臨床皮膚科 75巻7号 (2021年6月)

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要約 68歳,女性.初診の4,5年前に左上腕外側にインフルエンザワクチンの予防接種を受けた.その半年後,接種部に紅斑と色素沈着を伴う淡褐色の硬化性局面を生じた.経過,臨床像,および病理組織像から,インフルエンザワクチン接種後に生じた限局性強皮症(circumscribed morphea,deep type)と診断した.タクロリムス0.1%外用剤による密封療法を開始したところ,周囲の紅斑は消退し,皮膚硬化も徐々に軽減した.過去に局所麻酔剤の局所注射や乳房針生検などワクチン接種を含む軽微な皮膚損傷を契機に強皮症関連疾患を発症した例が報告されている.自験例においてもインフルエンザワクチン接種という微小な物理的損傷が発症に関与した可能性があると思われ,限局性強皮症を生じる要因の1つとして念頭に置くべきと考えた.

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要約 90歳台,女性.インフルエンザワクチン接種2日後より注射部位の発赤が出現し,その後,高熱と全身に無菌性膿疱を伴う紅斑が多発した.生検,臨床像より急性汎発性発疹性膿疱症(acute generalized exanthematous pustulosis:AGEP)と診断した.自験例ではインフルエンザワクチンの薬剤リンパ球刺激試験で陽性反応を認めたが,ワクチンの性質上,偽陽性の可能性もあり注意が必要である.同様の症例で原因の特定には遅延型皮内反応が有用であったとの報告もあるが,自験例ではワクチン以外の要因がなく,注射部位の局所反応に引き続き全身症状が出現してきたことより,インフルエンザワクチンに関連したAGEPと考えた.インフルエンザワクチン接種後に生じる副反応は局所反応が一般的だが,中毒性表皮壊死症,AGEP等と診断された例も散見される.インフルエンザワクチンの需要増加に伴い,局所反応だけでなく,AGEPを含めた重症薬疹が起こりうることを念頭に置き,日常診療にあたる必要がある.

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要約 70歳,男性.2018年5月より,胃癌(cStage ⅣB)の治療としてニボルマブの投与を開始した.腫瘍の縮小に伴って胃全摘手術が行われCRとなり,ニボルマブ投与は2019年8月に中止した.2020年2月より全身の瘙痒感と皮疹を自覚し,2020年3月に当科を受診した.紅皮症と大腿部のびらんがみられ,血清抗BP180抗体価(>1,000U/ml)と好酸球数(12,200/μl)の著明な上昇が認められた.病理組織学的所見も含め,水疱性類天疱瘡と診断した.ステロイド内服開始により皮疹はいったん改善したが,治療開始1月後に皮疹が再燃し,ステロイドパルス療法を行いその後は良好に経過した.自験例は,ニボルマブによる免疫関連有害事象の可能性が考えられた.抗PD-1/PD-L1抗体では,薬剤中止後にも水疱性類天疱瘡が発症する可能性があり,それを念頭に置いて診療することが必要であると考えた.

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要約 87歳,女性.半年前より両足部に強い瘙痒感を伴う小水疱が出現し,徐々に手掌,足底に拡大した.難治性の異汗性湿疹と考え抗ヒスタミン薬内服,ステロイド外用で加療するも改善に乏しかった.発症4か月後,軀幹・四肢に瘙痒感を伴う淡い小紅斑がみられるようになった.血清抗BP180抗体,抗BP230抗体陽性,病理組織学的に表皮真皮境界部に裂隙を認め,直接蛍光抗体法で表皮真皮境界部にC3が線状に沈着していた.以上よりdyshidrosiform pemphigoidと診断した.プレドニゾロン30mg/日(0.6mg/kg/日)内服にて水疱・紅斑の新生なく,強い瘙痒感も改善し,プレドニゾロン漸減中である.掌蹠の小水疱を伴う紅斑が難治で,特に高齢発症である場合はdyshidrosiform pemphigoidの可能性も考え病理組織学的検査,免疫組織学的検査を行う必要があると考えた.

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要約 29歳,女性.14歳頃に両示指,中指,環指のPIP関節両側面に腫脹と硬化が生じ,徐々に増悪した.疼痛,瘙痒,可動域制限は認めなかった.単純X線所見では骨,関節の異常はなく,MRIでT1,T2低信号の軟部組織の腫脹が認められた.病理組織は,過角化を伴った表皮肥厚と,真皮の膠原線維の膨化と配列の乱れ,弾性線維の減少,ムチンの沈着を認めた.これらの臨床像,組織所見からpachydermodactylyと診断した.本症は認知度が低いために,報告数が少ないと思われる.本症の外観は変形性関節症様であるが,骨変形を認めないため皮膚科を受診する可能性があり,疾患に対する周知が望まれる.若年者にPIP関節の側面の肥厚を認める場合は本症を念頭に置き,手指への機械的刺激の有無を含めた生活歴の問診を行うことが重要である.

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要約 35歳,男性.初診の約10年前から左大腿外側に無痛性の皮下腫瘤を生じ,次第に増大するとともに,有茎性を呈するようになり当科を受診した.初診時径55×60mm,高さ45mm大の表面平滑で紅色の色調を有する有茎性腫瘤を認めた.病理組織学的には表皮と真皮内囊腫に連続性はなく,内部に充実性の腫瘍巣を有する多房性の囊腫が存在していた.充実性部分は,大部分がclear cellで,一部epidermoid cellが乳頭状に増殖していた.細胞の異型性や核分裂像は認めなかった.以上より腫瘍細胞の大部分がclear cellであったのでclear cell hidradenomaと診断した.自験例は以前より報告されているsolid cystic hidradenomaやnodular hidradenomaと同一疾患と考えられている.有茎性の臨床像で報告されているclear cell hidradenoma,solid cystic hidradenoma,nodular hidradenomaの報告は少なく,通常大きさは30mm大までの報告がほとんどであり,有茎性で巨大な臨床像を示した珍しい1例であると考え報告した.

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要約 1歳,男児.生下時より左臀部に黄白色調の皮疹が出現し,増大したため当院紹介となった.初診時,左臀部に1cm大の黄白色調の充実性結節を認めた.生検の結果,HE染色像で,真皮全層に腫瘍細胞が増殖していた.トルイジンブルー染色で腫瘍細胞は異染性を示した.病変部位から抽出したDNAではKIT遺伝子変異は認めず,mastocytomaと診断した.海外では,肉眼的に黄白色調を呈しダーモスコピーで境界不明瞭な黄色がかった橙色のyellow-orange dotの所見を呈するmastocytomaの報告があるが,本邦でのこれまでの報告例は全て紅色調の結節のみであった.自験例は,肉眼的に黄白色調を呈し,ダーモスコピーでyellow-orange dotを示した邦人では稀なmastocyotomaの1例であった.黄白色調を呈しない皮疹においても,ダーモスコピーを使用すると,yellow-orange dotの所見を呈することがある.診断に有用であるため,積極的なダーモスコピーの使用が推奨される.

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要約 89歳,女性.約10年前に左下腿に約15mmの黒色斑が生じた.病変は徐々に増大,隆起し出血や浸出液を伴うようになった.初診時,左下腿に65×60mm大のびらんを伴う有茎性紅色腫瘤が存在し臨床像から有棘細胞癌,無色素性悪性黒色腫を疑った.ダーモスコピーで腫瘍辺縁の一部にarborizing vessels, blue-gray globules, blue-white structuresを認め,生検の結果から基底細胞癌(basal cell carcinoma:BCC)と診断した.全切除標本の病理組織学的所見では,腫瘍は好塩基性の細胞で構成され,腫瘍胞巣辺縁では柵状配列を呈し,周囲の間質との間にムチン沈着を認めた.Melan-A,HMB45,Fontana Masson染色では腫瘍基部に陽性細胞を多数認めた.低色素性BCCでは,腫瘍の辺縁にBCCに特徴的なダーモスコピー所見がみられる可能性があり,腫瘍辺縁のダーモスコピーによる詳細な観察が重要と考える.

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要約 67歳,男性.15年前に心筋梗塞に対して冠動脈ステント留置術施行,9年前から慢性腎不全のため血液透析導入中.初診2週間前より,両下腿から足背にかけて軽度圧痛のある紫斑が出現し,歩行困難となったため2020年1月に当科を受診した.初診時体温36.6℃,血液検査にて軽度の炎症反応上昇を認めるのみであった.病理組織学的には,表皮内に好中球性の膿瘍形成,真皮中層にグラム染色陽性球菌の集簇と好中球の浸潤,血管閉塞像がみられた.第6病日から37.8℃の発熱と炎症反応上昇を認め,血液培養検査でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)が検出された.MSSA菌血症に対して抗菌薬投与を開始したところ,解熱,炎症反応の改善が得られ,紫斑は消退した.初診時発熱はなくIgA血管炎との鑑別を要したが,菌塊の存在から敗血疹と結論した.発熱がなくとも原疾患に慢性腎不全がある場合は,敗血疹の可能性を考慮して早期の精査加療にあたる必要がある.

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要約 71歳,女性.当院初診1か月半前に右鎖骨上窩に皮下腫瘤が出現し,初診1か月前には左鎖骨上窩にも皮下腫瘤が出現したため当科を受診した.病理組織では炎症細胞浸潤が主体で肉芽腫は形成せず,組織培養検査では,4週間後に小川培地にてMycobacterium tuberculosisが発育した.T-spot®.TBは陽性,3回連続喀痰塗抹検査は陰性で,胸腹部CTでは傍大動脈リンパ節腫脹は認めたが結節影や浸潤影はみられなかった.皮膚腺病と診断し4剤併用標準療法を行った.日本では人口10万人あたりの結核罹患率は低下傾向を続けているが,他の先進国と比較すると依然高い.皮膚所見から皮膚結核を診断することで,その感染源の臓器特定につながる可能性もある.

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要約 63歳,女性.2015年4月に抗aminoacyl-tRNA synthetase(ARS)抗体症候群と診断され,メチルプレドニゾロンパルス療法後プレドニゾロン(PSL)内服加療中であった.2017年6月間質性肺炎が増悪し,シクロホスファミドパルス療法で改善した歴もある.PSL漸減中の2018年2月左手背に皮下結節が出現し当科を受診した.皮膚組織のZiel-Neelsen染色で抗酸菌を検出し,抗酸菌培養でMycobacterium intracellulareと同定した.また,組織学的に類上皮細胞性肉芽腫を認めた.リファンピシン,塩酸エタンブトール,クラリスロマイシンを内服したところ,約3か月後には皮下硬結はほぼ消退した.その後1年間内服を継続しているが再燃はない.免疫抑制患者で結節病変がみられたら,非結核性抗酸菌症の可能性を念頭に置き,積極的に生検や抗酸菌の検査を行う必要がある.

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要約 8歳,男児.野球グラウンド周囲に生育していた植物の実を友人と投げ合い遊んでいたところ,誤って口に入ってしまった.直後より口唇の腫脹,口唇,口腔内の疼痛,しびれ,流涎をきたし当院へ救急搬送された.持参された植物の実はマムシグサの果実であり,果実に含まれるシュウ酸カルシウムによる症状と考えられた.多量の流水で口唇,口腔内を洗浄し,希釈目的に牛乳を摂取させたところ,数時間で症状は消失した.マムシグサの果実による接触性口唇口内炎は,本邦報告例では小児での頻度が多く,果実の形や色が特徴的なことから小児の目につきやすいため,保護者や教育者,医療従事者は十分に注意する必要がある.

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要約 84歳,男性.初診2か月前から亀頭部に疼痛および瘙痒を伴わないびらんが出現し拡大した.前医を受診し外用治療をしたが改善せず,当科を紹介受診した.初診時亀頭部両側面から後面,冠状溝周囲にかけて紅色のびらん局面がみられた.血液検査にて梅毒血清反応陰性.皮膚生検を施行した.病理組織像は真皮浅層に多数の形質細胞とリンパ球がみられ,免疫染色にてCD79aは真皮ほぼ全層の多数の細胞に陽性であった.以上より形質細胞性亀頭包皮炎と診断した.タクロリムス軟膏外用を開始したところ著効し2週間で急速に上皮化し,その後現時点まで再燃はみられていない.本邦での形質細胞性亀頭包皮炎のタクロリムス外用報告例は過去に1例のみであった.またタクロリムス軟膏外用報告例に関して形質細胞性亀頭包皮炎に限らず開口部形質細胞症に検索範囲を広げたところ,口唇に奏効した例は多く報告されていた.亀頭部に関しても良い適応と考えられた.

マイオピニオン

COVID-19パンデミックに学ぶ 原田 和俊
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1. COVID-19パンデミックで学んだこと

 2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に翻弄された1年であった.非常事態宣言が発令され,私が勤務する病院のある新宿でも,日中から閑散とした状態となった.大学医学部の講義はすべてweb配信になり,学生実習も最小限で行った.そして,2021年になっても,COVID-19パンデミックはまだ終息せず,4月初旬の時点で変異ウイルスの拡大により感染者は増加傾向にある.

 開業している先生方は先頭に立って患者対応マニュアルの作成,アルコール消毒機器の設置,防御パネルの配置,マスクや手袋の購入などに多くの労力を注がれたことと思う.基幹病院に勤務される先生でICD(infection control doctor)の資格をお持ちの方は,多忙な皮膚科の診療を行いつつ,COVID-19の対応に時間を多く割かれたのではないだろうか.

連載 Clinical Exercise・166

考えられる疾患は何か? 佐藤 英嗣
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症例

患 者:79歳,女性.

主 訴:両手掌,両足底の痛痒さを伴った皮疹.

現病歴:初診の1か月前から,両手掌,両足底に痛痒さを伴った紅斑,水疱が出現した.近医で好酸球増多と抗BP180抗体が陽性であったため,当科を紹介され受診した.

現 症:両手掌,両足底に1〜2mm大の小水疱が多数みられた.小水疱は癒合し,大きな緊満性の水疱を形成していた(図1a, b).

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目次

欧文目次

文献紹介

書評

次号予告

あとがき 玉木 毅
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 約1年前の昨年4月号のあとがきで,診療報酬改定と絡めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について触れた.あの頃は日本での流行拡大が先行し,イタリアや米国は「日本はオリンピックもあるのに大変だね」と対岸の火事だったところが,あっという間に形勢が逆転し,イタリアは阿鼻叫喚の世界となり,米国も世界一の新型コロナ蔓延国となった.米国で経済的に医療機関を受診できない層から感染拡大する懸念も,そのとおりになった.最後は「入院診療の劣化を進めれば,COVID-19は何とか乗り切れても,次のCOVID-2xではそうは行かないかも…」と結んだが,1年後の今COVID-19すらいまだ乗り切れていない現状であり,見通しの甘さに反省しきりである.

 COVID-19は本当に「狡猾」なウイルスで,勢いが鈍った後もちょっとした隙を突いてぶり返してくる.ロックダウンなどの「原始的」方法では,解除すればすぐぶり返す.天才IT担当大臣オードリー・タン氏の下,「成功例」として賞賛を浴びた台湾でも,国際線パイロットというわずかな盲点から感染が再拡大した.米・英・イスラエルはスピーディーなワクチン接種により新規感染を抑え込めたかに見えるが,変異ウイルスの動向次第である.わが国でも遅ればせながらワクチン接種が進んでいるが,はたしてどうなるか? 結局コロナ対応に「絶対解」は存在しないということではないだろうか.

基本情報

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臨床皮膚科
75巻7号 (2021年6月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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