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1.抗TNF-α抗体製剤の登場とそれ以後の動向 炎症性腸疾患(IBD)は本邦において増加の一途をたどり,すでに潰瘍性大腸炎(UC),クローン病(CD)の両疾患で25 万人程度と推定されており,とくにUC は20 万人を超え米国に次ぎ世界第2 位となって久しい.そのなかで,IBD の治療も大きく変貌を遂げた.そのきっかけは1993 年にオランダでの少女のCD 症例に対する抗tumornecrosis factor(TNF)-α抗体製剤の著効例の報告1)からであった.その後同製剤は大規模臨床試験を経て,CD2),UC3)をはじめ関節リウマチや強直性脊椎炎,ベーチェット病,乾癬,最近では川崎病へと適応を拡大している.抗TNF-α抗体製剤の功績はCD での劇的な有効性にとどまらない.それまでIBD の治療目標は臨床的寛解であったわけであるが,炎症そのものをコントロールできるようになったことで,少なくない症例で粘膜治癒が得られるようになった.そして,それをきっかけにIBD の疾患概念そのものが変化してきたのである.とくにCD においては臨床的に寛解であっても炎症が持続することで腸管の狭窄を生じ,それが瘻孔形成,さらに膿瘍形成に至る.腸管合併症に対しては外科的な腸管切除が必要になるが,術後も活動性のコントロールが十分でなければさらなる腸管切除を要し,機能障害に陥る.このように臨床症状は再燃寛解をくり返すように見えても,疾患自体は器質的障害から機能障害につながる慢性進行性の疾患であるという概念4)が定着したのである.また,UC 長期経過例で問題となるcolitis associated colorectal cancer は炎症の持続により発生する炎症性発癌であり,その意味ではUC も進行性疾患と捉えることができる.疾患の進行を抑制するためには適切な時期での適切な治療介入が必須となる.治療の最適化のためには疾患活動性を正確に評価する必要があり,MRE や腸管エコー,カプセル内視鏡など新たなモダリティーが数多く開発されてきた.このように,この15 年は抗TNF-α抗体製剤の登場とともに,疾患概念の変化,治療目標の高度化,そのための画像モダリティーの開発と,IBD 診療は激変を経たのである.
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