連載 Hallo! ポジティヴヘルス オランダ生まれの“健康”の新概念・第1回【新連載】
「ポジティヴヘルス」とは何か
川田 尚吾
1
1筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センター
pp.494-498
発行日 2022年11月15日
Published Date 2022/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688201921
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この人が口にする“健康”とは何なのか
これは私が理学療法士として病院から在宅ケアの世界に飛び込んで間もないときのこと。当時訪問リハビリを担当していた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性は、ある日こう呟きました。「ALSってなんだか魔法にかけられたみたいな感覚でさ。不思議と体だけが動かないのよ。それ以外は何にも変わっていなくて。だから俺は俺らしくこれからも仕事を続けたい。俺は自分を健康だと思っている」と。この人は自らの体を自らの力で動かすことができませんし、できることと言えばパソコンのマウス操作がなんとかできる程度。まぎれもなく重度の身体障害がある状態でした。
病院では、さまざまな手段を用いて病気や障害を量的に克服することを目標としてきた私にとって、この人が口にする“健康”がなんたるかを理解できませんでした。当時の私はもうパニックで、地域のリハビリ専門職は地域にどうあり、何を目指し、そのためにどうするのか—。毎日そんなモヤモヤを抱えながら現場に向かっていました。この経験以降もこのような元気に「自らの健康」を語る病気や障害を持つ在宅ケアユーザーにしばしば出会うものですから、私のモヤモヤは高まるばかりでした。自分自身の物差しとなっている“健康の概念”をアップデートする必要性を感じていました。
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