臨床雑誌外科 81巻1号 (2019年1月)

特集 スキルス胃癌のすべて

I. 基礎

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一般的にスキルス胃癌は,肉眼的に「びまん浸潤型(4型)胃癌」や「linitis plastica胃癌」と呼ばれる.組織学的には豊富な線維性間質を伴い,粘膜成分から低分化腺癌である「純粋低分化型」と,粘膜成分は腺管を形成する分化型腺癌で浸潤するにつれて低分化腺癌になる「腺管混合型」の二つの組織型に大別され,それぞれ「純粋低分化型」は胃体部優位の壁硬化に,「腺管混合型」は幽門前庭部優位の壁硬化に関連すると考えられる.

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胃癌に対する網羅的なゲノミクス解析がいくつかのグループによって報告されており,ゲノミクスからみた胃癌のサブグループが明らかになってきた.スキルス胃癌/びまん型胃癌では,従来から知られるE-cadherinの変異に加えてRHOA遺伝子に特徴的なゲノム異常の存在が明らかになり,若年発症や腹膜播種のめだつ「いわゆるスキルス胃癌」も含めて一つの生物学的サブグループととらえられることがわかってきた.最近では,胃癌オルガノイドを用いた研究によって,そのようなゲノム異常との関連を含めてスキルス胃癌の発生過程における新しい分子機構がみえるようになってきたので紹介したい.またゲノム解析を用いたスキルス胃癌における腫瘍免疫環境の研究についても紹介し,癌免疫療法との関連性について論じたい.

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スキルス胃癌は高頻度に腹膜に転移する.転移形式は癌細胞が原発巣から腹腔内に遊離し,腹膜に接着,浸潤増殖する播種性の転移が主である.スキルス胃癌の腹膜転移には,細胞間接着分子の発現低下,癌周囲微小環境の線維芽細胞や低酸素,TGFβ,CXCL1,FGF7,HGFなどの増殖因子が関与する.スキルス胃癌に特化した分子標的治療薬はないが,増殖浸潤機序に基づいたシグナル阻害薬や線維芽細胞抑制薬などの有望な分子標的阻害薬が開発中である.

II. 臨床〈診断〉

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スキルス胃癌の特徴は広範な癌浸潤とそれに伴う線維増生,および原発巣の潰瘍形成である.これらの特徴を念頭に内視鏡診断では,①粘膜ひだの異常(腫大・蛇行・横走ひだの出現),②胃壁の肥厚と硬化,③びらん・潰瘍形成の三つの所見に注目することが重要である.本稿ではスキルス胃癌を,胃底腺粘膜から発生するlinitis plastica型胃癌と幽門腺粘膜から発生するスキルス胃癌に二分類し,内視鏡診断の要点を述べた.

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胃底腺粘膜から発生し深部胃壁をびまん性に進展するスキルス胃癌,いわゆるlinitis plastica型胃癌のX線診断では,原発巣の同定と癌の広がり診断が肝要となる.本癌では原発巣に近いほど正常像との形態的なかけ離れの程度が大きく,原発巣から離れるほどかけ離れの程度は小さい.具体的には,胃壁の線維性収縮と硬化性変化に由来する陰影欠損やひだ異常などの凹凸像と粘膜面の模様像に着目するとよい.

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胃癌においては,腹膜播種の有無により治療方針や予後が大きく異なる.特に大型3型/4型胃癌は,腹膜播種をきたしやすく,より正確な腹膜播種診断が求められるが,現在においても画像診断による腹膜播種診断の精度は高くない.審査腹腔鏡は,低侵襲下に,より正確な腹膜播種診断が可能である.切除可能な大型3型/4型胃癌を対象とした日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)0501試験では,術前化学療法の優越性は証明されなかったが,3年全生存率,無増悪生存率ともに過去の報告よりも良好な成績であった.本試験では審査腹腔鏡にて腹膜播種の除外診断が登録前に行われており,治療前の正確な腹膜播種診断が重要と考えられることから,大型3型/4型胃癌は審査腹腔鏡のよい適応である.また,日常診療のみならず,大型3型/4型胃癌の成績向上をめざした治療開発においても,腹膜播種診断における審査腹腔鏡は引き続き重要であると考えられる.一方,審査腹腔鏡の課題として偽陰性の問題があげられ,審査腹腔鏡の腹膜播種診断能をさらに向上させる今後の技術進歩と知見蓄積に期待したい.

III. 臨床〈治療〉

1.スキルス胃癌の手術 藪崎 裕
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スキルス胃癌の大部分は胃全摘術となり,脾摘を伴うD2郭清が標準術式である.手術に際しては,解剖学的層構造に基づいた術野の展開と確実なリンパ節郭清が重要であり,胃全摘+D2郭清術を安全に行える技術が必要となる.術後合併症は生存割合にも影響する因子であり,腹腔内感染性合併症には細心の注意を払う.

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スキルス胃癌は生物学的悪性度が高く根治切除術後においても再発率が高いため,治療成績向上のためには術前および術後に補助化学療法を行う必要がある.現状では術前化学療法の有効性を示したエビデンスはなく,D2リンパ節郭清を伴った胃切除術後に加え補助化学療法を行うことが標準治療と考えられる.今後,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬を用いた新たな補助療法の開発が期待されている.

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スキルス胃癌は高頻度に腹膜播種を合併する予後不良な疾患である.近年タキサン系薬剤(docetaxel,paclitaxel)を用いた腹腔内化学療法が腹腔内病変のコントロールに有効であることが示され,現在スキルス胃癌を多く含む4型胃癌に対する腹腔内化学療法の有効性を検証する試験が計画中である.本稿では,4型胃癌に対するこれまでの臨床試験の結果をわれわれの腹腔内化学療法の使用経験も含めて報告する.

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スキルス胃癌では,主に腹膜播種の進展によってさまざまな臓器において障害が引き起こされるが,ステント治療を内視鏡的インターベンションにより行うことで手術でなくとも緩和治療が可能となる.内視鏡的インターベンションの適応に際しては,手術とのすみ分けを考え,また施設において実施可能な手技を確認する必要があり,それらを把握したうえで患者の状況や希望なども考慮したうえで治療適応を判断する.

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スキルス胃癌は容易に腹膜播種などの遠隔転移をきたしやすくもっとも予後がわるい胃癌であり,外科治療,化学療法の発達した現在においてもその治療成績はきわめて不十分である.近年,免疫チェックポイント阻害薬の登場により,癌に対する免疫治療が注目されるようになってきた.免疫療法の一つであるペプチドワクチン療法はこれまでいくつかの癌腫で臨床試験が行われ,一部の症例に効果がみられることがわかってきた.今後,ネオアンチゲンを利用した新たなワクチン療法が,スキルス胃癌に対する治療法の一翼を担う可能性がある.

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2004年4月1日から新臨床研修制度(スーパーローテート)がスタートした.この制度の本来の目的はプライマリケアを中心とした幅広い診療能力の習得であり,それまでのように卒業後にそのまま専門診療科を選択し,各大学病院の医局に入局するのではなく,2年間臨床研修制度に定められた病院において各診療科で幅広く臨床研修を受けることを義務化するとともに,適正な給与の支給と研修中のアルバイトの禁止が定められたものである.

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急性虫垂炎は日常診療においてもっとも頻度の高い急性腹症の一つであり,治療は手術が標準とされる1,2).しかし,近年は抗菌薬の進歩もあり,臨床症状や検査所見から保存的治療を選択することが増加している3,4).一方それに伴い,保存的治療が奏効した場合でも,比較的早期に急性虫垂炎が再燃する症例も増加している2,5,6).今回,当院で急性虫垂炎に対し保存的治療を選択した症例を後方視的に調査し,急性虫垂炎再燃の予測因子について検討した.

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はじめに 近年,診断・治療の進歩によりstageⅣ胃癌の予後は改善してきているものの,5年生存率はいまだ7.2%と低い1).転移性膵腫瘍はまれであるが,孤立性転移であれば切除することで長期予後が得られるという報告がある2~4).今回われわれは,腹膜転移を有するStageⅣ胃癌に対し,術後化学療法中にきたした膵転移を切除することで長期予後が得られた症例を経験したので報告する.

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はじめに 絞扼性腸閉塞は,術後癒着を基盤に発症することが多く,日常しばしば経験する急性腹症の一つであるが1),虫垂自体が癒着をきたし,絞扼帯となって腸閉塞をきたすことはまれである.小腸への虫垂先端の癒着に起因したまれな絞扼性腸閉塞症例に対する,緊急での腹腔鏡による診断・手術経験を報告する.

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はじめに 肝内胆管癌(ICC)は切除可能症例でも切除後の再発率は高く,いまだに予後不良な疾患とされている.今回,高度脈管侵襲を伴いながらも外科的切除後に補助化学療法を施行することで長期無再発を得,肝外再発後も再切除を行った症例を経験したので報告する.

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はじめに 本邦の高齢化は年々すすんでいるが,外科手技・周術期管理の進歩に伴って高齢者に対する手術適応も近年拡大されつつある.今回,108歳という検索しうる限り本邦最高齢の開腹手術の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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はじめに 膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor:pNET)は全膵腫瘍の1~2%とされる比較的まれな疾患である.そのうち非機能性膵神経内分泌腫瘍は47.6%を占め1),臨床的には遠隔転移をきたす可能性をもった潜在的悪性腫瘍と考えるべきで2),治療の基本は外科的切除である.今回,2年間の経過観察中,腫瘍径の変化は認めないもののCT上の造影効果が増強した微小な非機能性pNETに対し,EUS-FNAにより術前に確定診断を得た1例を経験したので,治療前に診断しえた本邦報告例の検討とともに文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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臨床雑誌外科
81巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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