変異原性を回避した.嬉しいというより,生体の緻密さ,神秘さを深く考えさせられた瞬間でもあった.幸いにもプロジェクトは復活し,改良を加えてフェブキソスタットに辿り着いた.本薬は種々の動物モデルでアロプリノールより数倍強く,かつ優れた動態特性を示した.また非プリン骨格の利点として,種々の核酸代謝酵素に影響を及ぼさないことも示された.

連載 神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・1【新連載】

妊娠中の頭痛患者 大生 定義
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一般内科外来での神経症状や,一般内科疾患のようにみえる神経疾患をテーマにして,医療面接と簡易な診察を中心に診断のプロセスを解説します.

連載 皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・13

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後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は急速進行性の全身性皮疹を認めた55歳の女性です.急速進行性の呼吸不全にて入院され,2週間前からステロイドパルス療法,そしてメチルプレドニゾロン20mg1日3回を投与されていましたが,前胸部,背部,上腕部に紅斑が出現し翌日からは耳介と口唇に水疱形成が認められました.

アレルギー膠原病科医 ステロイド以外の薬剤はどうでしょうか.

連載 こんなときどうする?内科医のためのリハビリテーションセミナー・13

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症例

〔76歳,男性〕

既往歴:脳梗塞(右不全片麻痺,杖歩行自立),2型糖尿病,高血圧,脂質異常症

現病歴:65歳時脳梗塞を発症後に,低活動と過食から体重・血糖コントロール不良となり,経口血糖降下薬による治療を開始された.その後,過食による体重・血糖コントロール不良に対して数回の教育入院歴あり.徐々に尿蛋白量が増加,腎機能悪化もあり,浮腫が出現してきたため,入院となった.

REVIEW & PREVIEW

抗NMDA受容体脳炎 飯塚 高浩
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最近の動向

抗NMDA受容体脳炎とは

 抗NMDA受容体脳炎は,グルタミン酸受容体の一つであるN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に対する抗体を有する卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎として,2007年1月,ペンシルバニア大学のDalmauらにより提唱された自己免疫性脳炎である1)

 典型例では,発熱,頭痛,倦怠感などの非特異的感冒症状出現後,1週間程度で不安,抑うつあるいは幻覚,妄想などの著明な精神症状が出現する1~3).精神症状が極期に至る頃,痙攣様発作を生じ,それを契機に無反応状態に至る.自発開眼しているが発語はなく,外的刺激にも反応は乏しい.カタレプシーを伴い緊張病性混迷類似の状態に至る.その後,嚥下障害,唾液分泌亢進,中枢性低換気が加わり自発呼吸は減弱し人工呼吸器管理となる.その頃から口・顔面を中心とするジスキニジアが出現し,四肢筋トーヌスは亢進する.開眼,開口,挺舌運動,四肢の周期的運動,舞踏病様運動,アテトーゼ,ジストニア,ミオクローヌスなど多彩な不随意運動が数カ月~1年持続する2).意識障害にもかかわらず不随意運動が持続するのが本疾患の特徴である.不随意運動は,体温上昇,頻脈,徐脈,発汗亢進,唾液分泌亢進など多彩な自律神経症状を伴う3).痙攣様発作も頻発するが発作波を認めないことが多く,抗てんかん薬も一般に無効である.不随意運動は難治性であり,抑制するためプロポフォールやミダゾラムなどを長期間使用せざるを得ない2).この時期に,深部静脈血栓症,肺梗塞,敗血症を併発し死に至る症例もある.しかし,全身合併症を管理し,この時期を乗りきることができれば,たとえ脳が萎縮したとしても数年以上かけて緩徐に回復し得ることが報告されている2,4)

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 本書は日本神経治療学会創設30周年の記念事業として,2008年から順次公表されてきた『標準的神経治療』を合冊したものである.ここに取り上げられている疾患は(1)手根管症候群,(2)Bell麻痺,(3)片側顔面痙攣,(4)三叉神経痛,(5)高齢発症重症筋無力症,(6)慢性疼痛,(7)めまい,(8)本態性振戦,(9)Restless legs症候群の9つであり,神経内科医だけが診る疾患よりも,より多岐にわたる診療科が関与する疾患に重点が置かれ,また,慢性疼痛・めまいといった神経内科医が日々の診療で困難を感じている症候が積極的に選択されているのがまず目に留まる.日常診療のなかではなかなか接することのできない他科の最先端の考え方も吸収しながら患者を治療したいという,第一線の神経内科医のニーズをよく理解した疾患ラインアップであると思われる.本書の題名は『標準的神経治療』であるが,各章の記載の多くは治療指針のみにとどまらず,疾患概念,病態生理,疫学も含めた内容となっている.プラクティカルに治療はどのようにしたらよいかをダイレクトに伝えるだけでなく,疾患の基礎的な理解にも踏み込む内容となっており,より診療ガイドラインに近い記載と言ってよい.

 個々の章はそれぞれの分野のエキスパートによる力のこもった内容となっている.専門医が非専門医師を含む多数の読者に対して,エビデンスに基づきつつも誤解を与えないよう適切な治療指針を伝えるのは大変難しいことであり,本書の著者も苦労されたものと思われる.なかでも本書で最も充実した内容を有するセクションの一つと思われる(1)手根管症候群を例に取ると,まず冒頭にエビデンスレベルおよび推奨度の呈示があり,以下の記述も,どのようなレベルのエビデンスに基づいてこの薬物・治療法が推奨されるかについての明快な記述がある.本来ならばこのエビデンスレベルと推奨度の呈示は本書の冒頭に掲げて,すべての章がこの基本方針の下に書かれていれば,もっと統一感のある成書になったのではないかと思われるが,一方,エビデンスレベルから少し離れて各薬物の使用法について丁寧に概説した章もあり,これもまた読者のニーズの一つを満たしているのではないかと感じた.各章で著者の意図するところが少しずつ違うことを理解しながら読むことも,読者には要求されるものと思われる.

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 本書は「風邪」診療と「不明熱」診療の距離がきわめて近接していることを改めて認識させる良書である.「風邪は万病のもと」というが,恐らく正確には万病は病初期,みな風邪のようにみえるということなのだと思う.言い換えれば問題の臓器も病因も不明なのである.“Harrison”の内科書で長らく感染症を担当したPetersdorfは「多くの病気が不明熱と名づけられている.それは医師が重要な所見を見逃し,無視するためである」と喝破した.これは評者が長らく指摘してきた「風邪」という診断名の乱用が問題臓器と病因の検討不足の表現である事実とも関連している.さらに外科学領域の古典ともいえる“Cope's Early Diagnosis of Acute Abdomen”が「胃腸炎という診断は,まだ診断できていない病態に名前を与える行為であることが多い」とコメントしていることも,胃腸炎と風邪の違いはあれど同じ性質の病根を扱っている.

明解な構成

 本書はきわめてわかりやすい構成になっている.第1章「風邪を風邪と診断するノウハウ」と第2章「風邪に紛れた風邪以外を診断するノウハウ」が本書を構成する2つの基本的なモジュールで,さらに第3章で「外来診療での処方と高齢者診療のノウハウ」というプレゼントが添えられており,漢方薬の使い方まで入ったサービス付き.第1章では「風邪を風邪とする」ためには病変の解剖は基本的に上咽頭付近に限局している点,および「風邪」のように見えるが本当の鑑別すべき数種類の病態について,意識すべき点などが綺麗にアルゴリスムを添えて提示されている.第2章では発熱のみで必ずしも上咽頭に問題が限局しない不明熱的な病態を扱い,さらに「皮疹」型,「関節痛」型,といった+α(プラスアルファ)で亜型に分類,診療を進めている.この点では野口善令先生方による名著『この1冊で極める不明熱の診断学』1)も+α(プラスアルファ)に注目した点を想起させ,さらに原点をたどればTotal Family Care(TFC)をお作りになった田坂佳千先生による「かぜ症候群における医師の任務は,他疾患の鑑別である」2)という源流にたどり着く.

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 本書は,感染性腸炎に関するあらゆる知識・情報が特徴的な内視鏡像とともに解説されたアトラス的実践書である.4年前に発刊された初版が好評であったことから今回改訂版の出版に至ったわけであるが,初版で掲載された項目の改訂にとどまらず,疾患の項目数と症例数が大幅に増え,さらに充実した内容となっている.

 本書の編集を担当した大川清孝,清水誠治の両氏は,消化管,特に下部消化管疾患の診療ではわが国を代表するエキスパートである.両氏が主宰する「感染性腸炎の内視鏡像を勉強する会」という研究会で十分な時間をかけて検討された1例1例の症例が本書の骨子となっている.今回の改訂版では,この研究会で検討されなかった珍しい症例や疾患についても研究会メンバー以外の専門家によって執筆されており,まさに“A to Z”という表題にふさわしい感染性腸炎の実践書としてできあがっている.

information

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 「明日から使える!」を合言葉に,日常の研修では学ぶことのできない魅力いっぱいの講義やワークショップがぎっしりの「ERアップデート」.2013年の夏もおなじみ沖縄の地で開催を予定しています.第15回目の今回も,ハイレベルな勉強と遊びの両方を満載した3日間をご用意して先生方のご参加をお待ちしています! 全国から集う,熱い志を抱いた研修医の先生方とともに語り,ともに磨き合う,かけがえのない時間を過ごしてみませんか? この機会にぜひ,ご参加ください!

日程●2013年7月5日(金)~7日(日)

会場●沖縄残波岬ロイヤルホテル

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 近年,難治性肺高血圧症に対する画期的治療法の開発により,肺動脈高血圧症(PAH)という概念が導入され,病因,病態,治療に関する新しい知見が世界的規模で集積されています.わが国においても種々の新しい治療薬の登場により,肺高血圧症の治療法が注目を集めています.今回,第14回研究会を下記の要領で開催いたします.

 シンポジウムでは「わが国における肺高血圧症の最新治療の現状~標準的最適治療について~」(公募,一部指定)を取り上げ,この方面を集中的に論議することになりました.

 また,要望演題として「PGI2経口薬をベースとした併用療法」「特殊なタイプの肺高血圧症の治療」(公募,一部指定)を企画しています.興味のある先生方はご参加ください.

 一般演題,要望演題,シンポジウムの演題は下記の要領で募集しております.難治性の肺高血圧症で問題をおもちの先生方は是非ご応募ください.

            代表世話人 国枝武義

日時●2013年6月8日(土曜日)13:00~19:00

場所●東京国際フォーラム Dブロック5階「ホールD5」(東京都千代田区丸の内3-5-1 TEL:03-5221-9000)

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日時●2013年5月19日(日)8:50~16:40

場所●コクヨホール(JR品川駅港南口)

東京都港区港南1丁目8番35号

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基本情報

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medicina
50巻4号 (2013年4月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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