看護研究 50巻3号 (2017年6月)

特集 質的統合法の現在─グラウンデッド・セオリーとの比較を中心に考える

正木 治恵
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 2008年,筆者は本誌にて「科学的な質的研究のための質的統合法(KJ法)と考察法」と題する特集を2号にわたり企画した。以来約10年が経過し,質的統合法を用いた研究は各学会等でもみられるようになり,看護界でも浸透してきているように思われる。そこで本号特集では,今後のさらなる進展に向け,質的統合法が現在どのような形で発展的に展開しているかをみることとした。

 そのための1つの方法として,グラウンデッド・セオリー,特にB.G. Glaserの提唱したクラシック・グラウンデッド・セオリー(以下,クラシックGT)との比較を試みることとした。質的統合法の源流であるKJ法には,「発想法(abduction)」という大きな根幹がある。またクラシックGTには,「発見(discovery)」「浮上(emergence)」という概念がある。両者ともに,創造性をそのダイナミズムの土台に有している点で共通するものがあり,両者を比較することで,質的統合法の実際や意義が改めて浮き彫りになるのではないかと考えた。これが,本企画のきっかけである。

質的統合法(KJ法)とグラウンデッド・セオリー

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なぜ質的統合法(KJ法)とグラウンデッド・セオリーか

正木 質的統合法(KJ法)は,2008年に『看護研究』誌で2号にわたり特集が組まれました。以来約10年が経過し,質的統合法(KJ法)がどのように発展的に展開しているかをまとめる趣旨で本特集を企画しました。この対談では,同じ質的研究の方法として用いられるグラウンデッド・セオリー(以下,GT)との比較を通して,質的統合法(KJ法)の理解を深めたいと考えています。自己紹介を兼ねて,野村先生から,質的統合法(KJ法)とGTとの比較というテーマの端緒からお話しいただけますでしょうか。

野村 私は1969年に東京工業大学に入学し,山浦晴男先生とともに,KJ法の創始者である川喜田二郎先生の第1回目の移動大学註1に参加しました。それがKJ法との出会いです。博士修了後,現在まで30数年間,主にイギリスで研究開発とイノベーションの仕事に携わり,近年はKJ法を英語で指導しています。この過程で山浦先生と再びお会いし,KJ法について話す機会が増えました。千葉大学との共同の取り組みや,学生の英語論文が受理されにくいことなどを伺いましたが,実際論文を拝見すると,記述の多くがKJ法の説明に割かれていました。つまりKJ法自体,海外ではまだ十分に知られていないということです。現在も,レビュアーから「KJ法とはどのようなものか?」と聞かれることが少なくないとのことですし,私自身,英語でKJ法を教えるのは苦労します。

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 本稿では,クラシック・グラウンデッド・セオリー(Classic Grounded Theory,以下,クラシックGT)の紹介を兼ねて,その考え方と方法の特徴と思われることについて述べたい。

 クラシックGTはあまり聞くことのない名である。これは1960年代中頃に,バーニー・グレイザー(Glaser, B.G.,1930-,社会学者)が,アンセルム・ストラウス(Strauss, A.L.,1916-1996,社会学者)と共同でグラウンデッド・セオリー(Grounded Theory,以下,GT)を発見して以来,今日まで展開してきているGTの別名である。GT50年の歴史の中で,昨今,同じGTの名で異なる基本特徴をもつ方法がいくつか活用されるようになり,混乱を避ける必要がある場合にこの名が用いられるようになった。

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はじめに

 この小論は,次の文献と筆者の体験をもとに,クラシックGTとKJ法およびそれに準拠した質的統合法(KJ法)を比較検討している。

 Ⅰ. 川喜田二郎(1967).発想法─創造性開発のために.中央公論社.

 Ⅱ. 川喜田二郎(1986).KJ法─渾沌をして語らしめる.中央公論社.

 Ⅲ. B.G.グレイザー&A.L.ストラウス/後藤隆,大出春江,水野節夫訳(1996).データ対話型理論の発見─調査からいかに理論をうみだすか.新曜社.

 Ⅳ. 山浦晴男(2008).科学的な質的研究のための質的統合法(KJ法)と考察法の理論と技術.看護研究,41(1),11-32.

 Ⅴ. 山浦晴男(2012).質的統合法入門─考え方と手順.医学書院.

 Ⅵ. V.Bマーティン&A.ユンニルド編/志村健一,小島通代,水野節夫監訳(2017).グラウンデッド・セオリー─バーニー・グレーザーの哲学・方法・実践.ミネルヴァ書房.

 これらの文献とともに,KJ法の創案者川喜田二郎氏に直接指導を受けた20年間の体験と,その後の26年間にわたる筆者の実践経験に基づき,比較検討を行なった。

 日本ではグレイザーの流れに基づくクラシック・グラウンデッド・セオリー(以下,クラシックGT)のほかに,ストラウスの流れをくむグラウンデッド・セオリー(以下,GT)が普及しているとされている。そこで次の文献も参照したが,本小論では主にクラシックGTとの比較を行なっている。

 Ⅶ. 木下康二(2003).グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践─質的研究への誘い.弘文堂.

 Ⅷ. 戈木クレイグヒル滋子(2005).質的研究方法ゼミナール─グラウンデッド・セオリー・アプローチを学ぶ.医学書院.

 Ⅸ. 戈木クレイグヒル滋子(2006).グラウンデッド・セオリー・アプローチ─理論を生みだすまで.新曜社.

 Ⅹ. 髙木廣文(2011).質的研究を科学する.医学書院.

 これらに加えてさらに,次の文献を参照している。

 Ⅺ. マイケル・ポランニー/高橋勇夫訳(2003).暗黙知の次元.筑摩書房.

 Ⅻ. 伊藤邦武(2016).プラグマティズム入門.筑摩書房.

 なお,筆者はクラシックGTおよびGTの直接的な体験がなく,文献ならびに小島通代氏の講義と口頭での学びの範囲での理解であり,そこに理解の限界があることを申し添えたい。また,以降の本文中の引用については,一部を除いて,上に挙げた文献番号を示す形とさせていただきたい。

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はじめに

 筆者は以前,質的統合法(KJ法)を用いた看護研究への取り組みから,看護研究における質的統合法(KJ法)の学問的価値についてまとめた(正木,2008)。このたび本特集にて,小島氏,山浦氏の論考より,KJ法とグラウンデッド・セオリー(GT)を比較しながらその方法論を深く理解していく機会を得て,当時には明確にできなかったことについても理解を深めることができた。それを踏まえ,本稿で改めて,質的統合法(KJ法)を用いた看護研究の意義について考察してみたい。

 最初に質的統合法(KJ法)と看護実践との親和性について論述し,続けて看護実践を科学する研究方法としての意義や課題について考察する。

質的統合法(KJ法)の看護研究論文への活用

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はじめに

 筆者の質的統合法(KJ法)との出会いは,いまから10年ほど前,山浦晴男氏を講師とする研修に参加したときのことである。KJ法を学ぶための研修ではなく,1週間以上の比較的ハードな研修に質的統合法(KJ法)が組み込まれていたのである。その時期が偶然にも博士課程の研究計画書作成の時期と重なっており,非常に幸運だったといえる。また,2008年の本誌第41巻1号の特集で質的統合法(KJ法)が取り上げられ(正木,2008;山浦,2008),当時,データ分析の途中であったため,大いに参考にし,論文をまとめる際には熟読して活用させてもらった。筆者が博士論文の中で質的統合法(KJ法)を活用した頃の理解は未熟であったが,そのことがかえって分析に真剣かつ真摯に向き合える原動力になっていたともいえる。さらに,山浦氏からスーパーバイズを受ける幸運にも恵まれた。

 その後,2009年に看護質的統合法(KJ法)研究会が発足し,研究会主催の研修に参加したり,修士課程の院生を指導したりする機会を通じて,少しずつこの研究手法についての理解を重ねてきた。研鑚を積むと少しは自信がつくかと思えば,むしろ習熟度の低さを思い知らされることが多い。しかし,研修や研究論文などで質的統合法(KJ法)に触れるたびにその奥深さと魅力に引き込まれ,活用方法の多様性や発展性を感じている。

 本稿では,まず筆者の博士論文の中で質的統合法(KJ法)を活用した経緯と概要を紹介した上で,看護の研究方法としての質的統合法(KJ法)の今後の発展性について述べたい。

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私と質的統合法(KJ法)

 私が質的統合法(KJ法)に出会ったのは,修士課程に在籍しているときである。当時は,質的分析方法の1つとして学び親しんだ記憶がある。その後,質的統合法(KJ法)を幾度か学ぶうちに,質的データを分析する手法としてだけではなく,研究プロセス全般で研究者の意思決定に活用できることに関心が向いた。そして,私は博士論文研究において,後に説明するKJ法の問題解決手法や累積KJ法を活用するに至ったのである。

 博士論文研究のプロセスを説明する前に,筆者が活用した質的統合法(KJ法)とは何であるのかを述べる必要があると思われる。そこで少し項を割いて,まずは,筆者が博士論文の執筆の際に参照したW型問題解決モデルについて説明したいと思う。本稿では,川喜田の著書(1990)に沿って論述するので,書籍通りKJ法として記述するが,機能名称として用いられている質的統合法とおよそ同意であるので,読者の皆様には混乱しないように読み進めていただきたい。また,W型問題解決モデルについて山浦晴男氏は看護研究者にわかりやすく説明しているので,それらも参考にしていただくとよい(山浦,2012)。

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 筆者は現在,全くの精神科臨床医である。専門は精神科リハビリテーションとサイコセラピーである。40年来,KJ法を用いてサイコセラピーを行なってきた。その成果はいくつかの国内学会および国際学会で発表してきている。このテーマは編集者からいただいたものであるが,結論的にいえば「接点はおおいにあります。可能性は無限です」ということになる。以下に,その訳を書いてみる。

 L.R.ウォールバーグは,精神療法とは心理学的な方法により,情緒的な性質の問題を,訓練された人物が患者との間に次の目標で,職業的な関係を打ち立てる療法である。①現存する症状を取り去ったり,変容させたり,あるいは遅延させる目的で。②混乱した行動形態を調整するために。③完全な人格成長と発達を促進する目的で。

英国におけるKJ法と質的研究の展開

英国におけるKJ法の展開 野村 俊夫
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はじめに

 本稿では,KJ法を英語で正確に普及させることをめざした英国での活動を概説する。

 KJ法は文化人類学者川喜田二郎氏(1920-2009)により,1960年代に提唱された創造的問題解決法である(川喜田,1967;1970)。ネパールにおける民俗学的フィールドワークから発展した,ラベルを用いた手法であり,1969年夏,長野県黒姫高原で開催された第1回黒姫移動大学を契機に,広範な分野で多くの人に活用されるようになった。筆者もこの移動大学に参画した1人である。

 KJ法では,ラベルに書いたアイデア・観察等々(ラベルづくり)をもとに,グルーピング・表札づくりを多段に繰り返す(グループ編成)。その後,グループ化したラベルを,空間配置を考えながらもともとのラベルまで展開し,最後にラベルやグループなどの間の関係性を示すために因果・相対・相互・対立などの関係子を記入し,KJ法図解を完成させる(図解化)。また図解に基づき,口頭や文章により図解の説明を行なう(叙述化)。

 上記の過程を1ラウンドとし,解決すべき問題・課題に向かって目的の異なるステップごとに累積してKJ法を用いて積み上げていく方法をW型累積KJ法という(川喜田,1970)。問題提起のラウンド1(以下,R1),現状把握のR2,本質追求のR3,構想計画のR4,具体策のR5,手順化のR6が基本型で,また,R3の本質追求の後,R3.5として略式の構想計画(案)を行ない,その後の過程を別の方法で実行・評価に移す場合もある。Wという文字の左側の「V」は,仮説・理論を,フィールドワーク(野外科学)を通して創出する発見過程で,右側のVは仮説・理論を検証する実証過程である。

 カードを用いたフィールドワークの整理法や発想法を発展させたもとは,京都大学人文科学研究所(以下,人文研)であり,桑原武夫氏や梅棹忠夫氏,川喜田二郎氏によるようだ。梅棹氏著『知的生産の技術』の第2章と第11章には,野外研究の流れから,いまも京大生協で購入できる京大型カードができた経緯や,1950年代の桑原武夫氏を班長とした「ルソー研究」や「フランス百科全書の研究」など書斎科学の共同研究の方法として発達したカード手法,さらに,紙きれに書かれたバラバラの素材から文章を創出する“こざね(小札)”法など,多くのカードを用いた知的生産の技術が人文研を中核にして発達した経過が説明されている(梅棹,1969)。

 20世紀末の日本経済の急速な発展に伴って,KJ法は,アイデア創出や創造性開発,チームワークづくり・参画型経営等々の経営・組織問題,観察データからの科学的発見(永延,1985),対話型心理療法(丸山,2003)など,さまざまな分野で活用された。最近では,地域創生・再生のプロジェクトも多く企画されている(山浦,2015)。前述した移動大学の期間を2週間から3泊4日に集約したミニ移動大学も北陸先端科学技術大学院大学で毎年企画されており,興味ある地域創生の例が出てきている(國藤,2013)。川喜田氏を記念して,KJ法の思潮と可能性を現代的にまとめた本も出版された(川喜田二郎記念編集委員会,2012)。

 このように,KJ法は日本国内では半世紀以上にわたり活用されてきたが,英語での解説や論文が少なかった(Kawakita,1991)。方法自体がカードを用いた整理方法として表面的に扱われてしまうことも多く,またポストイットを用いた集団でのアイデア出しの手法と混乱して使われたりもしている。このようなことへの反省と,KJ法を世界で正確に普及させることをめざして,KJ法の発展に長く貢献した研究者・実践者が,共著で最近のKJ法の発展と応用例を英文でまとめ,KJ法の国際化へ本格的に踏み出すことにした(Nomura, Kunifuji, Naganobu, Maruyama, & Miura, 2013)。

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1. Introduction

 The purpose of this article is to provide a meaningful description of the most commonly used qualitative approaches for nursing research in the United Kingdom (UK) today in order for Japanese nurse researchers to better understand the potential value of KJ Ho internationally. But first it is necessary to understand the nature of UK nursing. In 2014 the UK Royal College of Nursing defined nursing as:

 “The use of clinical judgment in the provision of care to enable people to improve, maintain, or recover health, to cope with health problems, and to achieve the best possible quality of life, whatever their disease or disability, until death.”

 As such, this definition depicts nursing as a complex process in its intentions and interactions. Thus unsurprisingly the range of research theory underpinning nursing inquiry is similarly complex. Therefore we will start by explaining the meaning of qualitative nursing research in the UK.

連載 創造360°─多領域の現場から・3

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 本シリーズでは,さまざまな領域の研究に光を当て,360°全方位から看護研究の壮大な海原に光を照らします。

 今回は,病いとの向き合い方が多様化する現代,病いについて書き,語ることはいかなる意味をもつのか。

 「闘病記」を軸とする長年の研究成果から,探ります。

連載 理論構築を学ぶ─看護現象から知を生むために・3

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理論の評価プロセス

 質の高い看護実践や知識の開発のために,理論を評価することは重要である。理論を評価することで,研究,教育または管理のための枠組みとして使用するのに適した理論を選択できる。また,理論を評価し活用していくことでさらに理論を発展させ,より実践的な中範囲理論などの開発やガイドラインの作成につながっていく。つまり理論を評価することで,理論をさまざまな視点から理解し,理論を活用していくことが可能となり,それは研究だけでなく,質の高い看護実践のためにも必要なことであるといえる。

 理論を評価するときには,客観的,または主観的な判断基準を用いて行なうことが多く,多くの理論家がその基準を提案している(Barnum,1998;Chinn & Kramer,2004;Fawcett,2005;Whall,2005)。看護領域における理論の評価基準は,社会学と心理学領域の影響を受け開発されたものが多いが,人々の経験や相互作用といった複雑な文脈を扱う看護学の本質を十分に反映した,看護独自の評価基準を用いる必要がある。

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背景:看護基礎教育で強化すべき内容として,倫理観および人に寄り添う姿勢が挙げられ,看護師としての態度を形成するためには感性を育てることが重要である。しかしながら,先行研究において「看護学生の感性」の概念を検討したものはない。看護基礎教育での教育に不可欠な「看護学生の感性」の概念を明らかにすることが求められる。

目的:「看護学生の感性」の概念の分析を目的とした。

方法:国内文献のみを対象とし,「感性」「看護」をキーワードに医学中央雑誌を用いて検索した。Rodgersの概念分析法を参考に,対象文献より先行要件・属性・帰結に関する記述を抽出し,それぞれ類似した内容でカテゴリー化した。

結果:最終的に44文献が対象となった。「看護学生の感性」の先行要件として《学生の体験》《学生の特性》の2つのカテゴリーが,属性として《現象への気づき》《感情の動き》《五感を働かせる》《関心を深める》《自己を見つめる》《創造する》の6つのカテゴリーが,帰結として《対象に応じた看護》《対象への共感的理解》《学習者としての行動の変容》《専門職業人としての自覚の芽生え》の4つのカテゴリーが抽出された。

結論:「看護学生の感性」は,「看護学生が《自己を見つめる》ことや《感情の動き》を意識し,自らの《五感を働かせる》ことで《現象への気づき》を得る能力」であり,「現象の中から価値あるものを《創造する》ことや,対象への《関心を深める》基盤となるもの」であると定義できた。

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バックナンバー

今月の本

次号予告・編集後記

基本情報

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看護研究
50巻3号 (2017年6月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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