- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本書は日本神経治療学会創設30周年の記念事業として,2008年から順次公表されてきた『標準的神経治療』を合冊したものである.ここに取り上げられている疾患は(1)手根管症候群,(2)Bell麻痺,(3)片側顔面痙攣,(4)三叉神経痛,(5)高齢発症重症筋無力症,(6)慢性疼痛,(7)めまい,(8)本態性振戦,(9)Restless legs症候群の9つであり,神経内科医だけが診る疾患よりも,より多岐にわたる診療科が関与する疾患に重点が置かれ,また,慢性疼痛・めまいといった神経内科医が日々の診療で困難を感じている症候が積極的に選択されているのがまず目に留まる.日常診療のなかではなかなか接することのできない他科の最先端の考え方も吸収しながら患者を治療したいという,第一線の神経内科医のニーズをよく理解した疾患ラインアップであると思われる.本書の題名は『標準的神経治療』であるが,各章の記載の多くは治療指針のみにとどまらず,疾患概念,病態生理,疫学も含めた内容となっている.プラクティカルに治療はどのようにしたらよいかをダイレクトに伝えるだけでなく,疾患の基礎的な理解にも踏み込む内容となっており,より診療ガイドラインに近い記載と言ってよい.
個々の章はそれぞれの分野のエキスパートによる力のこもった内容となっている.専門医が非専門医師を含む多数の読者に対して,エビデンスに基づきつつも誤解を与えないよう適切な治療指針を伝えるのは大変難しいことであり,本書の著者も苦労されたものと思われる.なかでも本書で最も充実した内容を有するセクションの一つと思われる(1)手根管症候群を例に取ると,まず冒頭にエビデンスレベルおよび推奨度の呈示があり,以下の記述も,どのようなレベルのエビデンスに基づいてこの薬物・治療法が推奨されるかについての明快な記述がある.本来ならばこのエビデンスレベルと推奨度の呈示は本書の冒頭に掲げて,すべての章がこの基本方針の下に書かれていれば,もっと統一感のある成書になったのではないかと思われるが,一方,エビデンスレベルから少し離れて各薬物の使用法について丁寧に概説した章もあり,これもまた読者のニーズの一つを満たしているのではないかと感じた.各章で著者の意図するところが少しずつ違うことを理解しながら読むことも,読者には要求されるものと思われる.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.