BeyondER 2巻6号 (2025年3月発行)

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巻頭対談　歴史に学び，他者に学び，先を読む

チャンスを次のステップにつなげていく熊谷　俊人 , 舩越　拓 2巻6号 , 2025年3月 , pp.770-778

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医師の多くは日々の臨床業務に忙殺され，立ち止まってワークライフバランスやキャリアを省みる余裕にも乏しい。

そこで今回は，本誌編集委員の舩越が，同世代であり，SNSを活用して軽やかに情報発信をしながら地方行政にリーダーシップを発揮し続けている千葉県知事熊谷俊人氏から，人と組織を動かす秘訣を聞き出す。

さらには，医療と行政という違いはあれど，組織運営に携わりながらキャリアを積み重ねていく30〜40代がきっと遭遇するに違いない共通課題も深掘りしていく。

特集1　救急医療のリベラルアーツ　各国の社会事情に向き合う救急医

扉佐藤　信宏 , 千葉　拓世 2巻6号 , 2025年3月 , pp.779

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救急医とは社会課題を見つけ，そこで求められているニーズに柔軟に対応できる“カメレオン的”な要素をもつ。国内では高齢化，離島・僻地医療，パンデミックなどさまざまな場面があり，それぞれ活躍の場はERに限らない。

　今回は日本を飛び出し，海外で，その土地の課題に対して取り組んだ経験・事例を取り上げる。各国との違いやその課題解決へのアプローチ方法を通して，日本の救急医療を俯瞰したり，自身の働き方を振り返る機会になれば幸いである。

　さぁ，思い切って社会に飛び立とう！

1．急速な経済成長国：ラオスで交通事故死の低減に挑む鈴木　貴明 2巻6号 , 2025年3月 , pp.780-787

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世界保健機関（WHO）の報告^1）によれば，2021年には，交通事故によって世界全体で119万人が死亡し，その9割以上は途上国で発生しており，若年層に限れば死因のトップである。アジアで経済成長著しい途上国の一つラオスでは，交通事故死が右肩上がりに増加しており，人口あたりの死者数は，我が国が1970年代に経験した最高値を上回る。

　一方，同国の救急医療サービスは極めて脆弱で，先進国の経験技術を活かすことで大きく改善できる余地がある。本稿では，交通事故死の増加を食い止めるべく，筆者らがどのような挑戦を現地で行ってきたかを紹介する。

2．薬物中毒対策に挑む国：米国Opioid Crisisとは？克服への取り組み千葉　拓世 2巻6号 , 2025年3月 , pp.788-793

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日本では薬物中毒死といっても，あまりピンとこない救急医が多いのではないだろうか。日本の救急外来でよく遭遇する薬物中毒といえば，睡眠薬過量服用や若年者の市販薬中毒であり，なかには重症患者もいるが，連日瀕死の患者が救急外来に押し寄せる状況ではない。

　それと比較すると，米国はかなり状況が異なっており，医療従事者のなかでも薬物中毒死に対する危機感は強い。ただし，救急でも薬物中毒に正面から取り組もう，という雰囲気が濃厚になってきたのはさほど古いことではない。筆者自身，オピオイドによる中毒死が次第に増えてきた2010年代の米国で臨床をし，臨床中毒学という分野に身を置いたが，この10年ほどの間に状況が大きく変わってきた印象を受ける。

　本稿では，米国における薬物中毒死を取り巻く状況，救急の臨床現場での動き，そして救急医がERの外で中毒死を減らすためにどのような活動をしているかを紹介する。ただし，現時点で筆者は，米国でのこうした活動に直接関わっているわけではないので，あくまで外部からの観察であることを最初に申し添えておく。

3．院外に行列ができる国：オーストラリアの救急部「過密状態」への対応策安田　晃一 2巻6号 , 2025年3月 , pp.794-799

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突然だが，皆さんは列に並ぶのはお好きだろうか？　日本では飲食店，遊園地，プールなど，日常さまざまな場所で行列や混雑を見かける。美味しい物や楽しいことを体験するには，多少の待ち時間が必要になることは納得できる。

　オーストラリアでは，上記のような場所で混雑や行列を見かけることは少ない。ところが，都市部にある病院の救急部では，1年を通して昼夜を問わず，多くの患者で待合室はいっぱいとなる。トリアージの窓口に並ぶ列も長くなりがちで，救急車搬入口には車が何台も並び，運ばれて来た患者は救急部の廊下でストレッチャーのまま，次にベッドが空くのを待っている。

　日本ではあまり目にすることのない光景が，ここオーストラリアでは当たり前になっている。なぜそうなのか，その理由と，これらがもたらす影響および，その対応策について考察する。

【コラム1】紛争が続く国：国境なき医師団による災害・戦時下の医療援助中嶋　優子 2巻6号 , 2025年3月 , pp.800-803

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高校2年生のとき，何気なくテレビを観ていた。たまたま目にした「国境なき医師団」の活動は，その果敢なカッコよさで私に衝撃を与えた。そして無謀にも私は医学部を目指すと決めた。

　その後の，国境なき医師団に登録するまでの紆余曲折と，海外派遣の経験を積み重ねていく過程で身につけていった，医療資源の乏しい紛争地域や戦禍のただ中で必要となる現場力，そして現地の人々について，いくつかの体験をもとにご紹介する。救急医がその力を発揮できる，このような世界も存在するのだ。

特集2❶　ERスタンダード　急性腹症—それでも見逃す腹痛のワナ

扉佐藤　信宏 , 山上　浩 2巻6号 , 2025年3月 , pp.805

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救急外来には，老若男女問わず多くの腹痛患者が来院する。急性腹症は，帰宅できるような軽症から致命的疾患まで数えきれないほどの鑑別疾患があるうえに，診断までに時間を要する場合も多く，救急医・救急担当医泣かせの病態の1つである。経験豊富な救急医でも，帰宅か入院か，どの診療科のコンサルトが必要なのかなど，急性腹症の対応には苦労する。

　本特集では，急性腹症について，commonな疾患から鑑別に苦労する産婦人科系・泌尿器・血管系までカバーし，時間を意識した病歴聴取・身体診察や，診断には欠かせない画像診断のポイントも含めた。臨床現場ですぐに使えるような実践的な内容を，百戦錬磨の経験豊富な執筆陣でお届けする。

1．短時間でポイントを押さえる病歴聴取・身体診察のしかた—検査よりも早道となる腹痛初療の真髄とは上田　剛士 2巻6号 , 2025年3月 , pp.806-814

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一般的に日本の救急外来では，検査へのアクセスがよいため病歴聴取・身体診察が疎かになり，腹痛患者に対してルーチンに血液・画像検査を行ってしまうケースも散見される。しかし，的確な病歴聴取・身体診察は時間やコスト，汎用性の面から，患者にも医療者にもメリットが大きい。

　時間的制約の大きい救急外来だからこその病歴聴取・身体診察のポイントを，エビデンスにとどまらず，筆者の経験もふんだんに交えて解説する。高齢者や精神疾患患者も含め，情報収集が困難な患者への対応についても，実情をふまえたコツや注意点を述べる。

2．わかっていても見落とすcommonな疾患—代表的な腹部緊急疾患に潜むピットフォール山本　祥寛 , 山本　基佳 2巻6号 , 2025年3月 , pp.816-824

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commonな腹部緊急疾患は，ざまざまな病歴で来院することも多い。これらは時として誤診，診断の遅れにつながる。しかし，commonかつ治療可能な疾患であれば当然，早期診断・早期治療が望ましい。

　本稿では自験例を挟みつつ，非典型的な経過や症状を呈する見逃しやすい5つの疾患について概説し，経験に基づくピットフォールを紹介する。

3．腹部POCUS：ココが描出どころ！　ココが読影のキモ！—強みと弱みをふまえて救急外来でエコーを使いこなす道下　貴弘 , 谷口　隼人 2巻6号 , 2025年3月 , pp.826-839

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超音波検査は患者の移動なくベッドサイドで利用でき，被曝のリスクもないため，急性腹症において大きな武器となる。一方で，検者のレベルに依存し，異常所見を見逃すリスクも抱えている。

　本稿では，急性腹症での超音波検査の立ち位置を整理したのち，8つの症例をもとに，救急外来での腹部POCUSの使いどころや描出法，ピットフォールなどを解説する。各解説の最後には，ごく簡潔に鑑別診断や遭遇頻度，所見描出の難易度も記してあるので，こちらもぜひ参考にされたい。

4．急性腹症でのCT使用・選択の極意—単純か造影か？　リスクマネジメントはどうするか？増井　伸高 2巻6号 , 2025年3月 , pp.840-848

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ERの腹痛患者に対する検査の実施率は，血液検査が約9割，CT検査が4割，超音波検査が2割という報告がある^1）。同研究では，これらの検査で最も診断に寄与したのはCTであり，採血や腹部超音波は診断への影響は少なかったとされる^1）。

　確かにCTは，腹痛診断における強力な診断ツールである。しかし，必ずしもマネジメントを変えるわけではない点には注意が必要だ。同研究では腹部CTを実施してもdispositionが変わったのは，たった43％だとしている^1）。

　そこで本稿では，腹部CTの適切な利用のために重要となるポイントを交えつつ，単純CTと造影CTをどのように選択すべきか？　そして造影剤腎症やアレルギー，放射線被曝へのリスクマネジメントをどうするか？について解説していく。

5．急性腹症CT読影の必須ポイント—腸閉塞やピットフォールを中心に木口　貴雄 2巻6号 , 2025年3月 , pp.850-859

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「急性腹症の診断においてCTが有用」というのは，急性腹症の診療に関わる人なら誰もが理解していることと思われる。しかし，CT所見を正しく読影するのは非常に難しく，すべてを完璧に診断するのは画像診断に長年専従している身でも困難である。

　そこで本稿では，まずは急性腹症の読影に向かう前に知っておいたほうがよい知識や，急性腹症のなかでも難しく，かつ緊急性の判断が求められる腸閉塞の読影の基本と，急性腹症のCT読影で陥りがちなピットフォールを中心に解説していく。

6．それでも，やっぱり胃腸炎にしがち？—典型的なイルネススクリプトを把握することから始めよう関根　一朗 2巻6号 , 2025年3月 , pp.860-865

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「胃腸炎」。それは魅惑の言葉。胃腸炎と診断されるだけで，検査もいらないし，自然治癒する…そんな安心感が漂う。腹痛の症例を診療するときは，「どうか！　胃腸炎でありますように！」と祈りながら診る医師も多いだろう。

　救急外来での診断に胃腸炎など存在しない。本当はあるかもしれないが，存在しないと思って診療することが大切だ。除外診断だから，というのは簡単だが，なぜそうせねばならないのかを一緒に考えてみよう。

【コラム1】誰もが悩む女性の腹痛—専門医不在の施設で，婦人科疾患か否かをどう鑑別するか矢島　つかさ 2巻6号 , 2025年3月 , pp.866-870

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女性の腹痛では，婦人科疾患かそれ以外かの判断を要することがよくある。本稿では産婦人科医が常駐していない施設を想定し，女性の腹痛の診かたについて，デリケートな問診のコツや，経腹超音波検査（経腹エコー）でもみられる有用な所見など診断時のポイントを中心に解説する。誌面の都合上，妊婦の腹痛については扱わない^＊1。

【コラム2】これだけは押さえておきたい泌尿器科系の急性腹症—3つの痛みに分けて整理する野田　透 2巻6号 , 2025年3月 , pp.872-877

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本特集のテーマは腹痛であり，そのなかでも本稿で取り上げるのは，泌尿器科系の疾患が原因となる急性腹症である。「腹痛」というと消化器系の疾患や，上腹部痛なら心臓由来の痛みをまず考える医師は多く，それはあながち間違いではないのだが，「泌尿器系疾患で腹痛をきたすことがある」ということを認識しておくことも必要である。

　オンライン医学情報サービスであるUpToDate^®には，腹痛の原因疾患としていくつかの泌尿器系の疾患が挙げられている（表1）^1）。これを原因となる部位ごとに，「精巣由来の痛み」「腎由来の痛み」「膀胱由来の痛み」に分けて概説する。

【コラム3】見逃しがちな血管系の急性腹症—緊急度の高い疾患をいかに早期認知するか柴橋　康平 , 菅原　誠太郎 2巻6号 , 2025年3月 , pp.878-884

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急性腹症において，血管系疾患は割合としてはそれほど多くない。しかし治療介入の遅れは致死的となるため，救急医・救急担当医は各疾患のリスク因子や特徴を押さえておく必要がある。本稿では，見逃しやすいが緊急度の高い6つの血管系疾患について，診断の遅れを防ぐうえで重要なポイントを中心に解説する。

【コラム4】帰すときの説明，どうしてる？—患者にも医師にもメリットが大きい帰宅指示書の作り方金子　志穂 , 舩冨　裕之 2巻6号 , 2025年3月 , pp.886-889

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救急外来では，腹痛患者は帰宅できる場合もよくあるが，重大な疾患を見逃すリスクもある。そのため自宅での経過観察上の注意点や再受診の目安など，帰宅時の説明は重要である。すべての救急担当医が同じクオリティーで患者説明をすることは難しく，帰宅指示書を使うことで要点を漏れなく伝えられ，時間短縮にもつながる。本稿では，帰宅指示書についてポイントを整理しながら，実例も含めて作成時の原則や注意点を解説する。

特集2❷　ERスタンダード　気道管理—自信がついてきた頃が一番コワイ！

扉舩越　拓 , 山内　素直 2巻6号 , 2025年3月 , pp.891

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ABC（気道，呼吸，循環）の維持は，救急医療の初期蘇生において最も重要な要素である。気管挿管はそのなかでもAとB（場合によってはC）の確立に欠かせない。そのため気管挿管のトレーニングは広く行われ，多くの医師が参加している。その反面（あるいはそのためなのか），「気管挿管は誰もができる」という認識で，非常にカジュアルに行われている。

　しかし，挿管の失敗や合併症は時として患者の生命を脅かすものであり，100％の安全性が求められる。それゆえ，いつか出会うかもしれないdifficult airwayへの対応法に精通することが必要とされる。また，救急医であれば他科の医師が対応困難な症例の気道管理について，助けを求められるかもしれない。

　そこで本特集では経験豊富な執筆陣から，一歩進んだ気道管理の戦略に関してご教示いただいた。基本から一皮むけようとしている医師に，その極意をお届けしたい。

【Part 1】総論

1．気道管理の基本知識を確認しておこう—正確なパフォーマンスをしっかりと発揮するには飯尾　純一郎 2巻6号 , 2025年3月 , pp.892-904

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気道管理は数ある医療行為のなかでも，緊急性や専門性が高く，医療者に与える心理的なプレッシャーが高い医療行為の代表格である。一つ間違えたら患者の呼吸が止まり，死に追いやる可能性を秘めている。

　特に救急外来での気道管理は，失敗が許されない行為といえる。過去に指導を受けた上級医〔志賀隆先生（国際医療福祉大学救急医学講座）〕からは，「気道管理は危機管理」と学んだ。つまり，気道管理は気道確保を行う技術だけでなく，危機管理システムをきちんと自身で展開できるかが重要である。

　では，どのような危機管理をすればよいのか。本稿では，いざというときに正確なパフォーマンスをしっかりと発揮できるよう，気道管理全体および気道確保の重要な考え方や方法について述べていく。

2．「挿管する」と決めたら最初に行う“A”のストラテジー—実臨床では何をどこまで考え，どう備えるか瀬良　聡 2巻6号 , 2025年3月 , pp.906-915

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救急外来で行う気道管理は，悠長に構えている暇もなく即座に患者を評価し，自分自身ができる最大値を瞬時に出さなければならない。とりわけ生死を分ける医療行為であるため，ある程度経験を積んで慣れてきたときこそ，きちんと足場を確認しておく必要がある。

　本稿では気管挿管が必要と判断したあとの計画，いわゆるABCプランニングの“A（Assessment）”について，実臨床で重要な考え方や判断のポイントを整理する。また，もしもの事態に陥らないよう事前確認，事前準備の要点にも言及する。

3．キミのバックアッププランは十分か？—クライシス遭遇時の準備とマネジメントはチームで臨む！志賀　隆 2巻6号 , 2025年3月 , pp.916-925

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rapid sequence intubation（RSI）は初回成功率が高いことが知られているが，弱点もある。プランAとしてRSIの立案中にリスクが高いと察知した場合や，初回不成功だった場合，このピンチをどのように解決したらよいだろうか。

　本稿では症例をもとに，気道管理における実際のプランニングとそのコツを整理しながら，どの危機にどんなプランBがあるのか，またHOP（低血圧や低酸素，アシデミア）における戦略はどうするかなど，バックアッププランをうまく策定し実行するためのポイントを解説する。

4．挿管後に起こりうる急変—「何かがおかしい」を迅速にキャッチし，すぐに対応する！大木　紗弥香 , 飯塚　悠祐 2巻6号 , 2025年3月 , pp.926-934

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気管挿管は患者，医療者どちらにとっても一大イベントであり，慎重な対応が求められる手技である。一方で，手術室外での挿管は基本的に緊急事態で行われることが多く，pitfallも少なくない。ICUでの挿管では，重症低血圧や重症低酸素血症，心停止などの重大な合併症は約40％に発生するという報告もある^1）。しかし，どんなに気を配っていても「一度挿管すれば一安心」と思ってしまう医療者も多いのではないだろうか？

　本稿では挿管後に起こりうる急変とは何か，またその対応方法について述べる。

【コラム1】気道管理における教育とリサーチの未来—課題をどう乗り越えるか，将来にどうコミットするか髙橋　仁 2巻6号 , 2025年3月 , pp.936-939

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挿管を含めた気道管理の教育は非常に重要であるが，いまだ画一化された方法はない。また，教育を行うにはエビデンスがないと説明できないが，その観点からは，米国だけでなく日本の救急外来での挿管に関する研究は大きなインパクトをもたらした。そこで本稿では，気道管理における教育の課題と具体的な解決策，および研究のトレンドや今後の行方について解説する。

【コラム2】プレホスピタルにおける気道管理—病院内との違いを意識したdecision makingとは？福山　唯太 2巻6号 , 2025年3月 , pp.940-943

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プレホスピタルケアのなかでも，気道管理は最も重要な処置の1つであり，病院前診療に携わるスタッフは気道管理に習熟する必要がある。気道管理全般の必要性や方法については他稿で詳しく述べられているため，本稿では病院前での気道管理について，病院内との違いに焦点を当てて解説する。

【Part 2】各論

5．酸素化を保てない重症肺炎—陽圧を用いた前酸素化と，慎重な薬剤使用がポイント！春日　武史 , 片岡　惇 2巻6号 , 2025年3月 , pp.944-948

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救急外来およびICUでの緊急気管挿管では，手術室での予定された挿管と比較し，重度の合併症が多く発生しうる。国際的な前向き観察研究であるINTUBE^＊1試験^1）では，緊急挿管症例においてSpO_{2（経皮的酸素飽和度）}が80%以下となる重症低酸素は9.3%，心停止は3.1%に生じると報告されている。しかしこれらの合併症のリスクは，通常酸素投与で酸素化が保てないなかでの緊急挿管においては，上記以上であると考えるべきだろう（挿管に慣れている筆者らでも，重度の低酸素血症の緊急挿管は非常に緊張するものである）。

　本稿では症例をもとに，「酸素化を保てない重症肺炎患者に，いかに挿管するか」について，2つの命題に分けて説明する。1つは，そもそも通常酸素投与で酸素化が保てていないなかで，どのように挿管に進むかということ，つまり「前酸素化をいかに行うか」である。もう1つは前者とも関わるが，著明な自発呼吸（頻呼吸と努力様呼吸）があるなかで，気管挿管のために鎮静薬（±筋弛緩薬）を投与して自発呼吸が弱まった（もしくは止めた）場合に，さらに低酸素が悪化し心停止に至る可能性を考えるべきであり，「薬剤（鎮静薬，筋弛緩薬）をどのように投与しながら挿管を行うか」という命題である。

6．肥満患者が来た！—その特殊性をふまえて挿管に立ち向かう白髭　知之 2巻6号 , 2025年3月 , pp.950-954

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肥満は換気困難・挿管困難のリスク因子の代表格である。肥満患者への気管挿管に際しては，いつにも増して慎重になる医師も多いと思われるが，救急医にとってはやはり避けて通ることのできない処置である。本稿では症例をもとに，肥満患者の気道管理で考慮すべきこと，挿管アプローチの選択を中心に解説する。

7．気道異物をどう克服するか—気道閉塞解除の手札と使いどころを極める！山形　梨里子 , 岸部　峻 2巻6号 , 2025年3月 , pp.956-962

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気道異物による窒息は一分一秒を争う緊急事態であり，対応する側も極度の緊張を強いられる。

　本稿では成人と小児の症例をもとに，気道異物に対するアプローチについて対応の基本知識を整理したうえで，手技の選択肢や実際のやり方，さらにバックアッププランにも言及し，気道管理のプロである救急医なら「どのように考えてどう行動すればよいか」を解説する。

8．大量に喀血している患者の気道確保—実臨床に著効する工夫とトラブルシューティング井ノ上　幸典 2巻6号 , 2025年3月 , pp.964-970

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「大量喀血」の定義は，かつては特定時間あたりの推定喀血量で表現され，明確に定まっていなかった。喀血量の定量化は困難であり，臨床的見地から有用な基準ではなかった。そのうえ，喀血患者の死亡率はその喀血量だけでなく，出血の速度，気道から血液を排出する力，肺の基礎疾患や心肺の予備力に大きく左右される^1）。そこで近年は，気道閉塞，酸素化・換気障害，血行動態の悪化などから心肺機能障害を引き起こすあらゆる量の喀血を「生命を脅かす喀血」と定義する方向へ移行しつつある^2〜5）。喀血患者に対応する救急医には，喀血量に固執せず，より生理学的な異常を早期に認識し対応することが求められる。

【コラム3】挿管をめぐる本当にあった怖い話—あの光景は今も忘れられない… 許　敬高 , 山内　素直 2巻6号 , 2025年3月 , pp.972-974

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ある程度経験を積めば，誰もが気道管理に慣れて自信がもてるようになる。しかし自信がついてきた頃にこそ，失敗を犯しやすいともいわれる。おそらく百戦錬磨の救急医でも，挿管などで痛い思いや辛い経験をしたことがあるだろう。本稿では筆者の“しくじり”を振り返り，改めて気道管理の重要性と恐ろしさを共有したい。「いくつになっても“正しく怖がる”」という姿勢の大切さを再認識してもらえたら幸いである。

【コラム4】DAMにおける最後の砦—ECMOはどんなときに，どんなふうに導入する？清水　剛治 2巻6号 , 2025年3月 , pp.976-979

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DAM^＊1において戦略を立てて挑むこと，チームとしてのアプローチ，種々の手技に習熟することの重要性はいうまでもない。一方で，本稿の読者はDAMの手段としてECMO^＊2，特にVV ECMO（venovenous ECMO）導入を即座に自信をもって判断できるだろうか？　かくいう筆者自身も，DAM症例でECMO導入を判断するとなれば冷や汗をかくことは間違いない。ECMOは，DAMの場面において文字どおり最後の砦となりうる強力な補助手段である。冷や汗をかきながらでも最後の砦として患者を守れるよう，救急・集中治療医はその判断・手技について十分に理解しておく必要があろう。

連載　いつだってストラテジックにゆこう・第7回

医療という世界で許される？「勘」の存在意義渡瀬　剛人 2巻6号 , 2025年3月 , pp.983-985

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仲のいい救急医X先生と飲んでいて，興味深い話題になりました。

　飲んだその日の彼は直明けで，当直中に診た患者の話をしてくれました。バーコードを自分の額に描いてくる一風変わった頻回受診患者が，いつもの主訴で受診しました。それまでその患者を診てきたほかの医師たちは，「いつもの症状」なので検査をせずに帰宅させていました。

連載　中毒事件簿・File 7

船内での大量無差別テロ？突然バタバタと人が倒れる！一体何が？千葉　拓世 2巻6号 , 2025年3月 , pp.986-989

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クルーズ船内で人がバタバタ倒れていく

今回は少し昔の話になりますが，2005年に遡ります。ロサンゼルス港に停泊していたクルーズ船での出来事で，舞台となったのはバハマ船籍のMonarch of the Seaという名の大型船（乗客定員2,744人）です。

　2005年9月2日の午前9時00分，エンジンルームのスタッフが，配管トンネルの中で2人のクルーが倒れているのを発見します。すぐに船内の救急通報Alpha-Emergency（通常の医療支援を求めるシステム）を起動して，医療チームが要請されました。最初の発見者を含む3人が救助のために配管トンネルに入りますが，そこで倒れてしまいます。

連載　裏庭でソロキャンプ・第7回

今回はキャンプサイトから東　秀律 2巻6号 , 2025年3月 , pp.991-993

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外に出て季節の移ろいを感じよう

日本の陰暦には春夏秋冬をさらに6つずつ、合計24の節に分けた二十四節気という季節区分がある。夏から秋にかけては、夏至、小暑、大暑、立秋、処暑、白露、秋分、寒露と続く。この二十四節気をさらに5日ずつに分けた七十二候では、気象や動植物の変化を表現している。

　いまこの原稿を書いているのは、ちょうど秋分の蟄虫坏戸（むしかくれてとをふさぐ）の候で、活動していた蛇や虫たちが冬ごもりを始める。網戸を開けても蚊が入らず、通勤路でキンモクセイの匂いを浴びるのもこの頃だ。旬の梨、松茸、鯖が楽しみな季節でもある。

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目次 2巻6号 , 2025年3月

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Book Review　研修医・当直医のための救急画像読影ガイド—危機的な所見を見逃さないために佐藤　朝之 2巻6号 , 2025年3月 , pp.980

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休刊のご挨拶 2巻6号 , 2025年3月 , pp.995

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編集部だより 2巻6号 , 2025年3月 , pp.996

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基本情報

BeyondER
2巻6号
(2025年3月発行)

電子版ISSN：2758-7053 印刷版ISSN：2758-3597 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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第3位扉佐藤信宏,山上浩 BeyondER 2巻 6号 pp. 805 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第4位 1．短時間でポイントを押さえる病歴聴取・身体診察のしかた—検査よりも早道となる腹痛初療の真髄とは上田剛士 BeyondER 2巻 6号 pp. 806-814 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第5位 2．わかっていても見落とすcommonな疾患—代表的な腹部緊急疾患に潜むピットフォール山本祥寛,山本基佳 BeyondER 2巻 6号 pp. 816-824 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第6位 5．急性腹症CT読影の必須ポイント—腸閉塞やピットフォールを中心に木口貴雄 BeyondER 2巻 6号 pp. 850-859 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第7位 6．肥満患者が来た！—その特殊性をふまえて挿管に立ち向かう白髭知之 BeyondER 2巻 6号 pp. 950-954 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第8位 1．気道管理の基本知識を確認しておこう—正確なパフォーマンスをしっかりと発揮するには飯尾純一郎 BeyondER 2巻 6号 pp. 892-904 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第9位【コラム1】気道管理における教育とリサーチの未来—課題をどう乗り越えるか，将来にどうコミットするか髙橋仁 BeyondER 2巻 6号 pp. 936-939 (2025年3月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル
第10位 5．脳出血とくも膜下出血の急性期治療方針—一手先を読んで専門家につなげよう松本佳之 BeyondER 2巻 5号 pp. 722-731 (2024年11月25日) メディカル・サイエンス・インターナショナル

BeyondER 2巻6号 (2025年3月発行)

巻頭対談 歴史に学び，他者に学び，先を読む

特集1 救急医療のリベラルアーツ 各国の社会事情に向き合う救急医

特集2❶ ERスタンダード 急性腹症—それでも見逃す腹痛のワナ

特集2❷ ERスタンダード 気道管理—自信がついてきた頃が一番コワイ！