看護研究 43巻5号 (2010年9月)

焦点 看護ケアの質評価と改善─研究の成果と今後の発展に向けて

上泉 和子
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 1993(平成5)年に,厚生省看護対策研究事業として「看護ケアの質の評価基準に関する研究」という課題に取り組みはじめてから17年が経過した。“看護ケアの質とは何か”という壮大な課題に取り組んだことが本研究の出発であった。以来,看護ケアの質はどのように“測る”か,測定したデータをどのように“評価”するか,そして,2008(平成20)年からは質の評価に基づきどのように“改善”に活かすか,という課題に発展的に取り組み現在に至っている。これら一連の研究は,「看護QI(Nursing Quality Improvement)研究会」を組織して活動を継続し,幸いにも研究補助金をいただくことができ,本研究を発展させることができた。また,このプロセスでは研究課題を探求するための方法の開発を並行して行なってきた。本号でもこれまで,第28巻4号(1995年),第29巻1号(1996年),そして第31巻2号(1998年)などで成果を発表してきた。

 一連の研究内容と成果を概観すると,当初の研究では,質評価基準の探求の後,現場を訪問して評価するという,第三者による評価ツールを開発した。しかしこの方法は,評価者の確保,訓練,費用の面から大きな転換を求められた。その結果,インターネットを用いた自己評価型「Web版看護ケアの質評価総合システム」の開発に至り,指標の見直しを加え,運用に至っている(http://nursing-qi.com/)。

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はじめに

 医療の質評価は,Avedis Donabedianの提唱(Donabedian, 1966)以降,構造(structure),過程(process),アウトカム(outcome)の3つの側面で評価することが浸透してきた。看護の質についても同様であり,構造は,施設・備品・マンパワー・財政など,過程はケアそのもの,アウトカムは患者の健康度・安楽度・満足度などで示される(ドナベディアン/勝原訳,1995)。では,実際に看護の質はどの程度評価されているのだろうか。評価をするにあたり,どのような指標を用いればよいのだろうか。

 日本における看護の質評価の取り組みは,まだ始まったばかりである。そこで,あらためて,看護の質を示す指標について整理してみたい。

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Introduction

 During the early 1990s, with the expansion of capitated healthcare insurance payment systems in the United States, many hospitals reduced the number of registered nurses(RNs) employed in order to contain the cost of hospital operation. As a consequence, the American Nurses Association(ANA) decided that there was a need to quantify the value of nursing in order to save nurses jobs and promote the quality and safety of patient care(ANA, 1999b). After preliminary work on indicator selection and the feasibility of data collection, the ANA awarded a contract for the development and maintenance of the National Database of Nursing Quality Indicators®(ANA, 1995, 1996, 1999a; Montalvo, 2007). This groundbreaking work resulted in a national data resource used by hospitals for improvement in the quality of nursing care and in the nursing work environment. Researchers have also used NDNQI® data to quantify the relationship between characteristics of nursing and nursing-sensitive patient outcomes(see www.nursingquality.org/WebEvents.aspx for a list of NDNQI® publications).

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はじめに

 1990年代,資金頭割りの医療保険支払いシステム(訳者註:利用者1人あたりの年間費用を決めその範囲内で医療・福祉経費を賄う制度)が拡大され,多くの病院は正看護師の数を減らすことで,病院運営の費用を念出しようとした。その結果,米国看護師協会(American Nurses Association ; ANA)は,看護職を守り,患者ケアの質と安全を保障するために看護の価値を定量化することが必要であると考えた(ANA, 1999b)。

 予備的に指標の選択とデータ収集の実現性を検討した後,ANAは全米看護の質指標データベース(the National Database of Nursing Quality Indicators® ; NDNQI®)の開発と維持のための契約を交した。このパイオニア的な事業の結果,全国的なデータリソースが生まれ,病院での看護ケアの質と看護師の労働環境の改善に大いに貢献している。また研究者らは,看護の特徴と,看護を鋭敏に反映するアウトカムの関連について量的に示すためにNDNQI®を用いている(www.nursingquality.org/WebEvents.aspx for a list of NDNQI® publications)。

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 Florence Nightingale was the modern nurse and statistician who recognized the importance of collecting and reporting data and the impact of nursing care on patient outcome. She was a visionary leader. Visionary leadership recognizes the important of paving the path, when no path may exist. The American Nurses Association(ANA) had this vision when establishing a national nursing database. This article will review that visionary history and its subsequent benefit two decades later.

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 F.ナイチンゲールは,先進的な看護師で統計学者であり,看護ケアの患者への効果について,データを集めて報告することの重要性を認識していた。彼女は,時代を超えたリーダーであった。時代を超えるリーダーシップは,たとえ道がないところでも道をつくる必要性を認識している。米国看護師協会(American Nurses Association ; ANA)は,そのようなビジョンのもと,全国的なデータベースをつくりあげた。本稿ではその歴史と,20年に及ぶ功績について振り返る。

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上泉(司会) 看護QI(Nursing Quality Improvement)研究会が活動を開始してから,すでに15年ほどが経ちます。この研究会は,「そもそも看護ケアの質とは何か」というところから始め,さらに「よい看護の質とはどういうものなのか」を探求し,そこから「どうやって測るのか」を開発して,指標(indicator)をつくっていきました。こうしてできたのが,「看護ケアの質評価・改善システム」(看護QIシステム)です。そして,多くのデータを蓄積し,そのデータに基づいてどう評価するかという段階まで進めてきました。

 この一連のプロセスで大事にしてきたのは,評価の結果を改善に結びつけられるようにすることです。また,そうした視点から,米国のANCC(American Nurses Credentialing Center;米国看護認証センター)によるマグネットホスピタル認証プログラム(Magnet Recognition Program)やNDNQI®(the National Database of Nursing Quality Indicators®)などの成果も注視してきました。それらも踏まえつつ,この座談会では,看護QIシステムで何ができるのか,看護ケアの質の評価を改善に活かすための方策は何かについて話し合い,日本でのこれからの方向性を探っていきたいと思います。

看護QI開発の歴史 上泉 和子
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はじめに

 看護ケアの質の向上は,近代看護の創始者であるナイチンゲールの時代から看護専門職がめざしてきた目標である。以来,現在に至るまで,さまざまな角度から取り組みが行なわれているが,なかでも医療や看護の質を,ある基準をもって組織的に評価し改善につないでいく,質の「評価」「保証」「改善」という統合したシステムやツールの開発が検討されてきた。1968年,Avedis Donabedianは,構造(structure),過程(process),アウトカム(outcome)という3つの評価方法の枠組みを初めて発表し,この枠組みは現在も質の評価の基本的枠組みとして用いられている。

 質の向上をめざした取り組みの単位は,当初はヘルスケア組織内だけで行なわれていたものが,米国での病院標準化運動の高まりから,1951年にJCAH(Joint Commission on Accreditation of Hospital,現在はThe Joint Commissionに改名)が設立され,近代においてようやく第三者機関による組織的な医療評価が始まった。わが国ではそれから遅れること40年,1992(平成4)年に日本医療機能評価機構(Japan Council for Quality Health Care)の設立に伴い,ようやく医療機能評価が開始され,組織的質改善への取り組みが始まった。こうした第三者機関による質向上への取り組みは質「評価」にとどまらず,質に関するデータの蓄積とデータベースの構築,データの提供などを通して,ベンチマークなどの改善に向けた取り組みへと発展していった。

 一方,組織内における質向上に向けたシステムの整備が進められ,quality management,あるいは,outcome managementといった概念が導入されるとともに,看護管理においては“看護ケアの質”が注目を集めるようになった。

 近年において第三者機関による取り組みと組織内の取り組みが,ようやくリンクされるようになったといえる。

 われわれ看護QI(Nursing Quality Improvement)研究会では,当初から質評価の結果を質の改善に結びつけられることを念頭に,評価ツールを開発した。そして,世界的な動向を踏まえた上で,質改善につなげていくためのシステム構築,データ蓄積とグッドプラクティスの提示,蓄積データを活用したベンチマーク,改善への動機づけシステムの構築へと研究を発展してきた。

 本稿では,看護QI研究会の取り組みについて,第1期:看護ケアの質評価指標開発の段階,第2期:看護ケアの質評価システムを運用するための仕組みづくりの段階,第3期:質評価結果を改善につなげるためのシステムづくりの段階と,3つの段階に分類し,取り組みの経緯を振り返る(表)。

構造評価 坂下 玲子
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構造評価の目的

 前稿で紹介があったように,「看護ケアの質評価・改善システム」は看護ケアの質を,構造,過程,アウトカムの3つの側面において評価し,そこから改善を導こうとするものである。この3つの側面それぞれにおいて,看護ケアの6つの領域,「患者への接近」「内なる力を強める」「家族の絆を強める」「直接ケア」「場をつくる」「インシデントを防ぐ」に関して検討する。本稿では,3つの側面のうちの「構造」に関して紹介する。

 「構造」は,看護ケアが提供される前提となる人材,設備や備品,システムを評価する。質の高い看護ケアを提供するには優秀で豊富な人材がいて,その人材を十分活用できるようなシステムが整っていることが必要である。また実際に看護ケアを行なう際に必要になる物品や設備,患者にとって快適な入院環境といったハード面の充実も看護ケアの質に影響する。ここでは,看護ケアを保証する構造という視点で抽出された指標(内布・上泉・片田,1994;片田ら,1996)をもとに,前述の6領域に関して問うている。

過程評価 鄭 佳紅 , 村上 眞須美
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はじめに

 看護の質評価は,医療の質同様に,構造,過程,アウトカムの側面で評価するが,この3つの側面のうち,過程評価は,専門家の行為そのものであり,数値化することが難しく,測りにくいものとされている。現在「看護ケアの質評価・改善システム」で用いている過程評価の指標は,1993(平成5)年度からの研究活動をもとに開発され(山本ら,1998a),その後,研究をもとに改良を重ねてきたものである(研究代表者:上泉和子,2009;研究代表者:片田範子,2006)。本稿では,現在運用している過程評価について,評価項目および評価の方法,今後の課題などを説明する。

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はじめに

 質評価においてアウトカム評価は,提供した医療や看護ケアの結果を表わすものであり,構造・過程指標と合わせて,どこに問題があるのかの根拠を示す重要な情報となる。また,アウトカム指標は,大規模調査を行なうことで標準値との比較ができること,継続してデータを収集することにより改善への取り組みの効果評価としても有用である。しかし,これまで行なわれている病院評価等で用いられるアウトカム指標は,医療の質を反映するものの,必ずしも看護ケアのみでアウトカムが決定されるものではないものも多い。このため,いかに看護が介入することによって結果に影響を受ける項目をアウトカム指標として選択するかは,重要なポイントとなる。

 本稿においては,「Web版看護ケアの質評価総合システム」における,これまでのアウトカム指標作成の経緯と,アウトカム指標である「患者満足度」,インシデント項目として「転倒」「転落」「褥瘡」「院内感染」「誤薬」について,具体的な調査方法と調査結果,およびアウトカム評価の活用について紹介する。

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はじめに

 2003(平成15)年度より「看護ケアの質評価・改善システムの運用に関する研究」において電算化が図られ,インターネットを介して大量のデータを収集し蓄積するシステムが開発されている。看護ケアの質評価におけるデータは,webアプリケーションを用いインターネットを介して収集できるようになってきているが,収集されたデータはそのすべてを,数名の専門家から構成される看護ケア研究班が評価しなければならない。

 収集される看護ケアデータは,看護ケアの質6領域(「患者への接近」「内なる力を強める」「家族の絆を強める」「直接ケア」「場をつくる」「インシデントを防ぐ」)についての質問に対する選択回答および自由記述回答で構成されている。自由記述回答は,病棟看護師が担当したことのある患者に対して実施したケアの内容について具体的に記述することを要求しており,この自由記述回答の評価が各看護師の実践した看護行為の評価になる。このため,評価者が自由記述回答を読み,記述内容から実際に行なわれた看護行為を判断することにより評価が行なわれる。すなわち,webアプリケーションにより収集される自由記述回答の評価は従来の現場訪問・過程観察による質評価の代替として行なわれている。

 自由記述回答の質問項目数は17項目あり,それぞれの項目について現在はおおむね数百件の回答が返されている。さらに今後この評価システムへの参加病院数が増加すれば,それに伴い回答数も増加することになり,このような増加に伴う評価者の負担軽減のために自由記述回答の自動分類を行なうシステムの開発が必要である。図1は自由記述回答の分類の変遷を描いたものである。従来は専門家のみが分類を行なっていた。現在は,専門家と並行して自動分類システムの性能評価を行なっており,将来的には,大半を自動分類システムで行なうことができればと考えている。

 本稿では,「Web版看護ケアの質評価総合システム」における自由記述回答の自動分類のための機械学習アルゴリズムを用いたテキスト分類システムについて紹介する。

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看護QIシステムにおける評価・リコメンデーションの目的

 看護ケアの質の評価の本来の目的は,その評価結果をもとに質を改善することにある。もし単に得点評価をするだけで,その後に何の改善活動を起こさないのであれば,膨大な評価の作業の大半は無駄になるといっても過言ではない。看護QIシステムでは,評価した結果を研究班で分析し,「報告書」すなわち「評価およびリコメンデーション」として当該病棟にお返しし,その後の質改善に役立ててもらうようにしている。

 病棟の識別はID番号で管理されているので,研究班のメンバーには当該病棟がどの地区のどの病院であるかわからないようになっており,設置主体や病院の規模などの先入観なしにデータのみでリコメンデーションを作成している。また,リコメンデーションは質の低い箇所を指摘するということではなく,受け取った病棟ができるだけ,自らデータを読み,質改善のポイントがわかるように,データの読み取り方も含めて記述しており,自主的な質改善運動が創出されることを期待している。

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◆Abstract◆

 For the past several decades, there has been a dramatic increase in nursing research. The current challenge is to translate this research to real time practice and to use the data from real time practice to inform research. The University of Wisconsin-Milwaukee College of Nursing(UWM CON) has a long history of strengthening the research-practice bond in the community, hospital, home and long term care. A summary of several CON activities as well as the newest initiative, the Knowledge Based Nursing Initiative(KBNI), are described in the article. To address gaps in the science, and based on decades of foundational work, a college of nursing, a large integrated health system and a health information system corporation joined forces in 2004 to create the Knowledge Based Nursing Initiative(KBNI). The KBNI is designed to develop and test a process to synthesize nursing research into actionable knowledge ; to design, build and implement an electronic decision support system for nurses at the point of care ; to collect and analyze clinical data ; construct reports for quality improvement and provide feedback to multiple stakeholders. In addition to bringing the best research evidence to practice, the KBNI is designed to systematically code, organize, and store nursing practice data in a clinical repository that provides the researchers the opportunity to use valid and reliable practice data for further research.

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◆要旨◆

 ここ数十年の間に看護研究は急激に増加した。現在の課題は,研究を即時に実践へ応用していくことであり,実践からのデータを研究に反映させていくことである。Wisconsin大学Milwaukee校看護学部(UWM CON,以下Wisconsin大学看護学部)は地域,病院,在宅,長期ケアの研究と実践の融合に力を入れてきた長い歴史がある。今回の,新しい知識に基づく看護イニシアティブ(knowledge based nursing initiative ; KBNI)だけでなく,本看護学部のいくつかの活動も文中で紹介する。研究と実践のギャップに焦点を当て,また数十年間の活動をもとに,ウィスコンシン大学看護学部と大規模医療システム,医療情報システム会社は共同で,知識に基づく看護イニシアティブ(KBNI)の開発に,2004年に乗り出した。KBNIは,看護研究を実施可能な知識へと統合していくこと,ケア場面での看護師の臨床判断を支援する電子システムを設計し作成し実行すること,臨床データを集め分析すること,複数の関係者たちに質改善のための報告やフィードバックを提供することを目的としてつくられている。最良の研究成果を実践にもたらすことに加え,KBNIは,臨床の看護実践データを系統的にコード化し,管理し,蓄積するように設計されていて,そのような妥当性と信頼性のある実践データを研究者たちは将来の研究に使うことも可能となる。

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 本書は,日本看護科学学会第26~29回学術集会交流集会にて,著者らが継続的に発表してきた内容をさらに洗練させ,1冊の書籍としたものである。『看護研究』誌でも,「質的研究論文のクリティークのためのサブストラクション」と題して40巻2号(2007年),41巻4号(2008年)にそれぞれ関連論文が掲載されている。評者は,サブストラクションを質的研究の評価に導入しようとする試みが新鮮に思えたので,大学院の講義のなかでも参考文献として提示してきた。

 本書冒頭にも述べられているように,本来,サブストラクションとは,仮説検証型研究において,理論─デザイン─分析モデルの一貫性を評価する上で,活用可能な技法である。評者が博士課程の院生時代,カリフォルニア大学サンフランシスコ校では,入学して最初の学期に,Dr.Holzemerによる系統立てた講義が必須科目であった。以来,研究論文のクリティークだけでなく,計画書作成段階においても,拠り所とした技法であった。

基本情報

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看護研究
43巻5号 (2010年9月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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