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本書は「風邪」診療と「不明熱」診療の距離がきわめて近接していることを改めて認識させる良書である.「風邪は万病のもと」というが,恐らく正確には万病は病初期,みな風邪のようにみえるということなのだと思う.言い換えれば問題の臓器も病因も不明なのである.“Harrison”の内科書で長らく感染症を担当したPetersdorfは「多くの病気が不明熱と名づけられている.それは医師が重要な所見を見逃し,無視するためである」と喝破した.これは評者が長らく指摘してきた「風邪」という診断名の乱用が問題臓器と病因の検討不足の表現である事実とも関連している.さらに外科学領域の古典ともいえる“Cope's Early Diagnosis of Acute Abdomen”が「胃腸炎という診断は,まだ診断できていない病態に名前を与える行為であることが多い」とコメントしていることも,胃腸炎と風邪の違いはあれど同じ性質の病根を扱っている.
明解な構成
本書はきわめてわかりやすい構成になっている.第1章「風邪を風邪と診断するノウハウ」と第2章「風邪に紛れた風邪以外を診断するノウハウ」が本書を構成する2つの基本的なモジュールで,さらに第3章で「外来診療での処方と高齢者診療のノウハウ」というプレゼントが添えられており,漢方薬の使い方まで入ったサービス付き.第1章では「風邪を風邪とする」ためには病変の解剖は基本的に上咽頭付近に限局している点,および「風邪」のように見えるが本当の鑑別すべき数種類の病態について,意識すべき点などが綺麗にアルゴリスムを添えて提示されている.第2章では発熱のみで必ずしも上咽頭に問題が限局しない不明熱的な病態を扱い,さらに「皮疹」型,「関節痛」型,といった+α(プラスアルファ)で亜型に分類,診療を進めている.この点では野口善令先生方による名著『この1冊で極める不明熱の診断学』1)も+α(プラスアルファ)に注目した点を想起させ,さらに原点をたどればTotal Family Care(TFC)をお作りになった田坂佳千先生による「かぜ症候群における医師の任務は,他疾患の鑑別である」2)という源流にたどり着く.
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