訪問看護と介護 22巻9号 (2017年9月)

特集 高齢者の「食べる」力をサポートする—その力の見極めと、身体づくり

戸原 玄
  • 文献概要を表示

「年老いても口から食べることは大事」「食べることは生きることそのもの」。

現場の医療・介護の実践者の間には、そうした語り口で「口から食べることの大切さ」が共有されるところになりました。しかし、「胃ろうをつけているけど、本当は口から食べられるだけのポテンシャルがあるのではないか?」などと食べる力を見極めるポイントや、さらにその力を維持・向上させるための関わりといった具体的なレベルの知識にも、皆さんは自信をもっているでしょうか?

  • 文献概要を表示

 内閣府による平成28年版高齢社会白書*1では、日本の65歳以上の高齢者人口は3392万人で、高齢化率は26.7%である。75歳以上では要介護者数が激増し、その数は360万人に及ぶ。また、同調査において、介護を受けたい場所、最期を迎えたい場所が自宅であるというアンケート結果も報告され、在宅医療を推進する国の方針と、実際にその医療を受ける患者の希望は大方一致しているといえる。

 そんな超高齢社会の日本において、大きな問題のひとつは高齢者の食だ。高齢者にとって、食事は栄養摂取の手段であるとともに最上の楽しみのひとつである*2

  • 文献概要を表示

 高齢者の主たる死因である誤嚥性肺炎は増加しており、その対応は喫緊の課題です。さらに、嚥下障害と低栄養は相互依存的な関係にあるため*1、高齢者が抱える食の問題を見逃さず、対応していくことが重要です。

 摂食嚥下は複数の筋肉の協調運動により達成されますが、それらの筋力は疾患や低栄養、加齢によって低下します*2。また、姿勢の崩れや呼吸の乱れが、飲み込みにくさの原因となる場合があります。

  • 文献概要を表示

 医療法人社団悠翔会は在宅医療に特化した医療機関です。首都圏に10の診療拠点をもち、76人の医師(常勤33人・非常勤43人)と103人のコメディカルが、常時3500人の在宅患者さんに24時間体制の在宅総合診療を提供しています。在宅医療の対象となるのは通院困難な方です。進行性・難治性の疾患や障害をおもちの方、老衰などにより人生の最終段階にいらっしゃる方が大部分に当たります。

 年間約800人の方が亡くなられ、そのうち7割の方をご自宅でお看取りしています。高齢患者の多く(良性疾患や老年症候群)は年単位で診療を担当することが多いのですが、悪性疾患の場合には在宅医療として関わるのは1か月程度。施設の在宅医療を除くと、ご紹介いただく患者さんの約3割が悪性疾患です。

  • 文献概要を表示

 私たちは東京都文京区にある大学病院の摂食嚥下リハビリテーション外来で、0〜100歳以上の方まで、多岐にわたる疾患の入院・外来患者を診療しています。さらに、地域の医師や歯科医師、ケアマネジャー、訪問看護師、一般の訪問歯科医師などと連携を取りながら、大学病院から半径16キロ圏内の摂食嚥下に特化した訪問診療も行なっています。

  • 文献概要を表示

 私が所属する悠翔会在宅クリニックは、患者数約3000人の首都圏最大規模の在宅医療グループです。病気が理由で通院困難になった患者も安心して療養生活を送れるように、首都圏10か所のクリニックが定期的な訪問診療+365日24時間の体制で支援し、終末期や医療依存度の高い患者にも対応しています。

 訪問範囲は広範囲にわたります。東京都を中心として、千葉県や埼玉県からも、医師の指示のもと、訪問栄養指導の依頼が舞い込みます。なお、私は電車バスなど公共機関を利用して訪問するので、「自然に優しいエコ養士」を自称しています。在宅の栄養士になって以来、「ルーチン」なことは1つもありません。毎日がびっくりどっきりの世界で暮らしています(……電車の路線を間違えてどきっとしてしまうこともしばしばです)。

  • 文献概要を表示

 私は看護小規模多機能型居宅介護(以下、看多機)の「坂町ミモザの家」で働いています。「通ってよし」「泊まってよし」「わが家でよし」を合言葉に、東京都新宿区・四谷坂町にオープンして1年10か月が経ちました。試行錯誤の日々ではありますが、スタッフ一同、思いを一つにして利用者さんの在宅生活を支えています。私自身、白十字訪問看護ステーションで訪問看護を13年行なったあと、この坂町ミモザの家に移ったのですが、看護師が中心になって在宅を支えるということの奥深さをあらためて感じているところです。

 四谷坂町は都心にありますが、雰囲気は閑静な住宅街です。古い戸建て住宅が立ち並び、半世紀近くをこの土地で過ごしている高齢者が多く、2〜3世代で暮らすお宅もたくさんあります。ただ、そこはやはり都会。働き盛りのご家族は朝早くから夜遅くまで会社で仕事をしているため、日中独居の高齢者も多い地域です。

  • 文献概要を表示

 私はもともと歯科医院に勤務していましたが、8年前、フリーの訪問歯科衛生士に転身しました。以来、歯科医院勤務時代からお世話になっていた東京医科歯科大学准教授・戸原玄先生の指示のもと、口腔ケアや摂食嚥下訓練を希望する患者宅や施設へ訪問しています。

 今回の特集は「高齢者」と区切っていますが、食べるための支援を必要とするのはそうした方々だけではありません。たとえば、脳損傷による障がいをもつ方。そのような方々にも食べられる可能性をもつ方がおり、適切な支援によってそれは実現できます。そして、そうした方々に行なう食べるための支援は、高齢者へのそれと通底するものもあると感じています。そこで本稿では、脳損傷による障がいをもつ方々へのケアを切り口に、食べるための支援のあり様を考えていきたいと思います。

  • 文献概要を表示

 咀嚼機能と嚥下機能は密接に関わっており、食塊の粉砕・形成の不良といった口腔の問題はしばしば高齢者の誤嚥や窒息の原因となります。ですから、摂食嚥下機能に問題がある患者、とくに高齢者に対しては、咀嚼機能を含めた口腔機能の評価を行なうことが重要です。

 しかしながら、水飲みテスト、咳テスト、反復唾液嚥下テスト(RSST)など、摂食嚥下障害患者における誤嚥、不顕性誤嚥を予測するためのものについては簡易な評価方法がある一方で、摂食嚥下障害患者に対する咀嚼機能を評価する簡易な方法はないという実態があります。

  • 文献概要を表示

地域資源の「見える化」

 高齢者の摂食嚥下の問題、つまり食べることへの支援は、専門的な取り組みを行なう病院・クリニックだけが取り組むようなものではありません。地域の医療・介護資源が連携し、継続して取り組むことが大切です。しかし、有効な資源が必ずしもつながっているとは言い難い現状があります。そこには、「そもそも、摂食嚥下の問題に対応できる医療機関(=資源)が地域にあるのか」さえ、十分に共有されていないという背景もあるのではないでしょうか。

 そこで、そうした地域に点在する資源の見える化を図り、共有しやすくするために、「摂食嚥下関連医療資源マップ」というものを作成しました*1。摂食嚥下の問題に対応できる医療機関として、嚥下内視鏡、嚥下造影、嚥下訓練ができる施設だけでなく、訪問診療に対応している施設の情報もまとめ、無料で公開しています。

  • 文献概要を表示

看護職も介護職も,専門職がそのもてる力を出し合って、その人に合ったサービスを臨機応変に提供する。訪問看護師の熱い思いからスタートした複合型施設ベルシャンテは今、「退院後の生活の場」として、また地域住民が安心して暮らせる「第2のおうち」として、その存在感をさらに高めようとしている。

  • 文献概要を表示

 2008年、第9回国際がん看護セミナーでのこと。スコットランドのエジンバラにある「マギーズキャンサーケアリングセンター」の紹介を受け、熱心に質問をする秋山正子さんの姿を今でもはっきり覚えています。マギーズの活動こそご自身が求めていた形であると語り、運営方法やファンドはどうしているのか、この日本でもできないだろうかと尋ねていました。

 それから2年後、「暮らしの保健室」の開設に始まり、2016年10月「マギーズ東京」オープンまでの夢を形にする秋山さんの実践力を、私は1人の訪問看護師として身近に感じながらも仰ぎ見てきました。この本では、その実践力の成果を「つなげる・ささえる・つくりだす」というキーワードでまとめ、「地域包括ケア」を形づくる方法が描かれています。

連載 地域包括ケアのまちを歩く—コミュニティデザインの視点で読み解くケアのまちづくり・第10回

  • 文献概要を表示

介護予防のために、交流する人や居場所をもっと増やしたいと考えた小泉さん。地元のほかの住民組織とつながって一緒に活動すると、いつの間にか「つながり」を超えた「信頼関係」が生まれていた。そのなかに専門職も巻き込まれて、地域包括ケアが形になっていく。

連載 在宅ケア もっとやさしく、もっと自由に!・96

麻央さんからナヲさんへ 秋山 正子
  • 文献概要を表示

 今年6月22日、歌舞伎役者・市川海老蔵さんの妻である小林麻央さんが、乳がんのため34歳で亡くなられました。ブログを通して発信したメッセージは多くの感動を呼び、読者は100万人を超えたといわれています。

 麻央さんは昨年、英国公共放送BBCから社会に影響を与えた「100人の女性」の1人として選ばれ、多くのメディアに取り上げられています。麻央さんの最期は在宅でした。5月末から約1か月、その間の生活の様子はご本人や海老蔵さんのブログで知ることができました。

連載 認知症の人とその家族から学んだこと—「……かもしれない」という、かかわりの歳月のなかで・第6回

  • 文献概要を表示

優しさの質が変わったような気がする

 認知症の人と家族の会(以下、家族の会)の仲間たちと出会ってかれこれ40年になるが、近ごろのメンバーの堂々とした優しさに、なんかひるんでしまう自分がいるように思えて仕方がない。私の、この曖昧な感覚を、「公的ケアシステムの編成に向けて新たなモデルを探求するには、ケア提供という仕事に内在する個々具体の特質に目を向ける必要がある」という考え*1に従って解くなら、その昔は、介護は家族の役割、女性の仕事、福祉制度が進むと、家族の情愛が薄れるといったことが、当たり前の世界のなかで認知症という病を抱える家族の苦しみを訴えることが、どんなに勇気のいることだっただろうかと思う。しかし、少数の彼らの勇気に励まされた仲間たちが少しずつ増え、同じような体験をした者たちの優しさに包まれるようにして、大勢の介護家族が救われてきた。

 こうしたときを経て、いま、仲間たちが抱えているケアリングの圧力は、諸制度の充足と充実をより身近にすること、また、自主的に対処するにはあまりにも複雑多岐になったものに対し、自助組織としてどう立ち向えるか、といったことに向いているようである。私の奇妙なひるみは、どうやら、認知症ケアをよりフレンドリーな社会のなかで、といった方向に軸足を置いた仲間たちのきっぱりとした意思をもった優しさに向き合うときの、ちょっとした緊張にあるのだろうと思う。ならばなおのこと、「ケア提供という仕事に内在する特質」の変化に目を向けていく必要がある。

連載 どう読む!? 在宅医療・看護・介護政策・第21回

  • 文献概要を表示

 厚生労働省は7月28日にデータヘルス改革推進本部(以下、改革推進本部)を開き、同月4日に発表した「データヘルス改革推進計画」の具体化に向けて省内の体制の強化を図ることを確認。健康・医療・介護に関するビッグデータの有効活用に向けて検討に着手した。

連載 シンソツきらきら・第9回

3か月目の視点 小倉 遊 , 小瀬 文彰
  • 文献概要を表示

 新卒は「技術を習得していない」「コミュニケーションがうまくとれない」「アセスメント力がない」。これらは、新卒に訪問看護は難しいのではないかと思われる要因です。実際に、新卒訪問看護師になった方々からよく聞く現場での悩みとして、これら3つは非常に多くみられます。しかし、本当にできていないかというと、必ずしもそうとはかぎりません。そして、技術も、コミュニケーションも、アセスメントも、その深みに気がつき、高い課題意識をもって学んでいます。

 今回は、入職から3か月が経った小倉遊さんにどんなことを思い、訪問看護を行なっているのかを書いていただきました。深い気づき、高い問題意識のなかで看護を学んでいく、その姿から新卒がどのように成長しているのかが垣間見え、期待が膨らみます。(小瀬)

--------------------

今月の5冊

Information 学会・研究会情報

バックナンバーのご案内

次号予告・編集後記 栗原 , 小池
  • 文献概要を表示

およそ1年間の産育休をいただき、編集室に戻ってまいりました。初めてのお産は想像を超えることばかり、育児も戸惑うことばかりですが、なんとか親として1歳を迎えられそうです。おぼつかない足取りながら、娘とともに育っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。子どもの成長を感じる瞬間は多々ありますが、なかでも大きな変化があったのが離乳食を始めたときでした。母乳やミルク以外のものを口から食べる、しかも咀嚼して食べるということで、顔つきが変わって、意思のありかが感じられるようになったのです。「食べる」ということは人間の本質に関わっている……もしくは、食いしん坊が遺伝しただけでしょうか?…栗原

人生最期の食事には何を食べたいか。そんな話を一度はしたことがあるのでは。老衰で亡くなった義理の祖母は、最期まで口から食べることができていたのだそう。好物だったのが、中トロとうなぎの蒲焼き。それらを望み、ひと口ずつ食べ、翌日に亡くなった……のだとか。すごい。そんな「食」のエピソードには、経過を詳らかに知らずとも、ご本人にとって、またその周囲の人々にとっても充実したものだった様子がにじんでいます。さて、最初の問い。自分だったらと考えてみているのですが、最期と思うと決めきれず。うーん。…小池

基本情報

13417045.22.9.jpg
訪問看護と介護
22巻9号 (2017年9月)
電子版ISSN:1882-143X 印刷版ISSN:1341-7045 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月25日~12月1日
)