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症例 79歳 男性
79歳男性.53歳頃に糖尿病と診断され,近医にて加療されていた.2010年4月から当院にて治療開始.経口血糖降下薬(グリメピリド2mg,メトホルミン750mg,シダグリプチン50mg)にてHbA1c 6.5~7.0%を推移していた.また経過中,高血圧症および微量アルブミン尿(尿アルブミン/クレアチニン比60.3mg/gCr)に対しカンデサルタン12mgおよびアムロジピン5mgの投与が,高コレステロール血症に対してエゼチミブ10mgが投与されていた.また,糖尿病網膜症は光凝固術が施行されている.2013年3月下旬から,両下肢の浮腫を自覚し徐々に増強,また食欲低下,尿量の減少を自覚したため,4月上旬当科受診.受診時,尿蛋白(4+),血清総蛋白5.6g/dL,血清アルブミン値2.0g/dL,総コレステロール値351mg/dLからネフローゼ症候群の可能性が考えられたため,精査・加療目的に腎臓内科に入院となった.なお,入院前の約6カ月間において薬剤変更・追加,その他,非ステロイド性消炎鎮痛薬を含む薬剤の服用などはなかった.
身体所見:体重67.8kg(平常時59kg),血圧144/74mmHg,脈拍86/分.胸・腹部;異常なし,下腿浮腫(++).
検査所見(下線は異常値):胸部X腺;両側胸水あり.心電図;正常範囲内.腹部単純CT;腹水あり,腎萎縮・腫大なし.尿検査;尿蛋白定性(4+),尿潜血(2+).尿沈渣;赤血球1~4/HPF,顆粒円柱30~49/LPF,蝋様円柱30~49/LPF,卵円形脂肪体(1+),尿蛋白/尿クレアチニン16.3g/gCr.血算;赤血球448万/μL,Hb 12.5g/dL,HT 37.6%,白血球9,250/μL,血小板27.1万/μL.凝固系;PT-INR 1.05,APTT 32.1秒,フィブリノーゲン642mg/dL,FDP 14.0μg/mL,D-Dダイマー7.27μg/mL,アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)74.2%.生化学;総蛋白5.6g/dL,アルブミン2.0g/dL,総ビリルビン0.2mg/dL,LDH 245U/L,AST 32U/L,ALT 19U/L,γ-GT 23U/L,ALP 275U/L,CK 83U/L,Na 139mEq/L,K 4.0mEq/L,Cl 107mEq/L,補正Ca 10.0mg/dL,P 3.9mg/dL,BUN 42mg/dL,Cr 2.40mg/dL,eGFR 21.2mL/min,尿酸8.5mg/dL,シスタチンC 2.29mg/L,総コレステロール351mg/dL,中性脂肪282mg/dL,HDL 46mg/dL,LDL 223mg/dL,グルコース189mg/dL,HbA1c 6.7%,CEA 4.0ng/mL,CA19-9 17.8U/mL,CRP 0.1以下mg/dL,IgG 1,142mg/dL,IgA 426mg/dL,IgM 70mg/dL,IgE 288mg/dL,C3c 109mg/dL,C4 44mg/dL,CH50 59.4U/mL,リウマチ因子15以下IU/mL,抗核抗体(+),Homogeneous 40倍,C-ANCA 1.0未満U/mL,P-ANCA 1.0未満U/mL,抗GBM抗体2.0未満U/mL,HBs抗原(-),HCV-抗体(-),TPPA(-),RPR(-).
腎生検:病理診断;糖尿病性腎症(+微小変化群).採取された糸球体18個,全節性硬化7個,分節性硬化0個,半月体0個,糸球体係蹄肥厚なし,メサンギウム基質のびまん性・軽度~中等度増生,メサンギウム細胞の軽度増生,結節性病変・浸出性病変なし.PAM染色;スパイク形成なし,基底膜二重化なし.輸入・輸出動脈硝子様変性(+),尿細管間質の巣状の小円形細胞浸潤・線維化軽度,蛍光:IgGが糸球体係蹄に分節状,線状に沈着.
治療経過:尿蛋白/尿クレアチニン,血清総蛋白の増加,および血清アルブミンの減少,またLDLコレステロール値の上昇,浮腫の所見からネフローゼ症候群と診断した.入院時,腎機能障害(BUN,Cr)が存在し,急激な尿蛋白量の増加に伴う低蛋白血症による血漿膠質浸透圧の低下から血管内脱水のため,腎の灌流量が低下し腎前性急性腎不全を併発していると考えられた.急性の発症様式から微小変化型ネフローゼ症候群の可能性を考えたが,ステロイドによる高血糖も懸念されたため,第3病日からシクロスポリンA 200mg/日の開始を先行し,第5病日からシクロスポリンAを130mg/日へ減量するとともに,プレドニゾロン20mg/日の併用を開始した.第8病日,ネフローゼ症候群の病因と病型を診断するため,エコーガイド下腎生検を施行.その結果(上記参照),基礎には糖尿病腎症が存在するものの,その他のネフローゼ症候群をきたす疾患を疑わせる病理所見に乏しいため,微小変化型ネフローゼ症候群の併発が本症例におけるネフローゼ症候群の主たる病因と診断した.シクロスポリンA 130mg/日+プレドニゾロン20mg/日の投与を継続し,尿蛋白量の減少を認めたが,1.9g/gCrと不完全寛解であったため,第16病日および25病日にメチルプレドニゾロン250mg/日×3日の投与を行った.その際より,シクロスポリンAは,70mg/日へ減量,プレドニゾロンは20mg/日を継続.その結果,尿蛋白/クレアチニン量0.6g/gCrまでの減少を認め,第61病日退院となった(図1).なお,腎機能は第8病日,BUN 79mg/dL,Cr 4.8mg/dLをピークに尿蛋白量の減少とともに徐々に改善を認め,退院時には,BUN 20mg/dL,Cr 1.42mg/dLとなった.なお,ステロイド投与後,血糖上昇を認めたため,超即効型インスリンの毎食前3回を開始しコントロールを行った.
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