臨床皮膚科 73巻10号 (2019年9月)

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要約 82歳,女性.1984年に甲状腺機能亢進症診断後より,プロピルチオウラシル(PTU)内服中であった.2017年7月初旬,下腿に紫斑と赤色丘疹が出現,紫斑は急速に潰瘍化し,各種治療に反応しなかった.8月末の血液検査で抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)陽性となり,長期にわたるPTU内服歴があることから,PTUによるANCA上昇が病態に関与したと考えられた皮膚潰瘍と診断した.プレドニゾロン(PSL)30mg/日を内服開始したところ,潰瘍は急速に上皮化し,PTU中止によりANCAも低下した.PTUは抗甲状腺薬として使用される薬剤であるが,比較的高率にANCAを誘導し,一部で薬剤誘発性ANCA関連血管炎を引き起こす.PTU誘発性ANCA関連血管炎は薬剤の中止により予後良好な経過を期待できる疾患だが,その頻度は比較的稀で,かつ内服から発症までの期間に相関性がないことから関連が察知されにくい.そのため難治性皮膚潰瘍の鑑別疾患としてこの疾患を認識しておくことが重要である.

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要約 67歳,男性.陰茎・肛囲の尖圭コンジローマに対してイミキモドクリームの外用3回/週を開始した.約6週間後に略全身に1cm大までの角化性紅斑と外用部位に隣接して境界明瞭な紅斑性局面が出現した.病理組織学的に錯角化,顆粒層の消失を伴う表皮肥厚など乾癬に合致する所見に加え,液状変性がみられた.ステロイド/カルシポトリオール軟膏で外用を開始するも,皮疹の増悪がみられたためエトレチナートの内服を開始したところ軽快傾向となった.自験例はこれらの経過および所見よりイミキモドにより生じた乾癬様皮疹と診断した.以前より,乾癬の病態解明にイミキモド誘発型乾癬マウスモデルが使用されているが,ヒトにおける報告は10例と少ない.今後,同様の報告が増えると思われ,皮膚科医は乾癬様の皮疹をみた際,イミキモドの使用歴の確認をする必要があると思われた.

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要約 79歳,男性.初診3か月前より頭部に皮疹が出現し,前医にてミノサイクリン内服等で加療されたが拡大傾向を認めたため,当科を紹介され受診した.頭部に角化や小脱毛斑を伴う浸潤性紅斑を認め,病理結果より好中球性原発性瘢痕性脱毛症,なかでも禿髪性毛包炎(folliculitis decalvans)と考えた.プレドニゾロン20mg/日,ロキシスロマイシンの内服を行い,紅斑,小膿疱は消退した.その後,プレドニゾロンの減量により再燃したため,ロキシスロマイシンを再開し寛解した.自験例は発症早期に治療を開始することで,瘢痕性脱毛は残存したが多くの毛包を残すことができた.紅斑や自覚症状を伴う炎症性の脱毛斑を診た場合には本症の可能性を疑い,発症早期に紅斑や脱毛斑辺縁の有毛部などから皮膚生検を行い,不可逆性の瘢痕性脱毛に至る前に治療を開始することが重要である.

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要約 78歳,男性.約20年前から存在する頭部の腫瘤が増大してきたため当科を受診した.初診時,右後頭部に65×52mm,高さ32mmの淡紅色で一部が淡青色調に透見される弾性軟の皮下腫瘤があった.MRI所見から皮様囊腫を疑い,全身麻酔下に切除した.摘出物の肉眼像では壁の薄い囊腫状の部分が主体を占めたが,一部に黄色調の充実性成分を認めた.組織学的には真皮内から皮下にかけて内腔が外毛根鞘性角化を示す重層扁平上皮に覆われた大型の囊腫がみられた.囊腫壁の上皮は一部で肥厚し,内腔や外側の間質に中央が角化傾向を有する腫瘍胞巣の集塊を伴っていた.異型性は明らかでなかった.臨床・組織像より増殖性外毛根鞘性腫瘍を生じた巨大外毛根鞘囊腫と診断した.頭部の皮下腫瘍では臨床的に囊腫状病変を呈しても増殖性外毛根鞘性腫瘍の可能性を念頭に置く必要がある.

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要約 67歳,男性.初診1か月前に顔,手や前胸部に瘙痒を伴う発疹が出現し近医を受診した.自家感作性皮膚炎疑いにてステロイド内服治療が行われたが,皮疹の再燃がみられたため当科を紹介受診となった.初診時,ヘリオトロープ疹,Gottron丘疹,scratch dermatitisがあり,筋原性酵素も上昇していた.全身倦怠感あり,上肢は挙上困難だった.MRI検査で筋炎の存在が示唆され,抗TIF1γ抗体陽性であり,CT検査で左肺門部に肺癌が発見された.以上より抗TIF1γ抗陽性の悪性腫瘍合併皮膚筋炎と診断した.肺癌については本人の精査・加療希望なく経過観察となり,筋症状は安静にて自然軽快傾向がみられた.今回われわれは典型例を経験したが,抗TIF1γ抗体陽性の皮膚筋炎では高率に内臓悪性腫瘍を合併し,皮膚症状は重篤であるのに対し,筋炎や間質性肺炎は比較的軽度であるという特徴を知ることは病態把握や治療方針の決定に有用である.

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要約 28歳,男性.1年前より顔面にかゆみを伴う皮疹が出現した.皮疹は拡大し前医より当科紹介となった.口唇や口内の浮腫と口唇を含む顔面,頭頸部に水疱,膿疱,びらんが混在し,腋窩,臍部,下腹部に結節状,環状の隆起性局面を形成していた.病理組織像で表皮は不規則に肥厚し,好中球と好酸球からなる表皮内,表皮下膿瘍があり,真皮に肥満細胞を散見した.末梢血好酸球は増多し,血清抗デスモグレイン(Dsg)1・抗Dsg3・抗BP180抗体,蛍光抗体直接法は陰性であった.以上よりpyodermatitis-pyostomatitis vegetans(PD-PSV)と診断した.PD-PSVの本邦報告例は自験例を含め13例と稀で,11例に炎症性腸疾患を合併していた.炎症性腸疾患でも好酸球が増多し腸管粘膜固有層で肥満細胞が増加するため,疾患の病態形成に好酸球と肥満細胞の相互作用が寄与する可能性があると考えた.

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要約 63歳,男性.初診約1週間前から口唇,口腔内,陰部の疼痛を伴う皮疹が出現し,受診した.ヘルペス性歯肉口内炎および陰部ヘルペスを疑い,アシクロビル投与にて皮疹は改善した.7か月後に同部位に皮疹が再燃した.アシクロビル投与にて皮疹は改善したが,血清immunoglobulin M(IgM)が継続的に低値であった.B細胞表面IgMも低値であり,選択的IgM欠損症と診断した.遺伝子検査を行ったが,chromosome 22q11.2の欠失はみられなかった.選択的IgM欠損症の病態は不明な点が多く,有病率も明らかなデータがない.しかし,小児において反復する感染症や,成人ではアレルギー疾患,自己免疫疾患を契機に診断されることもあり,鑑別疾患として念頭に置くことが重要である.

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要約 40歳,男性.38℃台の発熱,咽頭痛,咳嗽および下顎,両掌蹠を含む略全身に紅斑が出現.抗菌薬で改善しないため,当科を受診した.皮疹,炎症反応,ASO高値から,当初は溶連菌感染に伴う多形紅斑(erythema multiforme:EM)を疑ったが,SBT/ABPCが無効の経過および各種検査結果からサイトメガロウイルス感染に伴うEMと診断した.しかし,入院中の舌潰瘍新生,当科受診1か月後の全手指,足趾の爪甲剝離といった臨床像,非典型的な臨床経過および病理組織学的所見から,本症例の病態にはコクサッキーウイルスA6型手足口病が関連していたのではないかと推測した.EMは日常皮膚科診療において頻度の高い疾患の1つではあるが,典型的な経過をたどる場合には,他疾患の合併や複数の誘因を念頭に置き,検索を行うことが重要で,病理組織学的所見が病因を推定するうえで重要である.

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要約 74歳,女性.併存症に遠隔転移を伴う肺癌,下肢の深部静脈血栓症.持続性の胆道出血のため抗凝固療法が中止された後,下腿網状皮斑と両足趾の冷感・疼痛を伴うチアノーゼが出現した.足趾壊死のリスクが高いと考え,血漿交換療法と高用量ステロイドの併用を行い,抗リン脂質抗体の速やかな陰性化と臨床症状の改善を得た.抗リン脂質抗体症候群は,自己抗体を介して血管内皮障害や血栓症を引き起こす病態である.抗凝固療法が標準治療だが,出血リスクが高く抗凝固療法が行えない場合の治療指針はない.抗凝固療法が行えない場合でも,血漿交換療法と副腎皮質ステロイドとの併用療法は,抗リン脂質抗体症候群による臓器障害の改善に有用と考えた.

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要約 59歳,男性.初診2か月前から左第2趾が暗紫色調となり疼痛が出現し拡大した.前医でblue toe症候群が疑われたが皮膚生検でも確定診断に至らなかった.初診時,右第1趾に大豆大の潰瘍を認め,左第2趾,右第1,4趾はチアノーゼ様であった.左第2趾の皮膚生検で血管拡張と血栓を認め,抗血小板療法を開始した.初診時,軽度の血小板増加(55.6×104/μl)がみられたことから,血液疾患を疑い精査を進めたところ,JAK2 V617F遺伝子変異陽性,骨髄生検で過分葉の大型巨核球増加がみられ,本態性血小板血症と診断した.血小板数は70×104/μl台まで増加したがヒドロキシウレア内服により改善し,遷延していた潰瘍も上皮化した.現在までに潰瘍やチアノーゼの再燃はない.難治性の皮膚潰瘍では血小板数が異常高値でなくとも,本態性血小板血症を疑い精査する必要があると考えた.

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要約 73歳,男性.初診の10年以上前から口腔,鼻腔および咽喉頭粘膜にびらん,潰瘍が出現した.近医耳鼻科でBehçet病を疑われ,プレドニゾロンやコルヒチンの内服などで治療されたが,難治であった.また,初診の3年前から眼球癒着を生じ,眼科で内反症解除術・眼球癒着解除術を施行されたが,術後1か月で再び癒着した.口腔内の難治性潰瘍の精査・加療目的に当科を紹介され受診した.歯肉びらん部の病理組織像では粘膜上皮・固有層間に裂隙を認めた.無疹部であった口唇粘膜の生検組織を用いた蛍光抗体直接法では粘膜上皮直下に線状のIgG沈着を認め,1M食塩水剝離ヒト皮膚を用いた蛍光抗体間接法では患者血清IgGが裂隙の表皮側に沈着した.以上から,抗BP180型粘膜類天疱瘡と考えた.皮膚病変が軽症な粘膜類天疱瘡では,他科で診断が不確定なまま粘膜の難治性潰瘍として長期間治療されることがあるため,他科との密な連携が必要である.

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要約 81歳,男性.皮膚科初診の15か月前にBence-Jones蛋白λ型の多発性骨髄腫と診断され血液内科で化学療法が行われていた.7か月前から上肢の不全麻痺が出現し,6か月前から右大腿に腫瘤が出現した.1か月前から複視が出現,大腿の腫瘤は急速に増大し,左側腹部にも結節が出現した.右大腿の腫瘤に関して患者は当科を初診した.同部の生検で多発性骨髄腫の特異疹と診断した.化学療法の結果,左側腹部の結節は消失したが右大腿の腫瘤が増大したため皮膚科初診5か月後に切除術を行った.腫瘤と下床の脂肪織との連続性はなく,多発性骨髄腫の皮膚転移と診断した.しかしその後,中枢神経浸潤と汎血球減少が進行し患者は6か月後に死亡した.多発性骨髄腫の特異疹に遭遇する頻度は少ないが,出現から死亡までの中央値は約6か月で,予後不良の徴候として再認識された.

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要約 35歳,男性.10年前より左背部に皮膚結節を自覚していた.初診の4か月前から増大傾向を示し,前医の皮膚生検でエクリン汗孔癌(eccrine porocarcinoma:EPC)と診断された.初診時すでに両側腋窩・左鼠径部リンパ節への多発リンパ節転移と皮膚・骨・胸膜への遠隔転移があり,化学放射線療法を施行した.化学療法(weekly paclitaxel)は全身状態の悪化により2回投与後に中止し,また癌性胸膜炎を併発したため持続的胸腔ドレナージと胸膜癒着術を施行した.放射線治療は完遂して腫瘍の増大抑制やQOL改善に一定の治療効果を認めたが,初診2か月後に死亡した.EPCは表皮内エクリン汗管由来の皮膚悪性腫瘍で,進行例においてはリンパ節転移や遠隔転移をきたすことが多い.自験例のように若年でのEPC発症は比較的稀だが,転移をきたした時点で予後不良と考えられ急速に進行する可能性があるため,注意が必要である.

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要約 59歳,女性.関節リウマチのため,インフリキシマブ,メトトレキサート,メチルプレドニゾロンにて加療中.左人工足関節置換術後,創部に潰瘍を形成し,初診2か月前に植皮術が行われた.術後,発熱と四肢の紅斑を認め,抗菌薬投与によりいったん改善したが,初診5日前より再び発熱と紅斑が出現した.初診時,両下腿,右前腕,左臀部に有痛性の浸潤性紅斑があり,血液検査では好中球増多と炎症反応高値を認め,蜂窩織炎と診断した.抗菌薬の投与が奏効したが,4回にわたり再燃を繰り返した.再燃時の血液培養で8日目にHelicobacter cinaediが検出され,H. cinaediの再発性蜂窩織炎と診断した.H. cinaediによる蜂窩織炎は再燃を繰り返すことが多く,治療に難渋することがある.反復性の蜂窩織炎を診た際にはH. cinaedi感染症の可能性を考え,検査の際には培養期間を長めに設定し,治療は抗菌薬投与を長期に行うことが重要である.

マイオピニオン

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 この題名がすべてを語っていると思いますが,今さら解説をしなくとも,高齢者が増えそれに伴い寝たきり,それに準じた方が増え,医院・病院まで来院できない方が年々増加しています.このような方々の皮膚疾患はどの科の医師が診ればよいのか,もちろん皮膚科です.厚生労働省も在宅医療(以降,在宅)を重視していますが,皮膚科医で在宅を行っている先生は非常に少ないのが現状です.私の診療所は開設時より在宅を行っていますが,通常の外来の間(昼休み)と外来終了後の午後7時半ごろ〜午後9時半ごろまで個人宅,施設を訪問,合わせると年間平均延べ人数は1,300〜1,400程度になります.こういった経験から皮膚科在宅に関して述べたいと思います.

 現在,皮膚科の在宅を行っている先生は少ないと思いますが,これまで外来に来ていた方が高齢になり寝たきりになった,あるいは新患で褥瘡,水疱症,帯状疱疹,熱傷,紅皮症その他皮膚科が診なければならない疾患で在宅の依頼をされたときどうされているでしょうか.何年も通っていた方,その家族が皮膚科在宅を必要としているときに「私の診療所は在宅していないので」と断ってしまうのでしょうか.家族が寝たきりの方を外来に連れて行くのはとても大変です.会社を休まないと連れていけない,2階にいる方は階段を降ろせない,車いすも無理なので患者搬送用に車を頼まなければならない,等々外来受診には多くのハードルがあるのです.それでは患者さんそして家族の方はどうしたらいいのでしょう.自分の親だったら? 患者さんの家族の身になって考えたらどう思いますか?.客観的には皮膚科医としてどうにかしてあげたいと思うのではないでしょうか.

連載 Clinical Exercise・145

Q考えられる疾患は何か? 遠藤 雪恵
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症例

患 者:51歳,男性

主 訴:右臀部,両下肢のびらん,潰瘍を伴う紫紅色局面

既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:約半年前に右臀部,次いで両下肢に疼痛を伴う暗紫紅色の皮疹が出現し,次第に潰瘍化した.前医にて抗菌薬内服,スルファジアジン銀などで加療されたが軽快せず,当科を紹介され入院した.

現 症:右下肢,臀部,左膝部に鶏卵大までの暗紫紅色から紅褐色,扁平に隆起する局面が多発していた.大型の局面では中央にびらん,潰瘍を伴い,辺縁は堤防状に隆起していた(図1a,b).表在性リンパ節は触知しなかった.

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目次

欧文目次

文献紹介

書評

次号予告

あとがき 阿部 理一郎
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 遠隔診療の検討について聞いたり,討論したりする機会があります.新潟も皮膚科医が不在の地域が少なくなく,そのため近隣の皮膚科の医療施設までの距離があり,定期的な診察が必要な患者さんの対応にとても苦慮することがあります.ですので,遠隔診療について具体的に当事者意識で考えることを避けては通れない印象です.いつも皮膚科における遠隔診療の話をしていると問題になるのが,皮膚科医が診断することについて保険点数がついていないことです.遠隔診療での保険診療において,何をもって点数をつけるかとなると,つまるところ皮膚科医の臨床診断に対するものしかないように思えます.他科のように医療機器を用いた検査などが少ない皮膚科にとって一番の専門性のあるこのことに点数がついていない現実はなかなか厳しいと感じます.ですが,昨今遠隔診療の適用を広げていく風潮からは,これをきっかけに点数化を実現するチャンスかもしれません.もちろん保険医療費圧縮が強く行われている今,項目新設は厳しいのかもしれませんが,中期的な目標として周辺の環境整備などからでも進めていくべき課題と考えます.当面の検討事項として,遠隔診療の技術的運営的問題,例えば,しっかりとした皮膚科医が診断する(している)ことをいかに担保するか,など慎重に丁寧に議論を重ねる必要を実感します.

基本情報

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臨床皮膚科
73巻10号 (2019年9月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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