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一昨年上市された痛風・高尿酸血症治療薬のフェブキソスタット(フェブリク®)は,尿酸産生阻害薬としては40年ぶりの新薬である.思い起こせば1988年の暮れ,社内で本薬の探索研究を初めて提案した時の聴衆の反応はきわめて冷ややかであった.世のなかで痛風という疾患があまり着目されておらず,実際に国内市場も150億円程度と決して大きくなかった.しかし,潜在患者となる高尿酸血症は当時でも200万人と言われ,いずれ注目度や市場が広がると信じ探索研究を開始した.
1960年代に画期的な尿酸低下薬としてアロプリノールが登場して以来,世界中で多くの研究者が新薬の開発を試みていた.多数の化合物が作られ,基礎研究ではアロプリノールを何十倍も超えるものもあったが,臨床ではことごとく失敗していた.実際にアロプリノールは分子量が136と小柄ながら,きわめて効果的に尿酸の産生を阻害する.吸収や体内動態もよく,安全性も高い.われわれも多数の化合物を作ってみたがどれも足元にも及ばず,周囲の目はますます厳しくなった.打つ手がなくなり,そろそろ幕引きを考えていたころ,最後の仮説となる化合物を試すと意外にも強い尿酸低下作用を示し,その周辺も軒並みアロプリノールを超えた.しかし,開発が順調に進み始めた時,すべての候補化合物が変異原性試験で強い陽性反応を示し,振り出しに戻ってしまった.大きなハードルをようやく超えられたと歓喜していたところで,その落胆は大きかった.プロジェクトをたたむつもりでいたが,わずかな可能性を信じて最後に2化合物を合成したところ,見事に変異原性を回避した.嬉しいというより,生体の緻密さ,神秘さを深く考えさせられた瞬間でもあった.幸いにもプロジェクトは復活し,改良を加えてフェブキソスタットに辿り着いた.本薬は種々の動物モデルでアロプリノールより数倍強く,かつ優れた動態特性を示した.また非プリン骨格の利点として,種々の核酸代謝酵素に影響を及ぼさないことも示された.
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