臨牀透析 36巻12号 (2020年11月)

特集 慢性腎臓病・透析患者の酸化ストレス―最新知見と治療展開

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1969年,Fridovichらは生体内にスーパーオキシドを消去する不均化酵素(superoxide dismutase;SOD)が存在することを報告し,生体が酸素由来フリーラジカルを制御する機構を備えていることが見出された.これにより生体内における傷害性のあるラジカルの発生およびその防護系の破綻が病態や疾病に繫がるという概念が生まれ,1985年にSiesにより「酸化ストレス(oxidative stress)」という用語が提唱された).当初酸化ストレスは“a disturbance in the prooxidant―antioxidant balance in favor of the former”と定義された.その後活性酸素種(ROS)は単に傷害的に働くのではなくそれ自体がシグナルとして働くことや, Nrf2/Keap1系に代表される分子レベルでの抗酸化応答系の解明,などにより何度か修飾が繰り返されているが,生体内のレドックスバランスの破綻,という基本概念は一貫している.

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慢性腎不全患者は,腎不全の進展悪化やさまざまな合併症(透析アミロイドーシス,心血管合併症や悪性腫瘍など)の発症,並びに生命予後に直結する酸化ストレスに曝露されている.その対策として抗酸化療法が実施されてきているが,その効果は十分とはいえない.その理由として,活性酸素/窒素種の負の側面が強調され,生命活動に必須の側面とのバランスに配慮した研究デザインが行われていないことも一因である.今後は個々人の状態を勘案した総括的な研究が望まれる.

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腹膜透析(PD)患者の生体レドックス環境は,健常人に比べて酸化ストレスが亢進しており,生体内の還元酵素も減少している.PD患者の酸化ストレスの増加は,PD液が腹膜と接触することにより発生する活性酸素の影響を大きく受けると考えられている.一方,PD患者は残存腎機能が保たれている場合が多く,生体内では過剰な酸化ストレスを軽減させる方向に作用する.一般的には,血液透析(HD)患者に比べて,生体内の酸化ストレスは低下していると考えられているが,過剰な酸化ストレスは合併症の発症や生命予後に関連するとした報告も多い.生体適合性のより高いPD液の開発が期待される.

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老廃物の蓄積やそれに伴う代謝異常により,多くの酸化ストレスに曝露される状態にある末期腎不全患者において,腎移植は腎機能回復によりさまざまな代謝異常の改善や酸化ストレスの減少が期待できる治療法で,現時点で腎代替療法のなかでもっとも優れていると考えられる.しかし,腎移植施行時には,移植術中の虚血再灌流や移植後の免疫抑制薬の服薬は不可避であり,その結果生じる酸化ストレスの曝露は避けられない.この酸化ストレスの曝露は移植腎機能予後に大きく影響すると考えられており,腎移植に関連して発生する酸化ストレスを正確に理解,対処し,その発生をコントロールすることは移植腎機能を保持していくうえで非常に重要である.

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慢性腎臓病(CKD)は緩徐に進行する腎機能低下であり,腎臓濾過量低下と尿蛋白陽性がその診断基準である.CKDは糖尿病性腎症,高血圧性腎症,急性腎障害などを背景として発症し,その病態形成・進行には酸化ストレスや慢性炎症が深く関わっている.Nrf2(NF―E2―related factor 2)は後生動物にみられる塩基性―ロイシンジッパー(bZip)型の転写因子で親電子性物質の解毒代謝,酸化ストレス防御,炎症制御に重要な役割を果たす.Nrf2活性化薬であるバルドキソロンメチル(BARD/RTA402)はCKDの病態修飾薬として現在臨床試験が進行中である.本稿ではCKDにおけるNrf2経路の役割について概説する.

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一酸化窒素(NO)は血管拡張作用,血小板接着・凝集の阻害,白血球の内皮接着阻害作用,血管平滑筋細胞の増殖抑制など多面的に血管内皮機能に携わっていることが示されている.NOはeNOS(endothelial nitric oxide synthase)によって産生されるが,腎不全患者においてはNOSの阻害物質であるADMA(asymmetric dimethylarginine)が上昇しており,これがNO産生障害を介して心血管疾患に寄与していることが示唆されている.透析患者においてはADMA高値が死亡や心血管イベントの予測因子であることがすでに示されている.ADMAが透析により除去可能かについては統一した見解が得られていない.腎不全においては酸化ストレス亢進に伴いeNOSアンカップリングがみられ,これも腎障害の進展や心血管疾患発症に寄与する可能性がある.

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終末糖化産物(AGEs)の蓄積は,慢性腎臓病の罹病期間に応じて増加する.本疾患の蓄積要因として,①酸化ストレスの上昇,②腎臓クリアランスの低下が考えられる.とくにメチルグリオキサール(MG)由来のAGEsは腎機能の低下とともに蓄積し,MGの解毒酵素であるglyoxalase 1の発現量は腎臓クリアランスと相関するなど,AGEsが腎機能のマーカーとなる可能性が数多く報告されている.しかし,AGEs量の正確な評価には質量分析装置や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法などの機器分析が必須であり,医療現場に導入するのは困難である.簡便かつ正確な定量方法が普及すれば,より明確なAGEs蓄積による病態発症への機序が解明されるかもしれない.

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腸内細菌叢という側面からの慢性腎臓病(CKD)の病態解明および治療法の開発が期待されている.CKDとくに維持透析患者では腸内細菌叢が変化している.インドキシル硫酸,p―クレシル硫酸といった酸化ストレスを惹起する尿毒素は腸内細菌叢代謝によって産生される.また,腸内細菌叢由来尿毒素であるフェニル硫酸は糖尿病性腎臓病の予後予測マーカーともなる.腸内細菌叢の有無は,キサンチンオキシドレダクターゼなどの酸化ストレス制御に関与する分子の発現量にも影響している.このように腸内細菌叢はCKDの酸化ストレス病態に寄与しており,腸内細菌叢への介入がCKDの治療標的になる可能性がある.

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キサンチンオキシダーゼ(XO)は尿酸産生酵素・キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)のアイソフォームの一つであり,乳汁分泌など哺乳類特有の機能に関与すると考えられている.もう一つのアイソフォームであるキサンチンデヒドロゲナーゼとは異なり,XOは化学反応に際してスーパーオキシドなどの活性酸素を産生するため,臓器障害との関連が憂慮される.CKD患者に対するXOR阻害薬の投与によって心血管イベント発症リスクは抑制される可能性があるが,その機序は血清尿酸値の降下とは独立した血管内皮におけるXO活性の直接抑制であると考えられる.

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慢性腎臓病(CKD)は,活性酸素種の産生が亢進し,抗酸化作用の低下が認められ,慢性的な酸化ストレス亢進状態となっている.運動は,酸化ストレスを増加させるが,適切な運動は活性酸素種生成を減弱させ,酸化ストレス耐性を上昇させる.透析患者や保存期慢性腎不全患者において,急性運動は酸化ストレスマーカーを増加させる一方で,長期にわたる適度な運動は,酸化ストレスマーカーが減少することが示唆されている.透析患者や保存期CKD患者に対して適切な運動療法を実施することは,全身の酸化ストレスを改善し,身体機能や運動耐容能の維持・改善につながる.

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透析は腎細胞癌のリスクであり,囊胞性変化に伴うものと終末期腎に伴うものがある.慢性腎障害に伴う腎性貧血もよく臨床的な問題となるが,これはエリスロポエチン産生不全に伴い鉄過剰を誘導する鉄代謝の異常があることを意味する.筆者らは1980年代から過剰鉄と腎癌の関係を動物モデルで考究してきた.鉄ニトリロ三酢酸という中性で可溶性かつ触媒性を保有する低分子鉄を雄ラットに投与すると,近位尿細管特異的な酸化ストレスを誘発し,その反復投与によりほぼ全例で転移まで起こす高悪性度腎細胞癌を発症する.高率にp16Ink4aがん抑制遺伝子の不活化が観察されるが,これは発がん自体が鉄依存性を維持しながらフェロトーシス抵抗性を獲得する過程であることを示唆する.

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サルコペニア・フレイルの成立には酸化ストレスが関与する.CKD患者の骨格筋細胞においても,酸化ストレスや炎症が亢進しており,ミトコンドリアの機能異常から身体機能の低下,ひいてはサルコペニア(身体的フレイル)に関与することが推定されている.有酸素/レジスタンス運動は,酸化ストレスマーカーを改善させることから,定期的な運動は酸化ストレスの軽減を介してサルコペニアを改善する可能性がある.一方,食事中の抗酸化物質摂取量とサルコペニア・フレイルの関連は明らかでない.同様に,動物実験ではグレリンの皮下投与や経口吸着薬AST―120は骨格筋内の酸化ストレスを軽減するが,CKD患者における薬物療法の有用性は明らかでない.今後は,サルコペニア・フレイルの早期の段階から上昇し,患者予後の予測としても有用な新規の酸化ストレスマーカーの解明が進み,臨床応用されることを期待したい.

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CKD―MBDは透析患者の予後に大きく影響する病態である.この病態形成には活性型ビタミンDやリンなどさまざまな液性因子の変化が関与する.これらの因子は活性酸素種の発生または消去に関する機能を有するため,量的平衡の破綻により酸化ストレスが亢進した状態が形成され,標的臓器である血管や骨などに障害が発生する.酸化ストレスの視点から病態形成因子のそれぞれの特徴や治療との関連を知ることは,CKD―MBDのマネージメントに有用となるであろう.

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慢性腎臓病(CKD)では,尿毒素蓄積やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系亢進などさまざまな病態から酸化ストレスが亢進している.CKD患者に使用される活性炭吸着薬,降圧薬,ビタミンD製剤,尿酸降下薬,腎性貧血治療薬にはおおむね抗酸化作用がある.一方,利尿薬の一部,鉄剤などは酸化ストレスを亢進させる薬剤機序をもつ.これらの点を踏まえて薬剤処方をすることが肝要である.

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急性腎障害(AKI)は多発性障害によって引き起こされ,AKI患者の罹患率と死亡率は,近年の疾患管理の大幅な進歩にもかかわらず,高い水準を維持している.過剰に産生する活性酸素種(ROS)が不可逆的な損傷の一つの有用なメカニズムとなっており,これは,プロアポトーシスメディエーター,炎症性サイトカイン,およびさらなる酸化ストレスの刺激につながっている.抗酸化物質を使用した治療法は多くの注目を集めており,臨床的に広く試みられているものの,十分な効果が得られていないのが現状である.従来の抗酸化薬は,代謝がきわめて速いことに加え,正常細胞内に入り込み,電子伝達系やシグナル伝達系に影響し,「mitohormosis」と呼ばれる細胞内レドックスホメオスターシスを破壊する.Bjelakovicらは2007年,これまで発表されてきた385報の論文から68件のランダム化比較試験を調査し,23万人以上の臨床試験データから抗酸化薬に対して次の結果をまとめている.

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電解水透析は分子状水素(H2)を含む透析液を用いて行う血液透析(hemodialysis;HD)および腹膜透析(peritoneal dialysis;PD)のことを指し,2006年にH2が生物学的に抗炎症作用,抗酸化ストレス作用を有することが示されてから,H2含有透析液を用いたHDならびにPDを対象とした臨床研究における有効性が相次いで報告された.

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腎疾患と酸化ストレス 平山 暁
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酸化ストレスとは:「酸化ストレス」という用語は1985年にSiesにより「酸化抗酸化の平衡が酸化側に傾いた病態」と定義された.その後いくつかの変遷があり,現在では「電子移動を伴う酸化反応により生体に与えられる刺激,シグナル」全般を指す.

目次

お詫びと訂正・前号ご案内

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

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先日,日本内科学会の企画する内科救急・ICLS講習会(JMECC)を開催した.当日の指導要領には,「エピネフリン・ボスミン」は「アドレナリン」に統一するようにと記載されている.ある受講者に,「アドレナリンとエピネフリンの違いは?」と尋ねられた.講習会の終了後に,この疑問に熱く答えた.以前から,大学講義で「透析療法」を担当している.最初に,透析療法の歴史について概説する.情報の多くは,「透析療法の歴史―先人達の軌跡をたどって」を参考にさせていただいている.透析の創生期に登場するJohn Jacob Abelは,「1913年に世界で最初の人工腎臓を開発した」と,記述されていたので,Abelの名前は記憶していた.

基本情報

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臨牀透析
36巻12号 (2020年11月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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