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はじめに
本稿では,KJ法を英語で正確に普及させることをめざした英国での活動を概説する。
KJ法は文化人類学者川喜田二郎氏(1920-2009)により,1960年代に提唱された創造的問題解決法である(川喜田,1967;1970)。ネパールにおける民俗学的フィールドワークから発展した,ラベルを用いた手法であり,1969年夏,長野県黒姫高原で開催された第1回黒姫移動大学を契機に,広範な分野で多くの人に活用されるようになった。筆者もこの移動大学に参画した1人である。
KJ法では,ラベルに書いたアイデア・観察等々(ラベルづくり)をもとに,グルーピング・表札づくりを多段に繰り返す(グループ編成)。その後,グループ化したラベルを,空間配置を考えながらもともとのラベルまで展開し,最後にラベルやグループなどの間の関係性を示すために因果・相対・相互・対立などの関係子を記入し,KJ法図解を完成させる(図解化)。また図解に基づき,口頭や文章により図解の説明を行なう(叙述化)。
上記の過程を1ラウンドとし,解決すべき問題・課題に向かって目的の異なるステップごとに累積してKJ法を用いて積み上げていく方法をW型累積KJ法という(川喜田,1970)。問題提起のラウンド1(以下,R1),現状把握のR2,本質追求のR3,構想計画のR4,具体策のR5,手順化のR6が基本型で,また,R3の本質追求の後,R3.5として略式の構想計画(案)を行ない,その後の過程を別の方法で実行・評価に移す場合もある。Wという文字の左側の「V」は,仮説・理論を,フィールドワーク(野外科学)を通して創出する発見過程で,右側のVは仮説・理論を検証する実証過程である。
カードを用いたフィールドワークの整理法や発想法を発展させたもとは,京都大学人文科学研究所(以下,人文研)であり,桑原武夫氏や梅棹忠夫氏,川喜田二郎氏によるようだ。梅棹氏著『知的生産の技術』の第2章と第11章には,野外研究の流れから,いまも京大生協で購入できる京大型カードができた経緯や,1950年代の桑原武夫氏を班長とした「ルソー研究」や「フランス百科全書の研究」など書斎科学の共同研究の方法として発達したカード手法,さらに,紙きれに書かれたバラバラの素材から文章を創出する“こざね(小札)”法など,多くのカードを用いた知的生産の技術が人文研を中核にして発達した経過が説明されている(梅棹,1969)。
20世紀末の日本経済の急速な発展に伴って,KJ法は,アイデア創出や創造性開発,チームワークづくり・参画型経営等々の経営・組織問題,観察データからの科学的発見(永延,1985),対話型心理療法(丸山,2003)など,さまざまな分野で活用された。最近では,地域創生・再生のプロジェクトも多く企画されている(山浦,2015)。前述した移動大学の期間を2週間から3泊4日に集約したミニ移動大学も北陸先端科学技術大学院大学で毎年企画されており,興味ある地域創生の例が出てきている(國藤,2013)。川喜田氏を記念して,KJ法の思潮と可能性を現代的にまとめた本も出版された(川喜田二郎記念編集委員会,2012)。
このように,KJ法は日本国内では半世紀以上にわたり活用されてきたが,英語での解説や論文が少なかった(Kawakita,1991)。方法自体がカードを用いた整理方法として表面的に扱われてしまうことも多く,またポストイットを用いた集団でのアイデア出しの手法と混乱して使われたりもしている。このようなことへの反省と,KJ法を世界で正確に普及させることをめざして,KJ法の発展に長く貢献した研究者・実践者が,共著で最近のKJ法の発展と応用例を英文でまとめ,KJ法の国際化へ本格的に踏み出すことにした(Nomura, Kunifuji, Naganobu, Maruyama, & Miura, 2013)。
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