特集1 救急医療のリベラルアーツ 各国の社会事情に向き合う救急医
2.薬物中毒対策に挑む国:米国Opioid Crisisとは? 克服への取り組み
千葉 拓世
1
Takuyo CHIBA
1
1国際医療福祉大学医学部 救急医学講座
pp.788-793
発行日 2025年3月25日
Published Date 2025/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.275835970020060788
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
日本では薬物中毒死といっても,あまりピンとこない救急医が多いのではないだろうか。日本の救急外来でよく遭遇する薬物中毒といえば,睡眠薬過量服用や若年者の市販薬中毒であり,なかには重症患者もいるが,連日瀕死の患者が救急外来に押し寄せる状況ではない。
それと比較すると,米国はかなり状況が異なっており,医療従事者のなかでも薬物中毒死に対する危機感は強い。ただし,救急でも薬物中毒に正面から取り組もう,という雰囲気が濃厚になってきたのはさほど古いことではない。筆者自身,オピオイドによる中毒死が次第に増えてきた2010年代の米国で臨床をし,臨床中毒学という分野に身を置いたが,この10年ほどの間に状況が大きく変わってきた印象を受ける。
本稿では,米国における薬物中毒死を取り巻く状況,救急の臨床現場での動き,そして救急医がERの外で中毒死を減らすためにどのような活動をしているかを紹介する。ただし,現時点で筆者は,米国でのこうした活動に直接関わっているわけではないので,あくまで外部からの観察であることを最初に申し添えておく。

Copyright © 2025, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.