糖尿病診療マスター 4巻5号 (2006年7月)

特集 患者さんに上手に説明するための17の秘訣

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 2型糖尿病患者が通院中断し,高血糖放置後合併症が進行してから医療機関を訪れることをしばしば経験する.初診時の病態説明は,患者を医療機関につなぎ止めておけるかを大きく左右するポイントの一つであろう.患者は説教されたくて病院に来るのではなく,助けや安心を求めている.特に糖尿病と新たに診断された患者の多くは,心に負担を抱えているので,「糖尿病はこんなに怖い病気だ」という論調のみでなく,「こうしていけば糖尿病は怖くない」という方向に話を持って行くことが大切と考える.

 ここでは,新たに2型糖尿病と診断された患者の心理負担を考慮し,患者がポジティブマインドで病気に向き合えるような説明を目指したい.

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診断の根拠は

臨床症状

 1型糖尿病の患者さんが外来を受診する動機で最も一般的なのは口渇,多飲,多尿などの自覚症状.その他,学校検診での尿糖指摘,他疾患から偶然発見などがある.

高血糖

 糖尿病の診断が確定される.ただし,1型か2型かは血糖値だけでは困難.

1型か2型か

 臨床経過とインスリン分泌(血中IRI,血・尿中CPR)それに膵島関連自己抗体(GAD抗体,IA-2抗体,インスリン自己抗体など)などを検索し判定する.

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慢性高血糖の存在を患者さんに自覚してもらうためには

血糖値やHbA1Cに関心をもたせる必要がある

 当院では自己管理の手段として,体重測定とともに食後2時間目の尿糖自己測定や必要に応じて血糖自己測定(SMBG)を勧めている.その結果を自己管理ノート(Box 2)に記入してもらい,受診の都度に持参してもらう.そのデータを糖尿病療養指導士が患者とともに評価し,QOLを考慮しつつ目標設定を行い,行動修正に結びつけている.このようにして受診時検査だけでは把握できない患者さんの日常を知って治療に生かす努力をしている.

 HbA1Cに関しては,なかなか意味を理解してもらえないので,坂根直樹先生のテキストの「HbA1Cの説明法」の図2)(前ページの下の図)を活用している.具体的にはHbA1C 9%は39℃の発熱に匹敵する病状であること,6.5%未満すなわち36.5℃に下げることが合併症予防につながることをわかりやすく説明できる有用なツールである.自身のHbA1Cと目標値とのへだたりを視覚的に,日常的な例えで示されると認識が深まるので,ここで次なる介入が可能になる.またHbA1Cの1年間の推移をグラフにして示すとどの季節に問題があるかが手にとるようにわかるのでさらなる介入のきっかけになる.

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糖尿病の治療についてどのように説明しますか

 日々の診療において気をつけないと,つい血糖値だけを見て治療をしてしまいがちとなるので注意が必要である.常に慢性合併症の予防のために治療しているということを忘れずに診療しなければならない(周術期の血糖管理や慢性合併症の予防よりも急性代謝障害の予防が目的になるような高齢発症の糖尿病など例外はあるが).慢性合併症の危険因子は何も不良な血糖管理だけではない.脂肪肝・内臓脂肪蓄積や高血圧や高脂血症などもこれに含まれる1).よって血糖値だけにとらわれず,様々な代謝異常に気を配りつつ,しっかり合併症の状態のチェックを定期的に行わなければならない.

糖尿病は治るのか,いったん数値が良くなったらもう良いのか

 これは特に糖尿病と診断されてから日が浅い患者からよく受ける質問である.あくまで2型糖尿病の患者の場合においてであるが,筆者は,

 「治ることはないですが,治ったのと同じ状態にしておくことは可能です.一生上手に付き合っていくことが大事です」

と説明している.健康診断で診断された場合など比較的糖尿病歴が短い患者に生活習慣の介入を行うと,NGT(normal glucose tolerance,正常型)となってしまうということはよく経験する.では,NGTになったから治ったのかというと,そうではなく,生活習慣が元に戻るととたんに血糖値が上がってきてしまうわけである.血糖管理状態というものは非常に変動しうるものであり,どんなに血糖管理が不良であっても数カ月後にはNGTまで改善していることもあれば,逆に血糖管理が良好だったのに,数カ月後には非常に血糖管理が不良となっていることもある.筆者はこれを説明するのに前ページの下の図を用いている.これは,NGTが水面下,IGT(impaired glucose tolerance,境界型)が水面,糖尿病が水面上で血糖管理が悪いほど水面より高い位置に例えている.良い生活習慣をしていれば位置を下げることができ,悪い生活習慣をしていると位置が上がってしまう.

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 糖尿病の食事療法は,すべての糖尿病患者が実施すべき治療の基本である.それは,全身に及ぶ糖尿病血管合併症を予防することを目的としているからである.糖毒性や食後の過血糖が上記の血管合併症を増悪させていることは本特集の中で詳細に述べられている.

食事療法の意義は

 1型糖尿病では,インスリンの絶対的不足を補うのがインスリン頻回注射であるが,同時に並行して食事療法は治療の基本となる.

 2型糖尿病でのインスリン作用不足は,インスリンの初期分泌低下2)やインスリン抵抗性であるが,その改善には食事療法が極めて有効である.

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運動療法の効果は

 適正な食事療法を行いながら運動を継続すると内臓脂肪が減少し,インスリン抵抗性に関与するTNF-α,遊離脂肪酸,レプチンなどの脂肪組織由来生理活性物質が減少し,一方,インスリン抵抗性改善作用や抗動脈硬化作用を有するアディポネクチンは増加する.また,運動により筋肉収縮のエネルギー源はATPであり,ATPからADP,AMPになる時のエネルギーを利用する.AMPの増加によりAMPキナーゼが活性化され,糖輸送蛋白(GLUT-4)を細胞表面に移動させることで,糖の取り込みが増加する.また,運動により肝臓への遊離脂肪酸の流入量が減少,中性脂肪合成の抑制と,中性脂肪分解の亢進が起こる.HDL-コレステロールは増加し,これも動脈硬化の進展に抑制的となる.

 運動療法はストレス解消や心肺機能の改善,体力の向上など,日常活動が楽になり,QOLの改善をもたらす.

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なぜ飲み薬が必要なのですか

 糖尿病治療の目標は,QOLを維持しつつ血管合併症の発症,進展を阻止することである.そのための血糖コントロールの指標として,HbA1C,空腹時または食後血糖値を用いる1).治療の基本は食事療法と運動療法であり,薬物療法に先行あるいは並行して実施する.

 実際の治療における注意点と手順の詳細については,「糖尿病治療のエッセンス」2)が参考になる.治療方針の決定にあたっては血糖値,HbA1Cの他に,体重測定と検尿(ケトン体の有無)が必要である.インスリンの絶対適応の場合,また相対適応でも体重減少の著しい場合は,経口血糖降下薬は第一選択ではない.一般にHbA1Cが8%以上の場合は,経口血糖降下薬の適応と考えてよい.

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血糖をコントロールする3つの理由とは

 高血糖症状を来す頻度は高くないが,あるとインスリン導入の同意は得られやすい.高血糖が続くと膵臓のβ細胞からのインスリン分泌が低下する.これをブドウ糖毒性と呼んでいるが,これには2つのメカニズムがある.第1は「ブドウ糖不応性」で,血糖に対するインスリン分泌反応が低下するものである.これは高血糖を是正することによって回復する.第2は「狭義のブドウ糖毒性」で,インスリン生合成の低下とβ細胞数の減少を来す.経口血糖降下薬の二次無効例で認められる.2型糖尿病患者では年々インスリン分泌能が低下していくが(UKPDS,Box 1),ブドウ糖毒性の関与が考えられる1)

 したがって,不良な血糖コントロール(少なくともHbA1Cで8%以上)を放置せず,早くインスリン治療をすることによって,ブドウ糖毒性を解除することが,「自分のインスリン分泌を改善し,かけがえのない膵臓β細胞を守ることになる」.しかし,本人の努力に関わらず内因性インスリンが低下していくこともある.

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血糖自己測定(SMBG)はなぜ必要なのですか

 血糖のコントロールは患者の今後の合併症の進展に非常に重要であるが,血糖値が高くても症状がないことはいうまでもない.したがってまず自分の血糖コントロール状況に気付いてもらうことが一番である.コントロール状況に気付いて問題点を知って,行動を起こすことが良い血糖コントロールにつながるのである.血糖コントロールを知るための代表的な方法はHbA1Cであるが,月1度の病院での検査まで結果を待たなくてはならない.まして,毎日の食事や運動の結果が知りたい場合やそれに対して行動を起こしたり,インスリンの量を考えるためにはSMBGが非常に大事になってくる.薬物(インスリンのみならず経口血糖降下薬も)を使って治療中の方では自分の低血糖症状の把握のためにも重要である.

 教育入院や今まで血糖を測ったことがなくてその他の原因で入院され,実際に1日に何度か測定をした方は,食事や運動で血糖値が実際に下がることを実感されておられ血糖測定の必要性を体感されておられるので,インスリン治療をされない方でもSMBGを希望される方は少なくない.

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どのくらいで肥満なのですか

 肥満とは脂肪組織が過剰に蓄積された状態であり,糖尿病・高血圧・高脂血症・高尿酸血症・脂肪肝・冠動脈疾患・脳血管障害・月経異常・整形外科的疾患など健康障害を合併した場合には肥満症と定義される.肥満の診断はBMI25以上とされ,肥満に伴う健康障害が合併しやすいことが報告されている1,3).特に糖尿病ではBMI24程度よりリスクが存在し,発症相対危険度はBMI22以下に比べて約5倍とされる2)(Box 1).

肥満はいけないのですか

 肥満は脂肪組織の体内分布の違いにより,上半身肥満と下半身肥満に分けられる.特に上半身肥満は腹壁の皮下に脂肪が蓄積する皮下脂肪型肥満と,腹腔内の内臓脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満があり,後者は前者に比べて糖尿病・高血圧・高脂血症などの動脈硬化危険因子のリスクが高く,ハイリスク肥満と称される4).内臓脂肪型肥満の基準は,臍周囲径が男性85cm以上,女性90cm以上であり,臍レベルでのCT断面層において内臓脂肪面積が100cm2以上に相当する3)(Box 2).

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網膜症とは

 高血糖による血管内皮細胞や周囲細胞の障害に,血液凝固系の異常が加わって,網膜血管の閉塞性障害により発病する.網膜虚血や低酸素状態が続けば,血管新生促進因子が分泌され,増殖変化へと進行する.

臨床所見は

 「福田の分類」によると,その臨床像は単純網膜症(A0~5),増殖前および増殖網膜症(B1~5)に分類される.

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顕性腎症患者に正しい病識を持ってもらう工夫は

 患者に病識が乏しいということは,医療者と患者で現状認識に大きな隔たりがあり,医療者の説明が患者を素通りしている状態を意味する.蛋白尿があっても症状がなければ,患者は糖尿病発症初期と認識が変わっていない.患者にとって必要なのは普通人と変わらない生活を送れるのはあと何年かということなので,糖尿病人生の座標軸(前ページの下の図)を用い,早く有効な治療を開始しないと,自由のきく期間が短いことを知らせる.

「特効薬はなくとも回復した患者さんはおられます」という勇気のわく情報を上手に伝えるには

 効果があるのかないのかわからない治療の説明では,患者は前向きにはなれない.良い治療法がないなら,おいしいものをたくさん食べて太く短い人生でもいいとなり,民間療法に走ってしまうのも理解できる.しかし大規模臨床試験の成績がないだけで,有効な治療法がないと話すことは患者の改善の可能性を医療者が奪うことになる.無効であることを証明した成績もまたないのである.筆者はネフローゼから寛解(蛋白尿消失)した自験例などを話している1,2).医療スタッフがまずあきらめてはいけない.こちらがあきらめていては患者の気持ちは動かない.

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神経障害とはどんな病気ですか

 網膜症あるいは腎症に比して,神経障害が生命予後およびQOLに及ぼす影響は少ないと考えられる傾向にあるが,実際にはこれらへの影響は非常に大きいことが明らかとなっている.また,糖尿病患者が神経障害の合併を指摘された場合に最も不安に感じるのが,糖尿病性壊疽により足切断に至ることであろう.しかし,神経障害が糖尿病性壊疽に直結するわけではなく,外傷を受けたときに,神経障害による知覚鈍麻のため痛みを感じず,適切な処置を行わずに放置し,そこに感染が加わることによって初めて糖尿病性壊疽に進展する.患者に対しては,神経障害に対する恐怖感を煽ることなく細心の注意を払う必要のあることを指導すべきであろう.

神経障害の症状にはどんなものがありますか

 神経障害の代表的症状は前述のとおりであるが,糖尿病性神経障害以外にも様々な疾患によって類似の末梢神経障害が引き起こされる.その代表的なものがBox 1に示されている.これらの疾患をすべて除外して初めて糖尿病性神経障害の診断を下すことが可能となるが,糖尿病患者に高頻度に認められるものとして,下肢の閉塞性動脈硬化症,手根管症候群および変形性脊椎症があげられる.神経障害の自覚症状の分布について,教科書的には“手袋靴下型”と記載されているが,基本的には左右対称性に足の爪先または足底部から生じ,手から症状が出現することはない.自律神経障害による症状に関しては,患者が糖尿病に起因するものと思わず,見過ごされることが多いことから,詳細な問診を行う必要がある.自覚症状および理学所見をもとにした神経障害の診断基準(Box 2)が提唱されている.

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動脈硬化性疾患の意義は

 2005年の統計によると,日本人の三大死因は悪性新生物が30.1%,心疾患(心筋梗塞を含む)16.0%,脳血管疾患(脳梗塞を含む)12.3%である.従来は日本人には脳血管疾患が多く,心疾患は少なかったが,心疾患死亡が凌駕するようになった.糖尿病患者では特に心筋梗塞の発症が脳梗塞を上回るようになっている.胸部・腹部の大動脈瘤も動脈硬化性疾患の範疇に入る.網膜症による失明や腎症による腎不全など,糖尿病細小血管合併症による弊害も大きいが,足切断にも至る閉塞性動脈硬化症を含めた動脈硬化性疾患の発症は,さらに日常生活の活動性・QOLを大きく低下させて経済的負担を強いる.

動脈硬化性疾患の危険因子は

 ここでいう動脈硬化は粥状動脈硬化症であるが,生下時から始まって加齢とともに進行する.動脈硬化性疾患診療ガイドライン1)には,典型的な動脈硬化性疾患である冠動脈疾患の主要な危険因子として,高LDLコレステロール血症,低HDLコレステロール血症,加齢(男性≧45歳,女性≧55歳),糖尿病(耐糖能異常を含む),高血圧,喫煙,冠動脈疾患の家族歴があげられている(Box 1).これらの危険因子が重積すると,冠動脈疾患のリスクは指数関数的[2の冪(べき)乗倍]に増大する.その他の危険因子として,高トリグリセリド血症,Lp(a),レムナントリポ蛋白,ホモシステイン,small dense LDL,急性期炎症性蛋白(CRPなど),凝固系因子(t-PA,PAI,フィブリノーゲンなど)がある.内臓脂肪蓄積とともにこれらの危険因子を多数併せ持つのが,メタボリックシンドローム2)である.

糖尿病治療と低血糖 八幡 和明
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低血糖の病態生理は

 私たちの脳細胞は活動のエネルギーを100%ブドウ糖に依存しているので,血糖値の低下は脳にとってきわめて危険である.そのために生体には様々な防御システムが用意されている.内分泌系の反応では血糖値が80mg/dL付近まで低下するとまずインスリンの分泌が抑制される.70mg/dLくらいになるとグルカゴン,アドレナリンが分泌され,さらに60mg/dL以下になると成長ホルモン,コルチゾールなどが分泌されて血糖値を上げるように作用する(counter regulatory hormone).

 神経系の反応としてはneurogenic(自律神経系)とneuroglycopenicに分けられる.血糖値が70mg/dLくらいになると副交感神経が刺激され空腹感,あくびなどの症状が出る.50mg/dLまで低下したときの反応では交感神経系が動員され動悸,発汗,振戦などの症状が出現し警告を与える(warning sign).このときまでに適切な対処ができれば問題ないのだが,血糖値がさらに低下して50mg/dL以下になると中枢神経系の機能不全による頭痛,めまい,目のかすみなどの症状が出現し,さらには奇異行動,麻痺,けいれん,昏睡など危険な事態に陥ってしまう.ただしどのような症状が出るのかは個人差があり,人によって出やすい固有の症状がある.

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「シックデイ」の言葉の意味は

 高齢者などには耳慣れないので,「風邪などで具合が悪いとき,熱があり食べられないとき」と具体的に説明する.シックデイには,放出されるストレスホルモンや各種サイトカインによりインスリン抵抗性が増し,血糖値が上昇する.1型糖尿病では,ケトン産生の亢進・利用低下に糖質の摂取不足,さらにインスリン中断が加わると容易にケトアシドーシスとなる.また2型糖尿病でも,特に高齢者では高度の脱水から非ケトン性高浸透圧性昏睡(HONK)となり,生命に関わる事態となる.シックデイ時の患者の適切な対応が重要であり,かねてからの患者教育が必要である1).対処指導のポイントは,1)脱水対策 2)十分量の糖質の摂取 3)自己血糖測定 4)インスリン量調整の具体的指示 5)病院への連絡の5点である.

 患者の理解を確認しながら一緒に具体的な対処法を記入したシートを完成し持たせておく.高齢者や幼児では,家族への指導も必須である.

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メタボリックシンドロームの定義は

 元来,高血圧,耐糖能異常,脂質代謝異常,肥満,高インスリン血症(またはインスリン抵抗性)などの心血管病の危険因子は合併することが多く,1988年にReavenによりsyndrome Xのリスク集積症候群の概念が提唱された.しかしその後,インスリン抵抗性症候群や内臓脂肪症候群など,同じような概念がさまざまな呼称で提唱されたため,これを一つの疾患概念として統一する目的で,1999年にWHOがメタボリックシンドローム(MS)という名称とともに新たな定義を発表した.その後民族・地域ごとに診断基準が作成され,統一されたものはない.ここでは2005年にわが国のメタボリックシンドローム診断基準検討委員会1)によって作成された診断基準(日本基準)を用いて解説する.MSの日本基準では,立位で測定した臍周囲の腹囲が男性85cm以上,女性90cm以上の内臓肥満を必須とし,さらに,1)130/85mmHg以上の高血圧,2)空腹時血糖値110mg/dL以上の高血糖,3)中性脂肪150mg/dLまたはHDLコレステロール40mg/dL未満のいずれかを満たす脂質代謝異常の3項目のうち2つ以上該当する場合にMSと診断する(Box 1).

MSがもたらす悪影響は

 MSが心血管病に与える影響を明らかにするために,1988年に福岡県久山町の循環器健診を受診した40歳以上の住民2,452名を14年間追跡した成績を用いて,MSと虚血性心疾患発症との関連を検討した.MSの定義は前述の日本基準を用いた.その成績をみると,MSを有する群では虚血性心疾患発症の相対危険(性・年齢調整)がMSのない群に比べ1.9倍有意に高かった(Box 2).わが国の一般住民においても,MSの存在は虚血性心疾患発症のリスクを有意に増加させることがうかがえる.

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 「糖尿病とは何か」を理解することは容易ではありません.糖尿病を体で感じるのが難しいということがあります.高血糖症状はあっても軽微ですし,長続きしません.したがって,「慢性的な高血糖状態に基づく代謝異常と,それに起因する全身臓器の血管障害」という病気を理解するには,かなり想像力をたくましくする必要があります.

 医療者が糖尿病の話をできるとすれば,それは多くの糖尿病をもつ人たちと関わりを持ち,糖尿病という病気のレベルだけではなく,糖尿病を持つ人のレベルで疾患を認識できているからだと思います.

 しかし,私たちがお伝えできるものはその全体観ではなく切り取られた情報です.それを受け取る側がどう解釈し,どう行動に影響するか,そのあたりのお話をおうかがいできれば幸いです.さらに,養老先生が糖尿病という疾患をどう位置づけておられるか,食べるということに対して脳はどのような支配をしていると考えておられるのか,などをおうかがいします.

(石井 均)

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 当然のことながら学校の成績は落ちるばかりだったけれど,ほとんど気にならなかった.母はしじゅう叱言(こごと)をいうけれど耳に入らない.父は寡黙でめったに叱らないけれど,たまに叱られたときは身動きができないほど恐ろしかった.

 しかし,一晩明けると恐怖は薄れて放心してしまい,魚や怪人二十面相のことを考えて忘我であった.

開高 健「知的経験のすすめ」青春文庫

 強い叱責や強制には,確かに短期的効果がある.しかし,それはほとんど内的な変化にはつながらないし,持続的な効果も少ない.行動が変わるためには,内面的な理解が必要であり,行動が変われば気持ちも変わる.

 医療者は説明を通じてこの内的理解を得ようと試みるが,それが「説得」の意味合いを持つようになり,「議論」になってしまうと,かえって抵抗が生まれ,行動変化が起こりにくくなる.

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現時点での最新の内容を盛り込んだが,一部は次回での改善を望む

 「糖尿病治療ガイド」(日本糖尿病学会編,文光堂刊,以下「治療ガイド」)が2年ぶりに改訂され,最新の2006-2007(以下新版,2004-2005を旧版と記す)となった.改訂された内容は多岐にわたるが,本稿では,1)実地臨床上特に重要な事項(主として医師向け),2)日本糖尿病療養指導士受験ガイドブック2005-20061)に追加して理解すべき事項(主としてコメディカル向け)の2点に絞り解説を行う.ここで解説する内容は,2007年に行われる予定の日本糖尿病療養指導士認定試験を意識したものでないことに留意されたい.なお文中に示すページ数はすべて新版に対応したものである.

糖尿病の疾患概念

1)C-ペプチドの診断価値

 インスリン分泌能の指標として血中C-ペプチドに関する記載が加わった(9ページ).外来診療においては,蓄尿や糖負荷を必要としないため,簡便で活用範囲の広い指標として期待される.食後のC-ペプチドの基準が示されていないが,筆者はとりあえず2ng/mLをインスリン治療を考慮するレベルと考えている.これについては,今後詳細な検討が行われることを期待したい.なお平均血糖値を反映する指標として,新版でもフルクトサミンが記載されているが,2006年の診療報酬改定によって保険収載から外れたため,今後使用される機会は減るものと思われる.

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抄録

 二相性インスリンアナログ製剤(ノボラピッド(R)30ミックス,以下30ミックス)により,ヒトインスリン混合製剤30Rと同等の血糖コントロールが達成されることが示されている.今回は,ヒトインスリン混合製剤のうち40Rまたは50Rにて1日2回注射施行中の2型糖尿病患者8例を対象に,30ミックス1日2回食直前注射への切り換えを実施し,24週間経過を観察した.また同様に30Rから切り換えた症例ついても経過観察を行い,比較検討した.その結果,両群ともにHbA1C値に大きな変動を認めず,低血糖の発生頻度も増加しなかった.40Rまたは50Rからの切り替え症例では,30Rからの切り替え症例よりもインスリン投与量は増加していたが,SMBGを実施している5例の検討では血糖日内変動が改善していた.30ミックスは食直前投与となるメリットがあり,速効型を多く含むヒトインスリン混合製剤を必要とする患者に対しても,選択肢のひとつとなりうると考えられる.

これだけはマスターしよう!糖尿病臨床研修ガイド 第4回

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2型糖尿病患者の治療に際し,食事療法や運動療法を励行しても血糖の改善が認められない場合,経口血糖降下薬を投与し治療を継続することになる(Box 1).近年,様々な経口血糖降下薬が開発され,患者の病態,合併症,薬剤の作用特性を考慮し薬物を選択することが可能となった.現在,われわれが使用できる経口血糖降下薬には,スルホニル尿素薬,ビグアナイド薬,α-グルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン誘導体,速効型インスリン分泌促進薬がある.個々の患者において,2型糖尿病の病態の特徴である,インスリン抵抗性と分泌不全(Box 2)の寄与程度が微妙に異なることを念頭に,薬物の特徴を生かし,個々の患者に合った薬物の組み合わせを選択する必要がある.

目的

・血糖値の正常化.

・慢性合併症,急性合併症防止.

・膵島β細胞の機能を回復させる.

薬剤の選択

・どの薬剤をどのような組み合わせで用いるかにより,血糖がどの程度降下するのか,副作用はどうかなど(Box 3)を熟知したうえで薬剤を選択する.

・患者の病歴やβ細胞機能および肥満の有無また,性格や仕事などを全体的に評価し薬剤を選択し,使用量,内服時間,遵守の程度,副作用など定期的にチェックする.

・妊娠中または妊娠する可能性の高い場合には経口血糖降下薬は使用しないこと.

糖尿病患者に対するロービジョンケア 第4回

チームアプローチ 高橋 広
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筆者は1994年にある一人の患者からロービジョンケアを知り,それにより産業医科大学病院眼科にロービジョンクリニックを作ったのが1996年です.そして,柳川リハビリテーション病院に視覚障害者の眼科を2000年に開設してはや6年が経ちました.この間のロービジョンケアの発展はめざましく,その大きな入り口の一つである眼科領域ではロービジョンケアの考えはかなり浸透してきています1).しかし,他科の医師,看護師やリハビリ専門職のなかには,今なおロービジョンケアの存在を知らない方が多いのも事実です.したがって,まずは医療内,とくに眼科と内科・糖尿病科やリハビリ専門職とが積極的に連携していかなければなりません.そして,実際に視覚障害児・者に接することの多い教育や福祉関係者にもロービジョンケアを啓発していく必要があります.

ロービジョンケアは生活支援版セカンドオピニオン

 最近,柳川リハビリテーション病院眼科では診断・治療を受けた後にどのように生活すればよいか,どのように勉強すればよいのか,どのように仕事をすればよいかを問うために受診される方々が増えています.これらはいわばセカンドオピニオンを求めた受診です.ロービジョンケアは昨今大学病院などに設置されているセカンドオピニオン外来の生活支援版ともいえます(Box 1).したがって,眼科医の役割は非常に大きく,重要です2).眼疾患の病態から失明の可能性や視覚的困難が予想できたり,患者が視覚的支障を訴えた時点で,眼科医は心のケアから始まるロービジョンケアを導入すべきです.そして,視能訓練士や看護師などのコメディカルとともに生活支援の立場からロービジョンケアを展開させていくことが大切です.

チームでBrush Up 糖尿病診療

シンプルが一番! 杉田 和枝
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Case 意欲はあるのに覚えられない

 患者:80歳,女性,身長151cm.体重55.5kg,BMI24.3.2型糖尿病.

 元教師で現宗教家.寮生活.性格は温厚だが神経質でストレスを感じやすい.

 現病歴:66歳時,糖尿病を発見され経口血糖降下薬(OHA)開始.71歳より当院定期通院中.糖尿病合併症は軽い神経障害のみ.これまで糖尿病のコントロールと教育を目的に9回入院した.入院すると良くなり,退院後は食事療法が守れず悪化ということを繰り返していた.2005年からOHAではHbA1Cが9%台より改善されず,インスリン療法導入目的で入院となる.

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Case 低血糖への不安

 40歳,女性,身長158cm,体重61kg,口渇,多飲,多尿を認め外来受診.血糖360mg/dL,HbA1C 13.8%,尿ケトン体3+,抗GAD抗体61.2U/mL,24時間尿中CPR13.6μ/day,糖尿病性ケトアシドーシスを認め入院となる.入院後,インスリン療法をスケールで開始,エネルギー摂取量1,400kcal,合併症,冠危険因子がないことを確認後,活動時の血糖変化,教育,急激な体重減少からくる筋力低下の改善を目的とし運動療法を開始した.また,日常生活動作を確認するため外泊中に加速度計付万歩計(LC)を装着してもらい1日の歩数や強度を調査した(Box 1).

指導内容

①入院中の運動療法はトレッドミル運動負荷試験の結果より最高心拍数の約10~20%,運動15~20分と低強度にも関わらず運動後の低血糖を頻回に起こした.よって,低血糖回避のため運動量を適切な強度まで上げることができなかった.入院中の運動療法は,血糖変動が比較的安定している昼食後(食後1時間30分)に負荷調節をし,退院後は,その時間帯での活動を推進した.

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Case 減量のために超低カロリー食を利用したい

 患者:2型糖尿病,59歳,女性,BMI31.血糖コントロール不良であったためインスリン療法を開始し,HbA1C 6.8%に改善.しかし体重は65kgから71kgに増加し悩んでいます.

 以前,雑誌広告で見た超低エネルギー食を使用し体重を5kg減らしたことがあります.「今度もそれを使い減量したいが良いでしょうか」と相談に来院しました.

 自営業のため来客や外食が多く,血糖値は良くなりましたが,食事を以前より減らしても体重が減らない.忙しくて運動を増やすゆとりはないと言います.

基本情報

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糖尿病診療マスター
4巻5号 (2006年7月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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